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第六十二話



最後の毎週更新……になる気がする。




展開が早いが気にしない。




「盆地の野郎……。糞暑いじゃねぇか、益州さんよぉ」









Side 陽


揚州とかとは違って、純粋な暑さじゃなく、水気が足りない。

盆地のせいで、水捌けがよすぎるのだ。

そのため、乾燥して暑いのだ。


つか、遠かった。

建業から成都、かなり距離あったな。

一月ぐらいかかったわ。

といっても、隴西から建業までは一月半から二月かかってたんだがな。


まぁ、こんな辺境とも言える田舎臭ぇとこに、遠路はるばるやってきた理由はと言えば。

偏に、約束を守る為だ。

誰とかって?


……蒲公英とに決まってんじゃねぇか。



   ★ ★ ★



「まだまだだね」


何がといえば、街並みとか盛況具合とかだ。

見た感じ、ようやく軌道に乗ったってとこか。

劉備、御遣い君体制での統治はまだ一月ぐらいしか経ってないらしいからな。

仕方ないちゃあ仕方ないだろうが。


しかし、蜀という国を建国したのはどうかと思う。

敵も、劉表が寿命で死に、ほぼ北と東の大国のみとなったが為、焦る気は分からんこともないが。

俺に言わせれば、馬鹿馬鹿しい限りだ。


ま、そんなこと、かなりどうでもいいんだけどな。


だってさ、やっと愛しい愛しい蒲公英に会えるんだぜ?

