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第四十七話


一、二限授業とか。


遅れました、ごめんなさい。




話は、進まない。




「一つだけ心残りがあるけど、総合的には十分ね。……これで私は満足♪」


「……そっか」











Side 陽


見事に義母にしっぽり寝取られ、搾りとられた陽です。

うぅ、もうお嫁にいけないわ。


「問題ないわよ。蒲公英が婿として娶ってくれるわ♪」


「間違ってる! 俺が蒲公英を娶る、だから」


「ちょー、惚気とかマジムカつくんですけどぉー?」


キャラ安定させろや。

そして、アンタが話をふったんだろーが。


まぁ、"牡丹"に食われた訳だが、かといって、別に負けてはいなかったり。

牡丹がギブアップしたのさ。

今日(深夜の零時は越えてた)を最後まで動ける元気は残しておきたい、って理由でね。

……俺のマグナムはまだ装填可能だったから、これは勝ちってことで良いだろう?


「ってかさー、ホントに大丈夫なのかよ」


「大丈夫だってばー。陽から沢山元気貰ったしね。例えるなら、そう! 顔を取り替えられたアソパソマソぐらいに!」


「…………あぁそう」


こう、現代(この場合は未来?)ボケを平然とやられると、俺自身、凄い微妙な感じになる。

まぁ、理由がやっと明確になったおかげで、牡丹が電波ではないことが証明されるのは良かったけどさ。


つか、さ。

そろそろ認めるしかないか。


俺は現代(未来?)知識を持った者であると。


そりゃ、常々おかしいとは思ってたさ。

でも、また、敬遠されるかも、と思って認めたくなかったかもしれない。

天の御遣いに近い存在、だなんてさ、眉唾物もいいとこじゃねーか。


でも、もう良い。

家族を相手にうだうだと悩むのは止めだ。

ひたすら、受け入れてくれると信じよう。


"愛する"家族を、な。


「お、最後で吹っ切れてくれたわね。重畳、重畳♪」


「……最後、ってのがあんまり嬉しくないけどな」


「良いのよ。私はそういう星のもとに生まれてきたのだから」


「……うわ、似合わね〜」


「なんで茶化すのかしら?」


「牡丹にシリアスは似合わないから」


これは本当の気持ちだ。

牡丹には笑っていて欲しい。

……最後まで。


「……っ。 陽に真名で呼ばれるのは、慣れないわね〜」


「今までは母さん、だったからねぇ」


「ま、そういうプレイもありだけどね」


「…………あぁそう」


ないこともなくなくないんだが、そういうのを口にしないで欲しい。



   ★ ★ ★



とりあえず、朝飯食って、暇を持て余す。

今日は休みなんだよね。

……牡丹の権力を行使した休暇だけど。


「お待たせ〜♪」


そんな牡丹も休暇だったり。

これも牡丹の権(ry


どうやら俺との最初で最後のデートがしたいらしい。

最後の頼みだから、聞いてあげるけどな。






「なんじゃ、二人とも。休暇に乗じて儂を茶化しにきたのか? 茶化しにきたんだろう?」


「そうじゃないわ。遊びにきたの」


コイツ、マジでひでぇ。


「仕事を押し付けておいて、さらに追撃とはの。……殺せよチクショオォォォオ!!!」


遂に薊さんが壊れた。

……ま、当然だわな。




宥めるのに半刻と、手伝いで一刻ぐらい時間を使い、薊さんの機嫌を直しました。

牡丹にもちゃんと罪悪感はあったらしく、手伝ってくれましたよー。


「で? 本当の用はなんじゃ。遊びにも、手伝いにも来た訳ではあるまい」


「……うん、そうね。いや、そうだな」


牡丹の口調と雰囲気が変わる。


俺と同じに。


そして、薊さんの隣に立って、右手で頭を優しく撫でる。


「……ぁ……」


「今まで、こんな俺の為に、ありがとう」


「……別にアンタの為なんか、じゃ……ないんだからっ」


「ははっ! 相変わらずお前は可愛いな」


顔を少し赤くして照れる薊さんを、わしゃわしゃともう一度大きく撫でてから、右手を薊さんの顎へと持っていく。


……って、まさか!


