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第六十九話




ちくしょう。

午前中に間に合わんかった!





ちょっとR15要素あり。







「おー、結構出来てきたなー」


「えぇ、孝白殿。荒くれ者の奴らがなかなか働いてくれまして」


「うむ、良き哉良き哉」










Side 陽


やぁやぁ。

蒲公英と1日デートして、かなり機嫌の良い陽ちゃんが通りますよー。

ちなみに、あと1日デートできる権利は残ってるから、また近い内に行こうと思ってます。

次はどうしようかな?


と、まぁこの辺で切り上げておいてやろう。

いつでも惚気はできるからな!


話はうって変わって。

俺は今、城の近くの新地だった場所にいます。

トンテンカントンテンカンと、一定のリズムを刻むこの場所。

絶賛新築建築中なのである。

勿論、俺の、俺達の家だ。

木造一階建ての今で言えば豪邸というか屋敷というか。

二人で住むには完全に広すぎる家だ。

何故でかいのかと言えば、完全になんとなくである。

……まぁ、もう一つ理由はあるが。


現代でいう、スラムって奴か?

そんなのがこの蜀にも勿論あったりする。

地形的な問題で、生活水準が元から低いけどさ。


ま、そんな訳で、より生活水準の低いスラムっぽいとこに住んでるやんちゃな奴らにお金を稼がせてあげようと、家を造らせているのだ。

あんまりやんちゃが過ぎたから、ちょいちょいっとお話はしたけどね。

身を凍らせる思いをしたことだろう。

今聞いた限りではきちんと働いてくれているらしい。

重労働だし、案外危険な仕事だから給料は高い。

そう簡単には止めんだろうとは思ってたが、未だ全員出勤してるそうだ。


「あ、旦那! チィース!」


「ちゃっす、旦那!」


「旦那、こんちわ!」


「おー、精がでるな、お前達」


頭を下げて挨拶をしてくる奴らに手を上げて応える。

うむ、なかなか出来た人間じゃないか。

ただ、旦那はやだ。

止めてくれないからもう諦めたけど。


「すごいですな。あやつらから慕われているなんて」


「いや、ただの強者と弱者の関係なだけだろ」


隣の棟梁が驚きの声をあげる。

お話がよほど効いたか、高い金が貰えるからか。

兎も角、下が上の機嫌をとってるだけで、慕われてる訳じゃないだろう。


「いえ、皆一様に孝白殿に感謝しているのですよ? 俺達みたいなのを捨てなかった、と」


「まぁ、結果論に過ぎないんだけどな」


桃香ちゃんだって、捨て置くつもりはなかっただろうさ。

けど、金がなかった。

だから、俺がそれをやってあげた、というだけだ。

別に感謝されることはいいことだけど。


「ま、引き続き頑張ってくれ」


「はっ。了解しました」


俺と蒲公英の愛の巣ができるまであと一月ってとこか?






   ★ ★ ★






帰っても暇なので、そのまま街を巡回する俺。

戻っても、蒲公英の邪魔になりそうだからな。

じゃれたくなるし。


そんな感じでぶらぶらしていると。

トテトテと歩くちっこい紫髪の子供が一人。

いやまぁ、子供なんて結構いたりするが、寂しそうな小さい背中なのはその娘だけだから気付いたのだ。


てか、純粋に見たことがあると言っておこう。


「いくら城下だからって、一人は危ないぞ?」


「ふぇ?」


振り向いて見えた顔は、やっぱり知っていた。

幼いが顔立ちが似てなくもないし、というか、特徴的な紫の髪ですぐにわかる。


「あーっと、璃々、だったか」


「おじさん、だーれ?」


「おじさんじゃない、陽お兄さんだ。これでもまだ二十歳だからね?」


名前はチラッとしか聞いてなかったから合ってたか心配だったが、反応してくれたから大丈夫っぽい。

しかし、白髪だとそんなに老けて見えんのかねぇ……。


「えーっと、……だーれ?」


「あらら、知らんかったか。俺は陽。一刀の友達で、黄忠の同僚さ」


「ごしゅじんさまとおかーさんの?」


「あぁ。よろしくな、璃々」


「うん♪」


純粋だ、無垢だ。

ちくしょう、可愛いじゃないか!

