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第四十二話



大局が、キンクリだー。



比較的短めな気がする。





「陽よ、少し良いか?」


「ん、なんさ?」


「……儂と、組まぬか?」


「ん〜、いいよ」


「うむ、わかっておる。いきなり言われて困惑して…………って、は?」


「自分から言い出しといて自分で困惑するなよ、薊さん」










遡ること半刻……。


Side 陽



「曹操ちゃんが袁紹を破ったらしい」


どうしたら兵力で圧倒的に劣る曹操ちゃんの軍に負けることができるのだろうか。

……ま、部下の進言を聞かず、敵を侮り、己の欲を出し、兵糧庫の見張りを怠ったからなんだけどさー。


「……どうするのじゃ、牡丹」


「どうするって?」


「……抗戦か降伏か、です」


薊さんが母さんに問い、山百合さんが補足を入れる。

母さんは納得したようだけど、疑問そうな顔しているのが約一名。


「……なぁ、本当に曹操はこっちにくんのか?」


片目を瞑り、未だ思案顔で聞いてくる翠姉。

確かに言い得ているね。

……それにしても、思考が一歩進むようになったなぁ。


「ふっ、まだまだね、翠」


「お前にバカにされるとすっげぇムカつく……!」


「はい、どうどう」


瑪瑙がバカにすれば翠姉が怒り、蒲公英がそれを落ち着かせる。

いつも通りの構図です、はい。


「立て直しには時間がかかるだろうけどさ、絶対に来るさ。前にちょっと喧嘩売っといたし。……それに、領土が隣接する勢力の中で、俺達に一番脅威を感じてるはずさ」


袁紹を倒したことで領土が広がり、それにともなって隣接する勢力が増えた訳だけど。


劉備御遣い軍は、今回の戦の――恋ちゃんたちを食糧的な問題で早いとこ仲間にしたおかげで、被害はかなり少ないけど――再編と統治で忙しい。

今回の戦に乗じて袁術から領土を取り戻した孫策ちゃんも、寂れまくってる街等の復興に着手してる。

……因みに、この二陣営には、金と食糧で支援してますよ。


劉表は動く気配はない。

半ば自治区みたいになってる張魯のとこは、自衛程度の兵しか保持してないから関係ない。

その向こうの劉璋は暗愚であり、領内が安定してないから無視できる。


と、言うわけで。

自由に動けるのはここだけで、脅威に思わないはずがないのだよ。


……あ、侵攻の選択肢はないのは、母さんが領土を欲してないからさ。


馬鹿だと思うだろ?