「ちゅ……んむっ、れるっ」


「んぷっ、あむっ……はぁっ」


アーアー。

キコエナイ、ナニモキコエナイヨー。

/(´Д`)\


「牡丹……っ」


「愛してる。いつまでも」


コイツ、すげぇ。

おくびもなく、しかも女に対してドストレートに告白とか。


「じゃ、あとは任せたぜ」


「待って! お願い! お願いだから、いかないでよ……。僕だけを置いていかないで!」


薊さんは理解してるんだな。

今生の別れだって。


だから、素が出てるんだ。


「無理だ。今日この日この時まで、まさしく死力を尽くして生き長らえてたんだ。お前の頼みでも、無理なんだ」


「だったら僕も一緒に――「それは、絶対にダメだ」――どうして! 二人がいなきゃ、生きてる意味がないっ!」


「だとしても、だ。悔いなく最後までちゃんと生きろ。……白狼(しろう)のように、白狼の為に」


「――――っ!!」


二人の会話だ。

俺は傍観に徹する。


しかし、これを山百合さん以外がみたら、どう思うだろうか。


多分びっくりどころじゃないだろう。

てか、この男らしい牡丹をみただけでも信じられないものを見た気持ちになるってのに、薊さんまでとか、マジ卒倒モンだと思う。


「…………分かっ、た。……お兄様の為、だもんね」


「あぁ。……ついでに言えば、俺と白狼とお前と、時々山百合との思い出の地を、守って欲しい」


「ふ、ふんっ。しょうがないから、そっちの頼みも聞いてあげるわ」


「そうか。……今更取り繕ったところで可愛いだけだぞ?」


「う、うるさい!」


薊さんってば顔を真っ赤にしちゃって。

かーわーいーいー。


「そうだ。あと一つだけ伝えることがあったな」


「……なによ」


恨みがましい感じで若干睨むように見る薊さんに、ニカッ、と綺麗なぐらい格好よろしい笑みを、牡丹は浮かべた。


「待ってるぞ。いつまでも、いつになろうとも。どんなよぼよぼのババァになっても。"俺達"は、ずっと待っていてやるよ」


「っ! ……助かるわ。ここを守らないといけないから、ちょっと遅くなりそうだし」


「ふふん。だったら向こうでは白狼と当分イチャイチャできるな」


「あっ! ふざけないでよっ! アンタの頼みを聞いてあげてるってのにずるいじゃない!」


「ははっ! これぞ役得、ってやつだな」


……牡丹って、絶対男だって。

いや、おかしいでしょ。

格好良すぎ。

もう惚れちゃうわ!




「じゃ、山百合のとこにしゅっぱーつ!」


「さっさと行ってしまえ!」


さっきの雰囲気はどこへやら。

いや、もうGL要素はいらんけどな。



「……はぁ。泣きたいのに泣けないではないか」


「泣くほど嬉しくて、悲しいのにね」


「……どういう意味じゃ」


おぉう、剣呑剣呑。


「計画が順調に進む。最愛の女が逝く。思い出の地が守れる。一緒に逝けない。何時までも待っていてくれる」


「……嫌な男じゃのぅ。牡丹はどこに惚れたのか、不思議でたまらんわ」


「顔だろ」


「……ハァ、冗談じゃ。もう良い。行け」


なんで溜め息だよ。



   ★ ★ ★



「おうおう山百合ぃ、調子はどうでぃ!」


「だからキャラを安定させぇやボケコラァ!」


「……陽君も大分崩れていますよ?」


これは、うん。

確かにな。

自重、自重。


「……それで。お二人は私に何か用が?」


「最近、私に対して山百合が冷たいと思うの。なんというか、愛が足りないと思うの」


「薔薇はさ、綺麗だけど棘がある。つまりはそういうことさ」


「……あの。花に喩えるなら、一応百合科にして欲しいところなのですが」


やはり山百合さんはツッコミなのか?



「……本当に、如何いたしましたか? 御命令ならば、何なりと申し付け下さいませ。然らば直ぐにでも完遂してみせましょう」


「固い! せっかく大分柔らかくなったと思ったのに。そんなに固いのは、陽のチ〇コだけで良いの!」


「……なぁ、固い、の引き合いに、男性器を出すのを止めにしないか?」


「……よよよ陽君のチンっ!? ぁぅぁぅ……っ」


山百合さんの頭から湯気がっ。

とりあえず、山百合さんをオーバーヒートさせるのは止めような、牡丹。


「あぁもう、可愛い! 薊といい、山百合といい、どうしてそんなに可愛いの!」


山百合さんを抱き締める牡丹。

愛おしむように、名残惜しむように。


……なんだかなぁ。


とりあえず、恥ずかしがる山百合さんはめちゃくちゃ可愛いのは確かだが。



   ★ ★ ★



「二人ともいるとはね。しかも、状況的には好都合かしら」


「まぁ、好きにしたら」


そうは言ったものの。

真剣勝負っぽいし、声かけるタイミングなくね?


