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第六十七話



全然進まないという。


正史改変ありです。

今更の注意ですが。




毎週更新継続中。




「全く! 何故ご主人様はあのようような奴を庇うのだ!」











Side ???


私は関羽雲長。

桃香様とご主人様の一番の臣であると自負している。

だが最近、お二方の考えがわからない。

といっても、一つだけなのだがな。


そう、最近参入してきた、馬雄孝白という男のことだ。


世を救いたいのだが、私達にはお金がない。

世知辛い話だ。

そういった方面を解消するために、頼ることとなってしまったのが、彼の馬孝白なのだ。


最初に見えた時から今に到るまで、思っていることがある。

奴は、危険だ。

この一言に尽きる。

内包する氣から、桃香様の理想を否定する考え方まで、全てが危険なのだ。

たとえ、志を同じくする翠や蒲公英の知り合いだからといって、評価を変える程私は甘くはない。


星や紫苑は長い目で見るべき、とその言葉を何度か聞いてはいるのだが。

正直、アレを桃香様やご主人様に近付けたくはない。

悪影響にしかならん人間だ。


はっきり言おう。

私は、……怖いのだ。

あの狂気にも似た、殺気。

あれは、人が壊れてしまう程のものだ。

玉座で一度、一身に受けた私が言うのだ。

間違いのない話だろう。


長く武の道に身を置く私が、あの殺気に充てられて、脚が竦んでしまった。

まさに、手も足も出なかったのだ。

常人が耐えられるとは到底思えない。


そう何度も言っているのに。

桃香様もご主人様も、大丈夫だと言って聞いてくださらない。

ご主人様に至っては、もう慣れた等と仰る。

聞いた話では、奴とご主人様は、天の国で友誼を深めた間柄だという。

あのような奴と、ご主人様が友だと?

到底理解できない。

ご主人様の友人関係にとやかく言うほど、おこがましいことを私はするつもりはない。

しかし、そうせざるを得ない程に、危険な存在に思えるのだ。


「……はぁ」


ご主人様も桃香様も、あれで頑固だ。

どうあっても聞き及んではくれないだろう。

それを誰に言ったところで改善の兆しもないこともわかっている。

いざという時には、私が盾になれば良い話でもある。

だが、……腑に溜まっていく一方だ。


「そんな溜め息を吐いて。どうしたんだ、愛紗」


「ごっ、ご主人様!?」


心が跳ねる思いだ。

噂をすればなんとやらとは言うが、心臓に悪い。

まさか、ご主人様に気取られず後ろから近付かれるとは思いもしなかった。


しかし、ご主人様。

どうした、という話ではないではありません!

ご主人様に関係のある話なのですから!


「あはは……。やっぱり陽のことか?」


「えぇ、そうです。どうすれば私の話を聞いてくださるかな、と思案していました」


「そんなに悪い奴じゃないんだけどな……」


眉を寄せて、困ったように笑うご主人様。

私だって、本来ならば、表情を歪ませてしまうようなことなどしたくはない。

だが奴は、それほど有り余る存在だと思っている。


「そうだ、愛紗。陽が、恋と闘ってくれるんだ!」


「…………え?」


「前に言ってただろ? 武を見れば多少は人が知れるってさ」


……確かに、言った気がする。

しかし、それは相対する二人がわかることであって、見るだけではなんとも……。

それに相手はあの。

あの……?


「……お待ち下さい、ご主人様。奴と闘うのは誰だと?」


「恋だよ恋。なんか、最初から乗り気だったよ」


「………………」


結局のところ、奴の実力など測れはしないではないですかっ!

苦々しい話だが、恋を相手にするには鈴々と星がいても有り余る強さだ。

奴など、一撃もって良い方だろう。


「言いたいことはなんとなくわかるけど。とりあえず明日やるから、そう皆にも言っておいてくれないか?」


「それは……構いませんが」


ご主人様の頼みとあらば仕方がない。

どうせそう大した時間も食わないだろう。






そう楽観視していた私を思い切り殴ってやりたくなるなど、この時点では露にも思っていなかった。






   ★ ★ ★






Side 陽


「マジだりぃ。ドタキャンしようかな」


「もう、シャキッとしてよお兄様! 男に二言はない、って気概を持とうよ!」


「無理だよ。蒲公英成分が満ちに満ち足り過ぎてる」


自慢じゃないが、幸せを感じていると弱くなります。

陽です。


いやー、だってさー。

闘うより、イチャイチャしてたいじゃん?

