第五十三話
3日振りです。
相変わらずの進まなさ。
――――――注意――――――
R―15要素あり。
別に(ry
ただ、前回より、ちょっと激しい。
――――――――――――――
「姓名は閻行、字は彦明、真名は瑪瑙。
詳しい出生は不明。六つの時に、宦官らの策略に巻き込まれる形で賊に誘拐される。無事救出されるが、男性恐怖症を生んでしまう。その後は韓遂の養子として引き取られる。
実にズバズバとものを言うので、心が弱い奴は結構へこむ。罵倒している印象が強い為、Sっ気が強いと思われがち。事実は俺の近しい取り巻き達だけしか知らない。
文武に富むが、どちらかと言えば武に重きがおかれる。力自慢の馬超に勝てる程。
あと、馬超と仲が良い」
Side 陽
いやっほーい。
やぁ、俺様、陽様!
皆さん、元気かい?
俺様ちゃんは凄い元気!
え、この前は元気じゃないって言っていたって?
そんな馬鹿な。
この俺がそんなこと言うはずないじゃない。
冗談は良くないぜ、皆。
まぁ、んなこたぁどうでもいいんだよ。
大事なのは今だからな。
過去は気にすんな。
今、俺は街中を闊歩しておるのです。
最高だね、うん。
外の空気マジ美味しい。
別に部屋が嫌いな訳じゃない。
俺好みに部屋模様を変えてんだから不満はねぇさ。
でも、ずっと閉じこもってたら流石に飽きる。
しかも、自由が利かない。
飯も作れない。
……これってどうよ。
人権侵害だろー。
軟禁状態(笑)だから仕方ないんだけどもさ。
ま、それを考慮してくれた薊さんのお蔭で、今俺は街にいるんだけどね。
薊さんマジ天使。
ただ、ねぇ……。
「…………なによ」
……出来ればコイツを付けて欲しくなかった。
完全に意図的だろ。
応えてやらんことも、ないこともないこともなくなくないんだが、それは向こうからきた時だけだ。
俺からはいかねー。
それが、最後の一線さ。
★ ★ ★
Side 三人称
「おう、山百合。無事、結ばれたようじゃな」
「……薊様。えっと、……どうなんでしょうか?」
疑問で答える山百合に、疑問を感じる薊。
女の勘というやつであろうか。
陽と山百合に関係ができたことは何となく薊は分かっていた。
むしろ、ほぼ確信的と言っても良いかもしれない。
だからこそ、山百合の戸惑いに近い反応を訝るのである。
「身体は重ねたじゃろう?」
「……もう少し慎ましやかにお願いしますよ。……その、事実ではありますが……」
「やはり、結ばれておるではないか」
「……そう、でしょうか」
事実であるのに、未だ疑うような山百合に、少し腹立たしく思う薊。
今は娘思いの過保護な母親モードの薊である。
「ズッコンバッコン、うっふんあっはんヤったのじゃろう!? それが結ばれたと確信できないのはどうしてじゃ! 儂の娘が、娘がどんな思いでっ!」
「……お、落ち着いて下さい! その、表現がひっ、卑猥過ぎますっ!」
親バカモードに突入した薊を必死に宥める山百合。
牡丹がいないのに、相変わらずの苦労人ぷりの山百合だった。
「……えっと、ですね。先ずは聞いて下さい」
「………………」
机を挟んで椅子に座って相対する山百合と薊。
一応、抑えてはもらえたが、未だ親バカモードの薊を伺いながら、口を開いた。
「……た、確かに陽様とは、じょ、情をかっ交わして……っ。えっと、……とてもたっ、逞しかったですぅ……っ!」
「………………」
頭から湯気がでるほど、顔を真っ赤にする山百合。
それを見つめる目は、聞いてねぇよ、みたいな目だ。
そんな冷たい目に、はっとなり、咳払いをする。
「……おほん。しかし、結ばれた、というには少し、違う気がするのです」
「どういうことじゃ? パコパコとハメ――「……後生ですからそれ以上は!」――む。それで、何が違うというのじゃ」
「……それは、ですね。……先ず、結ばれた、とは何でしょうか?」
「さっきから言うておろう。男と女が肉体的な関係を持つことじゃろうて」
要点を押さえない山百合を益々訝る薊。
あまり、遠回しにものを言わない山百合がわざわざ時間を掛けているのだから当然であろう。