「てぃやあぁぁぁあ!!」


「っしゃあぁぁぁあ!!」


しかし、二人とも少しは静かに闘えんのかねぇ。

俺、戦闘のとき毎度無言だぜ?


前にでる牡丹。


「二人共、そこまでよ!」


「ふぇ?」「へっ?」


「いや、中断してやんなよ!」


最後の、力を込めた一撃、みたいなのを両方とも放ってたのに、それを止めるって魂胆が凄ぇよ。

それでも、槍が撃ち合う直前に止めた本人達も凄いけどな。

まぁ、そんなことばっかりしてたら、いつか絶対腕ぶっ壊すことになるけど。


「邪魔しないでくれよ、母上」

「そうですよ、牡丹様」


「ごめん、ごめん。ちょっと二人に用があって、ね」


牡丹に文句を言う二人。

まぁ、当然だわな。


「「――――っ!!」」


「……構えなさい。俺……私が相手をしてあげるから」


「……おいおい、マジかよ」


俺、とか、完全に本気じゃん。

たぎらせるのは闘気じゃなく、殺気な時点で分かる。


……はっきり言えば、全員やばいね。


(……保つのか?)

(……保たせる。心配すんな)

(別に心配はしてないが)

(じゃあ、黙って見てろ)

(はいはい。了解だよ、主殿)


さて、危ないもう二人は、と。

二人で目配せしてる。

なら、安心だな。


息を合わせて、闘気を膨らませていく二人。

辺りに渦巻く殺気が押し返されていくのが分かる。


……上出来だろ。

なぁ、牡丹。


「合格。強くなったわね、二人とも」


「「え?」」


構えを解き、殺気も鎮める牡丹に拍子抜けする二人。

牡丹の何もかもが本気だったんだから、そう感じるのはおかしくないけどな。


「なに? 瑪瑙も翠も、本気で相手をすると思ってたの?」


「え、だって、相手をするって、言ってたし」


「それに、殺気が本気だったじゃないですか」


「翠は相手の言葉を鵜呑みにしないの。それで、瑪瑙。あんなのは相手を量るのと、牽制に使う殺気よ。二人相手にこんな広範囲に殺気振り撒いたって、非効率的でしかないでしょ?」


言ってしまえばそうだ。

本気だったけど、闘おうとした訳じゃない。

殺気も、一対一とかだったら、相手一人のみにぶつけるのが普通だ。

まぁ、その辺の勝手は、知らなきゃ分からんだろうけどな。


「なんだよ、久しぶりに相手をしてくれると思ってたのに」


「……そうね」


あ、そこは瑪瑙も同意なんだ。


「そんなにして欲しかったの? も〜、しょうがないな〜」


「おっしゃあ!!」


「確かに嬉しいけど。……そうやって表に出して喜ぶから脳筋って言われるのよ」


牡丹や、そんなに娘からのスキンシップ(?)が嬉しいか。

翠姉は、相変わらずだ。

瑪瑙も珍しく喜んでるな。

……わざわざ苦言を呈してやるのは、仲の良い証拠だよな。



   ★ ★ ★



「やっべえ、マジ疲れた」


「自業自得だなおい」


二人との鍛錬(?)を終えて、回廊を練り歩く俺達。

割と本気で疲れてるな、牡丹。


「その通りだけどさ、もっと労って。愛が足りないわ」


「都合が悪いときだけ愛とか使いやがって」


「でも……くれるわよね?」


上目遣いでこっちを見てくる。

その求める顔とかが可愛らしくはあるんだけどさ、確信してる感じがアレなんだよな。


「はいはい、分かりましたよ。すればいいんでしょ」


「そうそう♪」


その満面の笑みは反則だって。


しょうがないから、キスしてやることにする。

本当にしょうがなくだからな!


ゆっくりと唇を近づける。

触れそうになるとき――


「あっ! おっ……邪魔しました〜」


――蒲公英がやってきた。


……これはマズいですよねー。



「ちょっ、待って! 待って下さいませ、蒲公英さん! 話を聞いてーっ!」






「え〜っと。つまり、お兄様と伯母上さまは結ばれた、ってことでいいよね?」


「……その通りです、はい」


「ごめんね〜。やっぱ我慢出来なかった☆」


所謂、修羅場です。

場違いにてへっ、という感じで笑う牡丹に、少しだけ殺意が芽生えたよ。


「伯母上さま」


「ん、なあに?」


「どこまでいったの? やっぱり、最後まで?」


あの、これホントに修羅場?

