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第四十八話



シリアスです、はい。






Side 陽


突然だが。

俺は雨は好きだ。

陰鬱な気分にさせてくれるからな。

そういう日の方が、自然と頭が働いてくれる。

更に、働かせた分だけ発する熱を、雨が冷えた空気が丁度良く冷ましてくれる。

それに、元から俺は太陽が嫌いだ。

日が拝めなくなるだけで、俺は喜ばしいのだ。


……だが。

今日の雨は嫌いだ。

しとしとと降る雨が何とも言えないぐらい、腹立たしかった。

天が泣いているようにも、せめてもの償いの雨に見えて、憎らしかった。

日を陰らせ雨だけを落とす、目の前の状況と、天上の様子が、俺の心の内を表しているようで、うっとおしかった。




葬儀はしめやかに行われた。

慎ましく、それでいるのに、盛大に執り行われたかのように、大規模なものになっていた。

そう、なっていた、だ。


参列者が後を絶たず、さらに、別れを惜しむかのように、そこに皆留まったからだ。

結構な雨だというのにも関わらず、だ。

雨で濡れることなど厭わず、ただただ手拭いを、袖を、涙で濡らしている。

牡丹が如何に慕われていたのかが十全に分かる。

分かるのだが……それだけに、包む悲しみは大きかった。






この日の朝。

別段なにもないように、普通に、時間通りに起きた。

……俺の周りは異常だというにもかかわらず。


まず、昨日は綺麗な夕陽だったはずだ。

俺が太陽に関することを記憶に残すなんてことは、今まで一度たりともなかったのだから、間違いない。

だというのに、部屋には雨の臭いがしていた。

夕陽がはっきり見えた日の次の朝は晴れる、という法則にも近い事象が覆されていた。


次に、腕枕をしていた牡丹が冷たいということ。

すなわち、体温が感じられないということだ。

満足気に微笑んでいる癖に、起きる気配が全くなかった。

本当に綺麗な寝顔をしていた。


まさしく、あの名台詞を正しく使うに相応しいほど。



そんな異常を家族に報告して、今に至っている。






無造作に髪をかきあげる。

前髪を後ろに撫でつけ、上を向くと、はっきりと天が見えるようになる。

時折視界が歪むが、それは雨せいだと解釈する。

……俺の涙はもう枯れているのだから。


「牡丹……」


「……ぼたんさま……ぼだんざま! どうじでっ!」


「牡丹ざまぁ……。やっど、やっど! 仲良ぐなれだどっ!」


「ほら、いい加減起きろって! なぁ! ははうえ……起ぎてぐれよぉ……」


「なんで……! ぜっかぐ、お兄ざまと! そんなの! ぞんなのおがじいよ!」


「馬鹿! ばかばかばか! なんで死んじゃうんだよぉ……! おがあざんって、一生呼べなくなっぢゃっだじゃんかぁ……」


「お母さん、おがあざん! 嫌だよぅ! おがあざんとお別れだなんで、ぼぐ、嫌だよ!」


「…………」


苦しい。

悔しい。

泣けない事がこんなにも辛いなんて、思ってもみなかった。

涙は弱さの象徴だと、枯れさせて、捨ててしまった過去の自分を思い切り殴ってやりたい。


歯軋りして、厚くかかった雲空の天を睨みつける。

寿命は天が決めることなんかじゃない。

そんなことはわかってる。


だけど。

責任転嫁でもしなけりゃやってられない。


……泣きたい。


醜くてもいい。


汚くてもいい。


嗚咽上げたい。


泣き晴らして。


この悲しみを。


皆で共有して。


皆で乗り越え。


共に生き抜き。


共に逝きたい。


でも、それは叶わない。

俺は泣けないから。

心では泣きそうになっても、溢れる程には涙が溜まってくれないから。


原因は分かってる。

悲しい、って感情を封じ込めすぎたせいだ。

悲しい、って感情を感じないために、ここに来るまでは、人と関係を築かないようにしてきたせいだ。