そう思うのは普通のはずだ。

それに、闘う理由が弱い。

デートなんて何時でもできると気付いたし、一番になるのは悪くないと思ったが、そんなに強く思った訳ではないので正直めんどくさい。

しかも、相手は恋ちゃん。

ガチ萎えだよ、全く。


「じゃあ、たんぽぽに触れるの禁止にしちゃおっかな〜」


「なな、なんだとぉっ!!」


「だってたんぽぽ、約束守らない人なんて嫌いだもーん」


いや、うん、待つんだ。

落ち着けって。

蒲公英に触れないとか俺2日で死ねるわ。

2ヶ月ちょい離れてた反動で、こんな体質になっている。

しかも、嫌いだと?

あかん、蒲公英に嫌われるとか半日で死ねる。


どうする……どうする、俺!


「今、本気で闘うと表明するなら、たんぽぽの包容とちゅーがもれなく付いてくる! これはお買い得!」


「買った! 俺はやるぞ!」


「先着一名様! 只今を以て応募は終了とさせて頂きます」


どこぞかのCMでよくあるような宣伝フレーズを、真面目くさって言う蒲公英。

こんなにおいしい特典――むしろメインディッシュ――はないだろう!

食いつく俺。

これでは販売人の思う壺なんだろうが、知ったことではない!

一礼をして最後までやり通した蒲公英は、顔を俺に向けて破顔する。

かわえぇなぁ……。


「お兄様、ちょっと屈んで」


「おう、こうか」


「うん! んー、ちゅっ」


「ちゅっ、ん、……ん?」


言う通りに膝に手をついて屈むと、蒲公英は俺の首に腕を回して、唇を重ねてきた。

存分に堪能しようかと思ったのだが、出来ずに離されてしまった。


「舌はダーメ。闘いが終わるまで、お・あ・ず・け・♪」


「そんな……詐欺だっ!」


「くーりんぐおふは、受け付けておりません♪」


「ちくしょう、騙された! 訴えてやる!」


今ならどの通販だって適応されるのにっ!

