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第五十五話



結構ぶりです。



頭は先へ先へ進むが、手が動かぬ。



第一部、完?



「いってらっしゃい、陽。ちゃんと無事で帰ってくるのよー」


「………………(答えちゃダメだ答えちゃダメだ答えちゃダメだ答えちゃダメだ答えちゃダメだ)」


「返事ぐらいしなさいよー」


「(これは幻聴これは幻聴これは幻聴これは幻聴)」










時は少し遡り……。



Side 陽


はろはろー。

俺っち、陽!

こんなキャラじゃないが気にするなー。


まぁ、なんだ。

準備完了だ。

引き継ぎは完璧だし、馬印商会の店舗にも手紙送ったから問題ないし、後詰めの用意もできている。


あとは、コイツ等だけだ。


「「…………」」


ムスッとした顔しやがって。

別に本当に死ぬ訳じゃねぇんだからさー。


「……馬白様」


「なんだ」


「……本当に、いかれるのですね」


「当たり前だ。そんなの、わかりきったことだったろ?」


今の俺は、馬白だ。

やっぱり牡丹が忘れられない、っていうマザコンな俺。

無論、外対策だが。


「母さん……」


「…………」


おい、瑪瑙。

真面目にやりやがれ。

真に受けて、そんな冷たい目でみるんじゃない!

なんか俺、イタイ子みたいになるやん!


……あー……。

この認識を、広めるのかー。

いや、元から俺が牡丹スキーだ、という情報は流していたんだけどさ。


え、蒲公英とのデート見られてるだろって?

大丈夫だ。

その辺の対外対策はできてるのだよ。

一人二役演じることで、ね。

ま、その辺りはいずれ話すさ。



よし、もう……良いかな?


「陽様」


「ん、どした?」


視線なくなり、聞き耳を立てる奴らがいなくなったのを確認して朗らかな空気を出してやれば、山百合は小声で俺を呼ぶ。

反応して見てみれば、さっきと変わらずのむくれ顔。

まぁ、仕方ないと言えなくもないだろうさ。

俺と離れる+仮初めだが、曹操に仕える、という使命があるのだからな。


「やっぱり――「ダーメ。命令だからな」――むぅ……」


「くっく。しょぼくれる山百合も可愛いな」


「はぅっ……!」


多少の無理を強いるのだから、ちゃんと撫でてやったりしてワン公を可愛いがる。

そうするとまたムスッとするのが隣のニャン公だ。

コイツは残って仕事するだけだしなー。

(無難に?)顎下を撫でることにする。

勿論、ゴロゴロとは喉を鳴らす訳じゃないんだが。

てか、瑪瑙=ニャン公、っていう認識は俺にしかないのだから当たり前だろうさ。

でも、幾分気持ち良さそうに見えるのは気のせいだろーか。


「御命令とあらば仕方ありません。お勤めはキチンと成しましょう」


「うむ、よきに計らえよ」


「そういえば、何時行くつもりなの?」


いつの間にか顎にある俺の手を取って、撫でたり頬ずったりしている瑪瑙。

……言っとくが、しゃぶらないだけマシなんだぜ?


「うーん、明朝?」


「ちょっ、早っ!」


「せめて、明後日の朝まで、待ってくださいませんか、陽様」


まぁ、さした問題はないな。

ないけど、……何故?


「なんでさ?」


「もう少しで、……証が完成しそうなのです」


…………証?

どゆこと?

首輪のことか?