やってられない。

どこまでも自分に腹が立って仕方がない。

……あんまり、こんな気持ちでここに居たくない。

牡丹を、母さんを汚すようで、嫌だった。



   ★ ★ ★



立ち去ろうとすると、翠姉に肩を掴まれる。

振り向いたら、怒ったような顔だった。


「おい、どこに行くんだよ」


「仕事。この雨じゃ、燃やせないから」


「燃やせない……だって? お前、まさか母上を燃やす気だったのか!?」


「あぁ。それが望みらしいからね」


そう。

牡丹の望んだことだ。


『身体が徐々に腐るとかイヤ。それに、白狼と同じ火葬だっけ?が良い。それでね――』


という感じでだ。

これについては翠姉にキレられても、どうしようもない。


「母上が望んだのならそれはそれでいい。……でも、仕事、ってなんだよ。……母上が死んだっていうんだぞ!? 悲しくないのかよっ!!」


「悲しいさ。……それでも世は動いてるんだ。仕事を滞らせる訳にもいかない」


「……っ。……何時もは黙ってたけど、今日という今日は言わせて貰う」


グッ、と胸ぐらを掴まれ、引き寄せられる。


「お前、いつもどこか冷めてるよな。戦だろうと、内政の仕事とかやってるときだろうと。達観してるようで、違う。一歩退いてる」


「…………」


「そうやって、あたしたちに頼ることもしない。……そんなに信用出来ないのか、あたしたちは」


「それはないよ。自分が出来る範囲にあるから頼ってないだけで、決して信用していない訳じゃない」


冷めてるのも、一歩退いてるのも認める。

但し、それは"馬白"なだけだ。

馬家の一員の陽、ではない。

そして、今言い切ったことはまごうことのない本心だ。

信用は勿論のこと、信頼だってしている。

ただ、頼ることで迷惑をかけたくなかった気持ちと、本当に頼る必要のないことばかりだったという事実があるだけだ。


「じゃあ、なんで言わなかった! なんで教えてくれなかったんだよ!! 母上が病気だったこと!!」


「っ! ……それは」


「……やっぱりな。おかしいと思ってたんだ。……いくらなんでも冷静過ぎたからな」


鎌、かけられたのか。

どうせ、後々バレるとは思ってはいたけど。


「知っていたならっ! なんで! なんで! お前はっ!」


「……翠様」


「山百合ぃ……」


グラグラと俺の胸ぐらを掴んで揺らす翠姉の腕を山百合さんが優しく掴む。

意図を理解したのか、翠姉は俺から手を離した。


「……知って、いたのですね」


「……あぁ」


パンッ、と小気味良い音が聞こえる。

僅かにブレた視線。

涙目にして、腕を振り切った格好の山百合さん。

踏ん張るために、後退していた自分の右足。

左頬から、熱を持ったチクチクとした痛み。

……叩かれたのか。


「……ってぇ」


「…………」

「山百合!?」

「……山百合さん!」

「山百合お姉さま!」

「「……!」」


耳に入ってきたのは、殆どが驚愕の声。

薊さんだけは分かってるみたいだ。


「……知っていたのなら、何故教えてくれなかったのですか! 最後だと分かっていれば、せめて、お別れの言葉の一つでも告げられたではないですか!」


「…………」


「……こんなにぐるじぐで、づらいお別れだなんで、あんまりじゃないでずが……!」


「……悪いとは思ってる。けど――」


「……言い訳は、今は聞きたくありません。正常に頭に入るとは思えません」


「――そうか」


唇を噛む。

山百合さんの、皆の流す涙を止めてやれないのが、拭ってやれないのが口惜しくて、もどかしい。


「……すみません、取り乱しました。少し、休んできます」


目尻に溜まっていた涙を拭い、そう言って山百合さんはここから立ち去った。


入れ替わるようにして、もう一度翠姉が俺の前に立った。


