第六十話
時間的に、ちょっと遅れた。
すげぇ難産だった為です。
割にクォリティー(笑)になってます。
「……俺に死ぬなって言った癖に、テメーが死んでるたぁ、どういうこった、クソおやじ」
Side 三人称
遡ること一月。
陽は一人、小さな墓の前に佇んでいた。
その目は憎々しげで、その奥には怒りと悲しみが窺える。
傍目からみると、ぶっ壊してしまいそうな様子にも見える。
「まだまだガキだった俺が、どんな思いでテメーを待ってたか、知らねぇだろーが」
陽とその義父との約束。
義父から陽には"死ぬな"で、陽から義父には"迎えに来て"だ。
別れるときに交わした、小さな約束だった。
「俺は、……僕は、ずっとずっと、待ってたんだぞ」
もう、十年も前の話だ。
陽とその義父が住んでいた町が、偶々、鮮卑の者たちに襲われた。
正義漢ではなく、しかもヘタレの義父だったが、人より何倍も強く、それに街の人に世話になっている身だったので、彼は立ち上がった。
現役時代は、とある人物の右腕と呼ばれた身。
その実力は折り紙付きで、鮮卑の騎馬隊を、何度も無手で抑えていた。
歳は未だ三十を超えた程度であり、現役時代に劣らない動きだった。
しかし、そんな彼も、何十回とやってくる猛攻には流石に堪えきれないと悟り。
街の皆に、逃げるように指示した。
そして、それは陽にも。
愛情に飢えていた陽は、彼と離れることは当然受け入れられなかった。
そこで約束したのだ。
『必ず迎えにいくから、絶対死ぬなよ。ほら、指切り』
小指を繋いで、そう交わしたのだった。
「……針千本飲む前に死にやがって」
墓の前に膝を抱えて座り、陽は自身が作った限りなく日本酒に近い酒を、墓の上からかける。
その目は笑っているが、少し寂しそうだった。
そんな折に、寂れた風が陽の頬を撫でる。
今の自分を示すようで、気持ちが悪かった。
ふと、墓の側を見ると、その風に揺れる一輪の蒲公英の花。
「本当に、蒲公英は」
いつも癒やしてくれる。
と、心で呟き、笑みを浮かべ、立ち上がった。
「じゃあ、またな、おやじ」
そう言ってから墓に背を向け、走り出した。
☆ ☆ ☆
Side 陽
「冀州幽州に寄り道した俺も悪いのかもしれない。だが、いい加減イラッときたぞ、おい」
またもや、何故いる曹操軍。
いや、理由は幽州に入った辺りで噂は聞いてた。
んで、結果は今知ったんだけどさ。
「うぜぇ。マジうぜぇ」
本当になんなん?
ストーカーですか?
タイミング悪すぎだろーが。
このタイミングで来た自分もそりゃ悪いさ。
だが、言わせろ。
まずは甘ちゃん共。
もっと持ち堪えろや!
つか、抵抗しろや!
