第七十九話
せっかく、日曜日には書き上がってたのに!
寝落ちった!
「陽さん。貴方は呉に行ってもらいます」
「YA☆DA☆NE」
「はっ、はわーーーっっ!!」
Side 陽
絶賛朱里ちゃんにブチギレられ中の陽さんです。
所謂、堪忍袋の緒が切れたってやつ?
キレ方に尋常じゃない取り乱しがあったからな。
「本当にもう、いい加減にしてくだしゃい! なんなんですか貴方はっ! 私を怒らせてそんなに楽しいんですか!? ご主人様風に言えば、貴方の素行ですとれすがまっはでしゅ!」
「いや、朱里さん、結構余裕あったりする?」
「いいえ、全然ありません! 事の一端はご主人様にもある事を知ってもらおうとしただけです! 最も、自覚していなかったようですけど!」
「ホント、すいませんでした」
勇気あるな。
流石はたらしなバ一刀。
別に俺に勇気がないわけじゃないぞ?
死地とわかってんのに飛び込む阿呆なことをしないだけだ。
「で。理由は? 見当はついてんだけどさ」
「だったら説明は必要ありませんね」
「だからといって、承諾する訳じゃねぇがな」
☆ ☆ ☆
Side 三人称
時は遡ること二刻程前……。
「では、陽さん。最後にご報告を」
「…………はい?」
「お願いします」
「…………えっ?」
朱里から不意に振られ、陽は驚く。
驚きより戸惑いの方が強いが、それはさておき。
次の言葉が出ないのには理由がある。
それは、朱里の言葉に反応して、皆が陽に視線を向けているからだ。
別に彼はシャイでも人見知りでもないので、注目されることに抵抗があるわけではない。
むしろ、元馬騰軍の将兼軍師であるため、大衆の前に立つのに慣れている。
原因はされている側ではなくしている側。
蜀臣達が注視していることに、彼は驚き戸惑うのだ。
「えー、……どういう状況?」
「皆さんが、貴方の報告を待っているという状況です」
……半分寝ていた為に状況把握が出来ていなかった、という理由が大半を占めていそうだが。
それは兎も角。
自分の報告なんてまちまちなのに、よく注目するもんだ。
なんてことを考える陽。
始めのころは、聞いてても聞き流しているような態度だっただけに、そう考えるのも仕方のないことだろう。
それだけ重要度の高い情報を彼が持っているということの裏返しであるし、認められている証拠でもあるが。
「あぁ、そういえば」
「……なんですか?」
報告する為にいつものように立ち上がり、右の拳の側面で左手の平をポンと叩く。
一々芝居掛かっていることに若干イラッとした朱里だったが、立場上の問題でぐっとこらえて話を促す。
「んん、よし。えー、私からは、いつも通り諸国の動きについての報告です、……が」
『…………』
「お兄様?」
不意に陽が言葉を切ったことに怪訝そうな顔を向ける蜀臣達。
代表したように隣の蒲公英が声をかけるも、彼は顔を上に向けたまま固まっていた。
ただ、隣にいるので、視線だけが動いていることもわかった。
「……先ずは一人」
「…………(あ、やっぱり)」
小さくだが、そう呟いた陽の言葉を蒲公英は見逃さなかった。
そして、同時に思う。
予想通り、とある敵と相対しているのだと。
「……逃げたか。あっけないな」
「お、おい、陽」
「あん? ……あぁ、報告の最中だったなぁ」
どうやらそっちがメインになっていたらしく、一刀に声を掛けられることで、ようやく視線を戻した陽。
役も、思いっきり忘れていたようだ。
「その前に、今の間はなんだったんだよ。偶にあるその間は」
「鼠の撃退ですよ。ほら、ちょろちょろと鬱陶しいじゃないですか」
「鼠、……ってまさか!」
「そうですね。だだ漏れです」
一刀同様、殆どの蜀臣達が鼠、すなわち間諜に驚きを表す。
気付けなかったことを悔いる者もいれば、陽が気付いたことに驚く者もいる。
前者は武官達で、後者が文官よりの人という風に分類されている。
平然としているのは、暴露した当人と隣の蒲公英、そしてちびっ子両軍師ぐらいだ。
「まぁ、皆さん落ち着いて。どうせ、大した情報は与えてないんですから」
「今まで話してたのは、この国の機密事項なんだぞ!? 大した情報だろ!」