自分で追い詰めるというか、距離をおいといてなんなんだけど流石に、二月半ぐらいでこんなになるとは思わんかったぜ。

どれだけ渇望したことか。

もうね、俺の全てが、蒲公英を求めているんだよ。

どうしようもなく、今は蒲公英が欲しい。

欲しくてはしょうがない。



本当に、気が狂いそうになる。



「あー……、いかんいかん」


今は、かなり危ないな、俺。


切り替えろ。

城は、すぐそこだろ。

久しぶりの、仕事モードに戻るんだ。






   ★ ★ ★






と、まぁ、気合いを入れて臨んだのだが。




「お初お目にかかります。私は、姓は馬、名は雄、字は孝白、と申します。……先ずは劉備様、蜀王就任おめでとございま…………は?」


「うん? どうかした……って、ご主人様まで固まってる!」


正直、玉座に入ってからずっと蒲公英を横目で見てたのが悪かった。

……いや、決して蒲公英は悪い訳がなく、俺が悪いが。


まぁ、ともかく、そのまま真ん中まで歩んで、左の拳を右手で包み、片膝ついて深く礼をとりながら、形式的な世辞を並べ、顔を上げた……のだが。


視線の先に二人いるだろうことは勿論予想していた。

顔合わせもしていない為、知らん顔が例に漏れず二つあるはずだったんだが。



一人だけ、何故だか滅茶苦茶知っているはずの顔だった。



「……ぇ? なんでお前ここに……? 夢……、じゃないよな?」


「(一体、どういう? 何故、バ一刀が。……バ一刀?) ……北郷、一刀……?」


小さく名前を確認するように紡ぐと、最後のピース嵌まった感覚がした。

すると、途端に、今まで頭の中の記憶の、霧がかったり、薄れてうむやむになっていたものが、今はっきりと浮かび上がってきた。


北郷一刀。

戸籍上は、俺の甥で。

傍目からは、俺と兄弟で。

ホントの関係は、俺のただ一人で無二の親友。


鈍器で思い切り殴られたような感覚がして、頭と激痛の走る左目を押さえる。

湧き上がってくる情報量が多すぎて、混乱してるんだろう。


語るのは至って冷静にしているが、とてつもなく心臓がバクバクしていたりする。

ここにくるまで走ってきたが、こんなになるのは初めてだ。

その為、息が十分に出来ていない。

乱れまくりもいいところだ。


そうか。

これが、そうなのか。


「……これが、恋、なのか」


「いや、違うだろ!」


鋭いツッコミだ。

懐かしい感じがする。

思わず、笑ってしまった。

やっぱり、コイツのツッコミはこうでなくちゃ、ってさ。


あぁ、もう無理だわ。

流石に膨大過ぎて、頭がパンクしたらしい。

意識が遠退いていく。


そんな中で、最後の力を振り絞った。


「あぁ、〇心が欲しい……」


多分"二回"の人生で、一番頑張ったと思うぜ……。






   ★ ★ ★






Side 三人称


遡ること半刻……。



蜀国中枢は、何時になく慌てていた。

といっても、政治のトップが「はわわ」と「あわわ」なので、いつものことだろうと、そんなに混乱はしていなかったが。

兎も角、知の二大トップの諸葛亮と鳳統、そして二人から話を聞いた蜀王の劉備、蜀の象徴とも言える天の御遣いこと北郷一刀は、それはもう慌てふためいていた。


何故なら、一国をも動かしかねない財力を持った名士が訪ねてこようというのだから。


その情報が入ったのは、この時からまた半刻、つまり、陽が玉座に赴いた時から一刻前ということ。

それも、相当に突然である。

……この名士とやらの勝手に振り回された形、という訳だ。


この場合、確実に名士の方が悪いのだが。

未だ、国というにはギリギリ体裁が保てているかどうかの彼女達には、一国をも"動かせてしまう"財力を持つこの名士に頼りたくなるのも無理はなく。

つまり、気に入られて、支援をしてもらえるよう、早く体裁を整えたいと焦っているのだ。


「はわわっ!」


「あわわ……」


「どどど、どうしようご主人様っ!?」


「さっ、三人とも、落ち着けって! とりあえず、皆を集めよう!」


「そっ、そうだねっ!」



という訳で。

四人はそれぞれに別れ、文武の中枢を呼び集めることにした。





   ★ ★ ★





「そんな訳で、もう直ぐらしいから。皆、くれぐれも頼むよ」


「よろしくね!」


玉座に集まった皆に聞こえるように声を張る一刀。

蜀の命運がかかっているとも言える今回のこと。

素直な者、渋々な者といたが、兎も角全員が従った。



「劉備様、参られました」


「うん。じゃあ、お通ししてくれる?」


「はっ!」




そして、名士は現れ。


玉座にいる三人を驚愕させた。


(……お兄様……!)


(……陽っ!?)


