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第五話



Side 韓遂


「いつまで続くのじゃ、この下らん言い争いは……」


かれこれ半刻ほど経っておるのに……よく続くのぅ。


「労働力だといって、強引に連れてかれ、働かされ!」


「強引に手をひかれ、連れてかれるなんて何時ものことだったわ……(嫌じゃなかったわね)」


「そのとき、俺は何度鞭でうちつけられたか!」


「私だってあるわ、そんなことぐらい……(主に閨でね)」


「抵抗したら縄で縛られ、何日も放り出され!」


「抵抗したら、縄で縛られ……ぁあ……」


この1週間でほとんど出すことのなかった感情を、これでもかと言うぐらい前に出しておる。

聞いておると、こやつの壮絶な過去がわかる。

それを似ていると言われ、相当腹が立っているようじゃな。

それはまだわからなくもないのだが。

……問題なのは牡丹じゃ!

さっきから聞いておれば、何の話をしておるのだ。

牡丹の漏らす話の内容が怪しすぎるではないか。

明らかに邪なことを考えておるじゃろう。


しかしながら、いくら似ていると言えども、それを重ねて考えてしまうほど、あやつは愚かではないはずじゃ。

なんといっても、儂の義姉やってるのじゃからの。


義姉上よ……本当に一体何を考えておられるのじゃ?



