第七十二話
遅くなり申したぁぁぁあ!!
待っていてくれた方々(がいてくれたら嬉しい)に、深くお詫び申し上げます。
「…………何故居る張翼徳」
「ご馳走になりにきたのだ!」
「…………翠、てめーちょっとこっちこい」
「な、なんであたしっ――、わかった! わかったから殺気しまってくれ!」
Side 陽
絶賛、イラつき中の俺。
具体的には、イラッ☆
という感じである。
「うぅ、なんであたしがこんな目に……」
「ほう、理解出来ないとな。もう半刻、追加するか?」
「いっ、いや、わかった! 存分にわかったから、もう勘弁してくれ……っ!」
そして、俺の眼前、というか目下にいる翠。
俺による強制正座中である。
かれこれ三十分はこのままである。
後三十分残ってるけどな。
元気娘なおチビちゃんは放置。
多分、蒲公英とよろしくやっているだろう。
これに関してはしょうがない。
馬家には基本的にヒエラルキーはないのだが、炊事に関しては頂点に俺がいる。
つまり、俺が今怒っているのは食事についてのことだ。
「いや、でもさ、あたしは陽の料理の美味しさを伝えたかっただけで、怒られる筋合いはない――こともないです。すいません」
「そうだね。謝罪は大切だよね」
おっと、殺気が漏れてしまったかな?
完全にキャラ変わってるけど大丈夫かよ。
「美味しいと自慢してくれるのは嬉しい。だがな、翠。お前、勝手に許可したろ?」
「ギクッ」
料理作ってやると。
食わせてやると。
提供するのは俺なのに、断りもなくな。
「おめーは食うだけだから知らねーのか知らんが、料理するのにはそれなりに準備がいるんだよ」
「……はい」
「その仕込みの前に、食材等の準備も必要だ。わかるか?」
「仰る通りです」
「で、翠。アレはおめー同様に、大食らいだろ」
「むしろ、あたしより食うと思います」
「そんな奴を満たせる食材が、ウチにあると思う?」
「……ないです」
絶賛、SEKKYOU中。
食にはうるさい陽さんです。
翠も思わず丁寧語だ。
「今の間、買ってこればいいんじゃね、って思ったろ」
「いっ、いや! そんなこと思って――」
「いただろう? 俺、簡易的な読心なら出来るんだぜ?」
「……うぅっ。思い、ました」
「だろーな。普通は思うからな。俺が凝り性だから、仕込みまで完璧じゃないと気が済まんだけで」
「…………謀ったな」
「いや、これも含めて読心だからな。しかし、ほう、俺に逆らうか」
「い゛っ! いや! 今の違う! なし! ノーカン!」
「普通に横文字つかったから、四半刻追加な」
まるで絶望に瀕した顔だな。
ただ、三十分増えただけじゃないか。
なぁ、翠さんよぉ?
「申し訳ないが、今日はご馳走できん。(だからといって、後日ご馳走する、という気にもならん)」
「どっ、どうしてなのだっ!? 翠がいっつも褒めてるから、鈴々、すっごく楽しみにしてたのだっ!」
「とりあえずそのキラキラ目線ビームやめれ」
俺は、作りたいと思った奴にしか作らない主義だ。
それに、これ以上の量作るとなると、正直めんどくさい。
いやまぁ、自分含む九人分は作ってはいたんだけども。
それだけの量を作ってあげてもいいと思えるのは家族だからってのが大きい。
加えて、真心を込めない料理なんか作りたかない。
だが、本当に楽しみにする子供のような目を向けられたとなると、とても迷う。
年齢は18以上なのは確かなのにっ!
