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閑話3



久しぶりの投稿だぜぇ!


いや、ごめんなさいとは思っていますよ?

ホントだよ?



今回は、リハビリみたいなもんです。




「……な、な、な、……!」


「どうしたのです、山百合殿っ……!」


「……この書物の作者は誰ですかっ! 探りなさい、今すぐにです!」


「はっ、はいっ!」










Side 三人称


遡ること半刻前……。


魏の客将、鳳徳こと山百合は街をぶらついていた。

そこに他意はなく、ただ暇だったからだ。

客将である為、――義理堅いところは信用されているが――下手をすれば国を揺るがしかねない重要なことを任せられるはずもなく。

加えて、かつて任されていた仕事の量と質とは比べものにならず。

こうして街をぶらぶらする時間ができるほど楽だった。

……処理速度の速さは、偏に元主のさぼり癖のおかげかもしれない。


それはさておき。


山百合ほどの美貌の持ち主が街中を歩くとなると、どうしても目を惹いてしまう。

紫紅の髪に、汚れのない純白のチャイナドレスとあれば仕方がないのかもしれないが、それは端正な顔立ちと豊満なスタイルを引き立てるものにしかならない。

黒い布で被われた右腕が若干悪目立ちしているが、総合的に見れば、やはり美しい。

世のチャラ男も尻込みする程に圧倒的だ。


山百合がここに来た当初は、声を掛けてくるチャレンジャーも存在していた。

しかしながら、無表情と無口という取っ付きにくい二点と、最初から――陽という存在がいるため――男に興味のないのも相まって、声をかけた男の面子はズッタズタで。

力ずくでこようものなら返り討ちは当たり前だ。

そんな訳で、今のような遠くから眺められる状況になっているのである。


この状況に、山百合は別になんとも思わない。

何故なら、好かれようが嫌われようが、特に気にしないからである。

陽の右腕を全う出来ればそれで良いのだから。




「……さて」


ふと、山百合は呟く。


「……何をしましょうか」


どうやら本当に何も考えていなかったらしい。

街並みを見て学んだり、商人の出入りや栄えるさまを観察はしたりしているのだが、それはそれ。

山百合自身の目的は何もなかったのだ。


だからこそ、何気なくふらっと書籍店に――もっとも、大半が竹管だが――立ち寄ったのは予期せぬ偶然だった。



   ★ ★ ★



「また、ですか」


とある通りのとある書籍店の前に群がる集団を見て、いつも通りの光景だなと警備隊長の楽進は苦笑する。

その集団が送るピンク色な視線の先には、自身でさえ惹かれ、尊敬する人物がいるというのだから仕方がないだろうと、少しは納得できる。

しかし、客でない人々が店先に群がっていれば、客として来た人と店主にとっては邪魔でしかない。

鳳徳様見守り隊――先日聞いたその集団の名である――に混じりたい、むしろ入隊したいという感情をグッと堪え、追い払うという仕事を全うすることにした。

……他二人に対して欲に走るなと言っている手前、自身が溺れてはならないと、なんとも真面目な彼女である。


「お前達、店主や他の客に迷惑だ」


『こっこれは、楽進様!』


一瞬、とても嫌そうな視線と邪魔者扱いするような、どもった口調で反応する集団、もとい、鳳徳様見守り隊メンバー。

毎度こうして邪魔をしているのだから嫌われてしまうのは仕方ないかもしれないが、この仕打ちはないだろうと楽進は思う。

心は、鳳徳様見守り隊と同じなのだから。


「確かに、山百合殿を目で追ってしまうのはわかるが、……んんっ! とっ、ともかく、これ以上続けるというのならば、強行策も辞さないぞ!」


『……はーい』


口が滑ったことを自覚した楽進は赤面しながら、見守り隊を武力介入を示唆することで脅して追い払う。

山百合に迷惑は絶対にかけない、というのが鳳徳様見守り隊の絶対的なルールである為、聞き分けが良い。