その名士が入ってからずっと目が合っており、それに喜ぶ蒲公英。

形は変わったものの、纏う雰囲気が変わらない事に気付き、頭の中で名を呼ぶ翠。

それに応えるように、しかし周りに悟られないように目配せをする名士こと、陽。

その後、片膝をついて頭を垂れる。


そして、一番信じられないといった様子で目を剥き、固まってしまっていた一刀。

他人の空似とは言えないレベルで、彼の元居た世界で親友だった者に似ていたのだ。

しかも、元の世界でも、もう会えない関係だっただけに、相当に衝撃的だったようだ。


「お初お目にかかります。私は、姓は馬、名は雄、字は孝白、と申します。……先ずは劉備様、蜀王就任おめでとございま…………は?」


「うん? どうかした……って、ご主人様まで固まってる!」


言葉が途中で途切れたことを不思議に思った劉備が陽の視線を追うと、そこには未だ固まっている一刀が居り、驚きの声を上げる。

当の本人は、陽の声を聞き、目を合わせて確信を持ち、また戸惑いを隠せないでいたのである。


「(……嘘……だろ……?) ……ぇ? なんでお前ここに……? 夢……、じゃないよな?」


「……北郷、一刀……?」


そう、陽が名前を口にすると、突然やってきた頭が割れてしまいそうに思える程の痛みに、堪らず頭と左目を押さえる。

声こそ漏らさないものの、かなりの痛みだというのが、仕草と息遣いで周りの人にもわかってしまう。


そして、余った手で胸を押さえ、確信した顔をして、陽は呟く。


「……これが、恋、なのか」


「いや、違うだろ!」


たとえ鈍感種馬野郎であろうと、それぐらいは否定できる知能を持ち合わせていたらしい。

しかし、自分でも驚く程間髪なくツッコミを入れたことに困惑したものの、違和感がまるでないことに気付く一刀。

それを疑問に思いながら、もう一度目を向ける。

するとそこには、二度と見られないだろうと諦めていた笑顔があった。



そこからは、早かった。


徐々に前のめりに倒れていく陽を受け止めようと、一刀は走り。


「あぁ、〇心が欲しい……」


小さいが、確かに聞こえたそのセリフに、思わずずっこけたのだった。

……確かに、動悸、息切れ、気付けには、求〇が最適である。






   ★ ★ ★







そんなこんなで、謁見中に倒れるという騒動を起こした陽。

そんな彼は今――


「すー……すー……ん……」


「お兄様……」


――暢気にも、蒲公英に見舞われながら眠っていた。

知り合いだと言ったら、簡単に許可が出たらしい。


陽は、自分でも気付いているが、結構人見知りをする。

別に、他人と話せない程のものではないにしろ、かなり精神を使うのだ。

ここ一番の図太さは尋常ではないが、周りの空気や視線などに敏感な繊細さも持ち合わせている。

故に、西涼からここに来るまでに、かなりの疲労を溜めてしまっていたのである。

……後々これを聞けば、まだまだ未熟だな、と自分を戒めることだろう。


という訳で、眠っている最中でも空気に敏感な陽が暢気に寝られるのは、偏に蒲公英のお蔭、ということだ。

アニマルセラピーならぬ、蒲公英セラピーである。


ただ、それは陽側からのアプローチであって、蒲公英としては、本当に気が気ではない。

好きな人が、目の前で倒れたのだから仕方のないことである。


蒲公英は、未だ起きる気配のない陽の手を、両手で包むように握る。

大きく男らしいが、スラッと伸びる指が爪先まで綺麗な手が、なんだか懐かしく。

この手で、早く撫でて欲しいと願う。


本当は会わなかったこの二月半、あんなことやこんなことをしたいと、ずっとずっと考えていた。

抱擁も、口付けも、そしてその先も。

心から愛しているから。

でも今は、撫でてくれるだけで、起きて笑顔を見せてくれるだけで。

たったそれだけで嬉しいのだ。



片手は手首に、もう一方は陽の手の甲に合わせ、手の平を蒲公英自身の頬に沿わせる。

しなやかな手の感触を味わうと共に、たんぽぽはここにいるよ、と、体温から伝える。


「……ん……」


「……えへへ♪」


すると、僅かながらに陽の頬が緩む。

そのことに気付いた蒲公英は、たったそれだけだが、どうしようもなく嬉しかった。



   ★ ★ ★



どうも無言で居続けることは性に合わないタチらしく、邪魔にならないような声量で世間話を始めた。


「……それにしても、いきなりだからびっくりしちゃったよ。しかも、髪型も格好も違うんだもん」


似合ってない訳じゃないからいいんだけど。

と、心で続ける蒲公英。


「結構、バッサリいったよね? ……ホントは、たんぽぽに相談してからにして欲しかったなー」


……どうやら蒲公英は、そういった細かな所まで話題にしたい、というなんとも現代チックなカップルを望んでいるようだ。

こんな時代で、なんとも女の子らしいことこの上ない。


手首を掴んでいた手を離し、陽の髪へと持っていく。

短めの髪は重力に逆らうように立っているが、相変わらずの柔らかい毛質に、初めて撫でた時を、蒲公英は思い出す。

同時に、初めて積極的に迫った時のことを。