いや、これは極秘にやった筈。

しかも、今日中には用意できるから関係ないな。


「もしかして、覚えてない? ボク達が、陽の、"ご主人様の腕"を傷つけて良いかって聞いたこと」


「あー……、それ。結局どうなったの?」


二人して裸の付き合いをしたわけで。

背の刺青は見られて、感嘆を覚えられたのは記憶に新しい。

んで、その時に山百合が、

『陽様の右腕、傷をつけても宜しいでしょうか』

と聞いてきたのだ。


いや、あの時はちょっと焦ったね。

急いで右腕隠したよ。

何が悲しくては負傷しなきゃなるめぇよ、って。

……その俺の一連の動作を、山百合にキョトン顔で見られたのは、結構困ったが。


まぁ、よくよく聞いてみれば。

俺の右腕ってのは山百合自身の事で、傷つけるってのは、証が欲しいとのこと。

俺の刺青を見て、山百合が俺の右腕であることを身体に刻み込むことで証明したい、ということらしい。

それに、瑪瑙も便乗というか賛成というか。

右がつけるなら左もだよね、みたいな理屈だ。

別に、俺の一部だっていう証云々なんか気にしてなかったんだが。


とりあえず、刻み込む事には一応反対することはした。

わざわざ俺に合わせて、動きにくく、いや、"動かしにくく"なったら意味がない。

だが、二人も譲らなかった。


『(陽様/ご主人様)の腕が、自在に動かないことなんて有り得ません』


と、そういってな。

刺青による差別等での弊害で、俺に絶対に迷惑をかけない、という確固たる意志の表れだ。

うん、正直に嬉しかったよ。

俺が元で花開いて輝いてくれるのが嬉しかったのさ。


と、そんな証が、明日には完成するそうだ。

期待して待ってやることにしようじゃないか。

その時に、首輪を渡そう。


……い、いかん!

首輪が頭から離れんぞぉ!


「陽様?」


「…………なんでもないぞ」


「その間が怪しいんだけど」


うっ、黙ってろアホ!



