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第四十三話



うむ、また飛ぶんだ。

キンクリなんだ。


主に二ヶ月ぐらい飛ぶんだ。




そして、前回に続き短め。



「そんな……! 嘘でしょ? 嘘だって言えよ!」


「残念……だけど、嘘じゃ、ない、よ。流石に、ハリネ、ズミにされ、たら、無理、みたい」


「……っ」


「私、いや、俺を! 薊を! お前は置いていくのかよ!」


「ごめん、ね、牡丹、薊。寂しい、思い、を、させる」


「ふざけんなよっ! 俺を、薊を幸せにするって、約束したじゃねぇかよぉ……!」


「……っ!」


「ホントに、ごめ、ん。でも、一つだけ、言って、おく、よ。牡丹」


「……んだよ」


「薊」


「お兄様……」


「愛して、るよ。心、から。これまで、も、これ、からも。何時、までも、ずっと、ね」











Side 牡丹


「――――ッ!!」


寝台から飛ぶように起きる。

自分でも驚くほどで、いつもだったら笑い飛ばせたけど、今日はそう出来なかった。

夢見が悪かったんだもの、仕方ないでしょ?

その理由にほら、寝間着がぐっしょぐしょ。

身体中を愛撫された後の(自主規制)から溢れてきた(自主規制)が濡らした下着ぐらいびちょびちょ。

……流石にたとえが悪かったわね。


とりあえず、身体中に寝間着が密着しすぎて、身体の線が容易に分かるぐらい。

別に人前に出るのに恥ずかしい体型ではないからいいけどね。


「……あ、そっか」


何故にこんなに汗まみれになる夢――自分の大切な人が自分の腕の中で死んでしまう悪夢――を見たのか、と考えてみたら思い当たる節が一つ。

……旦那の命日だったわ。

さっきのは夢なんかじゃなく、過去だったわけよ。

も〜、やになっちゃうわねぇ。


   ★ ★ ★



「おっ、おおお主っ! なっ、なんて格好っ!」


「あら、薊。おはよー」


「うむ、おはよう。……って、そうではないっ! 何故そのような、ぬっ、濡れ濡れな格好のままなんじゃと聞いておる!」


これでもかってぐらい顔を赤くしちゃってー。

照れ隠しで怒ってるのが丸わかりよ?

ま、そんな薊が可愛いんだけどね。


「いやね、服に着替えるために行水するのも面倒だから、水浴びに行ってこようと思って」


「だとしても、その格好は、……卑猥じゃ」


「もう、そこは綺麗すぎて目の毒だ、とか言ってよね〜。……それに、安心して。誰にも気付かれる気はないから、ね♪」


薊ってばホント素直じゃない。

私の身体を他の誰にも見せたくないからああ言うの。

所謂、愛情の裏返し、ってやつかしら。


そんな願いを聞き入れて、氣を抑えてあげる私も私よね。


「〜〜〜〜っ! ならばもう行ってしまえっ!」


「呼び止めたの薊の癖に〜」


本に愛い奴よのう〜、なーんてね。




「なんて格好してんだよ、母さん」


早くもバレちゃったよ。

登場すんの早すぎでしょ。

空気読めよ。


「すげぇひでーこと言われた気がするのは俺だけか?」


「そうね、陽だけね」


「おぉう、随分語勢の強いこと。キレてるの?」


「キレてないっすよ。私キレさせたら大したもんっすよ」


「古」


「振ったのそっちな癖にっ! そして、一文字は酷いっ!」


この阿呆が、陽。

私の愛しい馬鹿息子。

私より背が高く、男としてはかなり長めの髪。

最近のお気に入りは三つ編みらしく、後ろ髪で編んでいる。

アレね、ハ〇レンのエ〇リック君(チビの方)を思い浮かべたらいいわ。

……メタ発言だって?