断じてロリコンではないぞ!




「そんで、何してたんだ? 流石に一人は危ないと思うぞ」


「だって、おかーさんもごしゅじんさまもいそがしいから、璃々と遊んでくれないんだもん」


「そっかー」


「だから、お仕事のじゃましないようにお外で遊ぼうとおもったの」


「そんで、あれよあれよと街中へ、か。なる程」


歳を考えると、結構遊びたい盛りだろう。

だが、迷惑をかけたくないと我慢している。

世間的にはできた子だというかもしれないが、そんな評価は本当に馬鹿馬鹿しい。

子を考えていないにも程があるだろう。

そんな評価が欲しくて我慢してるんじゃないんだから。


「じゃ、俺と遊ぶか?」


「え、いいの?」


「おう。暇だしな」


「やったぁー♪」


見上げてくる璃々に、にこやかに首肯する。

すると、歳相応に喜びを露わにした。

可愛ゆいのー。

こんな子供欲しいねー。


バンザイしてるのが好都合だ。

腰に優しく手を当てて持ち上げて、肩に乗せる。

軽いから苦にもならんな。


「うわぁ、たかいたかーい!」


「どうだ、璃々。いつもと全然違うだろ?」


「うん♪」


俺の身長は180センチぐらいだから、璃々の視点は200センチぐらいだろうか。

とりあえず、自分で地上に立っていた時とは比べものにもならない高さだろう。

はしゃぐのは良いのだが、髪は引っ張らないで欲しい。

大した力じゃないから、そう痛くはないけども。


「ねぇねぇ、陽おじちゃん。あそこはなにやってるの?」


「お兄ちゃんな。んー、露店だな。行ってみるか?」


「うん!」


やっぱ、好奇心旺盛だね。

今日は全部付き合ってあげることにしよう。



   ★ ★ ★



「うわー、きれー!」


「ふむ。悪くないな」


「今ならお安くしておきますよ?」


にこにこと笑う露店の男。

食い入るように見る璃々が微笑ましいのだろう。


「何か、良い物あったか?」


「んーとねー……、これ!」


「ほー。お母さんに贈るんだな?」


「うん♪」


磨かれた薄い紫のネックレスを指差す璃々。

イメージカラーのまんまだからすぐにわかった。


……ってか、普通にネックレス売ってることがおかしいから。

別にいいんだけど。


金は、足りるな。

なかったら持ってくるだけなんだけどさ。


「娘さんから贈るんですから、貴方も嫁さんにどうですか?」


「三割引きなら買おう」


「流石に三割は……。二割でどうですかい?」


「……実は、嫁さん誕生日でな。他に贈り物買って、手持ちが厳しいんだ」


黄忠の誕生日なんか知らん。

そして俺の嫁は蒲公英。

つまり、完全なる嘘。


苦ーい顔をしていると、最初は難色を示していた店主だが、頬を掻いて呟いた。


「……わかりました。二つで三割引きしましょう」


「ありがとう。嫁の喜ぶ顔が目に浮かぶぜ」


蒲公英の喜ぶ顔な。

最初から目をつけていた、ハニーイエローの、幅が太めの指輪を選ぶ。

ネックレス仕様にもできる一品である。


「……? お買い上げありがとうございます」


「こっちこそ、良い買い物させて貰ったよ」


「ありがとー!」


娘と思っているだろう璃々と全く違う物を選んだことを少し訝しんでいたが、気にしない。

受け取った璃々は、はしゃぎながらもちゃんとお礼を言っていた。

躾はしっかりしてんのな。




「ねぇ、陽お兄ちゃん。これ、どうしよう?」


「そうだなぁ……」


大切そうに両手で持つネックレスを、頭の上から璃々は見せてくる。

ポケットに無造作にいれるのは俺もどうかと思うし、かと言って、ずっと持っているのも不便だ。

……俺は、ポケットから取り出してすぐに俺が付けてやるから問題ないんだが。


こういう時に、簡易的な袋が欲しいな。

いやまぁ、あるにはあるが、麻袋とかだとなんか違うだろ。


……編むか?


