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第八十二話



すらすら書けぬ。


3日も遅れるとは……。



申し訳ありません。

「どうしてこうなった」


「…………」


「あぁ、はいはい。黙って構えますよ」










Side 陽


ぼーっとしてたら睨まれるので、仕方なく構えを取る。

どうもこんにちは。

絶賛人質中のはずの陽です。

何故、はず、なのかと言えば、非常に自由にさせてもらっているからだ。

待遇は人質のそれではなく、普通に客としての感じだ。

まぁ、監視に明命がついてることも多々あるが。


「猫之神さまの監視役を承ったのです!」


と、俺に元気良く宣言してきたのは記憶に新しい。

勿論、それは言ったらあかんって注意はしておいたけど。


まぁ、そんなことはおいといて、だ。


「貴様、それは私を相手するのに剣などいらぬということかっ……!」


「は……?」


「貴様の得物は剣と聞いている! つまり、私など取るに足らないと、そう言っているのだろう!?」


「あぁ、そういうことですか」


なんでコイツこんな喧嘩腰なんだろうか。

いやまぁ、理由はわかる。

俺が一応蜀の人間だからだ。

なんでここまで敵視するのかは全くわからんが。


だってそうだろう?

こっちが何かやらかした訳ではないからな。

領土問題は気付いていなかっただけだ。


それはそれとして。


実際、刀が無くても勝てる。

だから徒手で構えをとったわけではない。

ここに刀がないからだ。

一応、人質っぽいんで、持ち歩くのは禁止されてるんだよ。

どうやらそれを知らなかったらしく、勘違いをしていらっしゃるらしい。

まぁ、刀がなくとも、慢心でも驕りでもなく、余裕で戦闘不能にできるんだが。

……むしろ、徒手の方が変化のバリエーションが豊富であり、"仕合"にはもってこいではあるけどな。


「何かの間違いがあるともかぎりませんし、私は無手の方が得意ですよ」


「しかし……!」


「良いではありませんか、蓮華様。抜かないと言うならば、抜かせてやれば良いのです」


「確かに思春の言う通りだが……」


ナイス助言だ、甘寧。

ただし、その助言は俺にとっては好都合だが、孫権にとってはどうだかな。

闘気も殺気も出してない俺の実力が、わかっているはずもあるまいに。


「おい」


「はい?」


「手を抜いてみろ。そのときには頭と胴が離れていると思え」


「はぁ」


ぶつぶつと呟く孫権を後目に、甘寧に塩を贈られる、というより脅される俺。

いくら実力が知れぬとはいえ、孫権に勝ち目がないことぐらいわかるだろう。


なんなの?

鼻っ柱を折って欲しいの?

俺に任せてみろ。

ズタズタになるのがオチだぞ?