うるさいだまれ作者に言え。



煌めく銀灰の瞳に、目つきの鋭い右目と、相変わらず眼帯付きで、その奥には光を入れないほどの黒の瞳をもった左目。

鼻はスラッと高く、口には笑みが浮かんでいる。

……かく言う私も笑みを浮かべてるんだけど。


そんな形が旦那を思い出させるのよ。

目つきと髪色を翠と代えてしまえば、旦那にしか見えないぐらい似てるから。

ホントの私と旦那の子ではないか、と思わせるぐらい似てるから。


翠の顔立ちと頭の出来、好戦的なとこは私で、目と髪色だけは旦那。

陽の顔立ちと頭の出来、冷静なとこは旦那で、目つきと性情は私。

対比すると、ホントの息子さながらに受け継いでるのよ。


「……おーい」


「ん、なに?」


「考え込む前に、最初の質問に答えようぜ」


それもそうだったわ。


「水浴びに行こうとした、薊に注意されたから氣を抑えた、けど見つかった。……ということで陽が悪い」


「何故そうなるんだよっ」


「だってそうでしょ? 普通は見つかんないもんなのよ、あそこまで氣を抑えたら」


反董卓ちゃん連合のときに、今の呉軍に潜入したじゃない?

そのときに祭の後ろをとったわよね。

そのときぐらい抑えてるのに気付いたのよ、陽は。

完全に私の所為じゃなく、陽の異常な観察力が悪いじゃない。


正直、純粋にあれは凄すぎると思うわ。

相手の筋肉の動きを"観察"して攻撃を避けられるし、氣を見る訳じゃなく――なんとなくは分かるらしいけど――本質を"観察"する訳だから、気当て、所謂覇気が効かないんだもの。

相手取るには厄介だとも思うわ、あの業、いえ、(すべ)は。


「あ、そうだ。はいこれ」


「ん、なに?」


「弁当。毎年のこの日、朝食は別だろ? いつも持っていってんのかと思って、ね」


「あ、所謂、愛妻弁当ってやつね? ありがとー! もう、陽ってば大好きっ!」


「まず、妻じゃねぇ。そして抱きつくな、若干ベタッとする」


「んもう、冷たいんだから〜」


朝食抜きでいこうと思ってたから、かなりありがたいわ。

最近、ホント少食になってきたから、こんなに食べられるか心配だけど。



   ★ ★ ★



馬、っていうか黒兎――渋られたけど、陽から許可はもらったわ――を駆ること半刻。

誰でも知りうる森へとたどり着いた。

そこから奥へと進むと、これまた至って普通な湖が見える。

でも、この場所に意味があることを、私を含めて三人――薊と山百合――しか知らない。


ここに私の旦那、成公英の遺骨があることを。


この一本だけ桃色の花を咲かせている異質な樹のそばに埋められていることを。

お墓自体は隴西にも金城にもあるんだけど、ホントにホントのお墓はここって訳。

……旦那が提唱した、火葬って概念がなかったら出来なかった所業ね。


「私がここに来るときはいつも満開。これはせめてもの贈り物ってことかしら?」


ここに来るのは一年に一回、この日だけ。

そんな低い確率なのに、いつも桃色の花が咲き誇ってる。

鏡のように湖に映る樹も素敵だし、風に乗って花びらが舞うときなんて、とても空想的。

……そういえば、旦那が言うには、この樹を桜というらしいわ。



「あ、……ら。こういうとこは気が利くのね」


こんな勿体無さすぎる景色を独占しつつ、陽がくれたお弁当を広げてみると、明らかに二人前用意されていた。

……こういった甲斐性はあるのよね、鈍感だけど。


蓋を開ければ、私としては見慣れたものばかり。

旦那は懐かしい、と言うかもしれないわね。

例えば出汁巻き。

出汁の為に三人でギャーギャー言い合いながら悪戦苦闘したものね。

挙げ句、昆布の為だけに王蓮たちにも手伝って貰ったし。

出来れば鰹、だっけ?

それも欲しがってたわね旦那は。

山百合は終始呆れていたわ。


……そう考えると、どうして陽は出汁巻きが作れたのか、って疑問に辿り着くと思わない?