そこは評価できるので、よっぽどの事がない限り、見逃すのが通例となっている。


……しかしながら、山百合は現代のアイドルさながらな人気度である。

しかも、よく街に来るので、会いに行ける?アイドルと言えるのかもしれない。

ただし、遠巻きから眺められるだけだが。






「山百合殿」


「……おや、凪ちゃん」


「あまり、街を騒がせないで下さい」


「…………? どういうことです?」


「……いえ、なんでもありません」


「……?」


楽進の諫めるような言葉に、手元の書簡から彼女に目を向けて、困惑した様子で首を傾げる山百合。

自身にファンがいることを知らなければ、視線を集めていることも知らないのだ。

そして、この首を傾げる一動作だけでコロッといってしまうことも。

それがわかっている楽進は、曖昧に苦笑した。


「しかし、改めて見ると凄い量ですね。ここまでの規模だったとは」


「……そうでもないですよ? これで普通程度です」


「えっ?」


「……大通りの店ともなれば、倍は広いですよ?」


手の書簡を元の位置に戻して、キョロキョロと店を見回す楽進に微笑む山百合。

いつもならばその綺麗な笑みに慌てる楽進だが、辺りに目を向けている為、気付いていない。

反応がなかったのがつまらなかったので、山百合も他に目を向けることにする。

……仕事に戻れよ、というツッコミを入れる者はいなかった。



「…………ぇ」


「――――? 山百合殿!」


「……えっ、あ、はい」


「どうか、しましたか?」


呆然とした様子で小さく声を漏らした山百合。

その声を聞いた楽進は、一点を見つめて硬直する彼女を呼びかけ、尋ねる。


「…………いえ、少し問題が」


「どこにですかっ!?」


「……近いです。兎も角、あれはなんだと思います?」


詰め寄ってくる楽進の肩を若干押し返し、山百合はとある書籍を指差す。

震える指先で指すその先には、なんとも怪しげなタイトル。


『天上の交わり〜一×雄〜』


と、書かれていた。


「…………如何にも、怪しげな物、ですね」


「天、雄、一、交わり。……もう、絶対、あかんやろ」


「さっ、山百合殿っ!?」


タイトルで大体察してしまった山百合は、キャラ崩壊を起こしていた。

それに驚く楽進。

清純キャラが、いきなり霞みたいな語尾になったらびっくりするのは当然である。


「……ま、まぁ、一応、確認といきましょう」


「…………本当にするのですか?」


「……本当に、そういう内容ならば、作者は、殺して解して並べて揃えて晒してやります」


「…………」


今日の山百合殿は怖いな、と楽進は思った。

同時に、何故そこまで固執するのかとも思いながら。






そして、冒頭に至り。


「待っていて下さい、陽様! 貴方様を汚した者は、必ずや見つけ出しましょう!」


目を危ない色に爛々と輝かせながら、山百合は高らかに宣言した。






   ★ ★ ★







同時期、隴西にて……。


「はぅ、陽……、雄の鬼畜攻めに一の総受け、……うっ、羨ましいっ!!」


とある書籍を読み、声を上げる女史がひとり。

陽の左腕こと瑪瑙である。


「なっ、なによ! いつか僕だって、こっちに入れてもらうんだから!」


読み進めるごとにツッコミを入れる瑪瑙。

他に人がいれば、確実にどん引きなことを大声で叫ぶ胆力は目を見張る。


「でも、……あっ、そんなとこっ、駄目っ! きっ、汚いって、ゃあ……っ!」


主が片方を担うBLな本を読んで、もう片方に自分を置き換えるという変態っぷりを発揮する彼女。

粘着質でオープンな変態である陽もどん引きしそうな勢いな妄想である。


「あっ、あっ、あぁあぁぁぁーーーっ!」


「うるさいわっ! 白昼堂々とナニをしておる!」


「あっ、母様、見ないで! あっ、んんっ!」


「感じてどうする、たわけっ! 欲求不満は分かるが、儂で興奮するのはやめるんじゃ!」


ド変態な義娘にツッコミを入れる為に彼女の部屋に押し入ったのは、母親の薊。