「……泣かないんだな。これっぽっちも。……なんなんだよ、お前。あたしたちを馬鹿にしてんのか?」


「そんなことはッ――!」


「いいや、してる。信用してないから言わなかったんだろ? 一人先に知ってたのに、何時も通りに過ごせてたのも、何とも思っていないからだろ? ……十分馬鹿にしてる」


「違う! そんなんじゃ!」


「ははっ! 所詮は他人だってことか」


やめろ。

やめてくれ。

それいじょうは。

いわないで。

たのむ。


「お前なんか……! お前なんか、家族なんかじゃないっ!」


「――――ッ!?」


あぁ。

ひざがおちた。

あしがぬれる。

まあいいか。


いろが。

まわりのせかいが。

どんどんくろくなる。

まあいいか。


おとが。

あたりのこえが。

なにもきこえない。

まあいいか。


ほほをつたうかんじ。

めからでてる。

なみだはでないはずなのに。

まあいいか。



どうでもいいか。

そんなささいなことは。

どうでもいい。






   ★ ★ ★






Side 三人称


「翠」


「…………」


「おい、翠!」


「うるさい! なんだよ!」


「アンタ、心配して声掛けてやってんのに、それはひどいんじゃないの」


陽から逃げるようにして城に戻る翠を、瑪瑙は肩をとって、止める。

翠は、振り向きざまに肩に乗る手を振り払い、苛立ちを隠さずに瑪瑙に言葉をぶつけた。

そのことに対して苦言を呈する瑪瑙だったが、尚も声を荒げて言葉を口にする。


「お前に心配されることなんて、なにもない!」


「あっそ」


「ふん!」


瑪瑙は正面から取り合うことはしなかった。

今言い争っても無駄だと思ったからである。

そこで話が切れたと思った翠は、また城へと歩き出した。

瑪瑙は黙ってそれを追う。


「…………」


「…………」


「あぁもう、なんだよ! ついてくんな!」


「別に帰り道が一緒なだけなんだけど」


城への道はまだ幾つかあるが、現時点の最短ルートがこの道なのである。


「だったら、先に行くか、もっと後に来ればいいじゃないか!」


「そんなのボクの勝手じゃない。なんでアンタに譲歩しなきゃなんないのよ」


「それぐらいいいだろ!? ……頼むから一人にさせてくれ」


瑪瑙はこうは言ったが、元々の目的は翠に付いていくことなのだから、受け入れないのは当然だった。

僅かだが、翳りを見せた翠に、瑪瑙はキッパリ言い放った。


「嫌だ」


「んな!」


「今アンタを一人にしたら、どうなるの? ただでさえ頭が足りないのに、視野を狭めた状態でない頭を働かせて、正常な思考が出来ると思ってんの?」


「……お前、さり気なく馬鹿にしてんだろ」


「えぇ、してるわよ、この大馬鹿者。考えもしないで突っ走るこの猪」


ここぞとばかりに悪態をつく瑪瑙。

これでも翠を思って言っているのだから、タチが悪い。


「いい加減にしろよ。あたしは今、虫の居所が悪いんだ」


「だから何? 勝手に怒ったのは自分の癖に」


「面貸せよ。その口、二度と開けないようにしてやる」


「無理ね。億が一でも、ね」


肩を怒らせて言う翠に、瑪瑙はニヤリと笑った。



   ★ ★ ★



「おらあぁぁぁあ!!」


「はい、残念」


「避けんじゃねぇ!」


「なんでそんな攻撃に当たってやらなきゃなんないのか、甚だ疑問ね」


ただ、怒りをのせただけの袈裟切り。

瑪瑙が一歩退くだけで、簡単に避けられる、単調な攻撃。

瑪瑙に当たる義理はなかった。


翠の実際の実力からは考えられない攻撃と、ひたすら避けるだけの瑪瑙。

そんな攻防が実に四半刻(三十分)も続いていた。


「はぁ。こんなの、いつまで続けるつもり? 時間の無駄なんだけど」


「うるさい!」


「幻滅だわ。こんなのを……」


「しゃおらあぁぁぁあ!!!」


「ふんっ!」


「なっ!」


ガキンッ!