ここで一気に攻めちゃえば、華北全部頂けるのになー。


でも、そうしないのが母さんなのさ。


「ん〜〜〜〜〜〜、どうしよ」


「抗戦に決まってんだろ! 母上はここが奪われてもいいってのかっ!」


「別にそうとは限らぬぞ、翠。降伏の条件にここの統治を任せて貰う、という手もある」


「しかし、母様、何もせず降伏とは、武人として……」


「武人としての誇りと住民の命。……どちらが大切か、分からぬ訳ではあるまい?」


ふむ、翠姉と瑪瑙は抗戦派で、薊さんは降伏派、か。

どちらかと言えば、俺も薊さんに賛成だ。


俺は武人じゃないから、その誇りとか分からないねぇ。

よく誇りの為に戦う、って言うけどさ、負けたら自分だけじゃなく他にも被害が及ぶ訳で。

代償が守るべき命だったらどうするんだろうか。

命と誇り……天秤にかけるまでもないだろ?。


だから、俺は武人の高潔さがあんまり好きじゃねぇ。


「……ですが、直ぐに降伏するとなると、民に不安が及ぶのでは?」


「それに、バカにされちゃうよね」


む、山百合さんは中立か。

蒲公英はまだ分からんな。


確かに素早い降伏は愚策だな。

民にも諸侯にも、そして五胡の奴らにも足元見られてしまう。

強大な軍事力に直ぐに腰を折り、頭を下げて媚び諂う奴らであると。

それは流石に不味い。

今までが無駄になってしまう。


「んで、どうすんのさ?」


最終決定権は母さんにあるし。


「まぁ……保留ね。どちらにしても、もう少し後の話だし。じっくり考えましょ」


安易だな。

問題の引き延ばしにしかならないってのに。


……やっぱり、どこか違うな。


「じゃ、解散ね。はい、いつもの仕事に戻るようにね〜」


まぁ、こんな軽い感じで軍議は終わった。



   ☆ ☆ ☆



その後薊さんに呼ばれ、冒頭に戻る訳だ。


これで回想終了。



「何をしておったのじゃ?」


「別に大したことじゃないよ」


「……まぁ良い」


良くないって顔してるけどなー。



「……で。何故儂と組もうと?」


「そら、誘われたからさ」


「茶化すでない。きちんと話さぬか」


「だったら誘った薊さんから話してよ。組むと言ったんだから、胸襟開いてさ」


「はぐらかされた気がするが……、まぁ良いじゃろう」


少し恨みがましく睨まれたけど、直ぐに真剣な眼差しにかわった。

俺もその空気に合わせる。


「儂はの、牡丹が嫌いじゃ」


「…………はぁ?」


何を言ってんだこの人。

嘘だってわかりやす過ぎるだろーが。


「お調子者であるわ、政務を投げ出すわ、すぐに逃げ出すわ、人に迷惑をかけるわ、そして、……阿呆であるわ」


「…………」


け、結構苦労してるのね。

俺なんて比じゃないな。


……でもさ、そんな慈愛に満ちた目だと、説得力の欠片もないよ、薊さん。


「そこで、じゃ。文武の才は十二分にあり、何より真面目なお主こそ、上に立って欲しいと儂は思うておる」


「……これはまた、いきなりだね」


ちょっと照れるけど、実に正論だ。

君主に武はあまり必要ないけど、あれば儲けものだし、政務に於いても、経験は劣るけど、見合う実績はある。

それに、母さんほどではないにしろ、求心力が無いわけでもない。

別にそこら辺の地方官やれ、と言われても出来るぐらいの能力を、俺は持ち合わせいる自負はある。


だとしても、話が飛びすぎだと俺は思う。


「どうじゃ、納得したか?」


「いや、全く。……嘘は言ってないけど、全部言ってる訳でもないからね」


「…………」


無言は肯定ととるぜ、薊さん。

まぁ、納得はしてないけど、大体は理解した。


「別に言いたくないことがあるならそれで別にいい。でも……一つだけ質問に答えて」


「……なんじゃ?」


「薊さんにとって、ここ、隴西は?」


「大切な地、じゃ。他のどこを差し置いてな」


「…………そっか」


すげぇ即答。

でも、そのおかげで……全部繋がった。

繋がってしまった。


薊さんが降伏派の理由も。

母さんが保留にした理由も。

薊さんが焦る理由も。

母さんが無理をしなくなった理由も。

薊さんが嘘をついた理由も。


この件に関連する全ての理由が、だ。


それによって、認めたくなかった事実が見えてしまった。


……頭の良さは、得ばかり生むものばかりじゃないんだよ。



それにしてもさ。


「やっぱ、母さんのこと、大好きなんだな」


「べっ、別に好きではないっ! 嫌いだと言ったであろう!」


「別に薊さんが、とはいってないけど?」


「〜〜〜〜っ! この話は終いじゃっ! 自分の仕事に戻るが良いっ!」


「へいへい」


呼び止められたのは俺なのに、この扱いはどうなの?