そんで曹操軍。
甘ちゃん共追い出したなら、ちゃっちゃと事務終わらせろ。
州牧決めて早く帰れよ。
何時まで徐州に駐屯してんだよ、阿呆。
本拠地取れる勢力がないからって油断し過ぎだろ。
「あー、イライラする」
圧倒的に、蒲公英成分が足りなさすぎる。
だからこそ、凄い冷えてくる。
狂気が溢れそうになる。
別に、蒲公英じゃなくても心を温めてくれる奴らは存在する。
ガキんちょと動物だ。
といっても、これらは癒やしでしかない。
和らげてくれるだけで、決してマイナスからプラスまで引き上げてくれる訳じゃないのだ。
難儀なもんだぜ。
そんな訳で、俺は絶賛イラつき中なのである。
些細なことでもブチ切れられるぐらいなのである。
キレたナイフなのである。
ジャックナイフなのである。
(意味不明である)
もう一度言う。
些細なことでもブチ切れられるぐらい――
「んだとゴルァ! おいクソ店主! 出て来いや!」
――あー、うざ。
カウンター席みたいなとこに座ってる俺は、自然と店主と目が合ってしまう。
おー、何をビクビクしてんだ、店主ちゃんよー。
「(行っても宜しいですか?)」
「(さっさと行けよ、ドカス)」
「(はっはいぃ〜!)」
因みに。
ここは、馬印商会が経営してますよー。
「私が店主です。えー、どういったご用件で御座いましょうか?」
「どうしたもこうしたもねぇ! クソ不味いラーメン食わされて、髪の毛まで入れられちゃあ、黙っちゃおけねぇだろ!」
「アニキの言うとおりだぜ! ふざけた料理提供しやがって」
「そ、そうなんだな」
「(うわ、馬白様の前で言っちゃったよー。)そう言われましても。当店のラーメンは他のお客様方には評価して頂いておりますので、お客様のお口に合わなかっただけかと」
全部食っといて、何を言ってんだか、あのリーダー格。
大体、我が馬印商会の商品に、不味いもんはねぇよ。
試食とか改良とか、俺が携わってるんだぜ?
にしても、会ったような気がする顔だな。
殺した奴に似てるだけだと思うけど。
「そして、当店では髪の毛が混入しないよう、このように頭巾を被らさせて頂いております故、私共の髪の毛ではないかと」
「まっ、万が一ってこともあるだろ!」
「確かに、そうですね」
少し狼狽えたな。
ちゃんと見てなかったのが運の尽きだ。
「だったら!」
「ですが、やはり有り得ません。このように性根の曲がったような髪質の店員は、うちにはおりませんので」
丼の底の髪の毛を指して、店主が言うと、三人を除く店内の全員が笑った。
不覚にも、俺もだ。
あまりにもすげぇいい性格してるからな。
そうすると。
ガッシャーン、という大きな音が鳴る。
静まり返る店内。
……あの野郎、店の机、壊しやがったな。
商会の物は俺の物。
つまり、あの机も俺の物だぞ。
「上等だぁ! 表に出やがれクソ野郎が!!」
「嫌です」
空気が凍った。
元々部隊長クラスの兵だったからな。
脅しには屈しないさ。
「……益々気に入らねぇ! ぶっ殺してやる」
「嫌ですよー」
リーダー格が、自身のであろう剣を突きつけた。
対する店主は降参、といった様子で両手を上げる。
……明らかふざけてるだろ。
よし、ここは俺がいこう。
店主の実力を測らせる訳にはいかんし。
決してイライラをぶつける為じゃない。
決してイライラをぶつける為じゃないからな。
「おい、オッサン。店の迷惑だ。出てけよ」
「なんだこの野ろ――っ! くそっ、放せ! 放しやがれ!」
「テメェ、アニキを放せ!」
「は、放すんだな」
アニキ(?)の剣を持つ方の手首を握ってやる。
そんな痛いか?
りんご余裕で潰せる握力"しか"ないんだけど。
瑪瑙なら、たぶん頭蓋いけるぐらいだし。
「く、そったれぇーっ! ハァ! ハァ!」
「おー、やるー」
めちゃ頑張って振り解いたな。
なーんて、嘘だけど。
別に、掴み続けることもできたけど、意図的に放してあげたのさ。
「お、俺に喧嘩を売るとは、良い度胸じゃねぇか! 表に出やがれ!」
「良いよ」
そう言って三人組は外へ。
俺は元居た席へ。
『(いや、ついてけよ!)』
と、店の客全員からそんな目線を受けるが、気にしなーい。
だって、めんどいやん?