「予想の範囲内の事が漏れたところで、何の影響はありません。ですよね、朱里ちゃん様」
「はわわっ! ちゃ、ちゃん様って」
ツッコミどころはそこじゃねぇよと思いながら、陽は薄く笑ってみせる。
その意図が理解出来たのか、朱里は肩をビクッと震わせた。
「よ、陽さんの言う通りなんでしゅ。どれだけの兵力や国力が上がったかは重要ではなくて、その中身が重要ですから」
「おそらく一定期間にどれだけの上げ幅を生み出せるか、曹操さんや孫策さんなら大凡の目星はついていると思いましゅ! ……あう」
何故噛むちびっ子両軍師共とは思いつつ、大体のことは伝わっただろうしまぁいいかとも陽は思う。
「えっと、じゃあなんで陽さんは、鼠さんを追い払ったの?」
「おや、良いところに目をつけられましたね、桃香様」
「うぅ……、なんだかバカにされてるような」
「えぇ、まぁ」
「否定しないの!?」
実際、バカにしているので仕方がないだろう。
但し、褒めているのもまた事実だ。
着目点、それを見つける洞察眼、そしてそこまでの洞察眼を身に付けられるようにまで成長したことに、それぞれ一割ずつ。
あとの七割は、マイナス要素に振られている。
つまり、トータルバカにしているというわけだ。
……今関係のない話だが、こういう態度だから好かれない原因である。
「では、桃香様。一つ、仮の話をしましょう」
「うん」
「例えば、桃香様が私の茶菓子をくすねたという秘密があるとします」
「……うん」
「バレてないはずと思いつつ、人格的に、私がその秘密を知っているだろうと、桃香様は予想しています」
「…………うん」
仮定の話を淡々する陽。
それに対し、桃香は何故か顔を青くしていく。
「この秘密、勿論私は知っています。さて、私が知っていると桃香様に報告するのとしないのとでは、どちらが心臓に悪いと思います?」
「本当にごめんなさいっ!」
「質問に答えてください。どちらが恐ろしいですか?」
「どっちも恐いです……」
いくら情報が知れているだろうと敵が予想していたとしても、知っていることをわざわざ敵に知らせる必要はない。
陽が間諜を排斥した理由の半分がこれに該当する。
しかし、もはや桃香には――言い方が悪いが――どうでも良かった。
一番どうにかしなければいけないのは、とてもにこやかに笑う陽なのだから。
「……話が少々逸れましたが、今の理由が一つ」
「他にもあるんですか?」
「勿論。まぁ、単純な理由ですよ。……今から話すのは、本当に秘密なお話というだけです」
陽の言う、本当に秘密な話。
つまり、敵が本当に知られたくない話ということ。
最早、そういった手の情報を彼が持っていることになれた蜀臣達。
だが、次の言葉には、全員が戦慄した。
「魏は早くて三ヶ月後、百万の兵を率いて呉を攻める腹積もりですね」
★ ★ ★
Side 陽
魏の最大動員数は、今のところ八十万程だ。
だが、あと二月もあれば、現在調練中の二十万は精鋭に足る兵となる。
阿呆だが、戦の空気を手っ取り早く教えられる夏侯元譲。
その手綱を十分に取り、バランス良く育てられる夏侯妙才。
騎兵のことなら涼州にも引けを取らずしごける霞。
誰が教えたか知らんが、近代の軍隊式みたく歩兵を罵倒しながら調練する于文則を始めとする、李曼成に、凪ちゃん。
歩兵騎兵工作兵、なんでもござれな俺の右腕こと山百合。
こんだけいれば、二十万も大した数じゃないだろう。
そして、色々準備とかする時間を足すと、多めに見積もって三ヶ月というわけだ。
対してこっちの何がマズいかと言えば、呉蜀共々兵が少ないことだ。
呉は、領地はなかなか広いが、調練できる将の人数が少ない。
立派にできるのは、王の孫策を除くと黄公覆か程徳謀ぐらいのものだ。
次点が甘興覇で、明命はあんまり向いてない。
この二人は裏方の傾向が強いからな。
孫仲謀や孫尚香は、王族だし、甘やかされてんのか、微妙。
他にも三國志で有名どころな奴らもいるのだが、副将クラス止まり。
この時期に昇格しても遅い。
だから、まだ三十五万程しかいない。
増えて五万とかか?