別にクーリングオフしたい訳じゃないのだ。

ちゅーのレベルがおかしいのがいけないのだ。

くそう、法廷で全面戦争だ。


「お兄様」


「どうした蒲公英。今になって怖じ気づいたか!」


「もし勝ったら、……たんぽぽを好きにして、いいよ?」


「〜〜〜〜っ! ……あぁ」


ちゅーの後に離れた距離がいつの間にかなくなり。

腰に腕を回して、上目遣いで囁くように言う蒲公英。

その行為が堪らず、そっぽを向いてしまう俺。

理性が飛びそうになったわ。


「じゃ、いこっか」


「……あぁ、そうだな」


俺から少し離れ、蒲公英は俺の手を取る。

繋がる手、絡まる指は、細く小さく柔らかく、そして温かい。


闘いは、一度これら全てを破棄しなけりゃならんから嫌いなんだよな。






   ★ ★ ★






「待たせたな」


「待ちわびたよ」


「逃げずに来たことを褒めてやろう」


「それ、俺、じゃなくて恋が言うセリフだろ」


まぁ、それはどうでもいいだろうが。


しかし、ギャラリー多いな。

主要人物達が揃いも揃って、暇なことだ。

あんまり見せたくないんだが、仕方ないだろう。

そろそろ実力を見せるべきでもあるのも確かだ。


しかし、そうそうに負ける気はないが、勝てる気はしないな。

だからといって、勝率を上げない訳にもいくまい。


俺は、俺の為に勝つ気でいるからな。



「そういえば一刀、ルールはどうなった?」


「あ、こっちで大体は決めちゃったけど。別に変更してもいいぞ」


「そうか。先ずは、どんなのかを教えてくれ」


「わかった」


聞いてもあんまり意味なさそうだけどな。






「お前、死ぬ気かよ」


「そんな訳ないだろ。真っ当なハンデをしてもらったつもりだぞ」


「ハンデでもなんでもないだろ、これは……」


聞けば基本的な仕合のルールだったが、それでは俺が圧倒的に不利だ。

俺は仕合に弱いのだから。


そこで俺が指定したのは五つ。


死合であること。

真剣――つまりは本物の得物――を使うこと。

誰が見ても、次の拍子で殺せると判断されるまでは、俺が参ったと言うまで続けること(続行不能はもちろん負け)。

全力でやること。

本気の一撃を一度俺に受けさせること。


一つ目と二つ目は同義だから、四つとも言えるがな。

これでは俺がハンデを貰ってるとは見えないらしい。

結構貰ったつもりなんだけど。


「いいんだな、これで」


「恋ちゃんがいいならな」


「恋はなんでもいいって言ってたし。……本当にいいな?」


「あぁ」


くどいな。

勝率は十倍ぐらいになったんだからいいだろ。

まぁ、1から10に、だけど。






「アレでは死ににゆくものだぞ、蒲公英」


「うぅん。そうでもないよ、星お姉さま。お兄様は意味のないことなんてしないもん」


「ほぉ、そうか。どう立ち回るのか見ものだな」


「(頑張ってね、お兄様)」






「翠、ばゆーのお兄ちゃんはどうなのだ? 強いのか? 弱いのかー?」


「(鈴々の直感が利かないだと……?)」


「あー、正直言いたくないんだけどさ。あたしが勝ってるには勝ってんだけど、……殆ど引き分けみたいなもんだよ」


「なに? 翠ほどの者が、辛勝だと?」


「そう言ってくれるなよ、愛紗。アイツの守りが堅すぎるのが悪いんだ!」


「翠は単純なのだ」


「お前が言うな!」






「一発だな。あのような男相手ではそれで十分すぎる」


「焔耶よ。人のことを言える立場でもなかろう」


「うっ……いっ、一発ならばワタシは耐えられます!」


「どんぐりの背比べじゃな」


「うふふ、でも私は一発では終わらないと思うわ」


「確かに、最初の一撃で終わってしまっては何の面白みもないわ」






「なんだか心配になってきたなぁ……」


「確かに恋ちゃん相手だもんねー。陽さん、大丈夫かな?」


「いや、恋の方が心配だよ」


「はわわっ! れ、恋さんが、ですか!?」


「あわわ、恋さんが負けるなんて……」


「いや、心配なのは勝ち負けの問題じゃないよ」






「いくらアイツでも、恋には勝てないわよ」


「陽さんも恋さんも無事だと良いのですが……」


「死んでも死なないわよ、特にアイツはね」


「おいおい詠、それはないだろう」


「……アンタ、いつからいたの?」


「最初からだよっ! ……うぅ、ここでもこんな扱い……」


「げ、元気出して下さい白蓮さん」




   ★ ★ ★




「じゃ、先ずは全力で頼む」


「ん、わかった」


俺本来の得物は刀だが、鍛えられたので槍も扱えるのは知ってるよな?

という訳で、俺専用の槍というやつもある。

免許皆伝の証のようなもので貰ったのだ。

殆ど使わないけどな。


何故そんな話をするかと言えば、今持って構えてるのがそれだから。

闇に閃くと書いて、闇閃。

かなり軽く、よくしなる槍だ。

竹で出来てるからな。

そのせいで重心がかなり刃の方に偏っているが、それがそれで俺には使いやすい。


さぁ、こいやぁー。


「……ふっ!」


恋ちゃんは、肩に自分の戟を担ぐのが自然体だ。

そこから力を解放するように、(恋ちゃんから見て)右上から左下へ一気に袈裟斬りを放つ。

恐ろしい速度である。

穂先見えんかったし。


まぁ、くることはわかってたので、受ける。

むしろ受ける為にこの一撃はある。

……だが、それは完全に間違いだった。


「んなアホな……!?」


ガキンッ!

と、文字で表すと安っぽく、そして口では形容し難い音が鳴り響く。

とんでもない威力だ。

腕もげるわ!