いや、糸っていうか毛糸はないしな。

つか、服屋あんだから布地ぐらいあるだろう。

ついでに小物入れでも作ったらいいんじゃね?


「璃々、今日はちょっと遊べないな」


「えーっ!?」


「その代わり、お母さん喜ばせるもん作ろう」


「ホント!? じゃあ璃々、がまんする!」


遊べないというとテンションがすげー下がったが、お母さんが喜ぶことだと言うと、テンション戻った。

お母さん大好きっ子だな。

とりあえず、服屋へゴー。



   ★ ★ ★



「璃々は、お裁縫やったことあるか?」


「んーん、ないよ」


「んじゃ、一緒にやりますか」


案の定、いらない布地ぐらいはあったので、一緒に糸と裁縫道具も貰ってきた。

なかったらなかったで、馬印のやつなんだから普通に奪ってきたけどな!


胡座の上に璃々を座らせ、右手にハサミ、左手に布地を持たせ、その手を俺の手で包みながら一緒に持つ。

体験するのは良いことである。


「璃々、切るぞ?」


「う、うん」


初体験というのは緊張するものだ。

慣れた手つきを見たことがあるだろうから、余計に不安なのかもしれない。

まぁ、細かく切るだけだから、気負う程のことじゃないが。


チョキチョキと刃を入れて、薄い紫、スミレ色の布地を大きさを揃えて煩雑に切っていく。


「わっ、わわっ!」


「ははっ、そう驚かなくても、ちゃんと切れてるよ」


勝手に手が動いて切っている感触が残っていることに戸惑っているのだろう。

可愛えぇのー。


「ま、こんな感じさ。後は璃々一人でやってみ?」


「うん! でも、ちゃんときれるかなー?」


「璃々なら出来るさ。難しいとこがあれば、遠慮なく言ってくれていいからな」


そんな感じで、璃々は黙々と切っていき、俺は俺で黄色の布地を切っていく。

刺繍にしてやってもよかったんだが、流石に時間がかかりすぎるからやめた。

それに、璃々の手を加わっている方が良いに決まっている。


……ところで、なんで裁縫ができるかって?

前の世で、近所のばぁさんに教えて貰ったんだよ。

ほら、剣術やること以外、基本暇だったからさー。

そんな感じで家事も全般教わったりしたな。

てか、じじいがやらんからやるしかなかったのだ。

という訳で、俺は主夫として完璧なスキルを保持している。

結構不名誉なことだがな。






「うし、完成だ」


「わぁ、すごーい♪」


「はっはっは。もっと褒め称えたまへ」


別にそんなに誇らしげにする程じゃない。

ただの巾着だからな。

でも、製作時間はたったの一刻である。

流石、俺だろう?


まぁ、うん。

ちゃんと解説してやんよ。

白地に薄い紫を花を散りばめたように縫い付けて、めしべの黄色をちょいちょいっと付けただけである。

紫苑の花ってホントはもっと白っぽいんだけど、問題ないだろう。

わざと紫の花びらの間隔を開けて、見方によっては白い部分が花びらに見えなくもない縫い方はしたし。

頭良いだろ?

