〜歩み編〜5
週末。今日は土星観測をする日。午後6時頃に科学実験室に集合して、午後7半から観測を始める。私は恵と駅で待ち合わせして一緒に行く約束をしている。休日は寝ダメしようと考えていたが、観測が楽しみなわけじゃないけど、早起きをしてしまった。
「はぁ、もっと寝られるのに。なんで起きちゃうんだろ…」
時刻は午前8時。ペタペタと素足でリビングに向かう。まだ五月なのに真夏のような日差しが窓から射し込む。外は家の中よりももっと暑そうだ。ソファにケータイを放り投げ、台所に向かう。冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注いで一気に飲む。寝汗をかいてじめっとした体に気持ちいい。
「しっかし、暑い。まだ五月だっつうのー」
暑さからの苛立ちをコップにぶつけるようにガンっと勢いよく置いた。家には私一人。母は友達と出かけている。きっと美味しいものでも食べてくるんだろう。しばらく外食をしていないことに気づいた。今日のお昼は何所かで食べてから学校に行こうか。でも、一人でランチは結構な勇気がいる。だが家にはご飯がない。母には適当にコンビニでも行って買ってきなさいと言われた。でもこの暑さだ。コンビニに行くだけのために外に出るのは嫌だ。暑い。怠い。私の怠け者モードのせいでコンビニへ行く案は消えた。新たに浮かんだ案は恵を誘って2人で食べに行くというものだ。
「よし!決行!」
思い立ったら即行動。こんな私はあまりない。いつも優柔不断で周りをいつも気にしている私。だがしかし、今はお昼ご飯の確保が重要だ。決めたからには行動しなければ。早速ソファに放り投げたケータイを手に取り恵に連絡する。恵は「うん!行こう」と私の案に賛成してくれた。12時に学校からの最寄り駅前にあるカフェで待ち合わせすることになった。 私はゆっくりと支度をはじめた。
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カフェに着くと恵が外で待っていた。恵は汗をタオルで拭いながら「遅いよー」と言った。15分ほど遅刻してしまった。恵は背中の真ん中ぐらいまでの長さの髪をポニーテールにしてまとめている。うなじから汗が流れているのが少し色っぽい。親父みたいだな、今の自分。中で待っててもらった方が良かったな。12時をまわって気温は更に30度近くまで上昇して太陽がアスファルトをジリジリと照りつけている。外で待つのはかなり堪える。
「こめん!電車一本逃しちゃってさー。暑かったよね?中で待ってもらってて良かったのに」
「別にこれぐらい平気だよー。でもやっぱり暑いからさ、早く中入ろー」
「うん、はいろはいろー」
カフェの中は空調が整っていて丁度いい涼しさだった。
「さっちゃんなに食べるー?」
恵がメニューを見ながら聞く。
「んーパスタとかにしとこうかなー。恵は?」
「あたしは…サンドイッチにするー。あ、それとトマトスープ」
「美味しそうな組み合わせだなぁ。それじゃ、私もジャガイモスープにしよー」
私は店員を呼んで注文した。よく恵とご飯に行く時は必ずと言っていいほど私が注文する担当だ。別に嫌ではないけど。恵はこういう事が苦手らしい。恵も相当なシャイだ。あの新しく入ってきた男の子のことも言えないな。
「ね、さっちゃん、突然なんだけどさ、今度の日曜日映画行かない?」
恵が上目遣いで聞いてくる。私が男なら悩殺レベルだな。
「いいよ。別に予定ないし」
毎週末は暇と言っても過言ではない。
「そっか!で、メンバーなんだけど…」
「?恵と二人じゃないんだ?」
「へ?あ、う、うん、本当は二人で行きたかったんだけど、実はこのお誘い、夏奈先輩からのなんだよねー」
なぜ恵が焦っているのかは分からないけど、先輩からの誘いは断れない。ていうか、夏奈先輩なら一緒に遊んでみたい。部長とかは嫌だけど。
「へえー。行く行く」
「ほんと?良かったよー、後輩一人じゃ心細かったんだよねー先輩も二人いるしさー」
ん?
「え?二人?夏奈先輩と誰?」
「あ、言うの忘れてた。栞先輩も一緒だよ」
栞先輩…
「ああ、そーなんだ」
「はやく、先輩たちと仲深めなきゃねー」
「だねー」
一瞬固まってしまった。名前を聞いただけで。どうしたんだろう、私。暑さでぼーっとしてるのかな。でもカフェの中は涼しくて、鳥肌が立ちそうだった。
投稿少し空きました。テスト真っ只中。息抜きで書いてます。次話から沙月と栞先輩の絡みがあります。多分…お楽しみに。