第五章
いかれた世界を支配する
5.裏切り
彼等、そして私の会話は訳の判らないものだ。
いかれた人間。快感。弄ぶ。
何を言ってるの?
「アンタには死んでもらうよ」
「無理だ。アタシを殺せばコイツも死ぬ」
「大丈夫、僕達にはそれだけのテクニックがある」
にこっと微笑みながら日向は私の頭を強く掴む。
痛い...。と言うよりも怖かった。
「きっ貴様等っ!」
「てかアンタ僕達の事知らないの?」
「貴様等の事などっ...っその青い瞳にクロスのピアス...サイテス兄弟...かっ!?」
「ビンゴ!結構僕達も有名なのかな?来夢」
「そうなんじゃないのか。でも今日でそれも終わりだ」
「裏切りサイテス兄弟、宜しく。これから死ぬやつに言ってもね」
何がなんだか判らない。
私は自分の意思。意識が飛んで行くような気がしていた。
日向は大丈夫だよと瞳で語る。
「貴様等は何故、何故裏切るっ!」
「裏切りたくはない。でもね」
「彼女の為なら死んでもいいって神に誓っちゃったんだ」
「バイバイ」
ギャア゛―――――...。
意識を取り戻し気が付いた私は自分の部屋のベッドの上にいた。
横を向けば、二人の姿。
にこっと日向が微笑み来夢がそっぽを向く。
よかったねとまた日向が瞳で語る。
何故か半分記憶も飛んでいるような感じがする。
判らないけどなんとなく。
来夢は重々しく口を開けて空気を吸い込み言葉と一緒に息を吐き出す。
「大丈夫か?」
「うん...それより...」
「千は僕らの正体が知りたいんだよね」
別に知りたくはない。いや知りたい。でも...。
彼等の正体を知ってしまえば何かが変わるというか終わる気がした。
私が知りたくないと口にしたってきっと口は動くのだろう。
「貴方達は何者?」と傷付ける言い方で問うのだろう。
人は人に対する言葉を選ばない。
思った事を口にて出来る。
表で出来なくても裏で鬱憤を晴らす。
私は思う。
この世は屑の塊がゴロゴロしている。
「俺達は此処の世界の人間じゃない」
長い沈黙を破ったのは来夢だ。
そんなの判ってるよと心の中で呟く。
もう、私が何かに取り付かれてそれを追い払った時点で、いやもっともっと前。
そんな私に気付いた時点で判ってたよ。
貴方達は兄弟でこの世の生き物じゃない。
日向は俯き、来夢はじっと窓の外を見詰める。
そして短い沈黙を破ったのは日向。
「僕達は君達人から見れば”悪魔”とか”死神”にあたるのかな」
「悪魔...? 死神...?」
「人間を恨む悪党さ」
「覚えてるか?俺が今日の朝言った事」
覚えていない。朝の事なんて。
横にゆっくりと首を振る。
「本を見ながら世界がこの本のようになればいいのにって」
「来夢が読んでた本は人を上手に破壊する説明書みたいなものだよ」
そんな事真顔で言われても...。
説明書があんなに分厚の。すごい。
感心する暇もなく会話は続行される。
「僕達は、人を憎み人を支配して争わせて世界を壊してやろうって企んでる一種の悪魔」
「その世界で俺達は名高い。それだけ人を弄んで始末していると言う事だ」
「......何で...私を助けたの?」
2人の口は閉ざされた。
「何で?答えてよ」
更に詰め寄り強く問う。
苦笑いを浮かべて来夢が答える。
「ありえない事を思ってしまったんだよ」
「ありえない事...?」
「そう」
「それは何?」
「千に愛されたいって願っちゃったんだよ...」
私に愛されたい...?
意味が判らない。
「悪魔が人間にモノを求めるなんて前代未聞」
「君を殺しにこの世界に来たようなもの、なのに君を殺せなかった」
「千をね。殺すなら変わりに死にたい」
要するに...。
彼等は私の事を守りたいとでも思ったのだろうか。
ふわっとカーテンが舞い、風が流れ込む。
立ち上がる2人、私は見上げる。
そして彼等の口から出た言葉は...。
「さぁ君に選択肢をあげるよ」
「選択肢...」
「死ぬか」
「すべての記憶を消すか」