次に蜀だが、こっちは簡単。
益州と、荊州のちょびっとしか領地がない為、兵にできる人がいない。
アホみたいに将はいるのに。
歩兵は、愛紗ちゃん、鈴々、星、次点で焔耶。
騎兵は、翠、白蓮、蒲公英、副長だが俺。
弓兵なら、ババァ二人。
恋自体は向いてないが、ねねねーねねーねねとセットで歩兵騎兵の調練が可能。
今まで調練できる軍師は外してきたが、今は侍女なので詠もできると加算する。
なにこのチート陣営と言いたいが、人も馬も少ないので宝の持ち腐れ。
呉と同様、増えて五万〜十万程度だろう。
ぶっちゃけ。
魏が一国ずつ攻めてきたら勝ち目はないってことさ。
だからこそ、俺を呉に行かせようとしているんだろう。
そんで、同盟締結してきたら、功績者として俺の地位をあげようとしてるんだろう。
確かに、俺は個人的にだが呉に行きたい。
個人的な用があるからな。
だが、使者としては行きたくない。
結果がわかってるからな。
何が悲しくて地位をあげなあかんねや。
蒲公英と一緒の時間が減る、仕事が増える、と利点がゼロ。
しかも、よく考えたら使者は俺一人なわけで、その間蒲公英と離れ離れやないか!
堪えられんわ!
「ダメだ。絶対ムリ」
「はわわっ! ご主人様、どうしましょう……」
「こうなったら梃子でも動かない……こともないかも」
「本当でしゅか!?」
何か言っているが、聞く耳持たんぞ!
★ ★ ★
その夜……。
「ねぇ、お兄様」
「ん、なんだ、蒲公英」
「どーしてもっ! 呉に行きたくないの?」
「……出所はあのバカか」
どんな根回ししやがった。
事と次第によっては殺すことも厭わんぞ、俺は。
「ホントはたんぽぽも反対なんだけどね。一緒に行くのもダメなんてさ」
「じゃあこの話は終わりだな」
「終わりじゃないよ」
確かに、蒲公英と行ければ俺はこんなに拒否しない。
別に将は有り余ってるんだし、連れていったって問題はないはずなんだけどな。
だが、俺の直属上司の蒲公英を連れては裏の狙いが意味を成さなくなる。
それでは意味がないのだ。
「お兄様は、いま幸せ?」
「最高にな。寝間着脱いで、綺麗な身体を見せてくれたらもっと幸せかも」
「相変わらず欲張りだね〜」
そう言いつつ、笑顔でパンツ一枚で腰に跨がってくるのは誰かな?
なんて、野暮なことはわざわざ聞かない。
せっかく俺のためにしてくれてるのに、それを断る道理はないだろ。
「たんぽぽもいま幸せだよ。でも、この幸せは長く、ずっと続いて欲しい」
「俺も同じだよ。ずっと幸せを感じてたい」
だから、蒲公英と離れたくないんだよ。
もはや依存だろう。
誰がそれを良くないと言おうと、直す気はない。
「ご主人様見てて、偶に思うんだよね。こんな時に、子供を授かったらどうするんだろうってさ」
「……まぁ、今までが奇跡みたいなもんだしな」
俺は、この戦乱が終わるまで、蒲公英に子を孕ませるつもりはない。
本当の親以上の親―牡丹―が俺達にはいてくれだが、次はそうとは限らない。
というか、一杯の愛情を与えて育てたい。
だから、こんな戦時中に産んで欲しくない。
その為に、排卵日近くはしていない。
そういう時に限って、とても魅力的になるらしいんだけどな、女って。
……蒲公英も例外じゃないわけで、とても辛いところだ。
対して一刀だが、奇跡的な確率であたってない。
ってか、そういうの気にしてるのか?
俺は蒲公英に伝えてあるから、協力してくれてるし、気にしてるんだろうけど。
というか、それに何の関係が?
