第六十三話
普通に一週間過ぎてるけど、晒してみる。
注意。
アンチっぽいのを含みます。
苦手な方はご注意を。
「なぁ、蒲公英」
「ん、なぁに?」
「俺が天の御遣いっぽい奴だ、って言ったら驚く?」
やぁ、皆。
未だに蒲公英と抱き合う陽ですよー。
仕方ないんだよ。
なかなか離してくれな……離したくないんだよ。
どうしようもなく温かくてさ。
勿論、体制は変えてるぞ!
ずっと乗りっぱなしとかアカンやろ。
互いに横になって、今は蒲公英が俺の胸に顔をうずめている。
俺の匂いが欲しいらしい。
んで、そんな蒲公英の頭の後ろを撫でてやっているのだ。
……久しぶりのこの柔らかい癖っ毛が堪らないぜ!
「うー……ん、流石にちょっとは、ね」
「そっか」
最初の問いに、蒲公英はこちらを見上げて答える。
そりゃそうだろうさ。
俺だって驚くわ。
けど、蒲公英は笑顔でこうも言った。
「でも、お兄様はお兄様だよ。たんぽぽが好きなのは、お兄様だからね?」
「…………あぁ」
愛しい。
この、にへっと笑う笑顔がすげぇ好きだ。
絞めすぎにならないように注意しつつ、もう少しだけ力を込めて、蒲公英を抱き寄せる。
「蒲公英」
「ん?」
「また、キスしていい?」
「うん。いっぱいしよ♪」
さっきみたいに、奪うような、貪るようなキスじゃなく。
優しく、求め合うように、唇を重ねた。
★ ★ ★
「うし、充電完了。ありがとな、蒲公英」
「うぅん。たんぽぽもお兄様成分満タンに出来たからいいよ」
「そうか。じゃ、おあいこってことで」
「うん♪」
あー、もう、可愛い。
ちょっと頬を赤くして笑う蒲公英が、可愛いくてしょうがない。
もう一度、抱き締めたい衝動に駆られたが、何か思い出したような表情をした蒲公英を見たので断念した。
「……あ、そうだ。お兄様が起きたらご主人様呼ばないと」
「まぁ、いきなり倒れたs……ちょっ、ちょっと待て。待つんだ、蒲公英。落ち着け、落ち着くんだ」
「まずはお兄様が落ち着いた方がいいよ?」
「あ、うん。だな」
冷静を保て。
クールだ。
KOOL……いや、COOLだったな。
とにかく、問題点を思い返せ。
誰が起きたら、誰が誰を呼ぶと、蒲公英は言った?
起きるのは、勿論倒れた俺だ。
呼ぶのは、看病してくれていた蒲公英だ。
呼ばれるのは、大方、一刀で間違いないだろう。
そう、それはいいんだ。
だけど、さ。
蒲公英、今、ご主人様、って言わなかったか?
あれ、ご主人様?
うん、ダレダロー?
「た、蒲公英? ご主人様って……?」
「あれ、お兄様なら知ってるでしょ? 天の御遣い様が、ご主人様って呼ばれてるの」
…………デスヨネー。
しかし、ご主人様はないと思うんだ。
呼ばせているのもアレで、凄くドン引きなんだけど。
蒲公英が呼ぶのはどうなの?
出来るだけ、蒲公英の自由は阻害したくはないさ。
だけど、俺は、未来のご主人様やで?
いや、まだ確実じゃないけど。
かと言って、蒲公英と夫婦になることは、俺にとって予定調和の世界だ。
しかも、なんか『お兄様』より『ご主人様』の方がレベルが高くて、なんか一刀の方が上に思えるのが、とてつもなく癪だ。
でも、呼び方は蒲公英の自由だし。
「くぉおぉぉー……! 俺はどうすれば……っ!」
「……? じゃあ、ご主人様、呼んでくるからね?」
頭を抱えた俺を尻目に、蒲公英は出て行ってしまった。
ノォオォォー!
カムバァーック蒲公英ゥ!