そうなる前に俺の槍―闇閃―を手放す。

しなりにしなって、闇閃自体も折れそうだったからな。


しかしながら、力の方向は変えることができた。

闇閃が、クルクルと回りながら、上へと飛んでゆく。

たーまやー。


「「「なっ……!?」」」


誰かは知らんが、驚きの声を上げる。

まぁ、驚くのも無理はないさ。

恋ちゃんは上から下への攻撃だったのに、闇閃は上に跳ね上がっているのだから。


そうこうしてる内に、闇閃は落ちてくる。

そしてそれは、上手いこと蒲公英の前の地面に刺さった。

流石俺、完璧だ。


「蒲公英、持っててくれ」


「流石お兄様。りょーかい!」


『…………』


どうやら、蒲公英以外言葉も出ないらしいな。

偶々でも狙ってやったとしても、驚き以外の何物でもないらしい。


さて、手の多少の痺れも取れたことだし。

いつぞやに買い取った、唯一の太刀を抜く。

……明命のは多分違うと思う。

少なくとも、ホントの日本刀ではないはず。

わからんけど。


兎も角、右手で少し素振りをする。

やっぱりちょうどいい重さだ。

西洋剣って、重いんだよねー。

何かがまだ違う気がするが、そうは言ってられんよ。


「さて、やりますか」


「(コクコク)」


そういう仕草をされると、調子狂うなー。


重りにも近いロングコートを脱ぎ捨てる。

別にどこぞかの世界みたく、地が陥没する程の重さではないんだぞ?

多少、砂埃が舞う程度だぞ?


そして、忘れ去られていないか心配な眼帯も外す。

視界は最悪だ。

長いこと覆われてたし、もとから焦点も合ってない。

そこで、無理矢理合わせていくことから始める。


目に入れるのは、恋ちゃんだ。

恋ちゃんは敵だ。


敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ敵だ


『…………ッ!?』


いかん。

周りに漏れている。

抑えろ、腹に収めろ。

まだ、早い。


敵は、殺す。

完膚なきまでに、殺す。

ただただ、殺す。


殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す


それだけを考える。

それだけに集中する。

視界をクリアに。

耳を澄ませ。

足の先から頭の上まで、全身の隅々まで、神経を巡らせろ。

イメージは刀だ。

切っ先まで、意識を向けろ。

太刀は、俺だ。

俺の腕の延長だ。

万物斬れる太刀の如く。

研げ研げ研ぎ澄ませ。


腑に貯まった殺意を殺氣を、恋ちゃんへ、恋へ、殺すべき対象へ解き放つ。


「…………ッッ!?!?」


「…………」


……思わず、構えたな。

肩にあった戟を、油断なく切っ先を俺に向けている。

悪意、殺意、気配への敏感さが飛び抜けているのは本当らしいな。


合わせて、俺も構える。

右の真半身になり、太刀の切っ先は下へ向ける。

基本的に俺も後の先、カウンタータイプなのだ。




さて、始めようか。







Side ???