まぁ、そう言うんだから、仕方なく遠慮なく気兼ねなく大人気なく潰してやろうかね。






   ☆ ☆ ☆






Side 三人称


時は、少し遡る。


とある城の中庭で、相対する者たちの姿があった。

呉王雪蓮の妹こと孫権と、その忠臣たる甘寧の二人である。

理由は実にシンプルで、日課の鍛錬をしているのだ。

……力量があるので、どちらかと言えば甘寧が稽古をつけている感じなのだが。


「その余裕、今日こそ崩してくれるっ!」


「あまり、熱くなられませんよう」


「うるさい! 思春のそういうところが鼻につくのだ!」


「…………」


正直、そんなことを言われても、というのが甘寧の気持ちだ。

実力差はとうに知れてることであるし、余裕そうにしているわけでなく、普段通りの冷静さを保っているだけである。


原因はだいたいわかっている。

一つは、孫家の気質だろう。

孫権の姉である雪蓮、また、母親の孫堅の両名は、戦をかなり好む。

そのため、彼女達は勝負事に非常に高ぶりやすい。

しかし、元来二人とも気楽な性情であるため、発散させることが容易に出来る。

末妹の孫尚香もまた、――比べるとそこまで戦好きではないが――二人と一部同じような性格をしているため、問題はない。


だが、孫権だけ、性格は父親譲りだった。

思慮深く、努めて冷静を保つ父親、程普の性格を受け継いでいる。

それだけならば良かったのだが、彼女もまた、母親の性情も受け継いでしまっていた。

つまり、内に秘めるような性格と、外に出す性情が見事なまでにミスマッチをしてしまい。

常識人で堅物、溜め込みやすいのに出さないので、ぷっつんすると爆発する、というなんとも扱いづらい人物が生まれたのである。

爆発した後は、後悔したり慌てたり謝罪にきたり、非常にナーバスになったりと忙しなく、負のスパイラルに陥ることもしばしばとめんどくさい。

……めんどくさいとは思ってないが、なんとかしてあげたいと思っている甘寧である。


それは長期的な問題であるから、おいといて。


二つ目の理由に、排除したくても出来ない存在がいるせいだということが挙げられる。

理由は謎だが、その人物が王で姉な雪蓮に気に入られている為、どうにも出来ない。

さらに、先日の手紙により、孫権自身が見極めたいとのこと。

……それによって若干のストレスを感じているのだから目も当てられないが。


「仕合中なのに、考え事とは余裕だなっ!」


「……!」


突然の上段からの攻撃に、少々驚くも、自身の得物―鈴音―で難なく弾く甘寧。

不意打ちとはいえ、真正面から声を上げて斬りかかってくるのだから彼女を慌てさせるには及ばない。

さらに、反応が少し遅れたぐらいで焦るほど、実力は拮抗していなかった。


「くっ……! これなら、どうだっ!」


「…………」


孫権なりに考えて剣を振るっているのだろうが、怒りに任せたようなそれであるため力の籠もった真っ直ぐな剣筋で、非常に次が読みやすい。

全てを躱すこともやろうと思えば出来るが、甘寧は普通にはじくことにする。


筋は良いのだが、型に嵌ったように柔軟性がなく。

熱くなればなるほど、それは顕著に現れる。

さらに、筋が良いとはいえそれは兵達に比べてであり、元々あまり、攻撃にはむいていない孫権。


つまり、攻勢にでると負けるのだ。


全てをはじいた甘寧は、隙の出来た孫権の首筋に、自身の剣を添えた。


「…………」


「……っ! えぇい、もう一度だ!」


「恐れながら、ここは少し休憩に致しましょう。お身体に障ります」


「私なら大丈夫だ!」


「しかし……」


悔しげに表情を歪めたが、孫権はすぐに次を始めようとする。

だが、そこに甘寧が待ったをかける。

息は乱れ、熱くなりすぎているのを、臣として流石に黙認できなかったのだ。


次を急く孫権と休息を促す甘寧の意見は平行線をたどる。


「まぁまぁ、双方落ち着いて」


「「……っ!」」


が、それをぶち壊す者が突如として現れる。

右側面を地につけて、寝転びながら頬杖をつく陽だった。

二人は突然そこに現れた(ようにみえた)ことに驚く。

……彼からしてみれば、立ち合う二人の警戒をかいくぐるのは造作もないことである。


「貴様、何故ここにいる……!」


「暇だったので、日向ぼっこをしに来たんですよ。そしたら立ち合うお二方がいましてね。邪魔しちゃ悪いと息を潜めておったのですよ」


「本当か、蒋欽」


「は。気配を消したときは何事かと思いましたが、地に臥すのみでした」


「そうか。ご苦労」


「では」


まるで信用されてないなー、などと考えながら、陽は身を起こす。

いつまでも寝転んでいれば、また面倒だと思ったからだ。

……追い討ちをかけるようだが、蒋欽とは、甘寧、明命に次ぐ第三位の影者である。


「状況はわかった。では、早々に立ち去れ」


「待て、興覇」


「蓮華様?」


歩み寄るつもりはないが、どんだけ嫌われてんだよ、と陽は短く息を吐く。

早々と排除しようとする自身を止める主に、甘寧は怪訝そうな顔をした。


「言いたいことがありそうだな、孝白。言ってみても構わんぞ」


「はぁ」


なんとも上からな発言に微妙な気持ちになる陽。

確かにその通りだが、こうやって促されるとなんとなく言いたくなくなるのが彼である。