「あ、一つだけ良い手があるよ、お兄様」
「どんな?」
「翠お姉さまの分を――「おおおま、蒲公英、それだけはっ! 本っ当にそれだけは、勘弁してくれ!」――うわっ! ちょっ、恐っ!」
多分、翠の分をおチビちゃんに回して、お仕置きついでの夜飯抜きということを提案したかったのかもしれない。
だが、正座の体制のまま蒲公英に近づき、翠は泣きつく。
上体が全く動かなかった為に石畳をスライドしてきたように見えたのだろう。
正直、俺も怖かった。
ってか、最早姉貴分の尊厳はどこへやったと言いたくなるダメっぷりだ。
「正座してんのに、夕食まで抜かれたらっ! あたしは何を糧に生きればいいんだよ!」
「痛い痛い! 翠お姉さま、痛いってば!」
「一食だけで随分大袈裟だなおい」
蒲公英の両腕を掴んでぐわんぐわん揺する翠。
必死すぎるだろ。
世界には食べたくても食べられない子なんて沢山いるんだぞ。
「とりあえず、おちつけや翠。蒲公英が痛がっているだろ?」
「うわっ! すっ、すまん蒲公英!」
「今日はいつになく立場が弱いよね」
ちょーっと指摘しただけなんだが、慌てて蒲公英の腕を掴む手を離す翠。
ビビりすぎだろ、ちょっと殺気出しただけでさ。
「とっ、とにかく! 夕飯無しは本当に勘弁してくれ、いや、してください」
「だったら、コイツをなんとかするんだな」
「おっしゃあ、任せとけ!」
「いくら抜かれたくないからって張り切り過ぎだと思うよ?」
さっきまで涙目だったのに。
食へと執着心はハンパないな。
蒲公英の言う通りだ。
ってか、このおチビ誘ったの翠だろうに……。
★ ★ ★
みっしょんこんぷりーと。
翠はおチビちゃんを追い返したようだ。
ただし、埋め合わせをするからという理由で。
「てめー、また勝手に決めやがって。ふざけんなよゴルァ」
「痛っぅぅぅう……! だ、だってそうでも言わないとアイツっ! い゛だだだっ!」
「そこを言い込めてなんぼだろーが!」
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
「容赦ないね〜」
両手で拳を作り、その間に翠の頭を挟んでグリグリする。
だから、作るのは俺なんだっての。
どうして俺の意志を無視するのか。
どんだけ交渉ヘタクソなんだよこの阿呆は。
「……で、その埋め合わせの日は?」
「……ぁ、――だよ」
「なんだって?」
「…………ぁ、した、です」
「…………」
「ちょ、無言で力っ……ギャアァァァーーーア!!!」
これはしょうがないと思う。
脳に筋肉しか詰まってねーからこんなことになるんだ。
だから、マッサージしてやろうじゃないか。
感謝しろよな、翠さん?
夕食が大分遅くなってしまったのは言うまでもない。
★ ★ ★
Side 三人称
「今度こそご馳走になるのだ!」
「陽さんの料理か〜。楽しみだなぁ〜」
「桃香様、涎を拭いて下さい。はしたないですよ」
「だって、すごく美味しそうな匂いがするんだもん」
「それは認めるところではありますが、それとこれとは話が違います」
「うー、愛紗ちゃんのケチ」
「まぁまぁ、二人とも」
「…………」
無言で翠の方に顔を向けた陽。
同時に、アレはなんだ、という質問を含めた怒りをぶつける。
「…………(ブンブンブン!)」
「翠お姉さまってば、必死すぎだよ」
あたし、知らない!
と言わんばかりに、全力で首と手を横に振る翠。
陽曰くおチビちゃんこと張飛の後ろに付いて来た人物たちには本当に心当たりが無いらしい。
そう、涙目な翠を見て陽は判断する。
そんなことより、陽が気になるのは普通に勝手に入ってきた三人だ。
何故、とかそういう感情を置き去りにして、湧き上がるのは怒り。
「(招待したようなものだから、おチビちゃんは良いとして。だが、桃香ちゃんうんちょーたん一刀、てめーらはダメだ。私の俺の城だと言われたらお終いだが、ここは俺の私室だ。許可なく入んなや。それに、完全におこぼれ貰おうとしてね? 舐めてんの?)」
と、心で陽は呟く。
彼は自分の領域を他人に侵されることを嫌うタチの人間である。
今回も等しくその状況で、さらに二回目。
苛立ちを覚えるのに訳はなかった。
……因みに、それに伴って、殺気が漏れているのに気付かないぐらいのイライラ度である。
「「「……っ……!」」」
「「あわわわ……」」
「(うわー、お兄様ってばスッゴい怒ってる……)」
その冷たく鋭い殺気には、それぞれ違った反応を見せる。
関羽、張飛、そして翠は顔をしかめて身構え、桃香と一刀は寄り添った身を震わせた。
しかし、蒲公英だけは苦笑い程度だ。
蒲公英が何故此処まで冷静なのかと言えば、陽が意図的に操作しているからでもあるし、単純に慣れているからでもある。
……翠もそろそろ慣れていてもおかしくないぐらい受けているはずだが、未だに身構えてしまうのはこの辺りの差だろうか。