おいそこ、もっと褒めろ。


「……うー」


「もしかしなくて、璃々も欲しくなったか?」


「うん」


やっぱりな。

そんな羨ましそうな顔をされたらねー。


「わかった。でも今はちょっと材料と時間がないな。だから、今度作ってやるから、今日は我慢してな?」


「ホント?」


「あぁ」


「やったぁー♪ やくそくだよ、陽お兄ちゃん」


「指切りか。懐かしいな」


満面の笑みで差し出す小指を見ると、少年時代を思いだすね。

……まぁ、どっちの世を合わせても、一刀しか友達いなかったんだけど。

なんで璃々が指切りを知ってんのかは突っ込まんぞ。

どうせ一刀が教えたんだろ。




   ★ ★ ★




「あら、璃々?」


「あ、おかーさんだ!」


「こんにちは。いや、こんばんは? まぁ、いいや。どーも、漢升殿」


あの後、適当にぶらぶらして、いい感じの時間に城に戻ってくると、ちょうど良いタイミングで年増一号こと黄漢升と出会った。

牡丹も薊さんもだが、何故そんなに老けないのか。

劣情は微塵も涌かんが、美人であることは確かだ。


「うふふ。失礼なことを考えていませんか、孝白さん?」


「いいえ、何も」


笑顔で聞いてきたので、笑顔で返す。

事実しか語ってないよ、俺は。

たとえそれが受け入れがたいものであっても、真実なのだ。

……今、いいこと言ったろ?


目が笑ってないのでそろそろ止めときますか。

璃々を肩から下ろしてやると、すぐに母親へと駆け寄った。

やっぱりお母さん大好きっ子である。


「璃々ねー、今日は陽お兄ちゃんとおそとぶらぶらしてきたんだよ!」


「璃々、勝手にお外に出てはダメと言ったでしょう?」


「えー、だってぇ……」


「お母さんの言うこと、聞けないの?」


「すいませんね、漢升殿。俺が誘ったんですよ」


忙しいし危険だから仕方ないとは思うが、子供の動きを制限するのは賛同できかねるな。

だから俺は璃々を庇う。

いつだって、俺は子供に甘いのだ。


「暇そうにしてたんで、つい。今度からは連絡しますんで、勘弁してやって下さい」


「……そう、ですか。わかりましたわ」


まぁ、嘘だとバレてるだろうさ。

明確な間があったし。

加えて、庇っていることも理解しているだろう。

静かに微笑むだけで、追求はしてこなかった。


「璃々、孝白さんにきちんとお礼はしたの?」


「あっ!」


母の言葉を聞いて、いそいそと俺の前に立つ璃々。

微笑ましいのー。


「陽お兄ちゃん、今日はありがとうございました!」


「おう。今度はちゃんと遊ぼうな」


「うん♪」


畏まってお辞儀をする璃々。

良く躾られてるもんだ。

しかし、誘いの言葉をかけると歳相応に笑ってくれた。

くそう、すげー子供が欲しくなったじゃねーか!






   ★ ★ ★






「ほっほー、このたんぽぽを差し置いて、璃々とでぇととは」


「いや、別にデートじゃないからな?」


「ふーん。じゃあ、たんぽぽとのでぇとは、璃々となんでもないお出かけに負けたんだー」


「そんなことはない! 断じて否! 蒲公英とのデートこそ至高だ!」


昨日のデートは、それはもう楽しかったさ!

一緒に服を見て回って、食べさせあいながら飯食って、露店を冷やかして、甘味食いながらまったりして、木陰で昼寝して、翠を呆れさせるぐらいにいちゃいちゃしながら夜飯食って、高ぶる劣情を鎮めながら、一緒に寝たのだ。

