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遠い先輩  作者: 音我手ぃ舞
〜歩み編〜
8/12

〜歩み編〜8

遅くなりました。続きです。

先輩とたくさん話した。まぁほとんどは日曜日の話だけど。天文学部に入った経緯だとか、中学で部活は何をやっていたかとか、好きな音楽だとか、とにかくいろいろ話した。


そして先輩のことを色々知ることができた。


中学の時はバレー部に入っていて、キャプテンを務めていたとか。好きな音楽は色々あって、洋楽を聴いたり、邦ロックも聴いたりするらしい。基本なんでも聴くんだそうだ。天文学部に入った経緯は夏奈先輩にしつこく誘われたから…まぁこれは知ってたけど。


先輩と話している最中緊張しっぱなしでまともに目を見て喋ることができなかった。顔が熱い。

今先輩は夏奈先輩の所に行き、映画が決まったことを報告している。結局栞先輩が推していたホラー映画になってしまった。推しに負けた。だって…あんな可愛い人に笑顔で言われたら誰だって断れない。はぁ、ホラーか。グロかったら嫌だなぁ。




「ハァハァ、さ、さっちゃ…ん、ハァハァ、え、映画ぁ、決まったの…?ハァハァ」


さっきまで夏奈先輩に追いかけ回されて肩で息をするほど恵は疲れていた。ひざに手を置いて中腰状態。これは相当だ。さすが夏奈先輩。元陸上部には敵わない。


「恵大丈夫?すごい息切れだけど…」


「ゴホッゴホッんーっ大丈夫…ほんと夏奈先輩ったら大人気ないなーっ疲れちゃった…」


「夏奈先輩は恵のこと気に入ってるんだよ、きっと」


「いいや、気に入っているならしんどい思いさせないでしょー!はぁー…で、映画決まったの?」


恵は夏奈先輩の背中を睨みながら言う。


「うん、栞先輩の強い推しで『鏡の背後』に決まった」


「うわぁぁ!!ホラーじゃん!さっちゃんOKしたの⁉」


恵がここまで驚いたのは無理もない。なぜなら、ランチの時、ホラー映画だけはやめとこうと言う話をしていたからだ。私はまだ平気な方だが、恵はホラーが全くダメだ。これは恵の反応を楽しみながら映画を観ることにしよう。


「恵ホラー苦手だもんね、ふふっ」


ついつい笑ってしまった。すると私が馬鹿にした様に笑ったため、恵が眉間にシワを寄せて「そ、そんなにビビリじゃないし…」と言った。少し強がりな所も可愛かったりする。


「それじゃあ日曜日楽しみだねぇ」


嫌味さたっぷりに言うと案の定恵ににらまれた。










土星を観測し終わった後、学校から一番近い駅まで私と恵と夏奈先輩と栞先輩の4人で歩いていた。




「本気で観んの?」


青ざめた表情で言う夏奈先輩。


「うん、本気だよ。夏奈怖いの?ホラー苦手だったっけ?」


キョトンっとした顔の栞先輩。


「いや、誰だってホラーは苦手じゃん!」


「あたしは平気だよ〜?」


「あんたは特別だよ!」


「栞先輩って本当にホラーいける人なんですねー」


恵が引きつった笑顔で言う。


「まぁね。だってさ、なんか怖いもの見たさ?みたいな?感じでワクワクしちゃうんだよね」


栞先輩は変わり者だ。そんなところにキュンとしてしまう自分はもっと変わり者なのかもしれない。




「でもちゃんとさっちゃんと一緒に考えたよ、ね?さっちゃん」




「は、はい…」


本当は私はほとんど口出ししていない。その事実からか返事が吃ってしまった。だが正直映画は何でも良かった。それよりも先輩の話を聞きたかった。先輩のことを色々知りたかった。




「嘘だー!本当は強引に決めたんでしょ!」




夏奈先輩が疑いの目で栞先輩の顔を勢いよく指差した。いきなり目の前に指が来たので栞先輩は驚いて目を何度も瞬きした。




「そんなことないよー!さっちゃんだってはいって言ったじゃん!2人でちゃんと決めたもん!」




栞先輩は負けるもんかと夏奈先輩の指を手の甲で払いのけてムッと少し怒った顔で言った。か、可愛い…


私は栞先輩の言葉に心臓が飛び跳ねそうだった。だって「2人で」なんて言われたらなんか特別な感じがしてちょびっと嬉しかった。




「いーや、さっきのさっちゃんの反応は話し合いしてないね。そうでしょ?さっちゃん、どうなの!」




「うぐっ…」



狼狽える私。

「やっぱりー!」




「だって観たかったんだもんー!しかもさっちゃん優しいから「先輩が好きなのにしてください」って言ってくれたからぁー」



私の頭は沸騰していた。次々と栞先輩は言葉で私の心を揺さぶる。「優しい」なんか言われたら嬉しすぎてニヤニヤが止まらない。



「さっちゃんにプレッシャーかけたんじやないのー?まぁ皆で観られたらそれでいいかー」




「そうだよー皆で観れば怖くない!!」


「いやいや怖いですって!!」


恵は必死の顔で食い下がって言ったが夏奈先輩の「そうだねー、よし皆で頑張って観よう」の声と被りかき消された。恵は俯いてため息をして落ち込んでいる。



色々と言い合いになったが結局日曜に観る映画はホラーに決まった。栞先輩はご満悦といった感じで笑っていた。私はちょっとでも先輩の味方に立てたことに満足だった。だからなのか自然と笑顔になる。そして恵に突っ込まれる。




