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第五十一話



テストですた。



ちょっと遅れたけど、昨日よりましか!






「牡丹なぞ、豚じゃ!」


「アンタそれ、ボタバラ!」










Side 陽


やぁ、みんな元気かい。

みんなの陽、じゃねぇよ、馬鹿やろーが。

俺は俺のだ、ドアホ。


まぁ、そんなこたぁどうでも良いんだよ。

只今俺は、ってか俺らは武威にいたりする。

ここに来るってことは、言わずもがな、涼州連合の会合だ。

……そろそろ新しい盟主を決めないとなー。



「なぁ、陽。薊さんはいいとして、なんであたしもなんだ?」


「いや、あなた、前盟主様の娘だろーが。候補として出席すんのは当然だろ」


「…………」


ある一室の円卓に座る俺と翠と、そして薊さん。

跡を継ぐのは一応、こっちは俺、ってことでまとまってはいるんだけど。

爺8(ジジィ八人組)が何て言うやらわからんからな。

まぁ、何と言おうがねじ伏せるがな。



   ★ ★ ★



つか、爺共、早よこいや!


「すまんのう、待たせてしもうたわ」


「ふぅむ。しばらく会わぬうちに耄碌したか?」


「ほほ、言うてくれるわい、文約嬢」


ぞろぞろと爺共が入ってくる。

全く謝罪に誠意が感じられやしねぇぞ、ボケ。

そこに薊さんが苦言を呈すれば、またのらりくらりとかわす、なんだったか。

あーっと、そう、あれは侯選とか言ったっけか。


そんなことはさておいて、だ。


「皆、集まったようじゃな。……それでは本題に入る。先日、涼州連合の盟主馬騰が死したことは皆も知っていることじゃろう。そこで、改めて盟主を決めたいと思うのじゃが……、如何するかを皆で決めたい」


形式的な口上だな。

まぁ、一応決まってんだしな。


さて、……どう動く、薊さん?


「儂は文約嬢に一票じゃ」


「儂もじゃ。それ以外にはあり得ぬ」


「……へぇ。その心は?」


爺共が薊さん押しの中、俺が口を開く。


「おや、これは天狼殿ではありませんか」


「いつの間におられた?」


「そうですか、そういう態度ですか。…………面白い」


なるほど、眼中にないらしい。

敢えて挑発にのってやろうじゃないのさ。

口角だけを上げて、爺共に向けて殺気を振り撒く。

牽制と脅しと、警告を含めて。


「ほほ、そう息巻かずとも。冗談ではありませぬか」


「些か頭の固い方じゃ」


「おや、そうでしたか。これは失礼しました」


流石に老獪か。

殺気も軽く流される。

大袈裟に肩を落として、殺気は止めてやる。

……ま、たかが一割程度、流されたところで何とも思わんさ。


「話を戻しますが、何故あなた方は薊さ……、いえ、韓遂殿が良いと?」


「言わずともわかるであろう? 聡明なる天狼殿ならば」


「言葉にしなければ伝わらないこともありますよ?」


「然らば、此度は言葉にせずとも良いと思いますがな。天狼殿ともあろう者が、わからぬ筈もあるまい」


「まぁ、そう仰らず。我が愚姉も、説明を所望しておられるのですし」


ニコニコと、笑いたくもないのに、笑顔を作って対峙する俺と爺共。

腹の探り合いは嫌いじゃない、てか、好きだね。

だって楽しいから。

探って探って探って、そんで見せた心を弄くるのが、楽しくない訳がないだろ?


けど、今回は嫌いだな。

測られてる、試されてるから。

見せる気のない奴を相手取って、何が面白い。

まぁ、こっちも見せる気はさらさらないんだけど。


……矛盾してるって?