……最後だけはかなり苦しい思いをしたのだが、まぁそれはおいておく。

ともかく、蒲公英とのデートが一番、というか、蒲公英以外とはデートはせんよ。


「じゃあ、なんでたんぽぽとのでぇとを書かないの? このめいんひろいんを差し置いて!」


「さっきからだが、メタ発言が過ぎるぞ、蒲公英」


ムッキィー!というめちゃくちゃ悔しがった感じの顔をする蒲公英。

幻視で見えたハンカチが破れそうだ。


こういう時の蒲公英は、実は羨み寂しい気持ちだったりする。

仕事やらずに遊んでた俺が羨ましく、遊んでもらった璃々が羨ましく、一緒にいてくれなかったことが寂しいのだ。

ネタに走る蒲公英はツッコミ待ちで、構って欲しいということなのである。

全く以て可愛らしい。

甘やかしたくなるよ、ホント。


「蒲公英、ごめんな」


「も〜、お兄様ってば、しょうがないな〜♪」


「あぁ、本当にな」


蒲公英を引き寄せて、座る俺の膝上に座らせつつ、優しく抱きしめる。

あぁ、いいにほひ。

そして、いと柔らかし。


……あ、決めた。


「え、ぁ、んむっ……ちゅ、はぁっ……あむ……んふ、ちゅっ、……ぢゅるっ……んっぷ」


「……っ……」


「はっぷ、んっ……ふむっ……くちゅっ……れぅ、ぁ……ふん……ちゅぅっ……んんっ! んぐっ、ぅんっ……ぷぁっ! はぁっ、はぁ、はぁ」


「…………っ!」


……ふざけんなっ!


何してんだ俺はっ!

息をさせない?

蒲公英を苦しめた?


何を感じてんだっ!

愉悦だと?

蒲公英が苦しむ姿に?


有り得ない。

あってはならない。

あってたまるかよっ!