別にからかえたから良いけど。



   ★ ★ ★



まだまだ陽たちがのほほんと日常を過ごしている間、大陸の情勢は一気に変わった。


北では曹操が袁紹を破り。

涼州を除く華北一帯を手中に入れ、魏を建国した。


南では袁術が徐州に遠征したものの劉備に敗北、あげく、背後を孫策にかすめ取られ。

戦わずして揚州を手に入れた孫策は、呉を建国した。


これにより、大陸を大きく分けると、魏の曹操、呉の孫策、涼州の馬騰、益州の劉璋、荊州の劉表、徐州の劉備、となった。



天下統一を狙う曹操は、華北一帯を盤石なものとするために涼州の馬騰へ。

曹操ほどの意欲はないものの、同じ道を行く孫策は、親の仇でもある荊州の劉表へ。

それぞれ駒を進めるであろう。


いずれにせよ、戦いは避けられないものとなっていた。



「ふむ、どうしたものか」


そんな中、陽は思い悩む。

自らの仕事をしてはいるものの、時折筆を置いて腕を組んでは唸っていた。


考えているのは先のこと。


薊は、涼州、いや西涼を守りたい。

牡丹は、そのときになるまで分からない。

薊には時間がない。

牡丹は、少しでも永い時間が欲しい。

薊は、好きだという感情を少しでも殺し、割り切りたい。

それに加えて、元々見ていて違和感を感じていた、食事量の減少と、身体の多少の衰え。


……これだけで、不味い、と陽が理解するには十分すぎた。


しかしながら、受け入れ難かったことも受け入れてしまえばなんのその。

どう転んでも、事実は事実なのだから。


……そう考える陽は、決してドライなだけではない。

ほとんどは戻ったが、感情の欠落している部分が未だ残っていたのである。


「……どっちにしても、ねぇ」


薊の策に乗るとすると、陽が西涼の太守に成り代わって、曹操に恭順することで西涼を治める権利を貰い守る、ということである。

しかし、恭順する、という口約束だけでは見返りにするには足りず、それに値する物、または人を用意しなければならない、ということでもある。


逆に、この策に乗らないとすると、徹底抗戦は免れず、西涼を守るには勝つことが絶対条件になる、ということである。

さらに、たとえ勝ったとしても大人しく手を引く曹操でないので、いずれジリ貧になるのは必須、ということでもある。


最後にもう一つ。

侵攻するという手があるが、牡丹に野心が無いために、軍を動かす事はできない。

もし仮に、牡丹が軍を出すことを認めるとしたなら、絶対的な勝ち戦であり、かつ、孫家との連携を視野に入れた戦、または、孫家がピンチであるときだけだろう、と陽は踏んでいる。