と、甲高い武器のぶつかり合う音が辺りに響く。

この戦闘が始まって、初めての風切り音以外の音だった。

翠の左切り上げを、自分の武器で交差させるように受け止めた瑪瑙。

驚愕でできた隙を、瑪瑙が見逃すはずはなく。

翠の槍を押し返して、その槍を蹴っ飛ばした。


「くっ!」


「ふん」


瑪瑙の蹴りに、翠は槍を手放した。

正確に言えば、手を離れた、だが。

……怒りにまかせてずっと槍を握り締めていたのが仇となり、翠の握力が耐えらなかったのである。


無手で構え直す翠を見て、瑪瑙は自分の武器を捨てた。

なかなかのぞんざいさだが、瑪瑙は瑪瑙で怒っていたのだから仕方がないのかもしれない。


「死ねぇぇぇえ!」


「死ねは酷いんじゃないのっ!」


翠の乱打を、必死に捌く瑪瑙。

この二人、実は無手経験が殆どなかったりする。

どちらも主が槍術で、無手は一応教わったが、護身術程度。

一般兵から見ればそれだけでも十分強いのだが、如何せん経験がない。

習った時しか使ったことがないのである。

……瑪瑙が武器を捨てたのは、完全に間違いだった。


「おらあぁぁぁあ!」


「くっ! おぉっ!?」


翠の右ストレートを若干慌てて避ける。

だが、それがいけなかった。

足場の確認を怠ったせいで、ぬかるみに嵌り、瑪瑙はこけてしまう。

それを見た翠は、好機とばかりに瑪瑙に馬乗りになる。

そこから攻撃する翠。

隙を見て反撃を試みる瑪瑙。


だが、翠と瑪瑙は、というより、この世界の殆どがマウントを知らない。

なので、リアルキャットファイトみたいになるのが当然だった。


……陽は知っていたりするが。


「この! このっ!」


「何を躊躇ってるのよ。怒りに任せて殴ればいいじゃない」


「言われなくても、わかってる……わかってるんだ、けど」


「意気地無し。猪の癖に」


「うっせ!」


振り上げては落とす拳に力の無さを感じ、何故か翠に激を飛ばす瑪瑙。

対する翠は、こうして取っ組み合いのようになっても尚、真っ直ぐと自分を見て相対する瑪瑙に、闘う意味を見出せなくなっていた。


そうして戸惑う翠にまた悪態をついてやれば、何時も通りの反応が返ってくる。

瑪瑙は心で微笑んだ。


「攻撃しないならどいて。何時までも乗ってないでさ」


「あ、ごめん」


「はい、油断大敵」


立ちかけた翠の足を蹴って、隣に転がす。

案の定、翠は瑪瑙にキレた。


「っ!! お、お前っ!」


「アンタはさぁ、ボクのなんだと思う?」


それを巧いこと遮る瑪瑙。

今回は狙った訳ではなかったが。


「……はぁ?」


「いいから、答えてみ」


「腐れ縁で、家族で、好敵手だ!」


「誰が好敵手よ、誰が。まだまだボクの足下にも及んでないのに、ボクがそう思ってると?」


嘲笑うようにして、瑪瑙は言ってやる。

それを聞いた翠は、顔を僅かに顰めた。


「……だよなぁ。まだ、負け越してるもんな」


「何よ、しおらしい。似合ってないから。気持ち悪い」


「そこまで言うか!? お前がそう思ってないんだから、事実なんだろ?」


「ほんと馬鹿ね、アンタ」


「馬鹿馬鹿言うな! ……ちょっとは傷つくんだぞ」


瑪瑙が馬鹿にして、翠が突っ込んだり怒ったり。

そんな何時も通りが展開されて、瑪瑙は心で喜んだ。


「ボクに食ってかかるだけの元気ぐらいは戻ったようね」


「…………あ、ホントだ。お前、まさか」


「アンタがそうじゃないと、こっちの調子が狂うのよ。からかえないじゃない」


「からかいたいだけかよ!」


「当然」


腐れ縁で、家族で、戦友で、好敵手で、友、なんだから、からかって、漫才やって当然じゃない。

そう、まるで母様と牡丹様のように、ね。

と、そう、心で呟いた瑪瑙だった。


空は未だ雲が掛かっていたが、雨は止んでいた。



   ☆ ☆ ☆



一方、時は戻って。


陽は未だ絶望に打ちひしがれていた。


「……家族じゃない、か」


他のどんな言葉より重みがあり、どんな暴言より傷つく言葉だった。

その証拠に、陽は泣いていた。

しかしながら、右目から頬をつたう涙は透明ではなく、確かな赤だった。


「あぁ、仕事、しないと」


「お兄様……!」


眼から流れるモノを半ば力任せに拭い、頭を切り換えて立ち上がろうとする。