★ ★ ★
「……で、そんなやさぐれてるのか」
「あー……、お前、死んだらいいよ」
「めっちゃ久しぶりなのに辛辣っ!」
今は、このツッコミさえうぜぇんだよ。
「黙ってろこのくされヤリチン野郎が。鬼畜チ〇コぶち込んで鳴かせてろ全身精液男。蒲公英にその精液にまみれた手で触ってみろ。その瞬間斬殺な」
「酷い毒舌だ……。これで懐かしさを覚える俺って、なんだろう」
「ゴミ?」
「いい加減怒るぞ!」
あー、少しスッキリした。
やっぱり、弄る対象がいるってイイネ!
俺の対面に座るのは北郷一刀。
精神的にも肉体的にも、俺のサンドバック(笑)だった奴である。
「今、すごい不本意な紹介された気がする」
「するだけ無駄だな。気のせいだから」
「それは俺が決めることだからねっ!?」
知ったことかよ。
「もういいよ……。てか、お前もこっちにいたんだな。ビックリしたよ」
「俺も驚きだって。確か、俺って死んだんだよな。腹上死で」
「ちっげぇーよ! お前、彼女いなかっただろうっ!」
「セフレはいたぜ☆」
「平然と嘘を吐くな人見知り」
全部冗談ですけど何か?
友達と呼べるのは、目の前のコイツ一人しかいませんでしたけど何か?
あと親しかったのは爺共ばっかだったし。
だが、人見知りではなく、人と壁を、距離を作るのが人一倍得意だっただけである。
勘違いするんじゃないぞぅ?
「んで、結局原因なによ?」
「人対トレーラーの事故だ」
「エグいなー……。即死乙」
「自分のことなのに、随分軽いんだな……」
あ、思い出した。
にゃん公追っかけたガキんちょを、ぶっ飛ばした気がする。
と言っても、もう終わったことだしな。
今更気にすることじゃない。
「ガキんちょと猫は?」
「あぁ。男の子は擦り傷で済んだよ。猫は抱えられてたから無事だった」
「そうか。ならいい」
「よくねぇよ!」
一刀が、俺の寝転んでる寝台に両手を叩き付ける。
……今のは痛いぞ?
「爺ちゃん、いつも言ってただろ! もっと自分を大切にしろって! 自分に頓着しなさ過ぎるって!」
「……まぁ、しょうがないじゃん。未来あるガキと好いてやまない猫たんの為だし」
「それでもっ! 残される身になれよっ! どれだけ! どれだけ俺が、……爺ちゃんが、じいさんばあさん達が悲しんだか知ってんのかよっ!?」
「…………」
胸倉掴まれぐわんぐわんされる俺。
いたいよー。
生かしてくれたじじいに感謝してるし、孝行出来なかった後悔もある。
じいさんばあさんにも世話になった。
一刀にも、救われた。
だけどな。
「ありがとう。そんで、すまん。でも、俺は俺の意志で命を使った。そのことに、絶対に後悔はしねぇ」
「っ!?」
「それが、俺だ」
「…………わかった」
そう言うと、一刀は手を放す。
あー、苦しかったー。
だけど。
自分の命は自分で責任を持つ。
それが、俺にとって当たり前のことだ。
命を賭けるところも捨てるところも、自分で決める。
命だけは、本当に自分のモノだからな。
「もし帰れるんだったら、謝りに行けよな」
「帰ったらホラー、ってか、卒倒もんだろーが。もう長くねーのに、殺してやる気かよ。鬼畜だなお前」
「あ、死んでるんだったな。こうして会話してると嘘みたいだから、忘れてた」
「酷い! 酷いわ、一刀さん! 私のことを一瞬でも忘れるなんて!」
「どんなキャラだよ! 気持ち悪いわ!」
迫真の演技さに俺自身も引いたわ。
この才能が憎いぜ……。
「それでさ、本当にお前が……名士、だったりするの?」
「うん? んー……、名士なのか? ただ、商会の代表取締で金持ちなだけなんだが」