再登場がなんともいたたまれない。

……本当は瑪瑙にツッコめない程のドMでド変態な彼女であるが。


「え、儂、出番こんだけ?」


「また次があるよ、母様」


「いつの間にか戻っていると思えば当てにならんことを!」






   ★ ★ ★






Side 陽


「こんな時代にも、こんなもんを必要とする奴がいるもんなんかねー」


腐的な書籍や竹簡ばかりが置かれている一角を見つけ、思わず呟く。


久しぶりだな。

馬雄孝白こと陽様だ。

全く、閉鎖やらテストなんかやらあってからに!


まぁ、それは置いといて。

よくもまぁ、需要があるもんだよ。

いや、その二大筆頭が蜀の中枢にいたりするんだが。

兎も角、書籍店にこんな感じで普通に置かれてるのはどうかと思うぜ。


しかも、だ。

山百合の報告から、とんでもねぇモンが売られてるらしいんだよ。

普段の山百合の字は細く綺麗で美しいのだが、今回の書にはこれでもかというぐらいの力強い字で書かれており、相当なブチギレ具合が窺えた。

仕方もなかろうさ。


俺とバ一刀の絡みだからな。


女誑しで節操なしで魅力なしで、牡丹に対する目が厭らしかったとのことで、山百合は一刀が嫌いらしいのだ。

あと、多少の嫉妬も混じっていたのだろう。

最後に小さく震えた字で、『我愛イ尓』と書かれてたし。

顔を真っ赤にして、書いて良いのか悪いのか相当迷いながら、恥ずかしくて小さく書いたのが手にとるようにわかる。

愛い奴め、世が安定したら、ご褒美をくれてやろう。


まぁ、それはさておき。

山百合が掴んだ情報によると。

作者、というかペンネーム?は伏龍と鳳雛というらしい。

……超近ぇじゃねぇか、と突っ込んだ俺は悪くないだろう。

多分、これも原因で山百合は怒ってたんだろう。


ってか、いいのか、そう簡単に二つ名使って。

バ一刀の御遣いとか俺の天狼と違って、知る人ぞ知るって奴だから、まさかそんなところで、という意表を突いたのかもしれんけど。

流石軍師、と言えるのか?


書いてる時間があったのかとかそんなこともどうでもよくて。

どうするよ、このBL本。

何が悲しくて一刀を掘らなあかんのや。

俺には蒲公英がいるんじゃ、ボケ。

ちみっこ両軍師も周知な事実だろーが。

確かに、バ一刀とは仲良くはしてるんだけどさ。

……俺×一刀の薄い本置いてる蜀内、というか大陸中の書籍店に火計でもかましてやろうか。




………………やらんけどさ。





   ★ ★ ★





「かーずとっ♪」


「……うわ、鳥肌がっ!」


甘めな言葉で声をかけてみる。

すると一刀は、自らの肩をかき抱いて震えだした。

まぁ、確かにそうなる。

もし逆の立場だったらどん引きするかぶん殴るからな。


「まぁ、落ち着けよ。俺達、ホモ達だろ?」


「いっ、何時なった!?」


「「…………」」


「え、違うのか?」


「違ぇよ! ただの友達だろうが!」


未だブルブル震え、かなりの剣幕で言う一刀。

言ってて何だが、俺も吐き気がするわ。


「それは置いといて、だ。……今日の夜、暇か?」


「はっ、はわわっ!?」


「……!」


「……どうしたんだ、朱里?」


「いっ、いえ! なんでもありましぇん!」


びっくりするぐらいわかりやすい反応だなおい。

目を見開いてるもう片方には気付いてないようだが。

ってか、女じゃねーんだから、男同士で夜に会う約束したって変じゃねぇだろーが。


「んで、一刀。暇か?」


「……これといった予定はないけど」


「そうか。じゃあ、夜に行くわ」


「別に構わないけど、なんで突然?」


「……ちょっと、な」


一刀は相当訝しげな顔をする。

まぁ普通に考えれば、一連の流れからしておかしいと思うだろうけど。


「ま、夜まで待ってな」


そう言って、右目をウィンクしてから退室する。

元々右目しか晒されてないんだから、ただまばたきしたようにしか見えんだろうけどな!