「まぁ、なんだ。明後日にしてやるよ」


「ありがとうございます」


「感謝してあげるわ」


「……瑪瑙?」


「……ぁあっ……、ごめんなさい、ご主人様……」


いくら冷たい笑顔で名を呼んであげたぐらいで、いきなり悦んだ顔で謝んなや。

本当に、つくづく変態だな、おい。

まぁ、いいんだけどさ。





   ★ ★ ★





Side 三人称


「うっす」


「あれ、陽兄?」


「普通に会いにくるんだね……。軟禁なんて絶対嘘でしょー」


読んでた竹簡から、視線を訪問者に向ける少女と少年。

前者の真名を茜といい、その視線には少し困惑の色が見える。

対して、疑いと呆れを含んだ目で見るのは、後者、藍である。


二人の反応を見るに、訪問者、すなわち陽は、完全に場違いだということなのらしい。


「まぁ、それはいいじゃねぇか。ところで、何してるんだ?」


「ちょっとした勉強だよ。一応軟禁されてるからさ、大々的に勉強するわけにもいかないじゃん?」


「でも、あーきーたーよー」


「もー、お姉ちゃんは飽きっぽいんだから」


適当な椅子に腰掛けながら陽は二人に尋ねる。

その表情は優しく、どこの誰がみても、兄の顔だと言うことだろう。

答える藍も笑っており、仲の良さが窺える。

そして最後に茜は、脚をジタバタさせており、言葉通りの心境であることがわかる。

それには男二人は苦笑した。


「そう言うなよ、茜。そろそろ自由になれるだろうからさ」


「え? ホント!?」


「おー。ま、俺はいなくなるけどな」


「「……ぇ……?」」


突然の事実に、二人は困惑した。




「そらなぁ、蒲公英んとこいってやらないと。寂しくて泣いちゃうだろうしー」


「それはない」


「それはないよ、先生」


「即答ですか、そうですか。……いじけるぞ?」


半分冗談で言ったのだが、即座に否定された陽は、椅子の上で脚を抱えて俯く。

これだけ見れば、兄の威厳(笑)である。

かといって、二人が悪い訳でもない。

蒲公英が、例え寂しがっても泣くことはないと知っているからだ。


「……兎に角、だ。そんなに暇がある訳じゃないしな。何か聞きたいことはあるか?」


「……ぁ……」


「お姉ちゃん……」


残り時間の少なさを感じさせる陽の言葉に、茜は僅かに顔を歪ませる。

それがどの心境を表しているのか、いつも一番傍にいる藍には分かってしまう。


寂しいのだ。

兄がいなくなることが。

悲しいのだ。

また家族がいなくなることが。

不安なのだ。

母親だった者と同じように、逝ってしまわないか。


たった一つの後悔が――母と呼べなかったことが――、どうしようもなくそうさせるのだ。


「……陽兄は」


「うん?」


「陽兄は、帰ってくる、よね? 翠姉も、蒲公英姉も一緒に、帰ってくるよねっ!?」


加えて言えば、翠も蒲公英も、出て行くときに茜や藍と、別れの挨拶もしておらず。

歳には不釣り合いな、我が儘に近い感情を生じさせた。


もう少しで泣いてしまいそうなぐらいに目に涙を溜める茜を、席を立った陽は撫でる。

そして、真剣な顔をして、口を開いた。


「わからん」


そう、兄でも軍人でもある顔をして。




「無論、死ぬつもりはないし、多分死なん。実力も頭もあるしな。死んでやるつもりは一切ない」


「「…………」」


真面目に話す陽の言葉に、無言で聞きに徹する二人。

多少自慢に近い事も含まれていたが、気にしないらしい。


「ただ、翠はどうだろう。アホだからなー。蒲公英は、まぁ俺が守るけど」


「「…………(ピクッ)」」


……貶しているようで、どこか慈愛のある口調には、少し反応したが。


「ま、なんだ。たとえ生きてても、帰ってこんかもしれんからな。断言はできんのよ」


そう言い切ってから頬を掻いて、苦笑した。



「……も〜、ばか」


対する茜はというと、口始めに罵倒した。


「茜、お前……。兄に向かって、バカとはなんぞっ」


「そりゃ馬鹿って言いたくなるよ。慰めてるのか全くわかんないんだもーん」


妹に罵倒されたことに異様に狼狽える陽を、茜は少し据わった目でみつめる。

少なからず不安を和らげてくれると期待していたのだが、ただ事実を述べただけという、なんとも味気ない内容だったのだから仕方がないだろう。


「男なら、『絶対に帰ってくるから、結婚しよう』ぐらい言わないと」


「茜、それは言わせたらあかん。死亡フラグや」


「冗談だけどね。兎に角、それぐらいの甲斐性は持たないと。……蒲公英姉に嫌われ――「マジかっ!?」――反応早っ!」


「先生って、ホント蒲公英お姉ちゃんのことになると見境なくなるよね……」


陽の思考回路は、複雑にして実に簡単である。

難しいことも簡単なことも、考えられる頭はある。

が、蒲公英さえ絡めば全部投げ捨てられる。

つまり、蒲公英無しなら秀才の頭に、蒲公英有りなら蒲公英中心の頭に切り替わるのだ。


故に、この素早い陽の反応は当然であった。


「ま、まぁ、あれね。時には格好つけるのも大切だってこと」


「お姉ちゃん、いや、……茜。君は俺が守るよ」


「ちょっ、ばか……っ! 不意打ちだってばぁっ!」


「成る程のー」


早速、何故か藍が格好つけ、そのせいで顔を真っ赤にする茜を見て、陽はニヤニヤする。

百聞は一見に如かずとはよく言ったものだ。

と、内心思いながら。


「もう、藍ってばそうやって冗談ばっかりっ!」


「うぅん、これは本気。まだまだ未熟な僕だけど、これだけは譲れない」


「……あ〜、もう好きっ! 藍のそういうとこ、大好きっ!」


……二人は二人で、睦み合っていたが。




「……ちゃんと、皆で墓参りにいこうな」


桃色な空気を読んだ陽は、静かに退出することにする。

二人に聞こえるかどうかの大きさで、確かに帰ってくることを宣言しながら。






   ★ ★ ★






そして、翌日。


Side 陽


久しぶりに一人で起きた気がするなー、としみじみ思う陽であります。

まぁ、最近はどっちか、もしくはどっちもと一緒に寝てたからな。

羨ましーだろー?

だが、やらんぞ。

どうして俺の腕たちをお前らなんぞにやらなあかんのやー。


それはおいといて。


今日でやっと、軟禁(笑)と仕事から解放されるぜっ!

なかなか引き継ぎとか面倒だったもんだな。

結局、二週間近くかかったし。

でもこの期に二本腕が増えたから、結果オーライだけどさ。


「あ、そうだ。薊さんに連絡入れなきゃ」


先に謝っておこう。

ホント、ごめんね。

すげー迷惑かけちゃってさ。



   ★ ★ ★



「……わお……」


今まで出したことない声が出てしまった。

それほどに、感嘆を禁じ得ないのだ。


山百合と瑪瑙の片腕ずつに刻まれた刺青が、だ。


「痛く、なかったか……?」


「そりゃ、痛かったわよ。でも――」


「――陽様に貫かれたときよりは痛くなかったですよ」


「……マジですか?」


ちょっと罪悪感なんですけど。

そんなに痛かったんですか?