当たり前だ。


矛盾こそ俺在り方なんだから。


「ほほ、ここは寿成嬢の娘の顔を立てるとしよう」


「そうじゃな。こうしていても、話は進まんからの」


だったらちゃっちゃと説明すれば良かっただろーが。

つか翠の奴、さっきから全く発言してねぇんだけど。


「経験じゃな。それに勝るものはあるまい」


「うむ。寿成嬢の下で十数年経験しておる文約嬢こそが相応しいと考えるのは当然」


「そうですかね。乱世真っ只中の今は統率力の方が大切だと思うのですが」


経験より実績、停滞より前進だろうが。

現状維持ほど甘くて危険なものはねぇんだよ。


「天狼殿ともあろうものが何という妄言を。経験こそが最重要じゃ。しかし、仮に統率力が大切であっても、文約嬢ならば問題あるまいに」


「そちらこそ御冗談を仰る。知っておられるでしょう、涼州連合が内部分裂しかけていることを。この状況を覆すに必要なのは、――統率力。それも、圧倒的な、です」


跡継ぎ争いで、俺押し、薊さん押し、翠押しで若干対立していたり。

馬鹿らしいけどな。

この理由もあって、翠はいるんだけど。

だからこそ、こんな時には上に立つ者が、反対意見の奴らに有無を言わせない程の力がいる。


別に、薊さんが役不足だとは言わない。

涼州連合のナンバー2だった訳だし、魅力も統率力もないわけでもない。

言ってしまえば、この中では最良だろうね。

けど、ネームバリューでは俺に劣るし、強烈な印象を与えて纏まりを作るぐらいの実力なら、俺の方がある。


しかも、三人で分かれていると言っても、薊さん派は年功序列、翠派は跡継ぎは長子、を重きを置いているだけで、俺にホントに反対してる奴は"ごく少数"しかいない。

……これは俺のみが知っている情報だ。


「む。しかし、それは時間が解決する話じゃろう」


「おや、悠長なことを仰りますなぁ。すぐそこまで金髪クルクルツインテールチビが来ているというのに」


おっと、口が悪くなってしまったな。

自重、自重。


「しかしじゃな!」


「もう良い、程銀。くどいぞ」


「ぐっ……」


ま、ここらで終いだな。

これ以上は不毛だし。

つか、翠が一言もしゃべってないし。

腹の探り合いは苦手らしいし、仕方ないといえばそれまでなんだけど。


っと、……誰かいるな。

扉の方。

なかなかどうして、気配は消しきってるね。


俺に対しては無駄だけどな。



「話は着いた。さて、次期盟主じゃが。










……やはり、儂のものじゃ」



「……んなっ!? どういうこと――っ!」


「……もう、遅いわ」


初めての発言が驚愕とか。

薊さんの結論に、予め打ち合わせをしていたこと――俺が盟主――が覆されたことに、隣で声を上げる翠。

その隙が命取りで、気付いたときには首には鎌の刃が突きつけられていた。

無論、俺にも石突き側に付いてる刃が向いている。


いや、分かっててよけなかったんだけどさ。



「……どういうことだよ」


「「…………」」


「どういうことだって聞いてんだ! 瑪瑙っ!!」


そう。

乗り込んで来たのは瑪瑙。

そして、瑪瑙に命令出来る人物はこの中でただ一人だ。


つか、しまったな。


失念してたのは、座る位置。

上手いこと扉側に誘導されてた。


円卓には一応、上座に当たる位置はある。

扉側から一番離れた、盟主が座るとこがそれだ。

後の席は大して地位が変わらない。

それが円卓。

だからこそ、現時点で一番偉い副盟主の向かい側でも関係ないと、無意識に理解していたらしい。


まぁ、どーでもいいんだけど。



「……屈辱の限りじゃった。出会ってしまってからずっと。兄は盗られ太守の地位は盗られ盟主も盗られ。挙げ句、補佐じゃと? 嫌いで嫌いで仕方ない奴を? 憎くて憎くて仕方ない奴を? ふざけるな!!」


迫真の"演技"だな、おい。

翠と瑪瑙、そして+αの中、何人騙されるかな?