優先事項でもあったし、何より、割り切っておかないと何時まで経っても動けない気がしたからである。

そんな悲しい選択をした陽を、蒲公英は見ていられなかった。


「お兄様!」


「ん、蒲公英か。どした?」


片膝を立てた状態のまま薄く微笑みかけてくれる陽の姿に、蒲公英は胸が締め付けられる思いがした。

瞳の奥に潜んだ悲しい光と、触れれば直ぐに壊れてしまいそうなほどに脆く、弱々しい様を見るのは初めてだった。


思わず、蒲公英は陽の頭を抱き寄せる。

陽は膝立ち状態だったので、顔を蒲公英の胸へとうずめるような形になった。


「なっ、なんだ? どうかしたのか?」


「…………ぐすっ」


「……蒲公英?」


最初は戸惑った陽だったが、蒲公英の鼻をすする音に、心配になる。

早速背に手を回し、落ち着けるように優しくさすった。


逆に蒲公英も、大切なモノを守るように、しかし壊れ物を扱うかのように、一層抱き締めて、優しく囁いた。


「そんな顔しないで、お兄様。お兄様が泣きたいときは、たんぽぽが代わりに泣いてあげるから。たんぽぽがいつでもこうしてあげるから、ね? だから、そんな悲しい顔しないで」


「……っ」


不安がる子供のような目で陽は見上げて、蒲公英を見る。

そこには、いつもの笑みを向ける蒲公英がいた。


「……ありがとう、蒲公英」


肌で感じる温もりと、心が温かになる愛情と、大好きな笑顔に、陽は救われる思いがした。

陽は蒲公英を抱き寄せる。

陽だまりのような温かさを、今は離したくなかった。



   ★ ★ ★



たっぷり五分は抱き合った二人は、少し名残惜しげに離れる。

そして、陽は立ち上がった。


「全く、シャキッとせんか、馬鹿者。牡丹が見たら悲し……まぬな、笑われるぞ」


「この場面では流石に笑わない……と、言える自信がない」


「それが良いところであり、悪いところでもあったからの」


陽と対面している薊が肩をすくめる。

事実、シリアスをいつも吹き飛ばしているのだから、どちらも笑えなかった。

……ちなみに、もう一度抱き寄せていたので、蒲公英は陽の胸の中である。


「己の不徳で義絶されたのなら、今一度、よりいっそう励めばよかろう? 嘆くことを悪いとは言わぬが、時間の無駄じゃ」


「わかってる。嘆くことはもう止めだ。蒲公英を泣かせたくない」


見上げている蒲公英の顔を両手で包むように添えて、赤く腫らした目元を親指の腹で優しく撫でる。

目を合わせれば、どちらからでもなく笑いあった。


「ふむ、ならば良い。……それにしても陽、お主ベタ惚れじゃのう」


「まぁね。蒲公英、可愛いし」


「もう、お兄様たら〜っ!」


薊が呆れたような目でみれば、満更でもないように、陽は蒲公英を見つめる。

対する蒲公英も、少し顔を赤くするものの、こちらも満更でもない様子。

……既に、夫婦の域である。


「瑪瑙を任せようにも、のぅ……。隙がない。どうするべきか」


「どうかした?」


「……いや、なんでもない」


「「…………」」


わざわざ聞き直しはしたが、実はちゃんと聞こえていた陽。

蒲公英も蒲公英で、ちゃっかり聞いていたりする。


「……それよりも、ここからが正念場じゃ。気張ってゆけよ」


「……あぁ」


陽は今一度、覚悟の火を灯す。


気付けば雨は上がっていた。




しかし、これからを示しているかのように、暗い雲が空にかかっていた。





陽は語る。


「この日は人生で一番辛く苦しく悔しかったよ。家族を失うなんて、もう考えられない」




自分で書いてるのに、感情移入してしまう。

てか、書いてるからするのか?





しっかし、進まないなぁ……。


「もっとちゃきちゃき書きなさいよー。私の出番、もうないんだしー」


いや、勝手にでてくんなよ。

そして、ホントに勝手だな!


「るせぇ! 勝手に殺したお前が言うな!」


いや、作者だし。


「おい、面貸せや。一遍〆――」


「戻っておいで、牡丹」


「――俺に指図すんな白狼。だが、臣下の言葉を聞き入れるのも悪くない」


「素直じゃないね、牡丹は。でも、そこが可愛い」


「う、ううう、うるせっ!」





……ここでいちゃラブすんな、リア充があぁぁぁあ!!




おしまい☆

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