恍惚としてた気がしたんだが。


「ふふっ。冗談です」


「あのときは幸せだったもん。ま、ほんのちょっと痛かったんだけどね」


「お前らも言うようになったね。しばくぞ両腕」


「挙げる腕はあるのですか、陽様?」


「揚げ足をとるんじゃない」


確かに、しばくなら手を、腕を使わなにゃならんからな。

まぁ、四本あるんだから出来なくはないんだけど。


そんなことはいいとして。


「にしても、よくもまぁ……。職人技には脱帽だねぇ」


右手で山百合の右手を、左手で瑪瑙の左手をそれぞれ取って、まじまじと眺める。

そこには、山百合の右腕には右巻きに、瑪瑙の左腕には左巻きに。


肩を頭に、黒龍が昇っている刺青が刻まれていた。


……厨二臭いんだけど、背に刻まれてしまってる俺には、口に出すことは憚られる。

てか、ちょっとかっこいいと思うのが既に厨二なのかもしれないが。


「ここに、改めて誓います。我が身我が心、全てを陽様に捧げます」


「そして、腕となり、刃となり、盾となり、ご主人様を支えましょう」


「あぁ。良きに計らえよ、俺の両腕」


「「はっ!」」


片膝を付いて、改めて臣下の礼をとる二人に内心苦笑しながら、ノリノリで返しておく。

堅っくるしくやってんだから、なぁ。


だ・が・な・!


ここで終わらないのが俺だ。


「お前ら、そのままじっとしてろよ」


「構いませんが、なんでしょう?」


「……まさかっ」


お、勘が鋭いじゃないか瑪瑙。

ゆっくりと二人の後ろに回り込んで、ポケットからあるモノを取り出す。

チリン、となる鈴がキュートだぜ!


山百合には、オシャレに見えなくないバンドっぽいのを、瑪瑙には、がっつりなのを。

赤い鈴付きの首輪を、それぞれつけてやった。


「これは……」


「……あぁ……」


二人の前に戻り、眺める。

白犬にも黒猫にも似合うように、赤い首輪が映えて、かなりイイ。

堪らんね、全く以て。

動物に付けるのとは違って、言い知れぬこの征服感。

二人が確認で首輪を触っただけで、ゾクゾクした。


全身に駆け巡る独占欲。

二人の刺青だけでも十分に駆り立てたのに、尚、天元突破しやがった。


ごめん、もう無理だわー。


「山百合、瑪瑙」


「……はぃっ。……謹んで、お相手を、務めさせて頂きますぅ……っ」


「……はぁっ、喜んでっ、……んっ、ご主人様の捌け口になりましょうっ!」


……やっぱりこうなった……。






   ★ ★ ★






そして夜。


Side 三人称


この部屋で寝るのも、これで最後かもしれないな。

と、少しだけ感慨深い様子で部屋を見渡す陽。


「どうか、したの?」


「いや、別に。大したことはねぇさ」


「ふぅん」


そんな彼に、背中への重みと共に、心配の言葉が掛けられる。

条件反射の如く、女性の象徴の感触がないことから、陽は瑪瑙だと判断してしまう。

……現時点でこうして密着できるのは、腹心であり、腕である山百合と瑪瑙だけであり、山百合が夜になる前に出て行った事実は知っている筈なのだが。


(……可哀想にな……)