「……そう、そこです。私が考えているのは、男と女、というところです」
「……はぁ?」
どんどん意味が分からなくなってくる薊。
「……多分、ですが。陽様は私を"陽様の一部"と、見ていると思うのです」
「…………?」
陽と山百合。
二人の関係は少し歪だ。
故に、混乱するのは仕方のないことだった。
「……陽様は言いました、俺の右腕になれ、と。これは本当にそのままの意味だったと思うのです」
「ふむ」
「……予想なのですが、陽様にとっての私は、一個人の私であり、同時に陽様の二本目の右腕なのです」
「と言うことは、……まさか!」
適当に相槌を打っていたが、山百合の口から出される事の先を予想し、顔を青ざめる薊。
「……はい。女の私を抱く、というより、"自分の一部"を愛でているような感覚なのだと思います」
「な、なんと」
山百合は予想と言ったが、本当は分かっていた。
確かに、陽が女の部分に惹かれているところもあるが、陽自身の一部である、という要素の方が大きいことを。
しかし、山百合にとって見れば、そこは別段気にするところではなかった。
確かに、山百合は陽が好きだ。
たまらなく愛おしい程、好きで好きで仕方がない。
ただ、それが情欲に還元する訳ではない。
陽への惜しみない愛情は、須く忠義、という形なって還元されるのだ。
山百合には、
"ただただ、主たる陽に尽くしたい。"
――その思いしかない。
その中で、陽が身体を望むなら、喜んで捧げる。
これも、尽くすということであるから。
ただ、山百合にも心はあるので、欲しいときは欲しいという。
これが、陽と山百合の関係。
「……つらく、ないのか?」
「……辛い、ですか? 愚問ですよ、薊様。私は、幸せです」
「本当か?」
「……はい。私は生涯の主に出会ったのです。それだけでも幸せだというのに、陽様は女としての私に、尽くす喜びを与えくれるのです。これ以上の幸せは有り得ません」
にっこりと笑う山百合に、薊は絶句する。
薊の知る山百合――多くは語らず、無表情――の面影が、どこにも見当たらなかったからだ。
何時の間に此処まで惚れ込ませたんじゃ。
と、心で呟き、娘の行く末を更に心配することとなった薊だった。
★ ★ ★
Side 瑪瑙
……はぁ。
あ、また溜め息がでちゃった。
閻行こと瑪瑙よ。
悩みの種は、言わずもがな。
前を歩くこの馬鹿……陽。
街中を闊歩するかのように回る格好が何故か様になる。
周りも、陽を見ようと、結構集まってる。
……みんな笑顔だ。
これが求心力っていうの?
そんなことはおいといて。
偶にこっちを見るのは止めて欲しいわ。
……あんまり、面倒くさい、みたいな目で見て欲しくない。
でも、距離を見て、歩く速度を落としてくれるから、はっきり言いにくいのよ。
べっ、別に嬉しいとか、そういう訳じゃないんだから!
あっ、また速度を落としてくれた。
………………嬉しい。
はっ!
ちょっとだけなんだからね!
ホントに、ちょびっと、ごく小さく、ちょこっとだけなんだからっ!!
「で、何してんの」
「ん〜、お茶?」
「見ればわかるわよ!」
全く、茶化してるのかしら。
「歩いた。疲れた。お茶。……理解した?」
「……もういいわ」
呆れて座り直す。
陽の言うとおり、久々に歩いて、子供たちに揉みくちゃにされ、疲れたから、休憩、ということ。
勿論、ボクも付き合わされたわよ……。
「やっぱ、甘味には苦い茶が良いなぁ〜」
こっちの気も知らないで、和む陽。
腹立たしい、けど、……ちょっと、嬉しい。
ボクにこんな和やかな顔を見せてくれることが。
……はっ!
ちょっと、よ!
ホントにちょっぴりなんだからね!
「瑪瑙、食わんのか?」
「言われなくても食べるわよ、馬鹿!」
「はいはい、さいですか」
……ぁ、また馬鹿って。
おどけるように肩を落とす陽。
あーっ、なんなのよっ!
大福(だったっけ?)を口につめこむ。
「……んぐっ!」
あっ、喉に……!
「馬鹿っ!」
っ、くるしっ……!
助けっ……陽っ!
「口、ちょっと開け」
言われるがままにすれば、唇に柔らかい感触、次に口にほんのり暖かいものが入ってくる。
これは、……お茶?