「あれと出会ってから、地を見るのは何時も儂じゃった。じゃが、それももう終いじゃ。儂は雌伏の時を越え、今、夢を叶える。……儂が盟主じゃ! 儂が州牧じゃ! 儂が指導者じゃ!」


大体は事実っぽいな。

リアリティがある。

多分、ホントの願いなんだろうね。

成公英横に侍らせて、リーダーやりたかったんだろう。


だけど、牡丹が現れて。

瞬く間に全て牡丹に奪われて。

自分はその補佐。

それ故に、牡丹が嫌いだったんだろう。


ここからは憶測だけど。

多分、嫌いだってことも、憎いってことも、伝えただろう。

それでも牡丹は絶対に退かないから、よくぶつかって。

繰り返す内に表に出さないけど互いに認め合って。

どうやったかは知らんが、牡丹が落としたんだろう。


まぁ、ただ一つの事実は、この世で誰よりも牡丹を愛しているのは、薊さんだということだ。

これだけは絶対だ。



「ってことは、この会合は無意味。俺達はしてやられた訳か」


「その通りじゃ。主等だけは、儂の手で引導を渡さねばならぬからな。恨むなら、憎らしいあの豚に似ていることを恨むんじゃな」


……豚て。

いや、確かに牡丹肉といえば猪の肉だから連想出来なくはないけど。


「……嘘、だよな? なぁ、薊さん、あたしたちを裏切ってないよな? 冗談なんだろ?」


「相も変わらず、あやつに似て、頭が足らぬようじゃな。ここまでやっておるにも関わらず。腹立たしい。瑪瑙、連れ出せ」


「…………はっ」


これは、……瑪瑙も知らないらしいな。

じゃなかったら、こんな苦い顔はしないだろう。


「……立ちなさい、翠。じゃないと、この首かっ斬るわよ」


「ふざけんな! 誰が裏切り者の指示なんか――「うるさいっ」――カハッ! くっ……そ」


「……黙って従え、ばか」


物理的に黙らされた翠。


ただなぁ、こっちの注意が散漫だぜ?

かといって、別に退く訳じゃないけど。


少しだけ殺気を送ってやる。

気付けるように、な。


「――ッ! アンタも、こうされたくなかったら大人しくしなさい」


「…………」


「…………っ」


退かない理由は二つ。

一つは、この策にのってやるため。

もう一つは、……瑪瑙は俺に手を出せないから。

向けられている刃は、目と鼻の先に突きつけられてる俺じゃなきゃ見えない程微弱だけど、カタカタと震えている。

目を見れば、

「お願いだから抵抗しないで」

ってのが分かってしまう。


……愛い奴じゃねぇか。


理由は簡単だ。

お前らは、好いてる奴に手を上げられるか?


「降参。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」


「…………ばか」


両手を挙げておどけてやる。

すると、頬を赤らめて、そっぽを向く瑪瑙。

はい、1デレ入りました〜。


はっはっは、……可愛い奴だな、おい。



   ★ ★ ★



「本当に、これで良かったのですかな、"薊様"?」


「何も"薊様"一人、背負う必要はないじゃろう」


「良い。儂と牡丹の約束に、あやつの娘の翠達を巻き込む必要はないからの」


「しかし、悪役っぷりは見事でしたぞ。この馬玩、感服いたしましたぞ!」


「確かにの。本に大きくなられましたな」


「流石に、四十近くになれば当然じゃ。……それに、これも娘達の為でもあるからの」



   ★ ★ ★



「何故に亀甲縛りやねん」


流石に突っ込むよ。

だって、目の前にある翠さん、かなりエロいし。

双子山がさ、素晴らしい強調されてるからさ。


これをやったのは、勿論のごとく瑪瑙さん。

物は試しね、などとほざいてからやりだして。

勝手にorzしてたり。

主に胸的な意味だろう。

アホだな、コイツ。


あ、因みに、"俺は俺で"縛ってたりする。

どうやら瑪瑙に俺は縛れねぇらしく、対外の為に仕方なく自分でやった訳だ。

まぁ、俺はSで、あいつMだからな、身体が拒絶したんだろうさ。

適当なこと言ってるが、問題あるまい。


「ねぇ、陽!」


「……な、なんでしょう?」


考えこんでたら、不意にずいっ、と。

すげぇ勢いで近付いてきてからの上目遣いで、俺を見る瑪瑙。

俺だって流石に驚くよ。


「どどどどどどどんな胸が、すすす好きかしら? あんなのは邪魔よね? ただの脂肪だもんね? ね!? ね!!」


「まずはもちつけ」


胸、ね。

前に蒲公英にも聞かれたけど。

そんな情報いる?