面白いし。
別に、暴力だけが、イライラを発散させる為のものじゃないのだ。
「いや……、流石に出なくても大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だ、問題ない」
「テメェ、表出ろって言っただろうが!」
「全然大丈夫じゃないではないですか……」
答えさせかたがわりーからだろーが。
フラグ立てさせたらお前が完全に悪い。
「やっかましいんだよテメェ等はよぉ」
「あべしっ」
チビはネリチャギで。
「店の中でギャーギャー騒ぐんじゃねぇよ」
「ふんげぇ」
デカいのにはチッキ。
「黙って食えやドカス。調子にのんなよ戯けがあぁぁぁあ!」
「ひでぶっ――いてっ! いててて!! わっ悪かった! 悪かったからっ!!」
アニキ(?)には、踵落としで俯せにしてからの、顎を両手で引っ張り上げる海老反りだ。
動作が大きく無駄でしかないが、その分スカッとするのだ。
「悪かったで済んだら、警s――警備隊はいらねぇんだよおぉぉぉお!!!」
「ぎぃやあぁぁぁーーあ!!」
警備隊に所属してない俺が言うのもどうかと思うがな。
Side 三人称
「あー、スッキリしたー!」
「(……流石は馬白様。)酷過ぎる」
「じゃあなにか? 溜まりに溜まってたイライラ、お前にぶつけたら良かったのか? 食い逃げ未遂犯逃がしても良かったのか、あぁ?」
「……いえ、迷惑な客を追い出していただき、感謝します」
代表して、店主がそうとは言うものの。
先まで店内にいた者で、野次馬のように出てきた人間は皆――店主を含め――、ジト目だった。
それは仕方ないことだろう。
ストレス発散だと、自ら公言しているのだから。
「あ、そろそろやばいかなー」
「何が、でしょうか?」
嘗て陽の部下だった為、理由は分かっている店主だが、一応、質問することにした。
対する陽は、首をコキコキと何度か鳴らし、ニヤリと笑う。
「三十六計だな。逃げよう」
「それは、どういう?」
「警備隊への説明よろしくっ」
左の人差し指と中指を立てて無駄にキメ顔をし、走って立ち去る陽。
どうやら事情聴取みたいなことで捕まりたくないらしい。
面倒くさいという気持ちは大いにあるのだが、見つかるのは得策ではない、という方が大きかった。
その辺り、ちゃんと考えられるぐらいには優秀な男である。
……逃げられた方は堪ったものではないが。
★ ★ ★
「走る走るー俺ーたーちー。流れーる汗をそのまーまーにー」
「ぶるっ」
走りながら、かなりノリノリで歌を歌う陽。
その横を走る黒兎。
洩らした鳴き声には、随分余裕だな、と呆れが含まれていた。
それも仕方ないといえる。
これからまだ、自らの足のみで五十キロは走ろうと言うのだから。
実は、陽は西涼を出てから此処に至るまで、ずっと自分の足のみで走っていた。
理由はひとえに、体力作りの為である。
元々この為だけに、翠や蒲公英と別で逃げることを考えていたぐらいだ。
……かなりとてもすごく迷った挙げ句、断腸の思いで選択をしたらしいが。
そうまでして走る理由。
それは、強くなる為だ。
陽は、強い。
実はかつて西涼にいた誰よりも、と言っても過言ではない程に、である。
確かに、戦歴は正直言ってかなり負け越している。
が、その分、蒲公英以外とそんなに闘っておらず。
さらには、本気であって全力ではなかったのである。
前に、山百合が闘うことを極力避けようとしたように、陽もまた、全力を出すことを憚っていたのだ。
加えて、本気を出すには、少し厄介なことになりかねない為に止めていた、という理由もあるが。
しかしながら、負け越していたとは言うものの。
一度として、圧倒的に負けた、という闘いはなかった。
むしろ、皆が皆、陽の鉄壁とも言える防御をほとんど崩せなかったのである。
陽がそれでも負けていたのは、体力の問題だった。
