〜歩み編〜6
ランチを食べ終えた私たちは近くにあるショッピングセンターで時間を潰すことにした。集合時間は6時頃だけど、一時間早く行って天体望遠鏡を二人占めしようという話になった。
恵は楽しそうにお店をまわっていた。私はというと、ずっと日曜日のことを考えていた。いや、言い換えると、栞先輩のことを考えていたの方が正しいかも。なぜこんなに考えてしまうのか?全く分からない。まだ全然知らないのに、先輩のこと。ただコンビニへ行く先輩を好奇心で追いかけただけ…そこが問題だ。なぜ追いかけたのか?好奇心。これは答えになっていないと思う。けど、今の私には分からない。
「ちょっと!さっちゃん?どーしたの?マネキン見つめて…」
恵の声にはっとした。またグルグルと考えてしまった。
「へ?あ、ああ、こ、このマネキン美人だな〜って…」
何を言ってんだ、私は…
「はぁ?何言ってんの?」
恵はケラケラと笑い出した。私もなんか可笑しくて笑い出した。
「はぁ…もう、さっちゃんって真面目そうに見えてぼけっとしてる時があるよね」
「それって悪口だよね?」
私は恵を軽く睨む。
「違うよ〜。さっちゃんはクールだけど、可愛いところもあるねって話だよー」
確かに私は冷たい人だって言われたことが何度かある。クールだって言われたことも何度か。恵はよく私のことを見ているな。素直にそう思った。
「恵は人懐っこい性格してるよね。そこが可愛いなぁっていっつも思う」
恵の性格に憧れることがある。人に甘えるのが上手に見えて、結構しっかり者。あと、人との距離の取り方が上手い。でも、本人には言わないでおこう。こんなに言ったら調子に乗るからな、恵。
「うっ、ちょっ、そんな褒めないで…」
恵は照れながら狼狽える。妙に耳が赤く見えるのは気のせいかな。そんな少し焦っている恵が面白くて笑う。こんな反応ならさっきの言葉全部言ってやろうかな。なんて思った。
「なに笑ってんの!ほら、早く次の店行くよっ!」
ぐいっと私の腕を引っ張って歩き出す。
「はいはい、分かったってー」
*********
午後5時。ショッピングセンターで遊んだ後学校に向かった。学校は休みの日でも生徒がよく出入りしていた。私たちは化学実験室の鍵を取りに職員室に寄った。私服で校内を歩くのは何か新鮮だ。秘密で忍び込んでいるような感じだ。職員室には顧問の先生がいて鍵を渡してくれた。
化学実験室は校舎の三階にあって、常に暗幕のせいで暗い。ドアを開けて中に入る。
「暗すぎー電気どこー?」
恵が私の後ろで言う。
「ちょっと待って…えーと、確かこの辺に…あった」
パチッ
白い蛍光灯の光が部屋を照らした。急に明るくなったので私は目を細めた。
「ねぇ、観測ってさ、何処でするのかな?」
でた、私の変な癖みたいなの。恵も知らないのに聞いてしまう。ウザい癖だな。改善しなければ。
「知らない。屋上とかかな?」
屋上は普段行けない場所だから行ってみたい。
「もし屋上とかだったらテンション上がるねっ」
私は少し興奮気味で言った
「だね!漫画みたいに行けないもんね〜屋上」
屋上はTHE 青春という感じだ。一度でいいから屋上で昼寝をしてみたい。
私は天体望遠鏡のある化学準備室の扉を開ける。
「勝手に出しても怒られないよね?」
少し不安そうな顔をする恵。
「大丈夫だよ。先にきて準備してましたって言えばいいんだよ」
私はそう言って天体望遠鏡の脚を持ち上げて科学実験室に運ぶ。恵は危なっかしい持ち方をしている私に見兼ねて手伝ってくれた。
「ありがと」
「…うん…」
暗幕を少し開け天体望遠鏡をセットする。時刻は5時半。この高校の周りは結構田舎のほうで、この時間でも暗い。いつもは星が10個ぐらい観えてもいいのだが、今日の夜空は雲が多く、観える星の数は少ない。
「少ないね…星」
残念そうな恵。
「土星観る頃には雲が流れるよ」
向こうの空は雲が少ない。7時頃には今の雲は流れて観測しやすい空になるだろう。
「だといいなぁ…あっ、月が綺麗!」
恵は望遠鏡を覗きながらはしゃぐ。無邪気な恵が一番可愛い。幼く見える。妹のようだ。
「ほら、さっちゃんも観てみなよ!」