   ★ ★ ★



ある一室で舌戦……舌戦?が半刻ほど繰り広げられていた。

対峙しているのは、言わずもがな陽と馬騰である。

陽は顔を赤らめ激昂中。

馬騰は恍惚とした表情で、両手を違う意味で赤くなった頬に手を添え、いやいやといった様子で首を振り、ほぼ自分の世界にトリップ中。

馬岱はそんな二人の間で、仲裁に入るかどうか決めあぐね――正確には隙が見当たらないため――おろおろしている。

馬超は自分の母の言っていることが違うことを意味しているように感じるが、知識として無いものがわかるはずもなく、ぽけーとしている。

韓遂は据えた目で馬騰を見ている。

というカオス的状況であった。



元々、事の発端は馬騰の一言にあった。

曰く、「自分と似ている」と。

陽は昼間の苛立ちも相まって、冷静にはいられず、熱くなっていたのであった。


「てか、アンタ、話聞いてんのか! っ!!」


思わず発してしまった言葉で陽は気付く。

先ほどからほぼ自分の過去の独白になっていたことに。

この台詞を言わせる為に、わざと反感を買うように立ち回り、ここまで誘導されてしまったことに。

嵌められたことに、沸々と込み上がる怒りを残っていた理性を総動員させて無理矢理押さえつけ、馬騰を睨み付けていた。



「せっかく綺麗な顔してるんだから、そんな形相しないの♪」


「…………」


しかめっ面で、無言を決め込む陽。


「ふむ、やっぱり似ているわ……同じといっていいぐらい」


「――っ!!」


眉間の皺はさらに深くなり、眉も一気につり上がる


「…ざけ…なよ……」


「え?」


「アンタと同じだと……ふざけるな! アンタみたいな幸せ者と俺が、何が似ているだ!何が同じだ!一緒にすんじゃねぇよ!」


二度も似ている、更には同じと言われ本気で腹を立てていた。


「そんなこと言っても、……本当はわかっているでしょう。アナタと私は同じ存在……だから、アナタがそれに気付いていることぐらいお見通しなのよ」


もともと、陽がこの一週間逃げなかったのは、誘いを受けたときに家族となるそれぞれの人物たちを観察し、見定める為でもあった。

そして、馬騰の言う通り陽は気付いていた、いや、感じていた。

馬騰のことを「自分と似たような奴」と。

しかし、それを頑なに認めることを拒んだ。

認めてしまうと、自分と似た奴が自分の近くにいる、という事態に嫌悪感を感じ、そしてその事実に劣等感も感じるからであった。


「……認めねぇ。絶対認めねぇ!」


そう言いながら、左目を隠す為に巻いてある包帯を取り除いていく。

決定的な違いを見せつける為に。


「これがアンタとは違う理由だ!」


隠していた包帯をすべて取り去って左目を開く。

そこにあったのは……


「「…………」」「「!?」」


……瞳の黒い目だった。

瞳の色自体は別段変わった物ではなかった。

ただ、右目とは圧倒的に違っていた。

光を入れて、反射させて輝く銀色の右目。

光さえ吸い込み、輝きをみせない漆黒の左目。

片方ずつなら、何ら問題ない目。

右目と左目が相まって、初めてわかる異常。

今で言うところ、オッドアイだった。


「綺麗、だね」


馬岱が頬を朱に染めて声を洩らす。

馬騰と陽の間に居たので、一番近く、見やすい位置にいた。


「…………は?」


途端、ズキッ、と。

陽の左目に、この前以上の激痛が走った。



   ☆ ☆ ☆



「綺麗な目だね」


「…………え?」


「だから、綺麗だって」


「綺麗? ……ちょっと待ってよ。どうして? ……こんなの、おかしい! この色違いの目が恐ろしくないの? 怖くないの? おぞましくないの? 気持ち悪くないの?」


「そんなこと全く思わないね! むしろ格好いいな、って思ってる」


「あはははっ。綺麗に続いて、格好いいだなんて……可笑しな人だね、君は。でも、ありがとう」


「へ?何が?」


「初めてなんだ……この目をそんな風に言ってくれる人」


「なんで? こんなに綺麗なのに?」


「君は本当に可笑しくて、不思議で、変な人だね」


「変じゃないよ~」



   ☆ ☆ ☆



(なんだ、今のは。

いつもより……鮮明すぎる。

だというのに相手の顔だけ見えない。

誰なんだろうか?)


記憶から溢れるように見えた映像のようなものに、陽は疑問を持つ。

稀にこの手の夢を見るのだが、鮮明に声などを聞いた覚えはなかった。


「ちょっと、お兄様……大丈夫?」


左目を押さえて、痛みから耐えるように歯をくいしばっている陽に心配の色を見せる馬岱。


「大丈夫……だけど、なんでだ? この色違いの目が恐ろしくねぇの? 怖くねぇの? おぞましくねぇの? 気持ち悪くねぇのかよ!?」


とりあえず、さっき小さな自分が小さな少年?に言っていたことを問うた。

それに対して、馬岱は満面の笑みを浮かべ、答えた。


「うぅん、全然! むしろお兄様によく似合ってて格好いいよ!」


「そうね♪」


「うむ、そうじゃの」


「そうだな」


いつの間にか陽の目の前に周りこんでいた三人も、馬岱の言に同意する。


「はっ……はははっ。可笑しな人たちだ、アンタらもアイツも……格好いいだなんて。おかしい……本当に可笑しいよ」


はははっ、と愉快そうに笑い続ける陽。

両目からとめどなく流れるものを気にもとめずに。


「むぅ〜! たんぽぽたちはおかしくないよぉ〜」


当然のことを言っただけなのにおかしい、と言われたことにむくれる馬岱。



「はっ、はは。はっ、はぶっ、ふぐぅっ!」


「笑うなら笑う、泣くなら泣く。どっちかにしなさい」


泣き笑いをし続ける陽は、馬騰にかなり強引に抱き寄せられ、優しい手つきで頭を撫でられる。

ほぼ初めてである母のぬくもりに身を委ね、四対の優しい眼差しに見守られながら馬騰の胸の中でひとしきり泣いた。

この目のお蔭で虐げられ続けてきた苦しみが、全て涙で溢れ出した。


心の中で、この人が母なら、ここにいる人たちが家族なら、悪くないと思った。






ここで終われば良い話だが、それは問屋が卸さない。


「寝ちゃったわね……さて、どうしようかしら」


「牡丹よ、お主は止めて置けよ……何をするかわからんからの、ナニをするか」


「し……ないわよ、息子になったばっかなのに」


「うん? なんじゃ、今の間は?」


「うっ……かといって薊には渡さないわよ!」


「べ、別に欲しいとは言っておらんわ!」


「ふ〜ん」


「ぐっ!」


実は別に寝ていなかったりする陽。

息を整えていただけである。

それを勘違いされ、しかもなかなかタイミングを見出だせず、さらにかなりの力で抱かれている。

遺伝というのは不思議で、馬騰と馬超の髪の色は全然違うのに、胸の発育は似ている。

母親の馬騰の母性は素晴らしいものだ。

よって、ぶっちゃけ陽は窒息しそうなのである。


しかし、馬騰と韓遂の二人はにらみ合いで気付くはずもなく。

そんな二人の様子に馬超はあたふたとしている。


(志なんてないが、半ばで死ぬのか俺は!

頼む!誰か助けてくれる奴はいないのか!)


必死にもがき、偶然、合い言葉?を強く思う。


「ここにいるぞー!」


すると、馬岱が名乗りをあげて二人のにらみ合いに参加。

陽が死にそうだ、ということを伝えにいく。

小悪魔的な笑みを携えて。



   ★ ★ ★



結果、助かりはした。

だが、陽に助かった気はしなかった。

何故なら、隣で妹分が寝ているのだから。


(HAHAHA!なんてこった!)


意味分からないテンションで頭を抱える陽。

救った代わりに隣で寝かせろ、と要約するとこんな感じの要求をされ、こうなった。

(こうなったら自棄だ!)


結局、馬岱を抱き枕にして寝てしまった。


正直、今の陽に家族――なったばかりだが――と呼べる者のぬくもりが有り難かった。



翌日、馬岱と顔を会わせる度真っ赤にして逃げられたのは余談であるが。





陽はこの時を振り返る。


「今、俺が俺で居られるのは二人、いや家族皆のおかげだ……。本当に感謝してる」


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