第五十六話
一週間ぶり(?)ですかね。
本当に申し訳ない。
「だから! だからあの親子は嫌いなのよおぉぉぉお!!! 自分勝手なことばっかりしやがってぇぇぇーーーえ!!!」
Side 三人称
とある宿の広場にて、一心不乱に――本人の物であろう――武器を振るう女性がいる。
荒々しく振り回しているだけに見えなくないのだが、太刀筋は洗練されており、その技量が窺える。
しかしながらその表情は、悪鬼に勝らずとも劣らない、とんでもなく険しい顔で、額にはっきりと血管が浮き出ている。
見れば、誰でもわかるであろう――ブチ切れていることが。
そんな彼女の名を薊という。
「…………(ビキビキ」
何故こんなにも怒っているのかと言えば、やはり朝の凶報――馬白の訃報――のせいだろう。
仮にも死んだのだから悲しんでは、と思ってはいけない。
元から、陽が逃げることを薊は分かっていた。
蒲公英にベタ惚れなのは周知の事実であるから、追わない訳がない、と踏んでいたのだ。
だが、流石に死ぬとは思わなかった。
いくらなんでもやりすぎだ、と。
死後、誰が尻拭いをしなければならないのか、考えての行動だろうなドアホ、と。
娘を散々虜にしといて、逃げるとかどういうことだコルァ、と。
薊にかかる負担増大、という置き土産をしていったことにブチ切れているのだ。
「バカにしやがってバカにしやがってバカにしやがって!」
どうやら、声に出してネタに走れるぐらいには回復したようだ。
……未だに目は据わっているのだが。
「なんなのよ、本当にあの親子はっ! 牡丹といい陽といい、勝手すぎ。……はぁ」
こういった暗い感情は、口に出した方が案外良いのかもしれない。
深い溜め息を吐いた薊は、落ち着くことに成功した。
「(全く、本当に世話のかかる親子じゃ)」
呆れるようで、しかしながら愛おしむような笑みを浮かべながら、武器を下ろした。
「……どうしようかのー」
朝餉を食しつつ思い悩むのは、先程怒りの演舞を終えた薊である。
その種といえば、西涼連合が降る為の条件の第三項、将を差し出すという問題だ。
多分というか絶対、曹操は陽を要求してくるだろうと考えていた訳だが、死んだとなってはそれもお流れになる。
そうすると、必然的に二択しかない。
ということで、どちらにしようか薊は悩んでいたのである。
しかし、瑪瑙が関わると親バカモードが炸裂する彼女は失念していた。
……最終的な決定権は曹操にあることと、陽が手を出さない訳がないことを。
★ ★ ★
「鳳徳に来てもらうことにするわ」
「はっ、……は?」
「だから、鳳令明。彼女を指名すると言っているのよ」
「…………むぅ」
前日の会談と同じ場所で、また対面する曹操と薊。
一度で聞き取れなかったことに違和感を覚えながら、もう一度要求する将の名を告げる曹操。
対して薊は、何故だか煮え切らない顔をする。
人材コレクターの曹操から、娘が指名されなかったのにはちょっと悔しく、手放さなくて済むことには嬉しいのだ。
……なんとも勝手な親バカ脳である。
「……そう言えば孟徳殿。孝雄を選ばぬのだな。てっきりあやつだと思うておったのだがな」
「あれは、私では絶対に御せないもの。馬騰にしか従わないでしょう?」
「どうであろうな。ただ奴と利害が一致していただけで、誰にも従わぬやもしれぬ」
「だったら、尚のことよ。能力が高くても、従わない者は私には必要ないの」
目を瞑って眉を下げて、最初から諦めた様子で曹操は言う。
それを聞いて、薊は成る程な、と思う。
牡丹も陽も、自由でこそ活きる人間だ。
どうやっても、従うタチではない。
むしろ、上に立つ姿の方が似合っているかもしれない。
二人を良く知る自分がそう結論付けているのだ。
薊自身も認める曹操の慧眼に、そう映っていない筈がないだろう。
と、そう薊は考えていた。
「……まぁ、山百合を選んでくれた方が、結果的に都合が良かったのだがな」
「どういうことかしら?」
「あのガキ、死におったらしいのじゃ。何から何まで思い通りにさせぬ奴じゃ」
「……そ、そう」
『…………』
薊の言葉に不穏な空気を感じた曹操が尋ねると、ギリギリと手を握り締め、こめかみをひくつかせながらの陽の訃報が返ってくる。
改めて聞き直せばとんでもない一大事の情報なのだが、薊のキレッぷりにドン引きしているために反応はなかった。
……不穏な空気はこれだったか、と地雷を踏んだことに途中で気付いた曹操だった。
★ ★ ★
「きな臭〜い。絶対死んでないわよ」
「またお得意の勘か? 勘弁してほしい」