「今のはやっぱり……」


「うむ、間違えるはずもない。……殺氣じゃ」


殺氣。

殺気とは似て非になるもの。

私と桔梗は、これを食らわされたことがあります。

放ったのは、翠ちゃんの母親にして、三傑の一角を担う、馬寿成その人ですわ。



彼女が異民族の方々の為自分の為に起こし、潼関の戦いでの孫文台さんとの一騎打ちで幕を閉じた、一連の大反乱。

その中で、一度だけ劉焉様が率いる軍と一触即発の状態になったことがありましたの。

漢中付近での出来事です。


当時、まだまだ若かった――勿論今も、うふふっ――私達は、そこへ同行しておりました。

後に知ったことでしたが、劉焉様には野心がお有りだったようで、被害を被りたくない為、威嚇程度に留めて手は出さないつもりだったそうな。

それ故、まだ新兵に近い私達も経験を積ませるべく、同行させられていましたの。


しかしながら、やはり実戦で鍛え上げられた涼州兵と、軍事訓練しかしたことのない私達では、練度に明確な差がありましたわ。

それこそ目が人より少し良く、ここ十年で集まった兵の中で一番、二番を誇る弓の使い手でした私と桔梗の自信さえも崩せてしまう程に。

それに、当時の私達の上司に状況判断能力が長けた人物は居りませんでした。

差を理解出来ていなかった指揮官は、近付いてきた涼州兵に矢を射掛ける、という恐ろしい暴挙を命じたのです。

従うしかない私達は、当然涼州兵へと射ました。


……ですが。

全て、当たりませんでしたわ。

射る間隔も疎らで、涼州兵に恐れを抱き手は震え、殆どが新兵で構成された私達では、当てることすら出来なかったのです。


このままでは百発百中を誇った儂等の名折れだ、と言って桔梗は自らに言い聞かせると共に励ましてくれました。

ここで終わる訳にはいかない、と私も奮起して、桔梗と共に、先頭で悠然と馬に跨がる赤髪の方へと射ました。

その方こそが総大将、馬寿成さんとは知らずに。


結果を言いますと、いとも簡単に取られました。

手に持った槍で払うでもなく、防ぐでもなく、掴み取られたのです。

私の矢は、人差し指と中指の間に、桔梗の矢は、中指と薬指の間にありましたわ。

……口元を緩め、此方を見て愉快そうに笑みを浮かべる様に、格が違うと深く思い知らされました。


その後の記憶は曖昧なのよね。

馬寿成さんと目が合ってから、身体中にナニカを刺されたような感覚がして、そこからがわかりませんの。

それは、桔梗も同様だと言います。


それこそが殺氣だと、私と桔梗はその道の方に教えて頂きました。

氣を殺すと書いて、殺氣。

私達の身体中にあるあらゆる氣を殺し、戦意を根刮ぎ奪う技だと言います。

未熟でした私達は、氣は全て殺され、気を失ってしまったようでした。



そして、数十年の時を経て。

先日、その苦い記憶が掘り起こされました。

それは、馬孝白と名乗る方と桃香様の、玉座での問答の時のこと。


桃香様へ歩み寄る彼を、誰も止められなかったあの時。

私と桔梗は、全身に刃を向けられた感覚を味わっていました。

多分ですが、あの場にい方々の全員が、同じように答えるでしょう。

一度体験した今ならばわかります。

アレが、殺氣であったと。



そして、今それが恋ちゃんだけに向けられていることを。



いくら武才に恵まれていたとしても、アレを真に受けて立っていられる恋ちゃんはつくづく規格外だと思いますが。

私は、放っている方、馬孝白という殿方の方が気になります。

彼を見ていると、あの愉快そうに笑う赤髪の女傑の面影が見えてしまうのです。

何故でしょうか。

一度、盃でも交わしてみるのも良いかもしれませんね。


さらに気になるのは、彼の未だに未知数の実力でしょう。

あの恋ちゃんの本気の一撃を、槍は手放したものの、一歩の後退もせず捌いたあの技量。

生半可なものではありません。



……私は、心で期待してしまっているのでしょう。

彼女の面影を見たときから、ずっと。

私が一定の威力以上を捨てて、機動性と精密性を磨き、桔梗が機動性を捨てて、威力と連射速度を求めたのは、絶対的強者の彼女を倒す為のもの。

今の私達の力が在るのは、尊敬と憧れを抱いた彼女という越えるべき目標が存在していたからなのよ。


だからこそ、私は期待してしまっているの。

彼女と同じ殺氣を持ち、面影の見える彼が、また私達に壁を見せ付けてくれるのではないか、と。

愛紗ちゃんを引き止めようとしていたのも、それが理由なのかもしれないわ。

いつか武を見せてくれることを期待して。




うふふっ、楽しませてもらうわね、馬孝白さん。











陽は語る。


「まさかの繰り越しだと!?」




口調がわからん!

特に紫苑。


しかも、持ち越しとは。

長くなりそうだったのでしょうがないのです。



殺気と殺氣の違い。


殺気は発するもので、殺氣は放つものです。

氣と同じく、使えるのが殺気で、扱えるのが殺氣、ということです。






「あ、あの時の二矢かー。取るべくして取ったっていうより、無意識に取ってたのよ」


え、なにその制〇圏みたいな自動防御。


「意味合いが全然違うわ。だって、その範囲に入ってたのに私は槍を動かせなかったのよ?」


……えっと、つまり?


「『ほう、私に左手を使わせるとは』って感じ?」


例えがわかりにくいわ!


「残心してた紫色の長髪と白っぽい短髪を見て、大したもんだなーって思って威嚇したら、倒れちゃった。てへぺろ♪」


大人気ねーな。

しかも大の大人がてへぺろとかやめれ。






おしまい☆




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