「んっく……! ……っ、はあ、はあっ!」
「お、無事に流し込めたか」
何時の間にか、向かい側にいた陽が隣にいた。
「ったく、こいつはよく噛めっていったろ」
「ご、ごめん」
悪態を吐く陽に謝る。
今のはボクが全面的に悪いし。
……でも、あれ?
ボク、どうやってお茶を?
それに、あの柔らかいのは?
「あ、そういや、初めてだったか? まぁ、あの状況じゃあ、口移ししかなかったし。俺の唇を貰えたことに感謝しな」
口移し……?
俺の唇……!
ま、まさか!
さっきのお茶は!
「な、な、な……!!」
「あ、もひとつ手があったな。詰まった餅を吸い上げる、って方法がな。……そっちが良かったか?」
ニヤニヤと、卑しい感じで陽は笑う。
そんなの、知らない。
だって、ボクの初めて……。
色気も欠片もないよ……。
「馬鹿っ、バカっ、ばかぁ、……グスッ」
「え……、はぁ!? ちょ、泣くなよ!」
我慢しても溢れてくるんだから仕方ないじゃない!
慌てるけど、知らない!
★ ★ ★
「オーケー、わかった。キスしたこと、……じゃなくて、からかって悪かった。だから、泣かないでくれたまえよ」
「……ふん」
未だに困ってる陽だけど、無視だ。
せいぜいもっと困りなさい!
……でも、手を引いて店から連れ出してくれたのは、ちょっと、ドキドキしたかもっ
「……っ! ちょっ、なに……っ!?」
「綺麗な顔が台無しだぞ。……な〜んて言った方が良いか?」
「う、うううるさいっ! 早く離しなさいよっ!」
ボクの頬に手を添えて、目尻の涙を拭う。
よくこんな恥ずかしい……っ!
でも、自分で赤くなってるのがわかるぐらい、……ドキドキしてる。
「はいはい、わかりましたよ」
「……あっ……」
……すぐに離さなくたって良いのにさ。
「……ちょっと待て」
「な、何……っ!?」
今度は両手で顔を包んで、目を覗きこんでくる。
うわわわわ……っ!!
ちっ、近い!
顔が近くてっ、こんなの、いやっ!
あっ、だけど、このままでも……っ。
「……ハァ。お前、何時までそうしてるつもりだ?」
「…………ぇ?」
陽の冷たい目に、一気に熱が退いた。
「俺は、玉ってあんまり好きじゃないんだ」
「っ……! それって、どういう」
ボクの真名は瑪瑙。
瑪瑙っていうのは、玉の一種。
ということだから……。
「まぁ、別に玉自体が嫌いな訳じゃあないさ。綺麗なのは確かだからな」
「……! ふんっ」
こっちを向いて、ニッと陽は笑う。
べっ、別にボクが嫌いとか、そんなこと考えた訳じゃないんだからっ!
「俺は太陽が嫌いだ。腹立たしい、鬱陶しい、忌々しい」
「…………」
本当に憎々しいと言わんばかりの目つきで、陽は天上の太陽を睨む。
自分の真名が陽だっていうのに、なんでなの?
ボク自身、瑪瑙は好きだし、逆に真名も気に入ってるのに。
「俺は、比べられるのが嫌いなんだ。俺は俺だ。確固たる、一個人だ。だからこそ、俺は比較対象たる太陽が嫌いなんだよ。しかも、上にいるような様がさらに苛立たせる」
「……傲慢ね」
どうしようもないぐらいに。
それに、自分勝手。
嫌いな癖に自分で勝手に比べて、勝手にイラついているだけ。
……でもそれは、皆が皆、できることじゃない。
ずっと、我が道を歩くことなんて、出来ない。
でも、そんな陽に、ボクは――。
「知ってるか? 花が咲くのも、玉が輝くのも、みんな太陽の御陰なんだぜ?」
「そうなの?」
懐を探って、陽は赤い玉を取り出す。
それを太陽に翳してみせる。
さっきより輝いて見えるわね。
「あぁ。説明しろって言われてもしようがないからしないけどな。兎に角、光があるから輝く。世界は色付くんだ」
「…………」
それは凄いことでしょ?
なのに、どうしてそんなに苛立たしげなの?