「どうかしたの、お兄様?」


「…………っ」


上目遣いで俺をみる無垢を思わせる表情に、心が軋む。

愛しくて堪らないのに。

……どうしようもなく、 したくなる。


今みたいに抱きしめたり、キスしたり、それ以上もしたいと思っている。

守りたいとも思っているのに。


……これも、業が深すぎる俺への罰なのかよ。


「……ごめん、蒲公英。先に寝ててくれ。ちょっと出る」


「…………わかった。おやすみ、お兄様」


「あぁ。おやすみ」


どうやら一人になりたい俺を察してくれたらしい。

今だけは、本当にうれしい。






   ★ ★ ★






「…………」


今は、現代でいう午後九時ぐらいだろうか。

こっちは朝も早ければ夜も早く、既に寝ているだろう者も多いだろう。

一刀あたりはズッコンバッコンしてるかもしれんが。


それはおいといて。

俺は今、瞑想している。

というより、ぼーっとしてるってのが正しい。

何にも考えない為なのだが、なにか考えてる時点で瞑想とは言えないだろう。


中庭に、胡座をかいて座る。

これで、結構落ち着くのだ。

ホントは正座がいいのだが、畳もなければ道場みたいに木板がしかれた場所もないからしょうがない。

石畳はさすがにいたいよ。



ずっとぼーっとしていると。


「おや、孝白ではないか。奇遇だな」


「一献どうですか、孝白さん」


「酒ですか。お付き合いさせて頂きます」


後ろから来た二人に声を掛けられた。

酒は苦手だが、誘いに乗ることにした。


今は少し、逃げよう。

ちゃんと前に進ませたい問題だから、一度立ち止まろうか。






「今日は、璃々が御迷惑をおかけしましたわ」


「だから、言いましたでしょう、俺が誘ったと。迷惑だなんて思う筈がありません」


「そう言って下さるのはありがたいですが、このような飾り物まで頂いているのですから」


中庭から東屋に移動した俺達。

そこで早速頭をさげられてしまったよ。

勿論気にしてない俺は、頭を上げてもらいたいのだが。

璃々が選び、俺が買ってあげたネックレスを申し訳なさそうに差し出されると、こっちも若干いたたまれない気持ちになる。

返してもらうなんてことは絶対に有り得ないので、感謝やら謝罪やらは受けねばならんということだからな。



「まぁ、俺も楽しかったですから構わないのですが。どうしてもというなら、俺の自棄酒に付き合ってくださいね」


「うふふ。わかりましたわ」


「儂はすっかり置いてきぼり、とな」


多分この量じゃ酔えんとは思うが。

……頭痛的な意味で酔わない方が都合も良いが。


兎も角、酒宴は始まった。






「へぇ、殺氣を知っているとは。やはり世代が違いますねー」


「お主、喧嘩売っておるだろ」


「いや、事実なんで。氣なんてのをちゃんと知ってる奴なんか、今は殆どいないですしー」


皆、普通に使ってるけどな。

でも、氣に関する知識持ってる奴なんて、今の若い武将たちにはそういない。

師が次に知識を託さなかったのか、知らなかったのか。

兎も角、氣についつは一世代前の産物であるから、それなりに歳はくってるってこと。


……まぁ、俺みたいにピチピチの二十歳で知ってるやつもいるにはいるけどな!


「にしても、やっぱり恋ちゃんと闘うべきじゃなかったですね。殺氣は知られ、未だに腕やら手やらは痛いし」


「しかしながら、ひよっこ共には良い灸を据えられたではないか。今や、誰もが一目置いておる」


「まぁ、それが狙いだったんでね」


別にナメられてたところで問題はない。

そうしてくれた方が勝ちを得やすいからな。

アホみたいに油断してくれるもの。


だが、今回みたいにいざ闘うとなったら、相手によって考えなければならん。

雑魚だったり中途半端な強さなら、レベルに合わせて勝ったり負けたりすればいい。

一定の評価は貰えるからな。

その上でナメてくれたなら重畳だ。

けど、相手が恋ちゃんクラスともなれば話が違う。

絶対に勝てないと思っているんだからな。

簡単に負ければ闘い損で、多少粘って負ければ中途半端な評価で終わる。

そこで勝ったらインパクトは絶大なものだ。


損は嫌だし、中途半端に警戒されたら意味もない。

だったら勝って、見返してやろうというのだ。


結果は一応、怪我の功名ではあった。

あったのだが、手札は全部きって重傷とかマイナスすぎる。

どれもこれも、どうにでも応用可能なジョーカーばっかだからいいんだけどさ。


「なかなか、強かですわね」


「元々軍師なもので」


「ほぉ、軍師とな」


「えぇ、難儀なものですよ、全く」


主に牡丹とか牡丹とか牡丹とか偶に翠とか稀に瑪瑙とか。

常に俺や薊さんに迷惑をかけまくる牡丹、政務で迷惑をかける翠、戦場で先走る翠と瑪瑙。

後は、不正の絶えない阿呆共の所為か。


「是非とも聞かせて貰いたいものだ」


「別に構わないですが、……想像はつくでしょう? 我が元主の牡丹、いえ、馬騰が、翠をとても悪い方向に成長した奴だと聞けば」


「「…………」」


「まぁ、それなりに楽しかったんですけどね。話は合いましたし」


答えは無言だった。

別に、翠は悪くない。

牡丹という人間が、翠とは逆のベクトルなだけである。

漢へのクーデターもどきをした牡丹と敵対しただけに、なんとなしに理解できたのだろう。


だけど、そんな奴が、俺は嫌いじゃない。

なぜならアイツは俺だから。


「ほう、蒲公英という者が居りながら、余程馬騰殿が好きと見える」


「でも、いつまで立ち止まっていても始まらないわよ?」


「いや、どういう底で話してるんです?」


彼女がいるのに未だ死人を思う男みたいやん。

それにこの年増、体験者は語るみたいな雰囲気だしてやがる。

俺、あの阿呆にそんな感情抱いてないからね?

ほら、同族を失った感じ?