「ね、お兄様。ちゅーしよ?」
「ん、あぁ、いいぞ」
「(見慣れた光景だけど、荒療治にも程があるだろ……)」
殺気は影響を与えないといっても、流石にこのピリピリ感に耐えられる訳ではない蒲公英は、目を閉じ、唇を少し尖らせて突き出す。
そんな蒲公英を見逃すはずのない陽は、顔を少し傾けて、自らの唇を重ねた。
いつもならばディープに持っていくところだが、人の前である為に我慢する。
独占欲の強い陽からすれば、とろけた表情をする蒲公英の姿など、見せたくはないのだ。
そこまでは至らずとも、散々甘々な雰囲気を醸し出す二人を再三見続けている翠は呆れるばかりである。
と、いうか。
既に料理は冷めてしまっているのだが、その辺りは大丈夫なのだろうか。
「まぁ、いい。……とりあえず、お前ら座れ」
「あ、あぁ、悪い――「誰が椅子に、と言った?」――ぇ」
KOOLもといクールになった陽は、とても綺麗な笑顔で声をかける。
胡散臭いにもほどがある笑顔かつ、逆らってはいけない目をしている。
あ、説教フラグだ、と思った一刀は黙って地べたに正座した。
わざわざ反骨心を出して、これ以上酷い目には会いたくないのだ。
「「ご主人様……?」」
「お兄ちゃん、どうしたのだー?」
「あー、うん。ご主人様は正しいな」
それを見た桃香、関羽、張飛は困惑する。
こうして黙って正座をするのは、相手が怒りの関羽であるときぐらいのものなのだ。
一刀がこの世界に来たときから行動を共にする三人の常識が返されたと言っていい。
しかし、翠は納得したように頷く。
決して笑っていない笑顔と冷え切った目を装備した陽を相手にするには、この構えしかないと知っているからだ。
「桃香、頼む、座ってくれ。陽は、陽さんは今、とても怒ってます」
「「「???」」」
「わかる。わかるよ、ご主人様。今の陽には敬語しか使えないよな」
「まさに、体験者は語る、ってやつ?」
親友のはずの陽をさん付けで呼んでいることに混乱する三人。
さらに、桃香にまで強要する辺りが余計に助長する。
しかし、またしても翠にはわかってしまう。
蒲公英が茶化して言うが、本当はそんなチャチなものではなかったりする。
「一刀」
「は、はひっ!」
陽の静かに名前を呼ぶ声に、若干どもってしまう一刀。
動揺しまくりである。
「座らせろ」
「畏まりました! 頼む、桃香、愛紗、鈴々。ここは黙って俺と同じ格好をしてくれ! 一生のお願いだ!」
「…………えっと」
「…………」
「お兄ちゃん、めちゃくちゃ必死なのだ」
「ご主人様も、苦労してるんだな……」
「しっかり躾られてるね〜」
一生のお願いがこんなことに使われようとは思ってもみなかったのだろう。
桃香は戸惑い、関羽は冷たい目をし、張飛はからかうようにモノを言う。
翠は同情の眼差しを送り、蒲公英は苦笑した。
「…………。おい、桃香」
「は、はひっ!」
なかなか行動に移らない三人を見かねた陽は、一刀にお仕置きを追加することを決定。
そして、桃香に声をかける。
普段からちゃん付けであるし、まさか声がかかると思わなかったのだろう。
一刀と全く同じどもり方をする彼女。
二人揃って動揺しすぎに見えることだろう。
それぐらい、陽からのプレッシャーがハンパないのだ。
「お座り」
「はいっ!」
「ちょっ、桃香様っ!?」
「にゃー、お姉ちゃんまでおかしくなったのだ」
「桃香様も正しいけど……」
「あ、あはははは」
陽の言葉にコンマ五秒で反応し、一刀と同じ格好になる桃香。
愛玩動物もびっくりな従順さである。
それぐらい、陽からの(ry
しかし、初めて桃香のそんな姿を見た驚く関羽。
思ったことを真っ直ぐ言う張飛は流石である。
一刀だけでなく桃香まで従ってしまったことに納得はするが、しかしながらどうかと思う翠。
国のトップ2がそれでいいのか、と。
乾いた笑みを零す蒲公英は、翠の考えが読めたのだろう。
「…………」
「うっ……。とっ、とりあえず、愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも座ろ? ねっ?」
「……は、はあ……」
「しょうがないのだ」
やはり陽からの無言のプレッシャーに耐えられない桃香は、早く終わらせたい為、残り二人にお願いする。
それでいいのか蜀王。
因みに、一刀は絶望に瀕した顔をしている。
自分が見限られ、お仕置きされることが経験上理解しているからだ。
「さて、張飛。翠から埋め合わせをするとは聞いたな?」
「聞いたのだ」
「じゃあ、何故コイツ等を連れてきた?」
「美味しいものは皆で食べたらもっと美味しいのだ。そんなことも知らないのかー?」
「知っとるわボケ」
「あうっ!」
バカにされたように言われたことに若干イラッときた陽は、張飛の頭に手刀を落とす。