「(ホントすごいドキドキしてて、……逃げちゃっただけなんだよね)」


あの時は翠が来て、なし崩しのような結末に終わったのだが。

蒲公英の心は、性への好奇心が一割、恐怖が三割、そしてドキドキが残り全部、という割合だった。

素っ気なく、しかし、最後に挑発するかのように投げかけた言葉は、照れ隠しのようなものだったのである。


好奇心は、歳が歳だから仕方がない。

恐怖は、迫ることによって、陽に鬱陶しがられたり、嫌われたりしないか、ということに対するもの。

ドキドキは、好きな人とこうやって、えっちなことがしたい、ずっと一緒にいたい、という気持ちだ。


知識はあっても、実際に自分で直面すると、急に恥ずかしくなったりするのは当然であろう。



「……お兄様は、ずるいよ」


たんぽぽの心を鷲掴みにしてるんだもん。

と、少し頬を赤くして、心の中で呟く。

こうして一緒にいるだけで、ドキドキさせるのだから。


「……誰が、ずるいって?」


「……ぁ、お兄様……」


そんな時、不意に目を開け、自身の頭を撫でる蒲公英の腕を取る陽。

いきなりのことに驚く蒲公英だったが、向けられた笑みに、喜びが勝り、眼を潤ませる。


すると、グイッと、強く腕を引かれ、頬にあった手は後頭部に回されて――


「ん……、はふ……ちゅ……くちゅっ……ぢゅっ!」


――激しい口付けが始まった。


漏れる音と絡み合う赤が、辺りに淫靡な空間を作る。


「ぢゅるっ……んっ……はっぷ……ふっ、ぁむ……れぅ……は……ぁ」


口に舌を入れて、蒲公英から滴る唾液を味わうように、陽はキスをする。


しかし、それでは満足出来ないらしく、陽は蒲公英を身体ごと抱き寄せて、ぐるりと回る。

蒲公英が床に仰向けに、陽はその蒲公英に覆い被さって、また唇を合わせる。


「ん……くぷっ……ちゅぷ、んふっ! んくっ……ふぅん! はっ、ぁ……っ! ちゅっ、ちゅっ、ん……はぁ、はぁっ」


舌を延ばし、蒲公英の口内を侵し。

自分の唾液を流し込み、蹂躙した。


そして、ゆっくり、惜しむように唇を離す。

互いの口には、綺麗な孤が浮かんでいた。




「はぁ、はぁ……ん、ふぅ」


蒲公英は、幸せだった。

自分の好きな人が、こんなにも激しく、自分を望んでくれた、求めてくれたことが。


ただ、笑いかけてくれた顔がいつもの笑顔とは違っていて、少しだけ怖かった。


「お兄様」


だからこそ、蒲公英は陽を呼んだ。






Side 陽


潤んだ瞳。

上気した頬。

艶やかに光る唇。

乱れた吐息。

火照った身体。


……その全てが、蒲公英の全てが、欲しい。


欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。


全部欲しい。

俺のモノにしたい。




……蒲公英を、  たい。




と、画面黒く塗り潰されそうな感覚を覚え、ハッ、とする。


……俺は、今、何を?


目の前には、魅力的な姿の蒲公英。

じゃあ、蒲公英の前にいるのは誰だ?


…………俺だ。


蒲公英の瞳に映るのは、眼に狂気をたぎらせ、歪んだ笑み浮かべる、俺。


さっき、俺は、何を考えた?

蒲公英を、どうしたい、と?


一体、何を考えた!!






「お兄様」


そうやって、ぐるぐると考えていると。

ふと、下から声がかかる。

言うまでもなく、蒲公英だ。

……しまった、重かったか?


「大丈夫。たんぽぽは大丈夫だから、ね?」


そう言って、蒲公英は笑顔で両腕を大きく広げてくれた。


そんな蒲公英に、俺は申し訳なく思う。

こんなにも欲しいと、独占欲を掻き立てられたのは、本当に初めてだった。

だけど、俺が待たせていたというのに、勝手に狂気に溺れて。

結局、こうやって助けてもらっていることが情けなくて。


その反面、俺がお預けを食らっていたかのような気分で、いじらしくて。

純粋に俺を待ってくれていて。

……すごく嬉しい。


すげぇ勝手だと思う。

だが、事実だ。


崩れていた理性が、段々と修復されていくのがわかる。

俺が、戻ってきた。


だから俺は、蒲公英の胸に飛び込んだ。

いや、勿論速度はゆっくりだけどな。






ただいま。

そして、愛してるぜ、蒲公英。








陽は語る。


「くっ、俺の中の狂気が疼くぜっ! ……と、ちょっと厨二発言してみる俺ってどう――「プギャーw テラワロスww」――はい、バ一刀テメェぶっ殺すーっ!」




蒲公英ーっ!好きだーっ!結婚してくれーっ!



てな訳で、メインヒロインの再登場。

いいねぇ。

やっとラブラブがかけるよ。

……まぁ、書いてるとき、作者はハンカチ噛みしめて、

「キィーーーッ!」

って、やってると思いますが。






「長かったわね」


ですね。


「伏線(笑)も回収したわね」


笑うなよっ!


「でも、メインヒロインは私」


それはないです。


「……チッ! まぁ、さっさと続き書いとけや」


そうします。




おしまい☆





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