悲しいし寂しいし、楽しいと思えることは減ったけど、恋心はないから。

……まぁ、可愛いとか思ったことはなくもないこともなくなくないわけないんだが。


それはおいといて。


「俺が欲しいのは蒲公英だけですよ」


「「…………」」


何故か知らんが、二人は唖然として固まった。

と、思った次の瞬間。


「はーっはっはっ! そうかそうか! なんだ、蒲公英の奴は十分愛されておるではないか!」


「うふふふっ。そうねぇ〜、私達が手を出す必要もないわ」


「蒲公英が、どうかしたんですか?」


年増二号が豪快に、年増一号がお淑やかに笑った。

なんだこの生暖かい目は。

すっげぇ腹立つ。

それに、何故蒲公英が出てくるんだ。


「なに、そう気にするな」


「それより、いつ蒲公英ちゃんと肌を重ねるの?」


「…………はぁ」


他人に指摘されるとはな。

俺も気にしてることなんで、若干テンション下がった。

まぁ、元から高くはないんだけどさ。


そうか、それで蒲公英はコイツ等と。

経験豊富だもんな。

……子龍は正直処女臭いし。

ヤってても二、三回ぐらいか。

どうでもいいが。


しかし、やっぱ待たせてるんだな。

自分が不甲斐ない。

だからといって、簡単に動く訳にもいかない問題だ。

いつの間にか止まってた盃を呷る。


「……どうするよ……」


「あらあら、そのための私達じゃない」


「そうだぞ。儂等にまかせておけ」


「いや、これはそう簡単な問題じゃないんですよ。精神的なことなんで」


俺だって、はやく一つになりたい。

蒲公英は魅力的だから、劣情に駆られたことなんて幾度となくある。

その度に、俺は本能を理性で抑えつける。


本能とは、即ち、欲。

以前、牡丹が言っていた。

俺は無意識に、愛を欲している、と。


多分、その通りなんだと思う。


山百合にしたって、瑪瑙にしたって。

アイツ等に、俺への愛があるから応えてやったに等しい。

……俺にとって蒲公英が特別なのは知っているだろうから、それは承知の上のはずだ。


勿論、蒲公英からの愛だって俺は欲しい。

貰えたら、それが、最上の喜びだと思っていた。

だが、直に愛の言葉を貰って、気付いた。

牡丹の言う通りではあるのだが、まだ満たされていないということに。


そう、俺の欲は、愛を得ることだけじゃないということだ。


……あぁ、そうさ。

認めてやるよ。

すんなり言葉に出てきたこの思い。

俺が欲しいのは、蒲公英自身なんだ。

どうしようもなく、俺のモノにしたくて堪らないんだよ。

全部欲しい。

全て奪いたい。

俺だけの蒲公英にしたい。

そんな真っ黒な思い。


飽くることのない独占欲こそが、俺の業だ。


……コイツを、どうすればいいってんた!」


「良いではないか、それに従ってしまえば」


「そうねぇ。蒲公英ちゃんなら大丈夫よ」


「それは他人事だから言える……ってか、なんでわかった」


おかしい。

まるで心を読まれたような返答だった。

牡丹じゃないんだから、読めるはずがない。


「何を言っておる。口に出していたではないか」


「どこから」


「俺が欲しいのは、ってところかしら?」


「……チッ、やっぱ酒なんて飲むんじゃなかった」


酔ったかと言えば、酔ってないはずだ。

酒が回れば、トラウマの頭痛がやってくるはずだ。

今のところ、予兆はない。

だが、口は滑っていた。


……俺も、堕ちたものだ。


「一度、本能のままに動いてみてはどうかしら?」


「紫苑の言う通りだな。雄ならば、独占欲があって当然」


「そうは言うが、……俺は蒲公英を傷つけたくないんだよ」


山百合や瑪瑙には刻みつけた癖に何を言ってるとおもうだろうが、アイツ等は俺の配下で腕だからいいんだよ。

でも、蒲公英は違う。

嫁として対等にいて欲しい。


「何とも難儀な性格をしておるな」


「私の前の旦那様は、よく唇の痕を体中に付けていましたわ。それだけでも、独占欲は満たされると思いますよ」


「それぐらいなら、傷にはならないか」


見えるか見えないかのギリギリにつけたりするのも良いかもしれない。

それに欲情してしまうのは多分俺だが。

だが、本当にそれだけで治まるか?