好きな奴の胸なら、美味しく頂くだろ。

しかし、それをニュアンス変えて答えたんだけど、蒲公英に怒られたからなー。

間違ってるのか?

まぁ、ちゃんと答えてやるとするか。


「大きけりゃ揉みごたえと特有の柔らかさが最高でいいし、小さくてもそれはそれで愛でようはあるし、大きくして欲しいと乞うなら揉んで大きくしてやるのも吝かではない。総じて言えば、好きな奴の胸なら好きという訳だな、うん」


「そっ、そう。(まだ機会はあるってことね!)」


あれ、ひいた?

まぁ、俺もこんな答え返ってきたら引くけどさ。






   ★ ★ ★






Side 三人称


数時間後……。


「ベタな展開だなおい」


「確かに、古典的だよね〜」


「くそっ、こっから出しやがれ!」


隴西の地下牢にて、閉じ込められた三人。

陽、蒲公英、そして翠。

場違いに陽と蒲公英は飄々としており、翠の叫ぶ姿が正しい筈であるのに、逆に滑稽に見えてしまう。


「っていうか、なんでお兄様は縛られてないの?」


「そりゃ、俺を縛れるものなんてないからさ!」


「さっすがお兄様〜」


「あ、信じてねぇな? 確かに半分冗談だが、実際、俺の圧力に逆らって縛れる奴なんて、今、ここにいない一人だけだからな」


右肘をつき、その手に自らの頭をのせて、横向きで寝転んでいる格好――アニメの宣伝前の一休さんを想像しよう――の陽に、蒲公英は問う。

自分と翠は後ろ手で縛られているのに、どうして、と。


答えは簡単。

縛れる人がいないからだ。

瑪瑙は前述通りで、山百合は現在ここにおらず、いても基本的に陽に逆らわないので、縛ることは出来ない。

その他は、後が怖すぎて出来ないのである。


そんな中で、唯一できるのは蒲公英と薊のみ。

しかし蒲公英は共に捕らわれているし、薊は未だに帰ってきていない。

而して、こんな状況が生まれているのである。


「お前ら、随分余裕だな。あたしたち、捕まってんだぞ!」


「いや、だってな」


「どうしようもないよね〜」


外に叫んだところで返ってくる返事はなく。

かつ、陽と蒲公英のたるい会話に、幾分か冷静になった翠が、声を上げる。

それに答える二人は、特に気負った様子もない。

翠は怒りを通り越し、呆れてしまう。


「なんだよ、怒ってるあたしが馬鹿みたいじゃないか」


「まぁ」「ね〜」


「お前ら殴る……蹴るぞ」


何時も通り、口を揃えて肯定する陽と蒲公英に、何時も通りの対応をする翠。

その様子に、調子が戻ってきたな、と目配せをしあう陽と蒲公英。


「茜と藍が子供ってことで軟禁止まり、ってとこだけでも知れた訳だから、俺には何ら問題はないのさ」


「それに、翠お姉さまがいくら馬鹿力を持ってても、これを壊せる訳じゃないしー」


武力的な意味で唯一心配だった妹と弟の安否が知れた陽に慌てる意味はなく、蒲公英は純粋に諦めているので、二人は落ち着いているのである。


力ある翠が焦り、それがないと知る二人は冷静に。

やはり、頭の差が余裕を生むのだろうか。