でも、私にはその理由がもうなんとなく分かっていた。

あれだけの"ひんと"があるんだもの、当然の結果よ。

ま、だからといってどうということはないんだけどね。



「ふぅ、ごちそうさま」


大きさ的にはあんまり多くはなかった――全盛期の三割程度――はずのに、お腹が一杯になってしまった。

やっぱり進行してるんだな、って実感が湧いてきちゃう。

でも、まだ生きているんだ、って実感も湧いちゃうのよね。

ホント、イヤな実感よ。



ご飯を食べたせいか、だんだん眠くなってきた。

……子供か、私は。





   ★ ★ ★





『一応、久しぶり、とでも言えば良いかな?』


「…………へ?」


『ふふ、君の呆ける顔がまた見れて嬉しく思うよ』


「……嘘、だろ?」


いつもの湖、いつもの桜。

眼前にはいつもの光景なのに、そこには本来いてはいけない人がいた。


『嘘、か。どうだろうね。嘘か誠かは君が決めれば良いよ。夢が現かも含めて、ね』


「定積通り考えるなら、本当で夢なんだろうな」


『その通りさ。でもさ、本当で夢……これは矛盾してると思わないかい? だって――「もういいから。話が長い」――ふむ、それもそうだね。酷くどうでも良いことだ』


やばい、にやけてくる。

口角が自然と上がってくる。

しゃべり方が、声色が、その形が、あれは本人だって証明しているから。


『本当に伝えたいことを話そう。……会いたかったよ、我が主にして、僕のお嫁さん』


「勘違いするなよ。俺はお前の、じゃねぇ。お前は俺の軍師で、夫だ」


『拘るね、それ。でもそんな君に惚れたのは僕だから、文句を言うはずもないし、むしろそこも好きだったりするんだ』


「……相変わらずこっぱずかしいことをずけずけと宣うもんだな」


なんでだろうな。

年頃の乙女に戻ったように、一言一言に一々ドキドキする。

悪態をついてないと、柄にもなく顔を赤らめたり、今すぐ傍に駆け寄って抱きついたりしちまいそうなぐらい、な。

……自分はやっぱり女なんだ、って実感が沸いてるだな、俺。



「で、何の用だ?」


『用がなければ会いに来てはいけないのかい?』


「少なくともお前はな」


『確かにそれは言えてるね。これは参ったな』


一本とられた、って顔してた。

でも、すぐに優しい微笑みに戻ったけど。


『まあ、いいさ。それより用件だったね。……牡丹、早くこっちにおいで。僕は愛している人の苦しむ姿をあまり見ていたくない』


「……っ」


なんて甘い言葉をかけてくるんだ、全く。


……俺だって!

その手を取りたいさ。

その胸に飛び込みたいさ。

その開いた腕に包まれたいさ。

そんで、そんで……!


数え切れないほどしたいことなんてあるさ!

けど、……それは"私"が許さない。

所詮は俺が作り上げた虚構の姿、それが"私"でしかないけど。

それでも、私が母として、私が私として愛した息子に、もう一つだけ残しておきたいものがあるから。


「生憎だが断らせてもらうぜ。俺、いや、私にはまだやることがあるんだ」


『そうかい。たとえ自分が傷付いてでもやりたいんだね』


「あぁ、これは譲れない」


『なら仕方ない。僕は大人しく待つことにするよ』


わざとらしく肩を落とす姿は、あらかじめこの答えがわかっていたような仕草だ。

見透かされたようで腹立たしく思う反面、いまでも心が通じてるんだなという喜びもあるからダメだな。


「その、なんだ。……決してお前を拒んでいるからじゃないからな」


『そうかい。……ふふっ』


「なんだ、気持ち悪い」


『久しぶりの君のデレが、ね』


「…………殴る」


『いや、待ってくれ! 僕は純粋に嬉しかっただけで――「……問答無用だ」――もう、そんなにつんけんしたって可愛いだけだよ?』


「……あぁ〜〜〜! うるせぇうるせぇうるせーー!! その口を閉じろぉぉぉお!!」


今の俺は、誰がどう見たって顔が真っ赤だ。

怒ってごまかしてるけど、ホントはものすごい恥ずかしい。

惚れてる男に、素面で愛を囁かれるんだぜ?

耐えろってのは無理な話だっての。





   ★ ★ ★





あれからどれぐらいたったんだろう。

瞑っていた目を開くと、そこにはいつもの光景。

桜の樹に寄り添うように寝ていたようね。


「……はぁ。やっぱり夢、か」


わかっていた。

わかりきっていた。

でも、ほんの少し期待してしまうのだから、私は女なのよ。


……でも、いいわ。

頭には記憶が残ってるし、待ってくれるって約束してくれたから。

それに、……すぐいくと思うし、次に来た時にはもうずっと離れないから。


「……それじゃ、帰るね。あんまり遅いと薊に怒られちゃうから」


今日だけは少しだけ甘くしてくれるとは思うけど、ね。



   ★ ★ ★



「おっかえり〜」


「ただいまじゃろうが馬鹿者」


「言葉がいつになく辛辣ね〜。キレてるの?」


「キレとるわ、阿呆」


あれ〜?

そこはノリで言うとこじゃないの?