と、陽自身がないことでわかってしまった為に、不憫に思ってしまう。


「ちょっと、余計なこと考えていないでしょうね」


「かんがへてなひっつの」


瑪瑙は陽の左肩に頭を乗せて、右腕は逆肩に回し、左手では頬を抓る。

別段痛い強さではなく、それほど怒ってはいないようだ。

……相手が陽だから、という理由が大いにあるだろうが。


「どーせ貧乳とか考えてたんでしょ。わかってるんだから」


「じゃあ聞くなよ」


「……ホントに考えてたのね」


少しトーンの落ちた声を聞いて、鎌をかけられたことに陽は気付く。

だからといって今更別に大したことではないようで、どちらも動く気配はなかった。


「でも、……大きく、してくれるのよね?」


「ふっ。さて、どうだか」


どうやら以前、陽の煽る為の言葉を瑪瑙は覚えていたらしく、言質をも取ろうとしおらしく振る舞う。

だが、揉んで大きくしてやる、というのはまさに方便で、その行為に科学的根拠は一切ない。

……それさえもキチンと知り得ながら甘味を与える彼は、流石のペテン師だろう。


しかしながら、陽は悪人だが、家族にまで悪を以て対する訳ではない。

そもそも、彼にとっては大きいかろうが小さかろうがはどっちでもいいのだ。

どちらにしても、愛でるだけなのだから。


つまりは、素っ気ない様でも揉んでやることは吝かではない、ということである。


「わかったわよ。だったら、こうする」


「…………」


だが、陽から行動に移すことはない。

求められたら応じる、というのが、二人に対しての基本的なスタンスであるからだ。

……彼自身が我慢出来なくなる例は多々あるが。


そういう訳で、瑪瑙は動き始める。

それ以降に言葉を減らし、はむっと、陽の左耳を唇で啄む。

残念ながら、耳は彼の性感帯ではない。

それは彼女も知り得ている。

それなのに無駄とも言えることをするのには、効果がない訳ではないことを知っているからだ。


女性は、聴覚からも快感を得られるという。

事実、山百合も瑪瑙もそうだ。

かといって、女性だけがそうだとも限らない。

言ってしまえば、男でも真性でマゾ気質ならば効果はあることだろう。

だが、彼はMでないので、快感を得ることはない。


かといって、耳からの情報に興奮しない、ということではないのだ。

艶のある吐息を洩らされたら、わざと音を立てながら、吸ったり舐められたりしたら、健全な男子なら誰でも高ぶるだろう。

それが耳元で行われるならば尚更のこと。


つまり、だ。


その気にさせようと、陽の耳を犯すように口に含みつつ、右手で自慰を行う瑪瑙に、欲情してしまうのもおかしくはない、ということだ。


「……ぁむ……ふっ、ん……。ちぅ……ちゅく……んんっ!」


「……おいおい。誘っといて自分で興奮してんじゃねぇよ」


「らってぇ……ご主人様がなかなか、興奮してくれないからぁ……はぁんっ……!」


陽は内心、細く笑む。

こうしてド壷に嵌っていく瑪瑙が、可愛くて堪らないのだ。

こうも苛めがいがあると、弄りたくて可愛がりたくなる、というのが彼の心情である。


と、いう訳で。

陽は振り向き様に、瑪瑙を優しく押し倒して――


「瑪瑙」


「……ぁ、はい……っ」


「好きだぜ」


――優しいキスから始めた。




   ★ ★ ★




明くる朝……。


未だ日の昇らない、朝と言うには些か微妙な時間に、陽は目を醒ます。

何時も通りの朝の早さである。

故に、陽の隣で寝る瑪瑙がまだ眠りから醒めてないのも仕方がないだろう。


「くー……ん、ぅ。くー」


「……可愛いじゃねぇか」


無防備に寝息を立てる瑪瑙を見ての、一言。

安心しきった子供のような寝顔が、陽の保護欲を駆り立てる。

邪な感情でもないので抑える必要性はなく、彼は、自身と向かい合うように寝る彼女の解かれている長い髪を、優しく梳く。

……内心では、しばらく会えないのだからこれぐらいは、という優しい理屈もあったのだが。



兎も角、今でいう十分もそれを続けていたのはやり過ぎと言えるだろうが。


「さ、いくかなー」


首をコキコキと鳴らせながら、末端の神経まで力を巡らせる。