「そんなコト言って。めーりんだって死んでないって思ってるでしょ?」
「まぁな」
とある一室に、一組の主従がある。
主の方は相も変わらずうなだれながら仕事をこなし、従者は見慣れた光景をスルーして間諜からの報告を伝える。
前者を孫策、後者を周喩という。
周喩が伝えた内容といえば、天狼馬白が死んだという一大ニュースだが、それはないと孫策は即座に切り捨てた。
これも自重しない勘から物を言っているのだが。
かといって、それが間違いだという訳ではない。
そう言えるぐらいに孫策の勘はズバ抜けている――というか、今まで百発百中だ。
加えて言えば、親友の周喩も同じ考えであれば完全無欠なのだ。
よって、天狼は死んでいない、という結果で完結していた。
これで良いのかと言えば、良くない。
何も良くないだろう。
馬白という人間は、そう簡単に処理して良い相手ではない。
他人から見れば、大陸一とも言える資産家であり、同時に商人であり、情報通で、氷の軍師で、常勝の将である。
警戒しない方がおかしい相手なのだ。
それに、孫家の敵にならないという枷も、牡丹が死んだことで無くなったに等しい――元から味方だという意識は周喩にはなかったが。
精々、不可侵不干渉程度の相手だ、という感覚ぐらいのものだろうか。
それなのに、死んでいない、という結論だけで済ませるのには理由がある。
それは、どうしようもないから、というものだ。
陽は、言ってしまえば情報戦のスペシャリストである。
将であろうが軍師であろうが商人であろうが、情報は大切にするものだ。
一定より少しでも上の頭を持つものならば誰でもわかること。
それを使いこなして、馬白が此処までの評価を得ていることは、わかる人にはわかる。
だが、真似をしろと言われても出来はしない。
何故なら、陽は知らぬ内に現代知識を思い切り駆使しているからだ。
……突き詰めて言えば、あったものを再現して、昇華させただけなのだが。
兎も角、そんなスペシャリスト相手が情報を秘匿にしてしまえば、劣る者が見つけ出せる道理はない。
馬白が死んだというのなら、それ以上の足取りは掴めないのである。
仮に生きていたとしても、死んだという情報以降のことは全力で隠すことはわかりきったことであり、探し当てることは限りなく不可能に近い。
二人は、というか周喩は、簡単に諦めているのではなく、諦めざるを得ない、ということだ。
「どうしようもないことを思い悩んでも仕方ないわよ、冥琳。それに、待ってれば向こうから来る、って私の勘が言っているわ」
「また勘、か……。良いだろう、そこまで言うのなら放っておくことにしよう」
周喩が報告する前に考えていたことをもう一度巡らせていると、それを一蹴した孫策。
そして、あくまで勘で推し量る姿勢に、周喩は苦笑した。
多分、馬鹿らしくなったのだろう。
「なによー。私の勘が信じられないの?」
「信じたいが、信じてはいけないのが軍師というものだ」
「ふ〜ん。軍師って大変ね」
「あぁ。特にお・ま・え・の、軍師は大変だ」
「うぐっ」
どうやら自覚はあるらしく、たまの意趣返しが出来たことでニヤッと笑う周喩に、思わず孫策は唸った。
……主人の気楽さと従者の気苦労さは比例するのかもしれない。
★ ★ ★
「そっか。馬白が……」
「はい……」
「……でしゅ」
馬白の訃報を聞き、消沈する天の御遣いこと一刀。
それに呼応するかのように、同じく消沈しながら報告する諸葛亮と鳳統。
二人は陽の姿形は知らないものの、軍師として憧れ、目指すべき人間だった。
故に嘆くのは仕方ないだろう。
だが、軍師でない一刀がそうなるのはおかしいはずだ。
実のところ、一刀はシンパシーというか親近感を感じていたのだ。
それは勝手以外の何物でもないのだが、ピカチ〇ウやら現代的な服やらが西から流れてきて、その制作者が馬白と言うのだから仕方がないだろう。
……厳密には制作者というより制作商会馬印というのが正しく、陽は案を出したに過ぎないのだが。
そんなことを心で思ったのは、この世界に一人やってきた孤独感からなのかもしれない。
確かに可愛い女の子達が周りにいる、所謂ハーレムだろうが、彼自身微妙にそれに気付いておらず。
さらに、漫画やゲームであるトリップ物を彼自ら体験することなど露にも思ってもいなかった訳で、――思っていたのなら、大変な頭であるが――覚悟を最初から持っていた筈もない。
故に、心の片隅でどうしようもなく不安を煽る。
この時代に、未来人である自分が独りなのだと、逐一感じさせる世界だ。
仲間達がいくら愉快で楽しく優しくても、心に多少のしこりを覚えるのに不思議はない。