蒲公英さんの追及、完全に好奇心なんだけど。


「勿論♪ 凄かったわよぉ〜。まさしく狼って感じ。見事に食べられちゃった」


「うぉい! 先に手を出したのはアンタだろ!」


「なによー、私が降参するまで攻め……犯し続けたくせにー」


「何故言い直したっ! 危ない発言は止めろ!」


「ふぅ〜ん。そっか」


ちょ、悲しそうな顔しないでくれよ。

俺にだって罪悪感はあるんだからさ。


「あの、蒲公英さんや? 俺が一番に好きなのは、……愛しく思うのは蒲公英であってだな」


「じゃあ、あの夜は何だったって言うの!? 嘘だったの!?」


「ちょっと黙ってろよ、牡丹」


空気を読めよ。

今はマジなんだよ。


「あ、真名で呼ぶんだ」


「そうすることにした。一応のけじめだな」


「そっか。うんうん」


……あれ?

なんで満足気な笑み?


「やっぱり、堂々としてた方がお兄様らしいよ♪ ねっ、伯母上さま!」


「あ、蒲公英もそう思う? 全く、何をビクビクする必要があるのかしら。ビクビクさせるのはナニだけで良いのにねぇ〜」


「ねぇ〜」


「…………は?」


状況がわからない。

いや、厳密に言えば、わかってはいるが、混乱してる。


とりあえず、蒲公英と牡丹の仲が良くて、俺の悪口(?)を言っている。

……普通はおかしくね?


ただ、一つだけ確実に言えることがある。

牡丹、下ネタやめれ。


「分かってないって顔ね。……陽が誰が好きであろうと、私達の好きってキモチは変わらないのよ」


「そうだよ♪ お兄様がもし、仮に、そんなことは絶対ないと思うけど、たんぽぽ達のことが嫌いになっても、ね」


「……そっか」


純粋に嬉しいよね。

真っ直ぐな好意って。

魔性だよ、絶対。




「そうそう、伯母上さま」


「ん?」


「お兄様って、どんなのが一番喜ぶかな? っていうか、悦んでた?」


「そうねぇ……、裏筋を舐め上げ――「止めろぉ! 今の完全にアウトな発言だったぞ!!」――しょうがないわね〜」



   ★ ★ ★



「なんだか久しいわね」


「おかしいな、今日の朝飯も一緒に食っていたってのに」


「ちょっと失礼すぎじゃないの、おばさん」


「陽兄も酷いよ〜」


あの後――俺の羞恥心だけが爆発しまくった後――俺達は馬家の次男次女に会いにきた。

馬休こと茜と、馬鉄こと藍だ。

毎朝というほど見てるのに、牡丹と茜の言い合い、なんだか凄い久しぶりな感じがする。

まぁ、口には出さんがな。


……因みに、俺の発言はノリだからな?


「まだ! おばさん言うか!」


「ひょっ、はなひへひょ! いひゃい! いひゃい!(ちょっ、離してよ! 痛い! 痛い!)」


「お母さんって言うまで止めないから」


「にゅ〜!」


茜の両頬を引っ張る牡丹。

あれは、怒ってないな。

いつも通りのスキンシップの一環、ってやつだ。


「お姉ちゃんはホント、お母さんに素直じゃないな〜」


「反抗したい年頃なのさ」


「そーゆーもんなの?」


「そーゆーもんさ」


右隣にいる藍の頭を軽く二度叩く。

どうやら藍には反抗期がこなさそうだな。


「陽兄ぃ〜、おばさんがいじめてくるよぅ〜」


「まだ言うか! ……お仕置きが足りなかったようね」


どうやって逃れたか、俺の背に隠れる茜。

そして、俺と藍の前には怪しい笑みを浮かべた牡丹。


「茜ちゃ〜ん、すぐに出てきたら、お仕置きを軽くしてあげるわよ〜」


「い、や、よ! どうせ嘘だもん!」


「ホントだってばー。……早くしないと陽をいじめるわよー」


「……いいよ」


「しおらしく俺を生贄にしてんじゃねーよ」


妹だから許すけどな。

って、牡丹の奴、ホントに頬を抓る気だな。

だったら俺にも考えがあるぜ!