無論、常人よりは優れている。
百メートル全力疾走を十本やったところで、息が乱れることがないぐらいの心肺機能を持っている。
だが、体力勝負では相手が悪すぎた。
牡丹や山百合、瑪瑙も翠も、二十三十じゃ、まだ余裕なのだ。
蒲公英は二十ぐらいで少し肩が動くぐらいだろうか。
兎も角、純粋な心肺で勝負している陽には分が悪いのだ。
……氣で強化された女性陣と少しでも張り合える、"殺氣"しか持たない陽の方がおかしいのだが。
そんな訳で、体力作りである。
更なる心肺強化を図ろうと言うのだ。
なかなかのストイックさである。
走る理由は理解出来ただろう。
だが、その先の、強くなってからの目的はなんなのだろうか。
それは――
「走れー走れーマ〇バオー、ほんめーあなうまかき分けてー」
「……ぶるっ」
――このバカは、本当に考えているのだろうか。
★ ★ ★
一方で。
西涼を出てから、ずっと消息が絶たれていた翠と蒲公英、そして五千の兵たちはと言えば。
「う〜、お腹減った〜」
「うるさいぞ、蒲公英」
「……翠お姉さまー?」
「うぅ、悪かったってば」
腹を空かせて、放浪していた。
一方がジト目で、もう一方がバツが悪そうにするこの二人。
そしてその後ろを追う兵たちは、半月前までは漢中に滞在していた。
と言うよりは、匿って貰っていた、と言うべきだろうか。
一月だけ、という契約で、漢中太守の張魯に滞在させて貰っていた。
……話をつけたのは、西涼に残っていたときの陽であるが。
そんな契約も半月前に切れてしまった為、放浪の身となった翠と蒲公英、それに兵たち。
張魯は気のよい人物であり、出て行くときに少しだけ食糧を分けてくれたのだが。
自重はしたのだが、元来大食らいである翠のせいで、今は殆どなくなってしまっていたのである。
仕方がないので森や山に入って、食える物を採ったり捕まえたりはしているのだが。
乙女であると自負する蒲公英や、女性兵士たちにとって、そんなにワイルディーなことばかりではいただけなかった。
食べた分動いてはいるが、何時までもこのように偏った食事をしていれば、女性にとっての危機が訪れてしまうのが目に見えている。
主に、腹周りに。
我が儘を言うつもりはないし、状況が状況だけに流石に言わないが、このままではいけないと、男の兵も含め、誰もが思っていた。
それでもこの生活が止められず、責任者である翠にとってはバツが悪いのだ。
実のところ、どこか街に入って、陽が代表の馬印商会に所属する店に行けば、それなりの対応はしてもらえたのだが。
……どうやらそこまでの思考が働かないぐらい、相当に野生化が進んでいるらしい。
しかしながらこの半月後。
ご都合主義という名の天啓が、彼女らに舞い降りることとなる。
……逆手に取ってしまえば、あと半月はこの生活が続くということである。
★ ★ ★
「ねぇ、母様」
「ん、なんじゃ?」
「ごめんね。母様がずっとこんな気持ちだったこと、知りもしなかった」
「それ、わたし達もだからね」
「そうそう。それに、一瞬忘れさられそうになった僕達と比べたら……」
「「…………」」
今日も隴西は平和である。
陽は語る。
「スタミナは大切。特に、集中力がめちゃ必要な俺にとってはな」
と
全然書けんかった!
ネタとか、全く降りてこなかった。
次から本気だす(ぇ
とりあえず、次回は陽君、呉に行きます。
でも、特に何もしなかったり。
「低い。クォリティーが低い」
わかってますよ。
今までクォリティーがどうとか、スランプがどうとか、さっぱりわからんかったけど、初めてわかった。
書けないときは書けないね。
「突発的だもんねー。貴方の書くときって」
そうなのよ。
思いつかないと全く書けないの。
逆にスラスラ書けるときもあるんだけど。
「ポンコツ」
酷いっ!
罵倒のレベルも低い!
馬騰の癖に!
「ぶっ殺す☆」
アッーーー!!
おしまい☆