……つまり、孫家が動かなければ、牡丹は動かないのだ。


結局、どちらを選ぶにしても一長一短なのは明白。

さらに、最後の選択肢は、もはや選択肢ですらない。

それ故に陽は悩んでいた。



そんなことなどいざ知らず。

陽の執務室の扉が勢い良く開かれる。


「おっにぃ〜さまぁ〜!」


「こら蒲公英。ノックをしろノックを」


「声で分かるんだから別にいいじゃん」


開くと同時に勢い良く入ってきた蒲公英に苦言を洩らす陽。

……表情は苦笑、口調は軽いので、決して怒ってはいないが。

蒲公英の反論は間違っていないのだが、声と同時に入って来た今回には適応されていなかったりする。


「そ・れ・よ・り〜、久しぶりに街にいこっ♪」


「……一応仕事中なんだが、いいよ」


「また仕事〜? でも、息抜きも大切……って、え?」


「どうしたんだ? おいてくぞー」


「えぇっ!? なんで今日は乗り気なの? あっ、待ってよお兄様ぁ〜」


いつもなら仕事を理由に断るのだが、今日の仕事を大方終わらせていた陽に断る理由はなかった。

それに、気分転換をしたかった陽にはもってこいだった。



   ★ ★ ★



「街に来たのはいいけどさ、……これはなんとかならない?」


「お兄様は、いや?」


「別に嫌じゃないけどさ」


「じゃあいいよねっ♪」


街へとやってきた二人。

陽と貝殻のように手をつなぎ、腕を絡めて抱き付くように歩く蒲公英と、なされるがままの陽、という構図。

現代のデートさながらである。


羨ましい限りなのに、何が悪いのか、止めて貰うよう促す陽。

……結局、押し切られることになってしまったが。


「まぁ、それは良いとして。何する~?」


「何しようね~」


「考えてなかったんか~い」


とても適当な感じで話が進んでいく。

……誰もが分かるであろう、コイツらはバカップルであると。




呉服屋にて。


「ねぇ、お兄様! どお? 似合う?」


「似合ってるよ。でも、もうちょっと大人しくてもいいな」


「そう? じゃあこれ?」


「それは今の蒲公英の良さが失われちゃってるぜ。もう少し大人になったら、だな」


「……お世辞でも似合ってる、って言うべきだと思うわよ?」


「大人の雰囲気を醸し出そうとして、一番子供っぽい奴を真似してどうするよ……」


暗に、まだ子供だ、と言われたと思った蒲公英は、声色と雰囲気と口調を変えて、ある人の真似をする。

それは、陽が誰よりも子供だと思っている牡丹。

という訳で陽は肩を落とし、呆れた。


「まぁ、あれだな。洒落た服のときは髪を下ろした方がいい。いつものとの違いでより可愛く見えるからな」


「そっ、そうかな? お兄様がそう言うんだったらそうするね♪」


……惚気である。




甘味処にて団子を頬張る二人。


「はい、あ〜ん」


「流石に恥ずかしいんだが」


「いや、なの?」


「別にそういう訳じゃ」


「じゃあいいよねっ♪」


「……何だろう、さっきもこんなやりとりした気がするんだけど」


……ここでもバカップル炸裂である。



   ★ ★ ★



一頭の馬が背に二人を乗せて、雪原を駆ける。

その体躯は細いが逞しく、その大地とは対照的な黒。

その名を黒兎という。


「何故当然のように俺の前に座っているのか」


「いや――「じゃないよ」――じゃあいいよねっ♪」


「……もう慣れたよ」


三度目なので、陽も流石に呆れたようだ。



「お兄様、どう? 気は晴れた?」


「……もしかしなくても、気を使ってくれてたのか。サンキューな、蒲公英」


黒兎の上で後ろを振り返り、陽の顔色を窺う蒲公英。

気付かれていたことに多少驚く陽だったが、素直に礼を述べることにした。


「なぁ、蒲公英」


「ん? なに?」


「朝のことだけど、蒲公英はどっち?」


「う〜ん……。やっぱり翠お姉さま達の方、かな。……降伏したら皆をほぼ確実に守れることはわかってるよ。でも、それじゃ期待を裏切ってる気がするんだ」


「……まぁ、考え方によっちゃあそうなるか」


真剣みを帯びた蒲公英の言葉に、ほんの少しだけ悲しそうに答える陽。

……大体は予想がついていたことだが、それでも自分と対立することになることが少しだけ嫌だったようだ。


「あ〜あ。……お兄様が一言でも誘ってくれれば、一も二もなく降伏するんだけどなぁ〜」


「そんな思わせぶりなこと言っても誘わないからな」


「……たんぽぽと一緒になるのが嫌なんだね」


「決してそうなんかじゃないよ。自分の決めた事を、人の都合で変えさせたくないんだ」


チラリと後ろを振り返ってみた蒲公英だったが、陽がとりあうことはない。

そうするのには確固たる理由があった。

曰く、人の意志を尊重する、ということ。

……これは時と場合にもよるのだが、今回の場合――抗戦か降伏か――は、どちらも間違いではないので、適応したのである。


「ま、どっちの派閥で、どう分かれても家族は家族さ」


「そうだね。お兄様はお兄様だもんねっ♪」


たとえ対立することになろうと、家族は家族。

その縁が切れることはない。

……これが陽が家族というものを知り、培ってきた絆から導いた持論であった。


「そうゆうこと。さ、仕事もあるし帰るか」


「え〜! ……もうちょっと二人でいたいなぁ〜」


「……しゃあなしだな。黒兎、もうちょい頼むな」


「ぶるっ」


……またまた惚気である。


自分の上で睦み合う二人に、黒兎は溜め息を吐きたい気分であっただろう。





陽は語る。


「俺の家族の構成ってどうなんなだろ? 母さんは母さん、薊さんは叔母、瑪瑙は従姉、翠は姉、蒲公英(正確に言えば従妹だが)と茜は妹、藍は弟。……山百合の位置付けがわからん」




官渡とか、徐州侵攻は書きません。

だってめんどくさ……ゲフンゲフン!


流れは大して変わってませんからねー。

ただ、恋が食糧に食いつくのがちょっと早かっただけです。


恋ちゃんってば、かっわいー!



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