「…………藍ガードッ!!」


「ちょっ、陽兄の鬼畜ー!」


「はははー、なんとでも言えー! 但し、早く抜け出さないと、お前が餌食になるんだぜ?」


「悪魔ー! 人でなしー! 羽交い締めされて抱えられたら抜け出せる訳ないじゃん!」


「あら、藍が罰を受けるの?」


あ、余計に手をワキワキし始めた。

その気持ちがわからんでもないけどな。

だって、藍、弄りがいあるし。


「待ちなさい! 藍が受けるぐらいならわたしが受ける!」


「……良い心掛けね。でも……覚悟はいいかしら?」


「えぇ。上等――「待ってよ」――ら、藍?」


茜の言葉を遮る藍。

なんとなく真剣な様子なので、藍を離すことにした。


「お姉ちゃんが受けるぐらいだったら、僕が変わりに受けるよ。……やっぱり、女は男が守らないと」


「……藍っ(ポッ」


(…………ちょ、凄いラブ臭なんですけど)

(……心なしか、空気が桃色なんだが)

(どうしようかしら。弄れる空気じゃなくなったわ)

(素直に諦めろよ)

(無理♪)

(てめ……っ!)


見つめ合う二人。

ひそひそと話す俺達。

なんつーか、……異様だよ。


「二人で話がついたかも知れないけど、そうはいかないわ!」


「……空気読んでよ、おばさん。今、完全に流す所だったじゃない」


「まあまあ、落ち着いてよお姉ちゃん」


「藍がそう言うなら、仕方がないわね」


「……泣いて良いかしら」


一家の長より、やはり好きな男の方が強いらしい。

当たり前だけどな。


「……はぁ。もういいわ……なんて言うと思った!」


「きゃっ!」「うわっ!」


「……大人気ねぇー」


子供相手に騙し討ちとか。

まぁ、二人を抱き締めただけだけどな。


「好きよ、二人とも。大好き」


「いっ、いきなりなによ! 離してよっ」


「……僕も好きだよ、お母さん」


「ら、藍!?」


拒んで離れようとする茜。

本当の拒絶じゃなく、恥ずかしいから、だろうけど。

相対して、藍はというと、牡丹に抱き付いていた。

それに驚く茜。

本当に、藍が大好きだなおい。


「お姉ちゃんは、お母さんのこと好きじゃないの?」


「別に…………き、嫌いじゃない、だけだよ」


「ふふっ♪ それだけでも嬉しいわ」


「…………」


本当に嬉しそうだ。

でも、その泣きそうな顔はなんとかしろよ。



   ★ ★ ★



街へと繰り出した俺達。


「馬騰様、本日はどんな御用で?」

「馬騰さま、お一つどうぞ」

「馬騰ちゃん、元気かい?」

「馬騰様、結婚してー!」

「馬騰さまー、遊ぼー!」

『馬騰様!』

『馬騰さまー!』


人気者だな、やっぱり。


「あー! うるさいうるさいうるさーい!! 今日は逢い引きに来たの! 逢!い!引!き! わかったらほら、散った散った!」


「ほんとですか!?」

「お二人でどうぞ(笑)」

「おやおや。成公英ちゃん一筋じゃなかったのかい?」

「かぁー! 相手が羨ましいぜ!」

「誰とー?」

『馬騰様!』

『馬騰さまー!』


「もう! 陽〜、どうにかしてよ〜」


「あー、はいはい。……おら、大人は仕事やれ。餓鬼共はまた今度遊んでやるから。さっさと散れ」


納得した奴らもいれば、渋々って感じの奴らもいたが、とりあえず戻ってくれた。

ったく、お前ら好奇の目でこっち見んな!


「流石は陽。だから好きよ」


「おい、くっつくなって」


「嫌よ♪」


俺の腕に抱き付く牡丹。

どうせ、胸が当たってる、って言っても「当ててるの♪」と返ってくるから口に出しては言わないけど。

牡丹の柔らかな双山が腕に当たってます。


おいそこ氏ねって目で見んな。

そっちは羨ましそうに見んな。

……あれ、女からもそんな目で見られるのはおかしくね?