……結局言うのだが。


「まぁ、興覇殿のお味方をするわけではないですが、休息をとることは必要なことです」


「戦場では気を抜いた者から死んでいく。ここで休息などとっていては、実戦に何の役にもたたないではないか」


「その通りかと存じます。が、しかし、貴女様には関係のない話ですね」


「…………」


なんとなく言いたいことがわかった甘寧は、このまま任せることにした。

主に向かっては言いにくい話であるし、自身で見極めると言った男の言葉を逃すことはないだろう。

悔しいが、自分にはできないことだった。


対して孫権は、僅かに青筋を立てる。

疎外感を感じさせるような言葉に少し苛立ちを覚えたのだ。


「……何だと?」


「貴女様が、興覇殿たちのように、前線に出ることは限りなくあり得ませんよね?」


「…………それは、そうだが」


言われてみれば、姉の雪蓮が例外なだけで、指揮をとる自分が前に出ることはほぼない。

つまり、不必要とは言わないが、重視する必要はないことだった。

それを知り、言い知れぬもやもや感で一杯な孫権だった。


「なればこその、休息です。私は休息の鍛錬が必要かと」


「休息の、鍛錬?」


「…………」


「はい」


休息なのに、鍛錬?

と、背反するような言葉に小首を傾げる孫権。

これは甘寧にも予想外で、少し目を丸くしている。


「休息の取り方で、体力の回復速度が随分と変わってきます。……私が考えるに、貴女様に必要なのは回復力の増強かと」


「どういうことだ?」


「貴女様の価値は雪蓮様の次に高い。いえ、雪蓮様からすれば、貴女様が一番高いかもしれない」


「……っ」


あの尻は呉の至宝だ財産だ、と冗談のようで冗談でない事実がある。

理由がアレだが、孫権が宝だというのは実に正しい。

まだまだ未熟ではあるが、器の大きさは自身を超えると雪蓮がいうのだから。

……ただし、一皮剥ければの話ではあるが。


「つまり、貴女様には敵を殺す力より逃げる力をつける事が必至かと存じます」


「つまり、私には武力は必要ないと?」


「無論、ある程度はいりますよ。蜀王は貧弱すぎますが」


自衛もできない王など、話にもならないだろう。

なぜなら、もし自陣を突破されたときに、時間稼ぎもできないということ。

つまり、死だ。


王の中で真っ先に死ぬことになるだろう桃香に対して冷笑する陽。

戦時の王にはつくづく異質な王だ、と考えていた為に、孫権の変化に気付かない。


「……よくも」


「はい?」


「よくも私を愚弄してくれたなっ!」


どうしてそうなる、と陽は盛大に突っ込みたかった。

沸点が低すぎるとも思ったが、グッとこらえた。


「敵を前にして逃げる者に、一体誰がついてくるというのだ!」


「負け戦とわかっているのに関わらず、玉砕覚悟で突っ込む方が愚の骨頂かと」


かの織田信長も結構逃げたし、時代に準ずれば高祖こと劉邦もまた、大敗を喫しながらも逃げ延び、皇帝となっている。

状況にはよるが、誰も死にに行きたいとは思わないはずだ。


確かに、前線で引っ張っていく姿もまた王の形だろう。

しかし、それは項羽のような強者でなければ出来ないこと。

一般兵よりは強いが、絶対的強者足り得ない孫権には不可能な形である。


ともかく、この考えは雪蓮がそうであるせいで影響されてるな、と陽は深く思った。


「それもこれも、私に実力が足りないと言っているのだなっ!? 良いだろう!」


「…………は?」


「ならば、貴様が侮辱したこの武、味わわせてくれるっ! 構えろ!」


完全に勢いで言っていないかコイツ、と陽は溜め息を吐く。

それなりに戦えることは知れているだろうが、それでも今は一商人に喧嘩をふっかけているのと同じ状況である。

しかも、実力差も測れていないとなれば、実に正気の沙汰とは思えない。

静観していた甘寧も、これには少々呆れていた。

……同時に都合が良いとも考えていだが。


そして、冒頭へと進む。






   ★ ★ ★






Side 陽


正眼に構える孫権に対し、俺も――左足が半歩だけ前に出ているが――正面に両腕でハの字を作るように構える。

所謂、空手の前羽の構えというやつである。

絶対防御といわれるだけあって、相当なことがない限り、突破されることはない。

まぁ、今回この構えをするのはそんな理由ばかりでなく。


「てやぁぁぁあ!」


「…………」


むしろ、攻撃させることにあるのだ。

如何に大したことがないかを分からせてやることが、今回の目的である。


上段から剣を、難なく躱す。

どんだけ怒っているかは知らないが、直線的すぎて話にならない。

渾身の一撃というならまだしも、力みすぎて何の意味もない。


「はあぁぁぁあ!」


「……よっと」


返す剣で斬り上げてくるが、速くもない剣なので、上半身を反らせるだけで躱す。

剣先がぶれており、剣筋はお世辞にも綺麗とはいえない。


「せぇぇぇい!」


「……ふっ!」


「っ!」


直接対峙して見るのはまだ三撃目だが、最早測るまでもない。

元から攻撃が得意でないのに怒りに任せているため、更に冴えがなく。

わかってはいたが、ぶっちゃけ弱い。


蒲公英より弱いんじゃね?