確かに、牡丹や翠は、光武帝劉秀配下、馬援の子孫だったりするが。
本流というか、本当に漢の中央に認められた馬家は、むしろ蒲公英の方にあったりもする。
簡単に説明すると、だ。
牡丹の母親の馬平は、馬援の血を引く馬家という名家出身だ。
その馬家は、勿論、中央にも進出してたが、元々与えられた領地が西だったこともあり、馬平は適当な役職に就いていた。
ちょうど腐蝕が露呈し始めた桓帝辺りの時代だったから名ばかりの役職も多く、それを好都合に思って度々街に出ていたらしい。
……馬家の一人"娘"だったから、という理由が大いにあり、高官にされなかったのだが。
『だって、暇なんだもん』
と、人に会う度にそう言っては仕事を手伝う姫、馬平。
仕える人間には手を焼かせ、街の人々は手を叩いて歓迎した。
転機は、そんな姫と、くすんだ赤髪の青年との出会いだ。
青年は色恋を知らなかった箱入り娘を女に変え、姫は血に抗いながら固執する元羌王を男に変えた。
その間に産まれたのが馬騰、牡丹な訳だ。
だが、馬家の人間からすれば、名も血統も知れぬ――知る気もなかったらしいが――青年に、一人娘を渡す訳にはいかず。
馬平が本当に幸せになれる道を青年に仄めかし、青年と牡丹、馬平を引き離した。
……年から考えると、牡丹はまだ五つ程だったようだ。
そして、馬平は中央の然るべき名家の相手を婿に取り、蒲公英の母親、馬均を産んだ。
という訳で。
名家同士の婚姻から産まれた馬均が馬家の正統血統で、牡丹は分家扱いという訳だ。
……まぁ、馬家の頭領は牡丹で、名家と言われた馬家は既にないんだがな。
ここがややこしいところなんだよな。
「おーい、もういいか?」
「あん? あー、うん。悪い」
「……その、人と話をしてる時に考え込む癖、治ってないんだな」
「仕方ねぇだろ。だから癖なんだろーが」
一応、治さねーといかんとは思ってはいるんだけどさ。
「……まぁ、あれだ。半分不正解で、半分正解ってとこだな。名士? じゃねぇが、お前らが欲しいモンは持ってるぜ」
「っ! 本当か!」
「だからさっき言ったろ、金持ちだって」
どちらにしても、俺は養子だから、名家だの何だのは関係ないがな。
にしても、俺みたいな知り合いが相手だからって、そんなに信じられないかよ。
……それはいいとして。
「但し、だ。俺の興味が惹かれなきゃ、いくら一刀が君主やってようが、協力する気はねぇから。履き違えるなよ」
ま、当然の警告だろ?
★ ★ ★
「いやー、失敬失敬。私、少しあがり症でして。天の御遣い殿の高貴さに当てられてしまいましたよ」
胡散臭い笑みを浮かべて、言ってみる。
別に、その行為に意味はない。
なんか言いたそうな一刀だが、口出しすんなと言っておいたので黙っている。
「あの、……大丈夫ですか?」
「えぇ、お陰様で。ありがとうございました」
「いっ、いえ! とんでもないです!」
……うむ、なんか気持ち悪い。
多分、違和感かな?
まぁ、分け隔てなく、と言っても、実際そんなことが出来る訳がねぇからな。
そんなこと出来るのは、肝の太ぇ曹操とか孫策とか、その辺だろうな。
あとは、阿呆ぐらいか。
それはいいとして。
「玄徳殿、そう固くならずとも良いのですよ? 私の方が下の者なのですから」
「上とか下とか、そんなこと関係ありません!」
「では、対等ということで。敬語は止めて下さいね」
「ぇ、でも……」
「私は、貴女が知りたい。故に、何時も通りにして欲しいのです」
仮にも王を名乗る者が、上下関係を否定するのはどうかと思うぜ?