皆の視線にこもる感情の割合を見ると、だ。

氏ね、が三割。

羨望、が四割。

諦観、が一割。

祝福、が一割。

疑問、が一割。

と言う感じになってます。


男達は大抵が氏ね、男の残りと若い女達は羨望が多めで、男女達の残りが諦観、という振り分け。

祝福はご老体たちであり、疑問もまたご老体たちであったり。

牡丹と仲のよいご老体たちが前者で、蒲公英とも仲のよいご老体たちが後者、ということだ。


まぁ、どうでも良いけどな。


「ね、陽! あっち行こ! あぁ、でもこっちも捨てがたい。どうしようかしら!」


「……餓鬼かお前は」


あっちこっちと忙しい奴だ。

だが、そんな牡丹が可愛い、と思ったりするんだから、なんとも言えないんだな、これが。


この後、散々に振り回され続けることになったのだが、まぁ、割愛しよう。

……あれこそが、母さんの望む、求める、欲する世界だ、ってのは存分にわかったがな。



   ★ ★ ★



「はぁ〜あ、今日ももう終わりが近いわね〜」


「一応、まだ夕方だからね」


そうは言っても、もう日が沈む時間だ。

今日も精々あと三刻、約六時間ということ。

1日の四分の一は残ってはいるけど、実際はそんなにない。


ここの主な光源は太陽だ。

そっちには人工の光があるから夜遅くまで行動出来るけど、こっちはないから出来ない。

(火、があるにはあるけど、燃やされる側の消費量が凄まじいことになるから考えてない。)


だから、太陽と共に行動を開始し始めるし、行動を終えるのも太陽を共に、というのが普通だったりする。

実に簡単なことだろう?