「ちょっと、なにニヤけてんの?」


「へ?いや、別に…ば、晩御飯楽しみだなぁって思って…」


また私は…言い訳下手くそ。




「はぁ?今日のさっちゃんちょっとおかしくない?」


だよね、私もそう思うよ。




「暑さにやられたのかも…ね」




元気のない笑顔を恵に向けた。恵は「大丈夫?帰ったらしっかり休みなよ」と私の背中に手を回し摩ってくれた。恵の手のひらはほのかに温かかった。その温もりに安心感を感じた。




「ん、ありがと」



私がそう言うと恵は照れているのか頬を染めて笑っていた。




駅の改札前に着いた。私は定期をだした。恵も鞄の中をゴソゴソしながら定期を探し始めた。




「じゃあみんな気をつけて帰るんだよ」


夏奈先輩は地元が学校から近い。なので電車通学の私と恵と栞先輩を小さい子どもを送るお母さんのように見送ってくれた。






「夏奈先輩こそ気をつけてくださいね」


私が少し心配した声で言う。




「はぁーい、ありがとね」




「あった!!」




突然恵が叫んだ。どうやらずっと定期を探していてやっと見つかったようだ。



「恵、行くよ」



「わーん、待ってよぉ〜」恵が甘えた声で言う。





私は夏奈先輩にペコっとお辞儀をして栞先輩は夏奈先輩に手を振り2人は改札を通った所で恵を待った。恵が改札に定期を通そうとした時、



「恵ちゃん」




夏奈先輩が呼び止めた。恵は振り向き夏奈先輩の元へ歩み寄る。なにやら話をした後手を振り夏奈先輩は帰って行った。恵は少しの間ぼーっと突っ立ったままだった。



「恵?どうしたのー、早く帰ろー」



私が割と大きな声で恵を呼ぶ。その呼びかけに気付いてクルっと振り向いた。その顔は笑っていなかった。いや、他の人が見たら笑っているように見えるが私は本当に笑っていないと思った。一体夏奈先輩と何を話したのだろうか。




恵は改札を通り此方に来た。


「ごめん!帰ろっ」



笑って誤魔化しているように見えた。恵は明らかに動揺している。




「恵ちゃん、夏奈と何話してたの?」




栞先輩のストレートな質問に私はドキリとした。きっと先輩はナチュラルに聞いたのだろう。



そして恵の答に耳を澄ませた。




「あー、なんか次の部活の予定とかの話です。しばらくは活動ないとか言ってました。でもまた活動の予定をメールで知らせたいからメアドを今度教えて欲しいって」






嘘だ。動揺するほどだ。きっともっと深い話だったはずだ。でもなんで夏奈先輩が恵に……?




「そーなんだ。しばらくはないのかー。結構今日楽しかったからまた観測会みたいなのやりたいなぁ」



栞先輩は残念そうに唇を尖らせて私に可愛い横顔を見せた。まつ毛が綺麗にカールし空に向かっているように見える。



「さすがに天体望遠鏡は借りられないですけど、でもプラネタリウムとか森とか行くと綺麗な夜空が観られますよ」




私は「今度プラネタリウムに行きませんか?」と聞く勇気がないから遠回しに言ったが、遠回しすぎたか。



「あー!プラネタリウム!いいねーそれ!今度皆で行こっか?」



いやちょうど良かったみたいだ。



「いいですね!行きましょう!さっちゃんもね!」



「うん…」



栞先輩とまた一緒に出掛けられるのに恵の不思議な明るい声に胸がざわつく。変だ。今の恵はとても無理をしていそうな感じがしてたまらない。でも頑張って明るく振る舞う彼女にいきなり「本当は何があったの?」とは聞けまい。



「また楽しみな予定が出来たね〜」





無邪気に笑う栞先輩の笑顔に私のモヤモヤした気持ちが少し晴れた気がした。階段を降りたホームには私たち三人だけだった。何処か別世界のように思えたのは隠し事はあまりしてこなかった恵との関係にヒビが入ってしまって恵がだんだん離れていくかもしれないという先走った不安と寂しさに心が駆られていたからだろうか。寂しさがそうさせたのか。





私は“この時だけ”栞先輩への恋心を忘れたのだった。時刻は午後9時をまわるところだ。恵は楽しそうに栞先輩と喋りながら電車が来るのを待っていた。今夜の風は特別に冷たく感じた。


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