手を出されると思ってなかったのか、はたまた先の殺気により感覚が鈍ったせいか。
兎も角、ダメージを受けた張飛は小さく声を上げた。
「かといって、連れてきて良いとも言ってねぇだろーが。料理にはそれなりに準備が必要なんだよ。それは知ってるはずだよなぁ、一刀?」
「ちょ、陽さん、マジ、痛いっす!」
「なんでお前まで付いて来た? むしろ自重させるべきだったよなぁ?」
「頭グリグリはっ! そうです、そうでしたっ! 忘れてましたぁあががぁぁぁあ!!」
それで張飛への説教は終わったらしく、標的を一刀に変える。
両手を握り、両中指の第二関節をだけを立てて――所謂、鉄菱である――こめかみ辺りにあてがい、挟む。
旧知の仲である一刀が知らない訳がないのに、何故止めなかったと。
手首を回し、挟む力に回転の力を与える。
あえて言おう、直死コースであると。
「で、次は桃香、おめーだ」
「ひいっ!」
爽やかな笑顔をする陽は、隣で一刀がもんどり打っている姿を見ると、恐怖以外の何物でもなかった。
桃香は既に涙目である。
「てめーの幸せが俺の幸せじゃねぇ。押し付けがましい親切や幸福が、迷惑になることを覚えておけ」
「……ぇ……?」
「俺は料理人でもあるが、他人に食ってもらって美味しいと言われることに幸福は感じない。好きでもない奴と席を共にしたって、嬉しくもなんともない」
「……それは、えっと」
「俺は、お前に興味を持ったが、好きとは一言も言っていない。むしろ嫌いだ」
いい機会だと、陽は思ったのだろう。
初めて会ったときのように、一線を画するように、突き放す言葉を並べる。
陽が興味を持ったのは桃香の矛盾を貫く強さであって、聖人君子な考えに共感した訳ではないのだ。
だからこそ、別に優しい言葉をかける必要もなかった。
突然すぎる拒絶。
しかし、桃香は顔を上げ、陽と向き合った。
「そう、ですか。……でも、私は陽さんと友達になりたい」
「…………そうか。ま、観察対象以上になれば、考えてやらなくもないがな」
やはり、この女は面白い。
と、心で呟く陽。
普通、面と向かって嫌悪を示されて、距離を詰めようとは思わないはずだ。
それでも仲良くなりたいと言う桃香は、世間からすればバカだ、と言われるだろう。
ただ、そんなバカは、陽にとっては少しばかり好ましかった。
前例として、未だ痛みに悶えるバカがいるから。
「おい、ちょっと待て。何をいい話風に終わらせようとしている」
「いや、もう説教は終わったけど」
「鈴々、ご主人様、それに桃香様に話があって、何故私には何も言わない」
「……えー」
Mかお前は。
と、心で毒づく陽。
長々と話を聞かなくて済んだのだから儲けものだろう。
ただし、完全にとばっちりな関羽にとっては許し難いことだった。
「しょうがねーな。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ。……肩肘張りすぎ。他人に頼ることを覚えろ。忠臣名乗るなら黙れ。一刀や桃香ちゃんを貶められたからって熱くなるな。前に出過ぎ。軍神の名が泣くぞ」
「…………」
「…………(よ、容赦ねぇ!)」
「…………(さ、流石お兄様。愛紗相手でも遠慮なしだね)」
「あ、愛紗ちゃん……?」
言いたいことを全部言って満足な陽。
無言な関羽。
こういう時は自重しないことを知っている翠と蒲公英は、嫌な汗をかく。
逆鱗に触れたのではと、恐る恐る桃香は声をかける。
すると、返ってきたのは至って普通の言葉だった。
「はい、なんでしょう?」
「…………。えっと、そのー、今日は良い天気だね!」
「もう夜ですが、まぁ、良い天気ではありましたね」
なんて言えばいいのかわかんないよ〜。
とは、言葉に詰まった桃香の心の叫び。
短所に次ぐ短所を次々言われて、平静を保つ関羽に戸惑いを隠せなかった。
「……孝白は気に入らないですが、奴の観察眼は正しいと思うので、甘んじて受け入れるつもりです」
「そ、そっか」
それが顔にありありと書かれていたのだろう。
自ら口を開き、説明する関羽。
本人を前に気に入らないと、彼女もまた太い人物である。
因みに、冷め切った夕食はスタッフ(一刀以外のこの場の人間)が美味しく頂きました。
陽は語る。
「この次の日、蜀臣全員を集めて押し掛けてきたことには、何本か毛細血管がはちきれたね」
と
内容がないような回。
全然進まない。
無駄に説教多い。
久々に指があんまりうごかなくて困りました。
「今回は駄作ね。時間かけた癖に」
……正直、書くのにそんなに時間はかかっていません。
半分を昨日今日で仕上げたんで。
「尚更ダメじゃない。カス」
この罵倒効くね。
馬騰だけに。
「…………」
ほんと、すんませんした。
「次は必ず日曜日に更新させるから待っててね☆」
おしまい☆