と、言うわけで。

ここでは、よっぽどのことがない限り、遅くても十時頃には就寝する。

……情事に励むんだったら、そんなの関係ないけどな。


「ねぇ、陽」


「なんさ」


「私、いや、俺の歩いた道は正しいと思うか?」


「さぁね。俺が預かり知るところじゃないね」


これは本音。

そんなのは後生の歴史家が決めることだ。


まぁ、語られる物語かは知らねーけどな。


「おいおい、真面目に答えろよ、俺」


「なんて返すか分かってんだろ、なぁ俺」


「それでも、お前の口から聞きたい。私、が惚れたお前から」


しょうがねぇな。


「……道は歩いた後に出来るモンだ。最初から正しい道なんざ、ありはしねぇんだよ」


「ふふん。そう言うと思った」


なら言わせんなや。


……けどな、俺にはもう一つ言えることがある。

アンタの下にいたから言えることが、な。


「だけどな」


「ん?」


「……さっきまでに見てきた全てが、アンタの歩いた結果だ。少なくとも、アンタが作った道は、間違ってないさ」


「……っ! 本当に、お前は、そう、思うか?」


人ってのは、一人では生きていけない。

何故なら、人が一番恐れるのは孤独だからだ。

存在を肯定してくれる人がいなければ、否定してくれる人もいない。

自分が生きているのか、死んでるのかさえもわからなくなってしまう。


孤独は、人が最も嫌うこと。

だから、人は心に蓋をしたり、心を壊したりして、孤独から逃れ、心を安定させる。

無論、心は不安定極まりないが。


仮に、本当に孤独から抜け出したいのなら。

人と関係を築くことだ。


ならば、関係を築くには。

互いを知ること、互いを認め合うこと。

この二つが大切だ。

そして、知られるには見られることが重要で、認められるにはまた見られることが重要だ。


最後に、見られるには。

頑張るしかない。

目に留めて貰える程に、頑張れば良い。

さすれば自ずと結果がついてくるもので。

頑張りが見られ、知られ、そして、認められる。

認められると、また頑張りたいと思えるようになる。


これが繰り返されるのが世の常だ。

そうして関係は築かれていく。


まぁ、蛇足が結構あったけど。

つまりは、人はいつでも認められたい、ってこと。

……人を観察した結果の末に得たんだが、当時は馬鹿馬鹿しいと切り捨てた結論だ。


この、牡丹の泣きそうな顔も、認めてもらえるかもしれない、という喜びと、そうでないかもしれない、という不安で揺らいでる証拠だ。


多分だが。

牡丹には、極端に認めてくれる人が少なかったんだろう。

……俺もそうだったからな。


父親を亡くしてからは、孤独に押し潰されそうになりながらも見事耐え、段々と認められるようにはなった。

でも、それはあくまで上下関係のようなものばかりで、対等な相手がいなかったんだろう。


そこで出てくるのが、旦那の成公英だ。

初めて対等に、友として認められたのが、相当嬉しかったんだろうね。


そして、次は薊さん。

初めて好敵手として、肩を並べられる存在に歓喜したことだろう。


心底惚れて、深く愛を示すのは当たり前だ。


まぁ、あれだ。

二人以外、対等に認めてくれる存在がいなかった。


だから俺に惹かれたのかもね。

血的にも、心の在り方にしても、同族だから、ってのもあるだろうけど。


そういう訳で。

こうやって、面と向かって認められるのに慣れてない牡丹。

泣きそうなのは仕方ないことなんだよ。


「俺は、牡丹がやってきたことは、正しかったと思う」


「……っ、……ありが、とう」


肩を抱いたり、とかはしてやらない。

わざわざ俺に背を向けて、三歩ほど距離をとったんだから、見られたくないんだろう。



たっぷり時間をとってから振り向いた牡丹の顔には、満面の笑みがあった。



「これで最後だって言うのに、妙にすっきりしちゃった」


「もう、いいってことか?」


「そうね。満足したかな」


「……本当に?」


「んー。一つだけ心残りがあるけど、総合的には十分ね。……これで私は満足♪」


「……そっか」


そんな満足気な笑みで言われたら何も言えねぇよ。


夕陽を背にして笑む牡丹は、どこまでも綺麗だった。



   ★ ★ ★



そして、夜。


何故か俺は牡丹と共に寝転んでいた。

いや、まぁ、誘われたからに過ぎないんだけど。


「ねぇ、死ぬ、ってどうなんだろう」


「…………」


「痛かったり、苦しかったり、悲しかったりするのかな」


「…………」


「人が死ぬのは、散々見てきたけど、自分が死ぬのは初めてだから、わからないな」


「…………」


どうにも答えられない。

だって、これだけは俺も知らないからな。


「は〜ぁ、死ぬって存外簡単なのね。だって、ここで寝たらすぐだもん」


「…………」


「ねぇ、陽」


「…………」


「……お願いだから、喋って。声を聞かせて。……この不安をどうにかしてよ……っ」


「……やっと本音が出たか」


普段なら、こんな無駄なことは聞かないから、黙ってみたら。

案外、痺れを切らすには時間がかかったな。


「死ぬってことに抵抗はあったけど、覚悟はしていたわ。いつでも死ねるように、悔いなく生きてきた」


「……あぁ」


うっすらと笑う牡丹。

……似合わない。


「心はいつも満たされてたから、死ぬと知っても、難なく受け入れてた。自分の身体は自分が良くわかってるから、華陀君に言われても、あぁ、やっぱり、程度にしか思わなかった」


「…………」


自嘲気味に笑う牡丹。

……似合わない。


「でも、いざ死ぬとなった今は、……怖くて堪らないわ。死ぬのが怖くて、不安で、どうしたらいいかわからなくなっちゃった」


牡丹の顔が途端に歪む。

無理しておどけて、変な笑みになってる。

……だから、似合ってねぇって。


「ねぇ、陽。……どうしたらいいかな?」


「さぁな」


「さぁ、って。こういうときぐらい、真面目に答えてよ」


「それを、お前が、言うか?」


「……耳が痛いわ」


散々シリアス台無しにしてきたことに自覚はあったらしい。


「まぁ、あれだ。どうするもこうするもないだろ。結果はもう決まってんだから」


「それは……そう、だけど」


どんだけ怖いと思っていようが、所詮は決まった結果に後付けされる過程の中の話だ。

誰がなんと言おうと、関係ないんだよ。


だけど、さ。

最後の不安ぐらい拭ってやるのも悪くないだろう?


「そういえば、だ。何が怖いんだ?」


「何がって、……何だろ? 死ぬことが、っていうのは漠然としてるし」


「それを含めてどうにかしろってことか」


でもさ、存外簡単なことだと思うよ。


「俺も、正直言えば怖いよ」


「陽が? 珍しいわね」


「はぁ? 言っとくけど、俺って臆病だぜ?」


「うっそだ〜」


「ちょ、おまっ……」


ここ、別にからかうとこじゃないから。

つか、俺を案外知らねぇんだなコイツ。


「いや、そんなのはおいといて。俺が牡丹と同じ状況だったらさ、お前みたいには出来ない。……失うとわかってるのに」


「……失う、ね」


「そうさ。俺はさ、俺を受け入れてくれた皆に、本当に感謝してる。何を犠牲にしても良いぐらい、家族が大切だ。そんな大切な存在と別れる、失うのは悲しすぎる。……それに、今更独りは嫌だ」