陽にとってはこの行為、つまりは完璧に身体操作を行えるようにすることから1日は始まる。

これこそが生命線となるのだから、一切の妥協はない。

最後にぐっ、と背筋を伸ばし、静かに息を吐き出しながら、腕を下ろす。


「じゃ、瑪瑙、いってくる。薊さんは頼んだよ、俺の左腕」


寝台に今一度腰掛けて瑪瑙の頭を撫でて、頬にキスをする。

まるで恋人同士の仕草だが、それではなく。

更には天然でその行為をするのだから恐ろしい。


「んん……ご……しゅじ……さ、ま……すぅー」


「またな」


そう言葉を残し、今まで殆ど使わなかった自分の槍と、肩掛け程度の荷物を持って、部屋から出て行った。






「人のこと、もう少し考えなさいよね」


一人、寝台の上で呟く。

……苦言っぽいことをを言いはするものの、頬は緩みきっていたりするが。


「渡す物渡したし、もう会えないって、訳じゃ、あれ……?」


仰向けになって寝転がり、手を頭の後ろで組みながら、まるで言い訳をするように言葉を紡ぐ。

だからこそ、堪えきれなかったのだろう。


「なんでボク、泣いて……っ! べっ、別に寂しくなんて」


口に出してしまったが故に、涙も共に出てしまう。


「……ご主人様ぁ……」


右腕で目を覆い、親に甘える子供のように小さく囁いた。






   ★ ★ ★






それから半刻程経ち……。


陽と、案内役として山百合が、とある森を訪れていた。



「はー、ここが、か」


「はい」


「成る程、牡丹が好きそうな場所だ」


ただ、小さな湖のある、何の変哲もない森に、陽は納得の様子でその評価をつける。

……判断材料が、自分も好きだから、という理由なのだが。


「で、これが」


「はい。白狼様……成公英様の、本当のお墓です」


「そうか」


大樹の傍らに、大きめの石が置かれているのを見て、成る程、と陽は思う。

初見で異質な樹だということを、一種のシンパシーのような感覚と、久しぶりの左目に走った痛みで彼は見抜いていた。

成公英もまた、この感覚に惹かれたのだろう、と手に取るように分かったのだ。


「陽様……?」


「ん、あぁ。掘るか」


「はい」


それ以降の思考は止め、牡丹の遺骨を埋める為の穴を掘り始めた。





「これでよし、と」


「…………はい」


「泣くなよ、山百合」


「分かって、おります」


陽の隣で同じようにしゃがみ込み、今まさに牡丹の墓となった場所を見つめる山百合。

現代でいう納骨を終えた訳だが、やはり牡丹への思い入れの強い彼女にとっては辛いらしい。

そんな彼女の頭を、陽は優しく撫でる。


「これで暫く会えないとなると、少し……」


「確かにそうかもな」


陽自身も西涼を離れるので、山百合の気持ちが半分わかる。

同じく、牡丹から離れることを悲しんでいるのだから。

だが、彼女にとっては、陽という新たな主との離別も今回は含んでいるのだ。

この気持ちは、瑪瑙ならば理解できることだろう。


而して、山百合は悩んでいた。

ここでアプローチするか否かを、だ。


牡丹が死ぬ前までならば、お墓の前でふしだらだ、とスパッと切り捨てたはずだ。

というより、この悩みさえ浮かばなかったことだろう。


だが、今は違う。

陽という黒に触れてしまった山百合は、自分の色を保ちつつも、明らかに染まってきている。

それが良いことか悪いことかと問えば、女としても人としても、良い兆候である。

彼女の根底の、依存に近い忠誠心も薄れず残っているので、軍人としても悪くない。

よって、かなり完璧に近い程に成熟している状態だ。


強いて悪いところを挙げるすれば、愛とエロスと奉仕に対する価値が異様に上がったことであろうか。

今までにない嫉妬の感情が芽生え、陽を(性的に)楽しませるには、ということを考えて装飾の知識を少なからず吸収したり、(性的な)技術を磨いたり。

……女の子らしさの行き過ぎ、と言えなくもないレベルではあるが。


とりあえず、少なくともお墓の前で、アプローチという名のえっちぃことを考えているのは行き過ぎだろう。


「山百合?」


「――ッ! ぁぅ……っ」


「……おいおい」