恵に押されて私は天体望遠鏡を覗く。すると、月に雲がかかってぼんやりしている朧月が観えた。もうすぐ満月になる少し前の歪な形をしていて、雲が良い感じにかかり幻想的な雰囲気を醸し出している。やはり綺麗だ。
「綺麗だね…朧月」
「あ、もうそろそろ集合時間だ」
ケータイの時間を見ると時刻は6時を過ぎていた。すると、科学実験室のドアを開ける音が聞こえた。私たちはドアの方向を見た。
「あれ?みんなまだ来てない感じ?」
そこにいたのは、、栞先輩だった。
思わず固まる私。なぜか声が出ない。私とは逆に恵は元気そうに答える。
「はい、今は私たち二人だけです。そろそろみんな来ますよ」
「良かったー、時間間違えたかと思ったよー」
先輩はホッとしたような表情で笑う。可愛い。
「ところで、二人は何してたの?」
「あっ、えっと…月を観てて…」
吃る私。体が何だか熱い。
「そーなんだ。あたしも観たいなぁ」
羨ましがる先輩。
「どうぞ、どうぞ」
席を譲る恵。
「いいの?ありがと〜」
私の隣に先輩が来た。うわぁ…ほんのりいい匂いがする。香水とかじゃないんだろうな。なんか緊張してきた。
「えっとー…ここを覗くの?」
私に聞いてきた。目が合った。目が二重なことを知った。
「はい、そこの調節ねじで調整しながら観たほうがいいです」
頑張って説明する。
「なるほどー。ありがと」
ニコッと笑う先輩。笑う時えくぼができることを知った。先輩は望遠鏡を覗きながらわーとか、綺麗ーとか、恵と比べたら少し落ち着いた感じの反応だった。またその可愛い横顔に意識が吸い込まれる。
「ねぇ、土星ってどんなのだっけ?」
マジか…先輩土星も知らないなんて…でも無知でも天然という可愛い言葉に言い換えられる。すかさず恵が答える。
「んーそうですね…輪っかに惑星がはまってるみたいな形ですねぇー」
雑な説明だ。輪っかは環といって、ほとんど氷の欠片でできているんだよなんて詳しく説明したら天体ヲタクだと思われるだろうか。でも堪らず、
「先輩、輪っかって実は…」
「…へぇー…」
やばい、引かれた…絶対…
「よく知ってるんだね!えーと…」
「あ、多野 沙月です」
「さっちゃんです!で、私が谷野原 恵です!」
恵が元気良く自己紹介をした。私のあだ名まで。
「さっちゃんと恵ちゃんかぁー。有野 栞です!栞でいいからね」
「はーい!」「はい…」
「うん!それにしても、さっちゃん星に詳しいんだね。あたしも詳しくなりたいなぁ」
あれ…?引かれてない?ほんとに?
「あーはは…」
私は苦笑い。だが、先輩は引いていない様だ。むしろ、若干憧れの眼差しで私を見ている。
「さっちゃんって、天体ヲタクなんですよ!」
なぬ⁈思わぬところに敵がいた。恵がニヤニヤしながら先輩に話している。
「ちょい!恵!ヲタクって言うな!」
「えー、だってヲタクじゃん!」
「ちょっと詳しいだけだし!」
「その詳しいことがヲタクって言うんだよ!」
私たちが言い合いをしていたら、先輩が笑い出した。
「仲良いねぇ、二人とも」
「えへへ、でしょ!さっちゃん高校に入って一番最初にできた友だちなんですよ〜」
恵がデレデレした声で言う。
「そーなんだ!やっぱ最初にできた友だちって一番仲良くなるよねー。あたしも夏奈が高校に入って一番最初にできた友だちなんだよね」
「そうなんですか」
「あっ、栞先輩と夏奈先輩と私たちと言えば!日曜日楽しみですね!」
恵がまたはしゃぎだす。
「あ!そーだね!もうメンバー決まったのかー。最初夏奈と二人だったからさー。ね、映画何観る?」
栞先輩もはしゃぎだす。可愛い。
「そーですねぇ、、あれなんかどうです?『君のキモチ』!」
恵が勧めた映画は恋愛ものだ。確か幼馴染みと離れ離れになってしまって、10年後再会したら幼馴染みは亡くなっていたとかなんとか、切ない話だ。少し気になる。
「んー、それもいいねぇ。あたしはねぇ…『鏡の背後』!!」
「「えぇっ!!」」
私と恵は顔を歪めた。何故なら先輩が勧めた映画はホラー映画だったからだ。先輩は私たちの反応が面白かったみたいでニコニコと笑っていた。私は先輩がホラー映画好きだということを知ったのだった。
テスト終わりました!!そしてカエッテキマシタ。まあまあ良かったです!!以上!どうでもいい近状報告でした!