「だから、ムカつく。あれが、あれだけが輝かせてる訳じゃねぇ、命を吹き込んでる訳じゃねぇんだ」
ますます、わからない。
何に怒っているのか。
何が言いたいのか。
「わからねぇ、って顔だな。まぁ、兎に角。あれの恩恵を受けてるもんはあんまり好まねぇ、ってこった」
「ふ〜ん」
玉を好かない理由はわかった。
嫌いな太陽が輝かせるから、嫌いなんだって。
でも、肝心なことは何も――
「で、だ。……お前は、いつ輝くんだ、瑪瑙」
「……ぇ……?」
――唐突だった。
いきなり、不意に、核心を突いてきた。
「……なっ、何よ!? どういうっ!」
「山百合は見出したぞ。自分が輝ける、花開ける道を」
「そんなこと……!」
そんなことは知っているわ!
見ればわかるもの。
別に動きとか、そういうのが変わった訳じゃないけど。
なんて言ったらいいかわからないけど。
いきいきとしてるの。
……正直、それに憧れているボクがいることだってわかってる。
でも……。
「意志を見せろよ瑪瑙。流されるだけじゃ、与えられたものだけじゃ駄目だと知れ」
「…………っ」
それだけ言って、陽は立ち去ってしまう。
……言い返せなかった。
紛れもない事実だったから。
「ボクだって、そんなの、わかってるよぉ……!」
な、泣いてなんかいないんだからねっ!
★ ★ ★
Side 三人称
「……陽様は一人で帰ってきましたが、どうか……しましたよね」
「うっ……!」
瑪瑙の顔を見て、山百合は首を傾げて苦笑いをする。
見抜かれたことと、純粋に仕事を忘れていたことに、瑪瑙は軽く呻いた。
「……女の子を泣かせるなんて、酷いですよね、陽様は」
「いいんです。……ボクが悪いんだから」
相変わらず苦笑いを浮かべながら、山百合は話す。
その余裕を感じさせる仕草に暗い感情が沸く瑪瑙だったが、自分を納得させるように首を何度か振った。
「……確かに、そうですね」
「――――っ!」
「……陽様も陽様ですが、瑪瑙ちゃんも然りですよ」
スッと真面目な顔になり、真っ直ぐに答える山百合に、瑪瑙は言い知れぬ怒りを覚えた。
自分で気付けたことだが、人に指摘される――しかも相手は、恋敵とも呼べる存在――のは許せなかったのだ。
それを悟っていた山百合は、瑪瑙を優しく抱き留めた。
「……ぇ……?」
「……蒲公英ちゃんであろうと、私であろうと、人の恋路の邪魔はしません。否、できません。蒲公英ちゃんのは蒲公英ちゃんのであるし、私のは私のなのですから」
山百合は抱いたまま、瑪瑙の耳元で囁くように言葉を紡ぐ。
その考え方は陽の物で、山百合自身もその影響を受けている。
「……拒絶されるのは恐ろしいです。ですが、それを乗り越えなければ始まりませんよ」
「……うん」
「……人間、素直が一番です。陽様みたいな屈折に屈折を重ねて、曲がりに曲がった性格の方には特に、です」
「そう、ですね♪」
両肩に手を置いて、満面の笑みを浮かべる山百合。
対する瑪瑙も、晴れやかに笑うのだった。
「……あ、敬語は禁止ですよ? 私と貴女は対等なのですからね」
「そういう山百合さんは、敬語じゃないでs……じゃない」
「……これは仕様です」
「いや、そんな決め顔で言われても……」
キリッという効果音がでそうな表情で言う山百合に、瑪瑙は呆れた。
★ ★ ★
「ボクはアンタが好きっ! ボクはアンタが欲しいっ!」
「…………はぁ?」
顔を真っ赤にして、叫ぶように思いを伝える瑪瑙。
対する陽は、座ったまま阿呆を見ているような顔である。
なかなかに酷い。
「お前、何を言ったのかわかってんの?」
「……っ……」
机に右肘をついて剣呑な目つきで、陽は瑪瑙を見る。
その目線と言葉に羞恥を覚えたのか、瑪瑙はもっと顔を赤らめる。
……睨んでいるような目には気付いていないようだ。
「戻ってこんかい、どアホ」
「いっ! ちょっ、なにすんのよっ! 痛いじゃない!」