そんな桃色な考えに耽っていたせいで、陽が心配で顔を覗いただけで赤面し、慌てて手で顔を覆う山百合。

生憎、鈍感ではない彼は呆れてしまった

が、良いことを思い付いたと言わんばかりの卑しい笑みを直ぐに浮かべる。


「何だよ山百合。牡丹の前でしたいってなら、そう言えばいいじゃねぇか」


「ぁ、ゃ、そんな、違います! 私はそんなことっ!」


「俺は嘘吐きは嫌いだぜ?」


「陽様が、んっ! 一番の嘘吐きの……くせにぃっ」


陽は、弄る要素を見つけたら、みすみす手放す気のない、本気でドSな奴である。

わざわざ耳元の触れるかどうかの辺りで囁くところがまたいやらしい。

耳にかかる息が、山百合を感じさせる。


「俺は嘘吐きの自分が嫌いだからいーの。さぁ、素直になったらどうだ?」


「私は……、でもっ! こんな、駄目っ」


「何がダメなんだ? 墓の前だからか、ん?」


「ひぁっ! 耳、噛んじゃぁ……っ!」


「今更だろう? 頭によぎった時点で、山百合はいけない子なんだから」


苛めたくてしょうがない陽は、山百合の耳を甘噛みする。

加えて言葉で聴覚からも刺激して、道徳心という枷を外していく。

……この、たがを緩ませる行為が、過去に彼女をえっちぃ子にさせた原因であるのだが。


「……ぁぅ……、私は、山百合はいけない子……」


「じゃ、いけない子には?」


「おしおき、でs――おっ、お仕置き……っ」


「当たり〜」


なかなか、誘導尋問に近い手口である。

第三者がここにいれば、清々しい程の満面の笑みで答える陽が、とても最低な野郎に見えることだろう。


「山百合」


「ぁ、陽様……。不肖の私に、お仕置き、して下さいっ」


「たっぷり躾てやんよ」


流石の陽も、墓の前でコトをする程に最低でないらしい。

加えて、独占欲の強い為に、自分だけの女の身体をさらさら見せる気はない。

……わざと見せるようにやっても、ギリギリで絶対に見せなかったりする。


兎に角、陽は山百合を抱き上げて、茂みに入っていった。




   ★ ★ ★




Side 陽


再び牡丹と成公英の墓の前に戻った俺達。


「そろそろ、いくよ」


間諜も集まってきたし、そろそろ入水するかー。


「……山百合、小刀持ってたよな?」


「……えぇ。どうぞ」


「ありがとう」


山百合から借りた、忍とかが持ってるクナイみたいなのを、後ろ首にあてがう。

間諜を含めた皆から驚いた視線を浴びる。

いや、なんで後ろ首で驚くよ。

ここは斬らねーよ。

そんなだったら動脈斬った方が効率良いだろ。


それはおいといて。


左手で後ろ髪を纏めて、一気に切り裂く。

これで、過去の自分、馬白とは暫くお別れだ。


切った髪を、髪で纏める。

昔、というか未来で武士が死ぬときに丁髷切った後にすることと同じようにしたのだ。


「これ、薊さんに渡しとけ」


「……分かりました」


死んだ証として、な。


服もそのままに、墓とは反対側にある湖に入っていく。


「……馬白様っ!」


「すまんな、山百合。やっぱり母さんは捨てられん」


これが演技じゃなけりゃ、絶対に山百合は追っかけてきたことだろう。

山百合も、それぐらい牡丹と俺が大切だからだ。

……縋る対象だからな。


おいおい、それは演技か?

泣くなよー。


「…………」


それ以上は振り返ることなく、じゃばじゃば音を立てながら入っていく。

冷てーなー。



   ★ ★ ★



「死ぬかと、思った!」


この時代だ、十分も沈んでたら、死んだって判断するだろう。

服を着たまま、対岸まで泳ぎ切った俺は頑張った!

息はどうしたって?

前に、俺の子飼いの間諜が忍者ルックだって言ったよな。

あれは別にルックスだけじゃなく、少なからずそれに近づけられるものは持ってるのさ!


例えば、今使った、細い竹の中心に穴を開けて、水に入っても、反対側の穴を外に出すことで息が出来るようにするやつとか、な。

でも、正直苦しいね。

あんまり上手く吸えなくて死ぬかと思った。

それに、外にバレないように警戒しなあかんから、大々的に竹を出したらいかんし。


さて、と。

眼帯をめくりあげて、山百合を見る。

まだ、泣いてる……ふり、なのか?

