第四章
変わってく自分に何も気付けない
4.コントロールの効かない意思
脳を過ぎった言葉は何と思いながらも会話を続ける。
私は来夢の言った言葉に少し頭にきていた。
失った事なんて無い。
「来夢、千は大丈夫だよ」
「そうだな」
「何が...?」
「何でもないよ、気にしないで」
2人の会話が気に食わない。
何が大丈夫なの?私は大丈夫って何?
判らない。何かが唸る。正体不明。
とにかく何もかもが気に食わない。
「今日はもう帰ろう。寒いしね」
「あぁ...」
「うん」
家はもう目の前。
来夢と日向は二人並んで横を通り抜ける。
2人の背を見詰めた。
正確には...睨み付けた。
くるっと日向が後を振り返り険しい表情で言った。
「もし自分をコントロール出来なくなったら絶対に外に出ちゃいけないよ。出たらその時が君の最後」
何を言うの彼は?と?が頭の中をグルグルと。
はっと我に帰った頃には彼等の姿はなかった。
目が疲れた。眉間にシワが寄る。
睨み過ぎた...何で彼等を睨んでいたのか判らない。
本当に何故...?...。
白く吐いた息を見詰めて家の中に入る。
彼の言葉は嘘か誠か。
その前に私は絶対に。絶対。
自分を失う事なんてないっ!
強い意思を何故か持った私。
さっきから何かが可笑しい。その可笑しいものが判らない。
鞄を床に叩きつけベッドに飛び込む。
ぶわっとベッドは浮き沈みを繰り返す。
天井を見詰めて、白い天井に手を伸ばす。
「...日向...来夢...貴方達は一体...」
冷たい風が開けられた窓から流れ込む。
閉めようと上半身を起こそうとする...。
が、体が思うように動かない。
何で...?
『コントロールの効かない体になったんだよ』
誰...?口が勝手に。
脳に伝わる言葉じゃなくて自分の口から出る言葉。
私の意思じゃないのに。
『お前の体はアタシが支配した。無駄な抵抗はしない方がいい、自分が苦しむだけだ』
支配って何?貴方は誰。
『その理由はきっと後で判る。お前の汚れた世界が終わったらな』
汚れた世界...。
『そう、汚れた世界。空の世界。生きる価値もないクズ...さぁ外に出るんだ』
嫌...嫌だ。それだけは。
『無駄な抵抗は止せと言っているだろ。さぁ出るんだ』
必死に体の動きを止めようとしても止まろうとはしない。
恐い。自分の体が操り人形のように動く。
あっという間にさっき彼等と別れた場所に到着。
ひと気はない...。
脳裏に日向君の言葉が過ぎる。
『もし自分をコントロール出来なくなったら絶対に外に出ちゃいけないよ。出たらその時が君の最後』
私の最後。何が起きるのと行動に出せずにその場に固まる。
すると一人私の目の前を通ろうとしていた。
意思では動けない体。支配された体...は...。
手が勝手に動きポケットに入っているカッターを取り出す。
ぐっと握り締める手は血管が浮き上がっている。
きりっと音が鳴り、刃が出る。
『そいつを殺せ!』
命令された言葉に反応し止めようとする無駄な意思はすぐに砕け散る。
すっと腕が空に上がった...。
ざっ....!!!
歪な音は衣服を裂くような音だった。
刃が裂いた物は布でその場でひらひら舞い落ちる。
目の前には...普段見慣れた彼等の姿...。
刃には血痕はない。
死体もない。
「千っ!あれほど外に出ちゃいけないって言ったじゃないかっ!」
「貴様等っ!アタシの計画を台無しにするな!」
日向は私の顔を驚いた表情でじっと見詰める。
その後から来夢が冷静に言った。
「お前、千じゃないな」
「あぁそうさ。コイツはコイツじゃない、アタシが支配している」
「楽しいだろうね。いかれた人間を支配して弄ぶのは」
「判るのか?この快感が?」
「あぁ勿論。僕等もアンタと同類さ。でもな...彼女は命に代えてもアンタから守らしてもらう」