「……そっか。そういうことね。皆を失うのが、離れ離れになるのが、独りが、怖いんだ」


何故か安堵の笑みの牡丹。

……さっきよりはましだけど、似合っていないのは確かだ。


「簡単なことなのに、どうしてわからなかったのかしら」


「隠し過ぎたんだよ。自分を抑え過ぎたんだ」


病気を偽って元気に振る舞ってたことしかり、十年以上も本当の自分を出さなかったことしかり、だ。


「……そう、か?」


「そうさ。……だからさ、最後ぐらい、欲望に忠実で、自分自身でいろよ」


「……良いのか? 言っておくが、俺は強欲だぜ?」


素を出してきたな。

もう一人の俺とも言うべきヤツが。


「別に欲をさらけ出す分には良いんじゃない? 満たされるかはまた違うからな」


「そうか。じゃあ」


ていうか、絶対満たされないと確信できる。

だって、俺も同じ状況だったら、まず、これを欲するから。


「お前らが欲しい。俺の家族が欲しい。薊が、山百合が、瑪瑙が、翠が、蒲公英が、茜が、藍が、そして、陽が、欲しい」


その心は、すなわち――


「だから、共に、死んでくれ」


――心中。


何よりも大切だから。


失うことが怖いから。


死したあともずっと。


永久に共にいたくて。


一緒に笑って欲しい。


けど、それは届くことのない願いだ。


「俺は嫌だね。まだ死にたくないし。やるべきことも、沢山あるから」


「やっぱりな」


わかりきっていた答えに、牡丹は苦笑する。

……まだ少し違うな。


「大体さぁ」


「あん?」


「向こうで旦那とイチャラブするんじゃなかったのかよ」


「………………あ」


「昨日は昨日で惚気てた癖に、忘れとったんかい」


今日も薊さんに向かって宣言してたのにな。


「……もう、怖くないだろ?」


「……あぁ。向こうにはアイツがいるんだ。俺は独りじゃないんだ」


「そうさ。……それに、待つんだろ、薊さんを」


「俺の女だからな、当然だ」


自慢気に笑う牡丹。

……やっぱり、こういうのじゃないと。


「だったらさ、ついでに俺のことも待っててくれよ」


「えー」


「……お前なぁ」


ちょっとは悩めよ。

呆れ顔してると、何故か爆笑された。

……似合ってるんだけどさ、釈然としないなぁおい。


「ぷっくっく、冗談だって。……ちゃーんと待っててやるよ。お前だけじゃなく、皆を、だけどな」


「それでも助かるよ。俺もいざというとき、寂しくなくなるってもんだからな」


……本当に。



   ★ ★ ★



「もう、寝ようかしら」


「そうか……」


牡丹がいなくなることは、俺は俺で悲しいし、寂しいし、苦しいんだよ。


「もう、しょうがないわね〜」


「んな!?」


不意に牡丹に抱き締められた。

むしろ俺がしてあげないといけないのになぁ。


「母さん……」


「あら、そういうプレイ?」


「ちっげーよっ!」


なんで茶化すかな、この人は。

さっきのように、俺の気持ちを機敏に感じて、仕草や行動で表してくれる所に惹かれたのに。


改めて鑑みると、牡丹の母性に惹かれたのかもしれない。

俺、正直、抱き締められるの好きだし。

……俺は嫌がってたのに、それでも牡丹は幾度となく抱き締めてきたのは、それがわかってたのかもしれない。


まぁ、母親を知らない俺が母性とか、本末転倒だけどな。



「もういいよ……。とりあえず、離れてくれ」


「ホントに良いの? もっと甘えてくれても良いのよ?」


「あ、あぁ。最後ぐらい、男でいさせて欲しいからな」


甘えていいと言う言葉にちょっとだけ、ほんのちょっと、それはもうすっごいちょっとだけ揺らいだけど、最後の気持ちで押し留めた俺。

それを察してくれたようで、牡丹はスルリと離れてくれた。

名残惜しいけど、そんなことは言ってられない。

男には、やらなきゃならねぇ時がある。

いや、男じゃなくても、やらなきゃなんねぇ時はあるけどな。


「俺に家族をくれて、愛をくれて、ありがとう。母親としても女としても、大好きだよ」


「どういたしまして。私も、愛してるわ」


「それじゃ、お休み。また向こうで、ね」


「えぇ、お休み。待ってるわ」


そう言って瞳を閉じた牡丹の寝顔は、とても安らかだった。











次の日、庭中の牡丹が華を咲かせることになるのだが、この時の俺は知る由もなく。



そして、牡丹は永遠に知ることはなかった。





















陽は語る。


「今でも、思い出すと辛いね。本当に好きだったから、さ」




うん、シリアスっぽい。




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