「……にしても、まさか捕まるとはねぇ。牢屋生活とか、貴重な体験だぜ全く」


「お兄様なら、いつでも体験できそうだよね、翠お姉さま」


「……ぶっ! たっ確かに」


「俺のどこに捕まる要素があるってんだよっ」


また捕まることを示唆するような蒲公英の発言に、翠は想像して吹き出し、肯定する。

事実、陽の目と追い詰めるときの口の悪さ、追い詰めたときに笑んだ顔は犯罪級である。

それを自分でもわかっていたので、苦笑して突っ込む陽であった。




「随分とまぁ、余裕よね」


「誰だっ!」「誰っ!」


そんな和やかな雰囲気も、突如として地下牢に響いたその声に、霧散してしまう。

不意に備えて構える――両手足を縛られているので大したことは出来ないのだが――翠と蒲公英。

相変わらず陽は悠然と寝転がっているのだが。


「牢屋に入ってんのに、なんで朗らかなのよ。心配した僕が馬鹿みたい」


「瑪瑙! お前、どの面下げてここにっ!」


「うっさい! ちょっとは静かにしないよ。バレちゃうでしょうがっ!」


「え、バレる?」


呆れから肩を落とし、現れた瑪瑙に、捕まってしまったときの恨みをぶつけるように叫ぶ翠。

その声が今は疎ましい為、すぐにピシャリと押さえ込む瑪瑙。

その中に光明を見つけた蒲公英は、いち早く反応した。


「そうよ。これ、わかるでしょ? ……助けに来たのよ」


「お前が牢に入れたのに、……どういうことだよ!」


「だから、静かにっ! あー、もう! 追々説明するから、ほら、とりあえず出なさい!」


右手に隠されるようにある鍵を見せ、瑪瑙は錠にさしこむ。

一々反応する翠に、悩まされながら、瑪瑙は翠の両手足の縄を解き、立ち上がらせる。

それに合わせて、陽も蒲公英の縄を解いた。



   ★ ★ ★



「……元々、何にもわからなかったのよ。ただ、母様に言われた、翠、陽、蒲公英を捕らえろ、ってのを遂行しただけ。他意はないの、って言っても信じられないだろうからそこはもういいわ」


早足で歩きながら、瑪瑙は呟いていく。

後ろから疑念のこもった二対の視線に、仕方がないかと少しばかりの気落ちと、自身の特別からはそれがないことに、ただただ歓喜しながら。


「正直、理解出来てない。アンタ達が捕まる意味がね。だから逃がす。……こんなんで処罰を受けるアンタ達なんて見てらんないし、目覚めも悪くなるからね」


勘違いしないでよね、という雰囲気を出しながら、瑪瑙はさらに足を早める。

やはり、自分で言っていて恥ずかしかったのだろう。

後ろを歩く三人には見えないが、僅かに頬が赤く染まっていた。


その背を見る翠は、思う。

瑪瑙の言っているのは本当じゃないか、と。


(小さいころから、武を磨き合ってきたのは誰だ。

轡を並べて、時に背を預けて戦ってきたのは誰だ。

自分の母親が死んだとき、陽に嫉妬して道を違えそうになったとき、正してくれたのは誰だ。


……瑪瑙じゃないか)


頭を巡らせて、翠は記憶を手繰らせる。


(皮肉っぽいし、ムカつくことも多々あるけど、嫌々だとしても、筋は通す奴だ。

そうだ、そういう奴だよな、コイツはさ)