「てめーの事情なんざ知るか」
見かねた陽は、近くにあった書簡を一つ、瑪瑙めがけて投げた。
パカッ、と良い音を立てたおでこを、瑪瑙は涙目でさする。
が、相変わらず陽の目は冷たかった。
「もう一度聞く。お前、何を言ったのかわかってんのか?」
「わっ、わかってるわよばか! 何度も言わせないでよ……」
「いや、絶っ対分かってないな。……お前が言ったのは、俺を奪う、ってことだぞ」
「…………はぇ?」
キョトンとする瑪瑙に、陽は呆れた。
「あのなぁ、俺は俺のもんだ。誰にも譲らねぇし、誰にも渡さねぇ。それを、お前は欲しい、と言った。……お前は喧嘩を売ったに等しいんだよ」
「はぁっ!? なんでそうなんのよっ! ボクはただ、……好きって……」
「あぁ、知ってるさ。それぐらい見抜けなきゃ、軍師なんかやってねぇって」
腕を軽く広げ、手のひらを上に向けて、肩を落とす陽。
そのおどけた様子に、瑪瑙は羞恥と怒りで一杯になった。
「けどな、到底受け入れられねぇな。俺を奪う宣言した奴なんか、な」
「だから、それは言葉の文ってやつでっ!」
「……いい加減、気付け馬鹿」
「いたっ! 何すん……ぇ?」
陽は瑪瑙に近付いて、でこピンする。
そして、抱き締めた。
「別にお前の気持ちに応えてやるのは吝かでもねぇ。お前は嫌いじゃないしな」
「……うっ……」
「だが、それはお前主体じゃねぇんだよ。……ここまで言えば、わかるな?」
「……うん……っ」
陽は瑪瑙の耳元で、優しく囁いてやる。
瑪瑙が顔を真っ赤にしているのはお構いなしで、だ。
「……陽、ボクをアンタのモノにしてっ!」
「…………う〜ん」
なんだかなぁ、と陽は思う。
さっきから本気度は測れているのだが、なんとなく引っ掛かるものがあった。
……美女である瑪瑙の告白に、まだ物足りないと言うのだから、陽の強欲さが見て取れよう。
「きゃっ! ちょっとなに、……んむっ!」
瑪瑙を抱き上げて長椅子に寝転がし、そこへ跨がるようにして瑪瑙の上を陣取り、陽は唇を奪った。
「……は、……ふむっ……ちゅ…んふっ……ぁっ」
啄むキスだけで唇を離し、陽は物足りなさげな顔の瑪瑙を見つめる。
その先にある潤んだ瞳が、陽の嗜虐心を刺激した。
「なんだ、瑪瑙。もっとして欲しかったのか?」
「べっ、別にそんなこと……!」
「そうかぁ? そんな顔してたけどなぁ」
「してないもん!」
「……へぇ、そうか」
子供らしい反応に愛らしさを覚えた陽は目を細め、薄く笑う。
対する瑪瑙は、赤くなっている頬を膨らませていた。
……内心、うるさいぐらいに心臓が高鳴っているのだが。
「そういう、あ、アンタの方が、ししっ、したいんじゃないのかしら?」
「さぁ、どうだろうねぇ?」
自分がこんなにドキドキしているのに、まだまだ余裕を見せる陽が許せない瑪瑙は、必死に強がってみせる。
……その行為が、陽の嗜虐心をさらに煽っているとは知らずに。
逆に、ニヤリ、と黒く笑う陽に瑪瑙は、更に高まるモノを感じていた。
「……なぁ、瑪瑙?」
「……ぅぁ……」
「そろそろ、素直になってみたらどうだ?」
陽は顔を近づけて、耳元で囁いてみせる。
……勘に近いものだが、この行為に弱いと陽は気づいていた。
「どうされたい? もう一度キスか? 抱擁か? それとも、
――苛めて欲しいか?」
「……ぁ……ぁあっ!」
「ほら、言ってみろよ。今なら聞き入れてやってもいいぞ? さぁ、欲望のままに。思うがままに。――吐き出せ」
一つ一つの言葉に、快感を覚えていく瑪瑙。
それを見透かした陽は、自覚なしで働く自制心という枷を外していく。
そして、その最後鍵を開いた途端、瑪瑙は思うがままに吐き出した。
「ぼく、ボクっ! もっと! もっと欲しいっ! 陽に、陽さまにっ! もっと、――苛められたいっ! もっと罵倒して欲しいっ! こんなことで悦んでるボクをもっと! 罵って! 蔑んで! そして、そんなボクを愛してっ!」