「やっぱり、幸せなんだろうなってたんぽぽは思う。たんぽぽも、お兄様との子が欲しいもん」
「…………」
気恥ずかしそうに、頬を赤らめつつ微笑む蒲公英。
避妊しているが、もし孕んでしまっても、俺も絶対に幸せは感じるだろう。
だが、不安も残る。
俺達の子を不幸にしてしまわないか、と。
「お兄様の思ってることはわかるよ。たんぽぽも不安だから、お兄様の言う通りにしてるんだし」
「……あぁ」
仰向けの俺に、蒲公英は身を預けてくる。
胸板にあたる柔らかい感触が堪らないが、今はそんな感情を頭から捨て置く。
「いつ死ぬかわからないから、好きな人と、愛してる人と一緒にいたい。一杯、えっちなこともしたい」
「俺も、蒲公英と一杯したいな」
「ふふっ♪ あと、子供も欲しい。伯母上さまみたいな、良いお母さんになりたい」
「俺も、ちゃんとした父親になりたいな」
蒲公英と二人でも幸せだ。
だが、子供が、家族がいたらどうだろう。
もっと、幸せかもしれない。
不意に、重みがなくなる。
正面に見えるのは、俺の顔の両側に伸びた腕と、真剣な蒲公英の顔。
「だから、早くこの争いの世を終わらせよう? お兄様と、お兄様とたんぽぽの子の為に」
「俺と俺達の子の為に、ね」
「そう。呉に行くのは、その第一歩なんだよ」
まぁ、確かにそうではある。
同盟を結ぶことは、もはや決定事項だ。
魏が侵略を目的とするのだから、呉が抵抗することは決まっている。
そして、兵力差があるのだから、頼りは蜀しかない。
蜀も蜀で、呉が潰れたらお終いなわけで、協力を惜しまない。
だが、どちらからも手を出さない。
要は、呉も蜀も主導権を握りたいのだ。
だが、使者を出した側が不利になるこのせめぎ合い。
そこで蜀が出す手札が、情報戦での引き出しはちびっ子両軍師に劣らず、口では負けず、威圧感は十分、実は天の御遣いっぽい奴な俺だ。
考えようによっては、争いを終わらせる始まりを担うのかもしれないな。
「……そうだな。まず、見返りは?」
「んー、早く行って欲しいらしいけど、明日はでぇとできるようにしてきた」
「それだけ?」
「帰ってきたら、時と場合によるけど、三日ぐらい休みが貰えるって。たんぽぽも、その中の一日は同時に休みをくれるらしいよ」
妥当か?
交渉にかかる時間によるんだけど……。
まぁ、改めてぶん取ってやればいいか。
「あ、悪い顔してるー」
「そういう蒲公英だって、悪戯っ子な顔してるぜ?」
「だって、ねぇ」
「まぁ、ねぇ」
俺と蒲公英が組めば、悪巧みの成功率は100パーなんだよ。
「っていうかお兄様、いつの間にかびっきびきだよ?」
「え、あ、おい! 弄るんじゃ、デコピンするな!」
「そんなこと言って〜。弄くられるの好きなく・せ・に・♪」
「否定はしないが、待っ、くうぅぅうっ!」
「気持ちいい? いいよ、いっぱい感じて? 明日はどうせ休みなんだし、いっぱいしようね!」
「アッーーーーーー!!!」
★ ★ ★
二日後……。
「いってきます……」
「いってらっしゃい♪ ちゃんと帰ってきてね?」
「あぁ、勿論だ」
「なぁ、翠。陽の奴、朝からあんななのか?」
「ん、あぁ。ってか、昨日の夕餉にはもうあんな感じだったぞ?」
「搾り取られたな」
「搾り取られましたな」
「搾り取られたんだねー」
「ご主人様! 星! それに桃香様までっ!」
「なな、なに言ってんだよ!」
「なんのことなのだ?」
「はわわっ! 鈴々ちゃんにはまだ早いことですよ!」
「あわわっ、でも朱里ちゃん。ご主人様、鈴々ちゃんにも手を出してるよ?」
「あらあら、お盛んねぇ〜」
「これも若さよ」
「ふん、軟弱者め」
「ねね、お腹すいた」
「はっ、すぐに手配するのです!」
「達者でなー」
「アンタ、普通すぎよ」
「詠ちゃん、そういうこと言っちゃダメだよ?」
言っておくが、全部聞こえたんだからな!
陽は語る。
「次回から呉編! 蒲公英成分を補給したというよりは、確かに搾り取られた休暇だった!」
と
とても駆け足な気が。
でも、いい加減進めないとなと思うわけですよ。
あれ、焔耶とねね、からんでない?
「次から呉編ね。雪蓮ちゃんと冥琳ちゃんって、お似合いすぎるわよね。嫉妬しちゃうわ」
旦那も嫁もいるくせに何を言うんだ。
「だってそうじゃない? 私の白狼や薊との強固な関係にさえ劣らないし」
たしかにな。
まぁ、断金の仲というし
おしまい☆