そそくさと前を歩く背を見て、翠はクスリと笑う。

そこから、翠は迷わなかった。


「おい、瑪瑙」


「……なに?」


「その……、悪い。お前を疑って、さ」


「いいわよ、そんなの。そうされるようなこと、したんだし。……それに、まだまだ疑うべきだと思うけど?」


ばつの悪そうな顔で、謝罪する翠。

無二の友とも呼べる者を疑ったことと、冷静さを失っていたことを深く反省して。


それに対し、気にしてない、とばかりに軽く返す瑪瑙。

加えて助言をする辺り、瑪瑙自身にも罪悪感があったのだろう。


「いいや、いい。あたしがまどろっこしいのは嫌いなのは知ってるだろ? だから、迷わず信じることにする。お前を、瑪瑙を、あたしは信じる」


「……そんなだから足元掬われるのよ、ばか」


「それなら馬鹿でいい。ここでお前を信じられない小賢しい奴にはなりたくないからな!」


「……っ。……ばか、馬鹿」


愚直なまでに信じる、と言う翠に、つい数時間前に起きたことを交えて皮肉る瑪瑙。

だが、信じる為なら馬鹿でいい、と皮肉をものともせず、笑って返す翠。

それを聞いて、ここぞとばかりに罵ろうとする瑪瑙だったが、うまく言葉が出てこなかった。

それも仕方がないと言えよう。


頭の中には「ありがとう」しか浮かんでいなかったのだから。



「良い雰囲気だよね」


「完全蚊帳の外だしな、俺達」


「翠お姉さま×瑪瑙、……ありかも」


「いや、ないな。攻守がはっきりしてないし」


「あー、確かにそうだね〜」


そんな陽と蒲公英の会話。



   ★ ★ ★



「……お待ちしておりました」


「山百合!?」「山百合お姉さま!?」


「……私がいることが、そんなに驚くことですか?」


城外にやってきた四人。

そこで待ち受けていた山百合に驚く翠と蒲公英。

その反応に、キョトンとする山百合。


「一人だけ動向が知れてなかったんだから、まぁ当然だわな」


「……なるほど」


陽の言った通り、一人だけ行方の知れなかったのが、突然目の前にいるとなれば、驚かない道理はないだろう。

合点がいったと、山百合は一人納得する。


「……来て欲しいとの要請があったので、隣の街に行っていたのです。同時に視察も頼まれたので、そこから転々と」


「帰ってきたら俺達が捕まってた、と。そんなとこか」


自身の経緯を話す山百合。

陽は締めくくりながら、仕組まれたな、と思った。


山百合を一度外に出す目的の、隣街からの要請。

その隙に自分たちを滞りなく牢に入れる。

そして、夕方に帰るように計算された視察。

全て"良い方"に仕組まれていれば、気付かない訳がなかった。


思考に耽っていた陽を見つめるは、山百合の不安げな瞳。

それに陽が気付くと、山百合はポツリと呟いた。


「……あの、……ご迷惑、だったでしょうか?」


「なんでさ」


「……それは、陽さ……陽君が簡単に捕まるとは考えられませんし。策があったのでは、と」


普段から油断も隙もない陽が、捕まる筈がない。

それならば何か策があるのだろう、と踏んだ山百合。

しかし、もどかしい。

そこに助けるべき人がいるのに、じっとしている方が無理だ。

逸る気を抑え、最善を考えていたところに、瑪瑙という協力者が訪れ、助け出し、今に至るのである。


それが最善であると自分が思っても、陽が考えていただろう策には邪魔だったかもしれない。

そんな思いが、山百合を不安にさせていた。


「いんや。むしろ、山百合さんか瑪瑙が出してくれるのを待ってたし」


「……そうでしたか。良かった」


「それにさ、時期も完璧だし、俺の考えてた最善を超えてる。良くやったさ」


「……ぁ……。ありがとう、ございます……っ」


そんな思いは、最初から杞憂だった。

元々、陽に策と言えるものはなかったのである。

考えていたのは、どの逃げ道を選ぶか、ぐらいのもの。

……助け出されるのを前提したものなど、もはや策とは呼べないであろう。


そんな中、山百合は見事、陽の上をいく采配を取った。

夜目が効く陽には見える、闇夜に潜んだ兵達が、それを証明していた。


ほっとする山百合を尻目に、陽は優しく頭を撫でた。

賞賛と共に。

山百合が顔を真っ赤にして俯いたのは言うまでもない。




「おいおい、いいのか蒲公英。良い雰囲気だぜ?」


「大丈夫だよ。お兄様はたんぽぽを捨てないもん」


「……随分と余裕じゃない。腹立つわね」


「それはそうだよ。だって、お兄様が好きだっていう人、誰もいないしね♪」


「……ぐっ」


「言わないと伝わらないよ。お兄様のことだから、知ってるとは思うけど」


「何よ、それ」


「正直になればわかるって♪」



   ★ ★ ★



更に夜は更け。

周りは完全に闇となる。


「……そろそろ時間ですね」


「アンタ達のことだから大丈夫だと思うけど、ま、頑張りなさいよ」