いや、将と王を比較するのがおかしいけども。

とりあえず、続ける意味を感じなかったので、終わらせることにした。


二度目の上段に対し、まずは右足一歩引き、腰をしっかり落とす。

そこに、内に十分に絞った右の拳を据える。

そして、孫権から見て剣の右側面を沿うように、真っ直ぐ拳を突き出す。


「まずは、落ち着いていただけますか?」


「…………あぁ」


顔前にある拳が、勝敗を分けていることは理解できるようだ。


今のは白刃流しっていう、これまた空手の技だ。

剣等の武器を弾きながら同時に攻撃も出来る、という画期的な技である。

……ちょっと間違ったら大怪我ものだから、注意するように。


「さて、仲謀様。今の拳は見えましたか?」


「…………」


「認めろ。これが、差だ」


「……っ……」


答えないということは、見えなかったのだろう。

別に、ここまで教えてやる義理はないんだが。

牡丹から手本の一人として名を挙げられている以上、そう振る舞うことにしたのだ。

決して、敬語が面倒だとか、癇癪を起こす大人なガキに苛立ったとか、そういう理由などではない。

断じてないぞ。


「理解しろ、お前は弱い。多分、俺に一生勝てない程に差があると知れ」


「「…………」」


「そして、数えるほどだが俺より強い者はいる。……そこで泣き寝入りするか、足掻くのか。自分で決めろ」


甘寧が黙っていたのは意外だったが、好都合だったからまぁ良い。

言いたいことだけ言って、早々に立ち去る。


実にやっていることは最低だが、別に問題はない、はず。




俺が思うに、雪蓮や孫堅ママのような武力がないのだから、前線に立つ王は目指すべきではない。

ってか、目指したら凄く邪魔。

足手まといが一番前とかすげー嫌じゃん。

大体、先に挙げた二人が頭おかしいんだけどな。

士気は上がるが、前に出る分危険は多く、何かあったらすぐに下がるから、非常にハイリスクハイリターンな行動だ。


だから、目指すべきは自衛が完璧で、危機管理が出来る王だ。

敵に突破されたとしても、味方がくるまで時間稼ぎが可能。

危険を察知すれば素早く逃げることもできる。

死に対して臆病なぐらいの者の方が、良いかもしれんな。


つまり、俺が目指すべきだと思うのは、負けない王。

負けなきゃ勝てるんだからな。


俺が見せることが出来て、俺から学べることなんて、その道ぐらいしかないな。

王道覇道なんてのは、俺にはパッとしないし。


まぁ、何を思うのかは自由だし、反面教師にしてもらっても一向に構わんがな。




   ★ ★ ★




「蓮華様……」


「……あぁ、もうそんな時間か。戻ろうか、思春」


「……はっ」


心ここにあらずといった様子であることを心配し、甘寧は声をかける。

残念ながら、陽の言葉は正論である。

いずれは誰かが教えなければならないことだった。

ただ、タイミングと人選が悪かったことに尽きる。

責任の一端は自分にもあるが、何とも間の悪い奴だ、と罵ってやりたいぐらいだ。


現実逃避するように的外れな反応をする孫権を見て、甘寧は深くそう思った。










陽は語る。


「王位継承者って、なんとも面倒だよな。常に責任と差を感じてりゃならんのだから」





内容が無いよう。


蓮華様成長フラグ立ててみたんですが、なんか微妙。

恋姫のステータスがどうかはしらないのですが、軍師等の文官よりは強く、武官より弱い仕様になってます。






「陽ってば素直じゃないわねぇ。だから嫌われるのよ」


いや、そういう問題か?


「勿論、考え方とかの違いによるところもあるけど。少しでもわかりやすいように教えてあげないと、勘違いされるばかりよ」


確かに。

態度も言動も、口も悪いですからねぇ。


「まぁ、知っちゃえば、深みにはまるかも、だけどね」






おしまい☆



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