「そうか。どうりで嗜虐心が沸く訳だ。……お前、変態だな」
「ぁあっ! もっと! もっとちょうだい!! もっとくださいっ!!」
「……くっ。いいぜ、くれてやろう。だがな」
本質を剥き出しにしていく――端から見れば壊れたようにしか見えない――瑪瑙に、陽は一度ニヤリと笑ってから、口を開く。
「その代わり、全部預けろ。全てを俺に捧げろ。俺の左腕になれよ、瑪瑙」
「っ! 喜んで!!」
天啓を受けたかのような瑪瑙の素早い反応に少しだけ驚いたが、概ね満足した陽は、右手を瑪瑙の顎に添えてもう一度キスを施した。
「……くちっ……はっぷ……、んちゅ……れぅ……ぢゅっ……ちゅる……んっ、ちゅっ」
「どうだ、満足か?」
その問いかけにふるふる、と首を振る瑪瑙に、やはりな、と思う陽。
最後まで離れまいと必死に舌を伸ばすのを見れば分かることだった。
だがそれは、陽にとって不快なことではない。
欲に忠実で、自分の端末な左腕に、どうしてそんな暗い感情が生まれるだろうか。
さらに言えば――
「ならばどうして欲しい? 包み隠さず、……おねだりしてみせろ」
「ぁ……はいっ! ……もっとして欲しいです! 陽さま、もっともっと、一杯口付けを下さいっ!」
――陽の嗜虐心を悉く擽っているのだ。
「陽さま、は山百合専用の呼称だ。お前は……そうだな、御主人様とでも呼べ」
「はいっ! 御主人様御主人様御主人様。覚えました!」
「…………まぁ、いいか。じゃあ、改めて。どうして欲しいのか、ちゃんとおねだりしてみろよ」
「はい、御主人様」
半分冗談で言ったのだが、本当に御主人様と呼ばれて、陽は少し微妙な顔をした。
が、爛々と輝く笑みと瞳に呆れと諦めを覚えた為、スルーすることにしたようだ。
……それよりも、早く苛めたくて仕方なかった、という気持ちがないこともなかったのだが。
「ボクをもっと苛めて下さい。そして、……それに悦ぶはしたないボクに、お仕置きしてくださいっ!」
「いいぜ。たっぷり躾……調教してやるからな」
「……ぁあぁぁっ! はいぃっ!」
……ニヤリと黒く笑う陽に、既に堪らなくなるほどのドM具合の瑪瑙だった。
Side 陽
この後、美味しく頂くつもりですが、何か?
陽です。
いや、びっくりするぐらいドMだわ、コイツ。
まぁ、苛めがいがあるから喜ばしいことだがな。
鍛える為に、自分の身体を苛めるだろう?
それと同じさ。
自分の可愛い可愛い"左腕"を苛めてなにが悪いよ?
「御主人様ぁ……。焦らさないで、下さっ――」
「黙れ、メス豚。俺に指図するな、よがる事しか出来ねぇビッチが」
「――あぁ……っ! もっと! もっと下さいっ!」
「本当に、救いようのねぇ変態だな、お前」
「……ぁ……ぁあっ……!」
ホント、苛めがいがあって困るぜ。
その分だけ可愛く思えるんだからな。
「ひゃっ! ……ぁ、御主人様……?」
「続きは床でな」
「はぃ、御主人様……っ!」
椅子から抱き上げてやれば、顔を赤くそめる瑪瑙。
やっぱ、お姫様抱っこは嬉し恥ずかしいことなんかねー。
陽は語る
「蒲公英にゃ悪いが、瑪瑙も勿論美味しく頂いたよ。……因みに、ツンデレは健在だかんな?」
と
大福のくだりへの指摘はなしで頼むぜ!
瑪瑙さんはマジ変態。
いや、これは陽も負けていないのですが。
無論、瑪瑙さんはビッチの意味を知りませぬ。
ニュアンスで感じました(ぇ
やっちまったZE☆
「…………想像を絶したわ。あんなに可愛い瑪瑙がっ!」
まぁ、そうですね。
「薊レベルの変態だったなんてっ!」
そこっ!?
てか、マジか!
薊さん、そんな変態だった!?
そこまでの変態設定はしてないぞ?
「薊が変態は確かなのね……。血は抗えぬか……」
それっぽいこと言ってるけど、二人の血は繋がってませぬ。
「知っとるわボケ! マジレスすんなや!」
おしまい☆