つか、チョロいな。
外交がなっとらんし。
まぁ、周りが黙っていることについては褒めてやろうか。
「わかりまs……うぅん、わかった」
少しは帝王学、学べよな。
別にいいけどさ。
「では、玄徳殿。つかぬ事をお聞きしますが、……貴女は何の為に戦うのですか?」
「うん、えっとね――」
本当に、聞いた通りの人間だなおい。
話すのがすっげぇ馬鹿馬鹿しくなってくる。
さて、と。
……切開を、始めようか。
★ ★ ★
Side 三人称
「成る程、皆が笑って暮らせる世、ですか。素晴らしい理想をお持ちですねぇ」
そう言って、深く笑う陽。
「(うわ、お兄様……)」「「(陽の奴……)」」
「「「(滅茶苦茶怒ってる)」」」
そんな彼を、良く知った三人が引きつった顔で見つめる。
深い笑みだが、全く目が笑っていないことに気付いていたようだ。
「そんな貴女に申し上げたいことが幾つかありますが、まずは二つ。……何故軍を拡張しているのですか? 版図を広げるのですか?」
「……えっ?」
ニヤリ、と。
陽は口角だけを上げて笑む。
相変わらず、目線は真っ直ぐ劉備に注がれている。
まるで、刺すような鋭さだ。
「おかしいですよねぇ。……皆が笑って、平和に暮らせれば良いのでしょう? ならば、何故徴兵をするのです?」
「ぇ、あっ、その」
「別に、その行為自体は否定しているわけではありませんよ。興味本位で聞いているのです」
「それは、平和を守る為に……。でも、私たちの力だけじゃ足りなくて……」
力が無いことが本当にもどかしいようで、その歯痒さに俯いてしまう劉備。
そんな彼女を、陽は未だに鋭い笑みで見つめている。
「そう言って、彼ら彼女らの平和を奪うと」
「違います! そんなんじゃ!」
「まぁ確かに、今のところは、任意での形をとっているようですので。彼ら彼女らの選択にとやかく言うのは止めましょう」
劉備の剣幕も意に介すことなく、陽は話を続ける。
「私の目には侵す為の徴兵にしか見えないのですが、それも勘違いであるとします。では、何から守りますか?」
「それは――」
「後方の憂い、すなわち南蛮だと仰るならば、笑って差し上げましょう」
無駄に警戒してしまえば、例え敵と噂される者でも、未だ不確定要素である彼らを煽ることに他ならない。
守る為のものが、自ら争いの種を蒔いている、ということになるのである。
「あぁ、ちなみに攻め滅ぼすため、とは仰られなくてよかったですよ。……呼吸困難で死亡など、不様過ぎて母に顔向け出来ませんのでね」
「貴様……! 先程から聞いていれば……、桃香様に向かってなんという口をっ!」
「愛紗ちゃん!」
「桃香様は下がっていてください! あのような輩は私が叩っきってやりますっ!」
嘲るように陽が言うと、いよいよ我慢出来なくなった関羽。
諫めるように声を上げる劉備を黙らせ、武器を取って前に出ようとする。
が、関羽は動くことが出来なかった。
まるで、そこに縫い付けられたように。
「関雲長殿、黙って貰おうか。……私は、対等たる玄徳殿と話しているのです。臣下ごときの貴殿が口を出すのはどうかと思いますよ」
「くっ! (何故だ! 何故、動かない……!)」
棘を含んだ言葉と冷たい目線、加えて殺気をを送る陽。
たったそれだけで、関羽は動くことが出来なくなっていたのである。
そんな自分に戸惑いを隠せないでいた。
……論理としては詭弁以外の何物でもないが、関羽が黙らせられたことで、誰も口出し出来なくなっていた。
「話がこじれてしまいましたが、良いでしょう。さて、次ですが」
うって変わって、にこやか笑いかけながら、劉備の方に向き直る陽。
完全に薄ら寒い笑みである。
「何故国を興したのです? わざわざ敵対するかの如く蜀という国を建てずとも、この地を大陸の半分を統べる曹操殿に譲渡すれば良いのではないですか。さすれば呉もまもなく降伏し、表立った戦争はなくなる。……万々歳じゃないですか」
統治権が欲しければ交渉次第でなんとでもなりますしね。
と、陽は相変わらずイヤミったらしい言い方で、そう続ける。
「……たった一人を頂点として平和を実現しても、その人に何かあれば、その平和は簡単に崩れてしまう」