女の子達の手助けをしてあげたいという気持ちは紛れもない事実だと、一刀は自信を持って言える。
もし、帰るか残るかの一択を選ばされるとしても、残ると答えられる。
だが、未練がない訳ではない。
可能性があるのなら、一度帰って、家族や友に別れを告げたくあるし、親友で兄弟で、家族であった者の墓参りにも行きたいと思っている。
だから、未来人を思わせる馬白という存在に縋りたかったのかもしれない。
帰る手段を知っているかもしれない、という可能性に賭けて。
故に、馬白が死んだことを嘆く一刀だった。
「馬白さんか……。一度、話してみたかったなぁ……」
そう、小さく呟くのは一刀の隣に座る劉備。
その思いは、反董卓連合の終わりから膨らませてきたことだ。
あの埋伏もそうであったし、手紙の内容からして、彼女にとっては相容れないというか、今までに会ったことのないタイプの人間だった。
……本当は反董卓連合の時に同じタイプの人物に会っているのだが、相手は隠していたので気付いていなかっただけだが。
兎も角、手を取り合って戦いをなくそうと考える劉備は、どんな相手だろうと話し合いたいと思っている。
それに、恋達を仲間に引き入れる時に手助けをしてもらっていた――陽にとっては、約束を果たしたに過ぎないが――為に、御礼も言いたかった。
劉備という人間は、どこまでも優しいのだ。
故に、彼女が思う"弱い人々"は惹き付けられ、魅了されて、後を付いてくるのである。
★ ★ ★
「陽が、死んだ……?」
「いえ、馬白様が、お亡くなりになられました」
「一緒のこt、むぐっ――「違うよ、翠お姉様」――んぐぐ、ぷはっ! こら蒲公英! なにすんだ!」
漢中のとある店で馬白の訃報を聞いた翠。
その報に対して、機密事項を口にしようとした彼女の口を急いで塞いだのは蒲公英だ。
「今のは危なかったよ、お姉様」
「……は? 何が?」
「お姉さま……?」
「なっ、何だよ!?」
「…………はぁ」
惚けではなく、純粋に忘れてしまっている翠に、やれやれといった様子で、蒲公英は肩を落とす。
少しではあるが、この場の二人にとっても、そして陽にとっては人生を左右するとても大切なことを、彼女は忘れているというのだから仕方がないことだろう。
「いーい、お姉様? 死んじゃったのは馬白様。お兄様じゃないの」
「だから、同――……あー」
「もー、気付くの遅いよー!」
「だってよー、こんなややこしいことするから」
そう、死んだといわれるのは馬白だ。
陽ではないのだ。
これは二人が出立する前に、可能性として話していたことなのだが、翠は見事に忘れていた。
理由にややこしい、とあがったが、別段複雑だという訳ではない。
陽が、一人二役、馬白という虚構を作り上げたのに過ぎないのだから。
「大体、お兄様が死ぬわけないじゃん。たんぽぽと、約束したもん」
「あー、はいはい。わかったわかった」
「むっ、反応が適当〜」
近ければラブラブな雰囲気を出すし、離れたら離れたで、偶にだが惚気話を聞かされる。
寂しいのだろう、と頭で理解はしているが、だからといってもう惚気話には結構うんざりな翠だった。
「……お姉様に男がいないからって、嫉妬しないで――「蒲公英っ!」――ぎゃふん!」
「……言っていいことと悪いことが、あるよな?」
「いったぁ〜! ……ごめんなさ〜い」
ちょっとからかってみた蒲公英だったが、ちょっとイラッときたらしい翠のかなりガチな拳骨に、涙目になる。
自業自得である。
でも、そこが可愛い。
と、さくsy――んんっ!
陽は思っている。
★ ★ ★
一方で……。
「うむ。やはり団子には茶が合うな」
様々な陣営で話題となっている本人はと言えば、茶屋で普通にまったりしていた。
陽は語る。
「自由って、イイネ!」
と
い、いかんっ!
本編に私事が垂れ流されるところだった!
蒲公英、恐ろしい子……!
書けぬ!書けぬ書けぬ!何故じゃー!
「そりゃ、ネタが降りてこないからでしょう?」
まとも!
こんな普通の返答見たことないよっ!
「ぶっ殺すぞテメェ」
いや、でも本当に、申し訳ないです。
書きたいけど、言葉にするのは難しいといいますか。
「そんなことより、私の活躍は?」
あー、オリキャラだらけの?
めんどくさい。
「………………」
いだいっ!いたいたいたいたいたいたいっ!!
折れるっ!
腕が折れるぅっ!!
おしまい☆
P.S.
「要望があれば書く(はず)らしいから、私の勇姿がみたかったらお願いしてみてね☆」
いや、書いてもあなた、登場するの大分後だかr――ぎぃやぁーーーっ!!