-pain4-
私が意識を取り戻したときあの男は既にこの部屋にはいなかった。どうやら自分の部屋へと、魔窟へと帰って行ったようだ。
「う……ああ……」
言葉を発しようとするが舌に火傷を負ったようで上手くいかない。路上に捨てられたゴミのように床に転がったまま、自分の身体を見ると服に覆われていない部分で変色していない箇所はない。
ああ、お腹がズキズキと痛む。服の上からではわからないがきっと肌が内出血によって青紫色になっているだろう。
左腕と右脚は変な方向に折れ曲がっている。気絶する前は正常な方向に向いていたので私が気絶している間に折られた可能性が高い。あの悪魔なら意識を勝手に失った私に怒りをぶつけることなど、当然のことのようにするだろう。
無事な方の腕で顔に触れると、殴られたところが腫れあがっているのがわかる。掌に嫌な感触が残るのが気持ち悪い。
結論を下せば私の身体は酷い状態だ。
ちゃんと全部治るだろうか……。
そう考えて自分がとてつもなく愚かなことを考えていることに気づく。
そんなこと気にする必要はない。
右手の掌を顔に押し付け、顔を隠すように覆う。
治ったところでここから出られなければ意味が、ない。
「――――――ッ!? う、うう……うううう!!」
堪え切れなかった嗚咽が部屋に響く。
ああ、やってしまった。一番やってはいけないことをしてしまった。
「ここから出られない」ということを認めてしまった。
これまでそのことを考えずにいたからこそ何とか泣かずにいられたのに。
この部屋に連れてこられた後、私は一度も泣かなかった。
それが私にできるあの男に対する唯一の抵抗だったから。
しかし、それももうできない。
助からないということを自覚してしまったいま、私はもう――駄目だ。
「あ、ひ、ははは……あはっ、ふふ……」
これまで身体を壊されても、少し狂っても、完全には壊れなかった私の心が音を立てて壊れていく。
そうして――、この夜「私」は死んだ。
幕間その4。どうも久安です。予約投稿にするのを忘れてました。ごめんなさい。
短いので特に言うことはナシ。改めてみると読み手の読む気力を全く無視した各話の長さが目につきます。やたら長かったり、短かったり。おい、当時の私よ。
次回は1月16日 23時更新です。