「……お元気で」


三人に、餞別の言葉を贈る瑪瑙と山百合。

それに違和感を覚えた陽は、口を開く。


「あのさ、俺は行かんぞ?」


「「「「……え?」」」」


捕まっており、かつ、私怨の対象の翠と陽。

最悪、殺されかねない状況である為、逃げることを進められ、今まさに闇夜に紛れて出発しようとした矢先の発言。

満場一致の疑問は当然だった。


「どどどどうしてっ!? 一緒に行こうよっ!」


「まだまだ、俺にはやることがあるのさ。やらなきゃならねーことがな」


「でも、殺されちゃうかも知れないんだよ!?」


「大丈夫、俺は殺されやしないさ。利用価値もあるしな」


珍しく慌てて詰め寄る蒲公英。

好いてる兄が、男が、殺される危険を孕む場所に留まると言っているのだから、当然の反応であろう。

しかし、陽はそれを否定する。

殺してしまうより、利用した方が価値がある、と考えられる頭を薊は持ち合わせていると知っているから。


「……でも……」


「それに、ここで堕ちる馬家の再興には、血を引いてるのお前たちは守りきらないとならん。だから、残る。……けどな」


そう言って、陽は蒲公英は頬に右手を添えて、目尻に溜まった涙を親指で拭う。


そして、……唇を合わせた。


その瞬間、辺りの時間が止まった。


そんなことはお構いなしに、陽は蒲公英の口を犯す。

呼吸ができるよう、口の端を塞がないように意識しながら、自らの舌で中を舐めとっていく。

最初は驚きで何もできなかった蒲公英だったが、陽の意思を汲み取って、自身の舌を絡める。

辺りには淫靡な水音と息が洩れるが、当人達はお構いなしだ。

それを見るのは面白くない二人と、純粋に恥ずかしい一人。

そろそろ思いが噴出しようかという時に、二人の唇は離れた。


繋がっていた銀の橋がエロチックだったな、などと思いつつ、陽は真剣な顔で口を開く。


「これが今生の別れって訳じゃねぇ。必ず、迎えに行く。だから、それまで待っていてくれ」


「……絶対だよ? 来なかったら、怒るからね!」


「あぁ。約束する」


深く考えずともわかるが、来なかったら、怒ることは出来ないだろう。

それを理解しながらも、陽は優しく蒲公英を抱いた。



……リア充爆発しろ。






「「…………」」


「(……き、気まずいっ! どうするあたし!)」






たっぷり五分は抱きついた蒲公英は、陽から離れる。


「お兄様成分の充電完了♪」


「なんじゃそら」


陽のツッコミを余所に、蒲公英は、絶賛不機嫌中の二人の前に躍り出る。

その足取りの軽さからして、本当に陽が来ると信じているのだろう。

それがまた二人を不機嫌にさせるのだが。


「頑張ってね、山百合お姉さま、瑪瑙♪」


「「…………はい?」」


思考が追いつかないとばかりに、呆気に取られる山百合、そして瑪瑙。

無論、蒲公英言っている意味は理解している。

おそらくは、陽との関係の進退問題だろうことと、上手く進むことを蒲公英が応援していることだろう、とは。

しかし、その意義が分からないのだ。

自身と争うことになる者が応援していることが。

皮肉として言っているのであれば鬱陶しいことこの上ないのだが、そんな様子は一切見られない。

だからこそ戸惑う二人だった。


「だーかーらー、たんぽぽに気兼ねなく、寝取っていいよ、ってこと♪」


「「…………ぶっ!!」」


隠す気もない蒲公英の発言に、山百合と瑪瑙は噴き出した。


「さ、翠お姉さま、行こっ!」


「お、おう。じゃあ、お前らも無事でな」


そう最後に告げて、闇夜に潜んだ五千の兵達と共に立ち去った。






「最後に蒲公英に何を言われたんだ?」


「「…………」」


「おーい、山百合さーん、瑪瑙さんやー」


「……ふぇ? はっ、よよよ陽君っ!?」


「な、何? 何か用なの!?」


「おまいらいきなりどうしたし」





陽は語る。


「離れてやっとわかることもあるよね。もう、蒲公英と離れるなんて考えられないぜ」




連続投稿終了のお知らせ。



ストックなくなってしまったんだぜ……。



テストもあるんで、次は遅くなるかもです。





「ざまぁねぇなぁ、おい」


言い返す余地がないです、はい。


「五十日で、進んだ続きは?」


零です、すいません。


「何でだ?」


いや、こっちに投稿するのに手直ししてやってて……。


「言い訳を並べんな」


貴女が聞いたんだろがい!


「るせぇ! キレる隙があるなら続きかけや!」


……すんません。




「まぁ、うん。こんな作者だけど、最後まで付き合ってあげてね。私の活躍もあるかもしれないからさー☆」



本当に勝手な人だよ……。




おしまい☆




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