「ふむ」
「曹操さんが一番強くて、それに、民の事をきちんと考えてくれるいい人だって知ってるよ。だけど……」
「曹魏王に大事があれば、容易に崩れる、と。成る程」
初めて納得したような表情の陽を見て、少しほっとする劉備。
今までねちっこいというか、いやらしい対応をされていたので仕方ないのかもしれない。
「それを、何を以てして訴えるのかは知りませんが。では、最後です。……皆とは誰ですか? 貴殿の仰る皆、とは、どの範囲を言うのでしょうか?」
「範囲なんて! そんなのないよっ!」
「本当にですか? 羌、テイ、南蛮の対策をしているのに?」
「――――っ!!」
範囲がないのならば、彼女の理想には異民族さえも入っているはずである。
にも関わらず、異民族"から"守ろうとするのはおかしなことだろう。
「結局、どうなのです? 蜀全体でしょうか、大陸全体でしょうか、はたまた漢民族とでも仰るのでしょうか?」
その矛盾を抉るように、陽は楔を打ち込んでいく。
口は恐ろしく歪んでいた。
「ちなみに、もし漢民族、という範囲で仰るならば、この場に居る者で、馬孟起殿と呂奉先殿は含まれていないことになりますがねぇ」
「…………?」
「……あたしをダシにするなよな」
目を細めて、翠と恋を見つめる陽。
そこに悪い感情はなく、むしろ好意的なモノを含んでいた。
翠は、母親の牡丹が羌と漢のハーフなのでクォーターであり、恋に至っては、全身に走る匈奴のある部族特有の刺青がそれを表している。
……彼女らと同じように、異民族の血が入っている陽だからこそ、そのような感情を抱いているのだろう。
対する恋は、どうやら理解しておらず――と言うより、知らないのだろう――、翠は名前出しされたことに少し嫌そうな顔をしていた。
「騙したようで申し訳ありませんが、かく言う私も混血なのですよね。守る対象にもない私などどうでもいいでしょうけど」
「そっ、そんなことはっ!」
「はぁ。……もう、十分です」
陽は頭を何時か横に振り、深く息を吐く。
まるで、呆れたような、そんな仕草である。
「底が浅い。考えが見え見え過ぎて、話になりませんね」
「……それは、どういう?」
「そのままの意味ですよ。貴女という人物を測るに、こうも時間がかからないとは思わなかった、ということです」
だからこそ、呆れだ。
考えが簡単に読み切れてしまうことが、陽にとってつまらないのだ。
「貴女には、何もかも力が足りなさすぎる。理想は馬鹿げてる程大きいが、それに見合う力がない。武力も知力も統率力も、軍事力も発言力も説得力も。全てが足りない」
「――っ!?」
「お前、言い過ぎだ! 会ったばっかのお前に、桃香の何が分かる!」
「黙れ一刀。まだ発言は許してねぇ」
いかにも邪魔をするな、といった表情で、声を張り上げた一刀を睨む陽。
今は、口調が変わっていることに本人が気付かないぐらい、キレているのである。
「いや、言わせてもらう――「うるせぇぞ、一刀」――っ!」
「御輿の上で座ってるだけの餓鬼が、……調子に乗るなよ」
たったの一割。
陽が、それだけの殺気を向けるだけで、一刀は押し黙った。
……因みに、関羽に向けた時は三割だ。
「言っておくが、一刀。お前の方がタチが悪い。どうせ、女の子を助けたいだの、ちゃっちいフェミニストぶりを発揮したんだろ?」
「……わ、悪いかよ」
「別に。知ったことじゃねぇさ。だが、そんな小さいことに付き合わされる兵が可哀想なだけだ」
「……っ! お前っ!」
「それに、お前も足りねぇよ、覚悟が。借り物の理想のまんまじゃねぇか」
「――――っっ!!」
核心を突く陽の言葉に、一刀は思わず目を剥く。
それぐらい、図星だったのだろう。
「どうせ、夢見る小娘の理想が綺麗だったから、美しかったから、助けてあげたいだとか考えたんだろーが。甘いし、温いんだよ阿呆」
「…………」
全く以てその通りで、一刀は言い返せなかった。
劉備の理想に賛同した、というより、憧れの方が大きかった。
自分の力も、そのために使って欲しいと、何時までもその理想に身を捧げるだけだった。
結局、それは借りモノだったということだ。