最初のうちはなんとかなりそうだが、いずれ物足りなさを感じてくるだろう。


「いっそ、身を任せてみては良いのではないか?」


「男として、初めては俺から貰いたい」


「うふふっ。意外と純情で硬派なのねぇ」


「悪いか」


「いいえ。本当の貴方が見れて満足ですわ」


朗らかに笑われて気付く。

いつの間にか、敬語が外れていたことに。


「あぁ、すみませんね」


「今更敬語を使っても遅いぞ。それに、必要もない」


「そうね。他人行儀みたいで嫌だもの」


「いえいえ。やはり年上は敬わなければ。それも、十g――うわ、危ねっ!」


至近距離からの矢は流石に危ないだろ。

よけたけど。

てか、その弓と矢はどこから出した。


「乙女の年齢を晒すのはいけないことよ?」


「乙女……乙女ぇ?」


「お主、本当に喧嘩売っておるだろ」


いや、どう考えても三十後半――にょわっ!


「三度目は、ありませんわ」


「へいへい、わかりましたよーだ」


「……良い性格しておるな」


いかんな。

年齢で遊ぶ癖がついてる。

……山百合は年齢のことを言うと拗ねるから、そこからデレさせようという趣向の遊びだ。

勿論、俺の腕になってからの話だぜ。


「お主は本当に面白い。故に儂の真名、桔梗を預けよう。敬語もいらん」


「桔梗が預けるのなら私も、紫苑を預けますわ。璃々共々宜しくお願いします」


「偶然とはいえ、結構晒しちまっな。俺は陽だ。気軽に呼んでくれ」


話してしまったことに若干の後悔はあるが、少し楽になった気がする。

……やはり、経験豊富な歳――うぉわ!

スレスレやった!

なんだ紫苑の歳に関する読心センサー!


「流石に恋ちゃんに勝利した実力がありますわね。次こそは外しませんわ」


「紫苑を相手に……本当に、良い性格しておるな」


笑ってねぇで助けろや桔梗!










陽は語る。


「最終手段は、「押し倒してから決めろ」だとさ。どんだけ男前だよ、桔梗ェ……」





璃々って可愛いよね。



蒲公英さんは今回ちょっと不遇。

次回は多分メインヒロイン。



大人組の酒宴。

陽君は強欲です。グリードです。最強の盾です。

あれ、あながち間違ってない?

兎も角、欲しいと思ったら全部欲しいという奴です。






「俺も、欲しいと思ったら止まらないね。命さえも欲しくなる」


それは、愛する者でも?


「勿論。寧ろ、一番欲しいだろ。何度白狼を殺したいと思ったことか」


病んでるな……。


「最初の方は、まだ俺がアイツを好きだと気付いてない時だ。薊とかと話してるとこ見てたら苦しくてな」


それで殺そうと。

恐っ!


「次は好きだって、愛しいって気付いて。でもアイツには薊がいてな。まぁ、心中だな」


本当に病んでるよ。


「最後は結ばれてすぐか。アイツが俺のになって満足しちまったんだよ」


あんた、ヤバいね。


「ま、旦那様は気付かせてくれたから、欲しいって思わなくなったわ。最後の最後まではね」


あぁ、あんたが死ぬときか。


「そ。人間、最後ぐらいわがままいいたいじゃない?」


そっすねー。


「ってか、薊も愛してるのに、最後以外命が欲しいなんておもわなかったんだろ?」




(多分、張り合う相手が"欲しかった"のでしょう)






おしまい☆




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