ま、後でなでなでしてやるか。


間諜は、四分の三は帰ったな。

死んだって判断して、無駄だと思ったんだろう。

ばーか。

残りは、山百合に対する奴ら、三人か。

この距離でも余裕だな。


五割の殺気を、山百合に向かって放つ。


流石に、自分に意識が向かってない奴に殺気を送るのは結構難しいのだ。

……拡散タイプなら、限定しないので簡単だけど。

だが、山百合に視線を向けている奴らなら、山百合を経由すれば割と簡単なのだ。

無論、これは俺の一部で、リンクできる山百合と瑪瑙にしか出来んがな。


俺の殺気に合わせた山百合の気合たりで、不意を打たれた間諜の意識を飛ばしてしまう。

ま、五割も使ったんだから当然だがな。





「いきなり、痛いですよ」


「すまん。出し抜くにはこれしかなかった」


「んっ♪」


湖を迂回して、また牡丹の墓の前。

着いたら若干怒ってる山百合がいたので、宣言通り撫でてやった。

そしたら、ほら、機嫌が直ったよ。


不意に、ガサガサと草木をかき分けるような音がした。

見やれば、俺の愛馬の黒兎だった。


「おろ、黒兎。……ごめんな、待たせたか」


首を撫でて謝る。

そしたら、ぶるっと。

ちょっと長い、って言われた。

確かに時間かけすぎだな。


予め黒兎に預けておいた荷物を取り出す。


似非忍者ルック道具パート2、鎖帷子~。

パート3、クナイ~。

パート4……じゃない、鉄甲?

しかも、俺の神髄の、関節を阻害しない造りだ。


「あ、それは、瑪瑙ちゃんの」


「……気が利くな」


心で感謝しておく。


「陽様、私からはこれを」


「懐剣?」


「はい。私は剣を、瑪瑙ちゃんは盾を。私達の代わりとしてお持ち下さい」


「さんくー」


服をぶわっと脱いで、スキニーなロングパンツにちょいと重いブーツ、鎖帷子に適当なシャツをぐわっと着る。

最後に黒いロングコートを羽織って、クナイやらを内ポケットみたいなとこに突っ込む。

詳しくこいつの性能を説明するのは今度だ。

とりあえず、重い。


んで、山百合から懐剣を受け取って内ポケットへ。


「髪さえ直せば完璧です」


「……まぁ、事実として受け止めるよ」


ちょっと気を使って欲しかった。

きれーな笑顔だから許すけど。


「翠様と蒲公英ちゃんに、宜しくお伝え下さい」


「あぁ。ま、遅くなりそうだがな」


これは俺の個人的な理由で、だが。


って、おっと。

山百合が抱き付いてきた。


「陽様と離れたくないと未だに思う未練がましい私に、今一度、お言葉を下さい」


「山百合に命ずる、――――」



   ★ ★ ★



「いってらっしゃいませ」


仰々しく頭を下げる山百合を、黒兎の上から見つめる。

そして、牡丹の墓を見る。



『いってらっしゃい』


牡丹が、にこやかに語り掛けてきた。



……一瞬、悪い夢を見た気がしたが、スルーだ。



「じゃ、行ってきます」





さらば西涼。

いつか帰る日まで。










陽は語る。


「何時帰ろう」




節操なしに見えてしまいそうですが、愛するのは一人だけでござる。

ハーレム主人公みたく、平等に愛するとか豪語しません。


ですが、認めましょう。

陽君は変態です。






しかし、やっと折り返し(?)か……。


「なっがいわね~」


仕方ない。

西涼ルートはないんだから、自分で展開考えないとあかん分、ムズいのよ。


「言い訳は見苦しいわよ?」


それに、別伝も書こうかなー、なんて思ったりしてしまって。


「……テメェ、舐めてんのか」


牡丹さん活躍するよ?

主に、三傑についての伝だから。


「…………(迷い)。それは、読者が決めることじゃない?」


おぉ、まとも!


「殺すぞ、ゴルァ!」


ひいぃー!!





おしまい☆





まぁ、本当に書くとしたら。


『真・恋姫†無双 ~ドキッ! オリキャラだらけの後漢後期~』


という三次小説になりますね。


原作キャラ、ギリギリ三人でるぐらい。

年齢的におば――スパンッ!スパンッ!ドッカァン!――Oh……。


若いんで、実質オリキャラみたいなもんですが。


どうでしょう?




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