「うわ、また寒気がっ!」


どうやら一刀には伝わったらしいが。




これで、ちび共は妄想を膨らませることだろう。

それを、完成間近で燃やし尽くす!

制作者にとって、もうすぐってとこで壊されることは、最大の苦痛だ。

俺も、少なからず経験があるからな。


くっくっくっ!


……いや、これキャラ違うな。





   ★ ★ ★





「え、お兄様×ご主人さま? それならたんぽぽも知ってるよ?」


「……なん……だと……!」


「だって、かなり有名だもん」


絶望した!

蒲公英が知ってるぐらい広まってることに絶望した!


「いいか、蒲公英! 愛してるのは蒲公英だけであって! あのアホは好きでもなんでもないからな!」


「わかってるよ♪ お兄様は心配性なんだから〜」


そう言って、抱き付いてきた蒲公英。

あぁ、なんか久しぶりな気がする。

いや、本当は毎日こんな感じなんだけどな!


「でもさ、確か攻め方は結構間違いじゃなかった気がするよ。鬼畜攻めってやつ?」


「え、……蒲公英読んだことあんの?」


「勿論♪ だって、おもしろそうだったんだもん」


「うぉい!」


男同士の絡みとか、忌避感はないのかね。

腐女子って奴ならわかるけど。


「『男女の恋物語としてなら普通ですが、男同士というのが、そそるんでしゅ!』だってさ」


「あれ、作者知ってるのかよ!?」


「まぁねー。人の弱味は付け込まないとね、にひひ♪」


「それは大いに同意するけど」


多分、何かの拍子でそういう趣味があることを見つけたんだろう。

……大分、この弱味は使わせて貰ってるっぽいな。


「ってか、知ってるなら教えてくれよ」


「ごめんごめん。一応は、秘密にしておいてあげないと、ね」


一応かよ。

まぁ、今回のようにいずれは知れることだっただろうけどさ。


しかし、この件の情報が俺のとこに来るまでが遅かった感は否めないな。

魏に将として潜伏する任を従事してる山百合が見つけたことを褒めるべきなのか。

情報収集をさせるために埋伏やら店員やら商家の下っ端やらしてる奴らを詰るべきか。


「お兄様?」


「うん? あぁ、なんでもないよ」


「そっか。えへへ♪」


「どうしたんだ、蒲公英?」


「うぅん、なんでもないよ」


なんというか。

そんなことはどうでもよくなるぐらい幸せだなぁ、と思う。

別になんでもない日常なんだけどなぁ。


……山百合は撫でてやるとして、お咎めは無しにしてやろう。


「蒲公英」


「ん? どしたの?」


「愛してるよ」


「えへ、たんぽぽもだよ♪」











陽は語る。


「この時代にも、BLなんてジャンルがあるのかよ」




何故か終始BLの話になった。

どうしてこうなった。


タグにボーイズラブのタグをつけた方がいいのかな?






「小説家になろうよ! 私は帰ってきたっ!」


ちょ、それ私のセリフ!


「私が言ったって間違いはないじゃない。実際帰って来たんだし」


……まぁ、そうだけど。


「それともなに? 我、降臨! とかやったらよかった?」


それはそれでアウトだよ!


「グチグチとうるさいなー。


えっとですね。

何人の人がここに帰って来てるのかは知らないけど、この作品を読んでくれてありがとね。

尻を蹴り上げてまた頑張らせるから、続きを見てやって頂戴な。

勿論、私の活躍も見逃すなよ! 絶対だぞ!」




牡丹さんや、あんた死んでること忘れてない?







おしまい☆




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