「帰ってくるのが遅い。お主はこれでも一応州牧なんじゃ。昨年と同じ、いや、さらに長い時間おらぬのは困る」


「ちょ、これでもって……」


思わずこぼれる苦笑い。

まぁ、薊の言ってることは正しいけどね。

所詮は曹操ちゃんから貰った肩書き。

正直、見合ってるとも似合ってるとも思わないわね、勿論悪い意味で。

こんな位の高い職、私が就くべきではないわよ。


「……なんじゃ、ま・だ、このような高職、似合っとらん、と考えておるのか?」


「あら、よくわかったわね〜」


「…………ハァ。あのな、儂らはお主だからついていくのじゃゃ。隠し切れぬ魅力が儂らを惹きつける。故に、この地位は当然であるし、むしろ低いとも言えよう」


面白いことを言うわね。

確かに皆、私を慕ってくれてるだろうという自負はある。

だって、私も好きだし。

だからこの地位にいるのは当然、っていうのは無理矢理な論法じゃない?



私、いや、俺は親父を失ってから一人だった。

樵とか土木とかときには商人の護衛など、普通、女がやらないことをやってた。

有り余る力のはけ口として丁度良かったけど、同僚たちからは気に入られることはなかった。

何故なら、"女"の癖に仕事をとってしまうから。

力仕事は男、家の仕事は女、みたいな、ね。

ま、実力で分からせてやったから徐々に慕われるようになったわ、姉御、って。

……厳つい目つきから、ってのは少々頂けなかったけど。


そんなこんなで基本、涼州中をぶらぶらしながら普通に過ごしてた。

いや、普通ではないか。

街ごとで自警団的なのを元ごろつき馬鹿どもが勝手に作って。

勝手に姉御こそ頭とか言って頭にしやがって。

賊などのごろつきを御したり、殺したり。

なんだかんだで街の皆にも慕われるようになった。

……このころに山百合とも出会ったのだけど、割愛しよう。


そして、転機はあの馬鹿に会ったとき。

こんな職に就かなければならなくなったのは、全部あの馬鹿――今では愛しい愛しい旦那だけど――のせい。


『初めまして、僕は成公英。君が噂の馬騰さんかな?』


初めて会ったときの言葉。


『自由……、か。僕が今までもこれからも欲してやまないものだよ。……正直、体現できる君が羨ましいよ』


共に酒を飲むようになったとき辺りでの会話。


『国を建てる気はないかい? 君が主で、軍師が僕で』


いつになく本気の言葉。


『一緒に来て欲しい。君には傍にいて欲しいんだ』


天然なのか本気でなのか、口説き文句ととってもおかしくない言動。

ほんの少しだけ惚れたときでもあった。



ということで、旦那に見初められなければ就くことはなかったんだから、旦那が悪いといってるのよ。


「……言っておくが、お兄様は悪くないぞ」


「あら、バレてた」


ま、確かに売り言葉に買い言葉のように『お前が俺の傍にいろ』って言ったのも悪いのだけどね。

それにしても、心を読んだかのようねぇ。

でも、決して読んだ訳じゃなくて、分かるんだろうけど。

だって……心が通じてるから。


恋人同士よ?

そんなの当然じゃない。


「まぁ良い。それでは行くぞ」


「はいはーい♪」


そんな薊に素直になってあげるのも偶には悪くないわね。



   ★ ★ ★



Side 三人称


「ついに動く、か」


ある一室にて、そう呟くものがいる。

西涼軍第二軍師こと陽である。

その口は僅かに歪むだけで、世間一般の誰が見ても無表情のそれにしか思えない。

しかし、見る相手が家族の誰かならば、確実にこう答えるだろう。

不機嫌である、と。


というより、不機嫌にならない訳がない。

今ある平和――といっても仮初めのものに過ぎないが――をぶち壊して、戦争をやろうとしているのである。

喜ばしく思うのは普通、戦闘狂の類の者たちのみだろう。


「さて。……本格的に考えねーとなぁ」


陽は忌々しげに左手で髪をかきあげる。

考えるは、これからの戦いのこと、その後のこと、家族のこと、そして、己の身の振り方。

これらは決して自分が軍師だから、という理由で考えている訳ではなく。

己が己の為に考えているのであった。





陽は語る。


「自分の為に動くって、そんなに非難されることか? どこぞの甘ちゃん共よりよっぽど人間らしいと俺は思うんだがな」




牡丹さまの、ちょっとした暴露話な回でした。




てか、原作キャラでてねぇ!

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