「で、劉玄徳。お前は罪人だ。俺達人殺しよりもタチの悪い、な。叶いもしない理想で人を誑かす大罪人だ」
「……っ……」
ついていた膝を上げ、土を適当に払い落としながら、陽は立ち上がる。
俺みたいなのが言えたものではない。
と、自重気味に笑いながら。
その一挙手一投足が全員の目に映るが、誰も動かない、動けない。
……敢えて動かない人物も、数人居るが。
「本当に、皆が笑顔になれると思うか? 愉悦の形は人それぞれであるのに。家族を友を恋人を失った者達が、本当の笑顔を見せてくれると思うか?」
コツン、コツンと、陽の靴底がその音を鳴らす。
陽以外の誰もが動かず、誰もが口を開かない為に、妙に響き渡る。
「自身の大切なモノを壊した奴の手を取れ、と。お前が言っている理想は、そういうことだ」
劉備の前まで歩くと、陽は懐に右手を入れ、ゆっくりとあるものを取り出す。
そのまま、それを劉備の首もとへと向ける。
よく手入れされたそれは、とても鋭利に、光で煌めいていた。
「力を否定するお前の理想は、矛盾と穴だらけの、夢物語に過ぎないんだよ」
「…………それでもっ」
蜀王に刃が突きつけられて尚、動かない、動けない臣下達。
しかしながら、直接突きつけられた劉備が口を開いたことに、少しの関心と驚きを覚える陽。
……皆に、一様に殺気を振り撒いているはずであるから、それを劉備ははねのけた、ということだ。
「それでも私は、諦めません。この理想を貫いてみせます!」
「はー。……バカは死んでも治らない、とは言ったものだ」
劉備の意思の強い目と言葉に、短く息を吐く陽。
自分でも馬鹿らしくなったのだろう。
向けていた小刀の切っ先を引き戻し、逆手に持ち替えてから、横向きに両手のひらに置く。
そして、陽はもう一度片膝をついて、頭を下げた。
「……その姿、見届けましょう。この馬孝白と、我が商会馬印は、貴女に協力することを誓います」
「……え? えぇ?」
「だから。端的に言えば、お前に興味を持った。だから手を差し伸べてやろうと言っている」
「ホントですか!?」
「……現金な奴だなおい。ま、金のことは、ある程度なんとかしてやる。それで良いなら受け取りな」
何度目か分からない溜め息を吐き、また立ち上がって小刀を手渡す陽。
大切そうに受け取る劉備。
「だが俺は、そいつ、抜き身の刃と同じだ。いつでも喉元に突きつけられる。いつでもお前を殺せる。お前が鞘になることは、永劫にない。覚悟しておけ」
「うん。私、頑張るよ」
「……シリアスさに温度差を感じるんだがな」
強さを感じさせる目だが、気の抜けたような言葉と共に、劉備は小刀を差し出す。
眉間に皺を寄せて、思い悩むように呟きながら、陽はそれを受け取った。
自身の得物を渡すことは、自分の武をその相手に捧げること。
受け取られなければ、それは拒絶を示す。
受け取った相手がそれを返すことは、容認を意味する。
つまり、従臣の契約だ。
しかし、陽の本当の得物は刀――流石に、玉座へ入る時に預けさせられた――であり、渡したのは小刀である為、少し違った意味になる。
言うなれば、仮契約、といったところだろうか。
「俺の真名は陽だ。一応、預けておく。優遇接待よろしくな」
「えぇっ!? それは無理ですよぉ〜。あ、私は桃香です」
……どっちが上か分からない、なんとも微妙な仮契約である。
陽は語る。
「俺は、牡丹以外の臣になる気はねぇぜ?」
と
これは決闘ではなく誅罰……じゃない、厳罰ものだっ!
普通だったら、極刑も避けられないほどの不敬罪だろJK
そう言いたいのもよくわかるんだ。
だが、これは二次創作だ。
ご都合主義が満載だ。
だから大丈夫だ(´・ω・)b
まぁ、桃香相手だったから出来たんですけどね。
なんか、不完全燃焼だー。
「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ~、ってやつ?」
微妙に合ってるような間違っているような……。
「じゃあ、もう少し虐めたかった?」
割と正解かもしれない。
「この鬼畜! 悪魔! 人でなし!」
ノリでモノをいうなし。
おしまい☆