第三十七話
相変わらず、口調がわからない。
元々、半年近い前に書いた奴だけども。
「洛陽へ――」
「「……ん?」」
「――おいでませぇぇぇーーーっ!!」
「なんっ、――ゲブハッ!!――」
「……あらら〜」
ドロップキック・下駄・顔面。
なんて凶悪な三重奏だろうか。
「はーっはっはっはぁっ! ウチを散々馬鹿にした礼や!」
「――――あべしっ、たわばっ、ひでぶ」
今まさに蹴り飛ばし、仁王立ちして笑っているのは、張遼こと霞。
蹴り飛ばされ、勢いのままに二転三転と地面を転げた――その時の言葉は気にしてはいけない――のは、馬白こと陽。
それを横で見ているのは、馬騰こと牡丹。
……洛陽へとはるばるやってきた二人を、とても歓迎しているようだ。
「イッ、イッテェ! むっちゃ痛ぇっ! さっ、刺さっとるっ! メガネの破片がっ! 痛いぃぃぃい!!」
「…………(汗」
顔面を抑えながら地面を転げ回る陽に、若干焦る霞。
……流血沙汰になるとは予想していなかったようだ。
「ねぇ、張遼ちゃん」
「……はい?」
「先に行こっか」
「…………は?」
牡丹の提案に、霞は思わず聞き返す。
意味を考えれば、陽は放っておく、ということになるからである。
「って、おいぃぃぃい! バッチリ聞こえてんぞ! 怪我人を放置する気かっ! しかも怪我したの息子っ! そんな薄情な母親がっ――いや、待って! おいてかないでっ! 待ってくださいぃぃぃい!!」
「…………」
最初の方はツッコミだったが、スタスタと去っていく牡丹の様子に、陽は途中から懇願に変える。
そんな陽を哀れむような目で見る霞。
「おい霞、テメェ哀れんでんじゃねぇ! 誰の所為でこうなったと思ってんだ! むしろお前が率先して助けろよ!」
「無理な注文やな。ウチは馬騰さんに案内をせなアカンねんも〜ん」
「クソ、テメェ! ……いや、待とうぜ。ちょっ、母さんも霞もマジで待ってぇぇぇえ!!」
割と本気目においてかれそうになる陽であった。
★ ★ ★
Side 陽
「ったく、酷い目に遭ったぜ……」
目の回りは塗り薬だらけです。
……ギャグ補正がなかったら死んでたな、絶対。
「自分が悪いのよ〜。あんなに馬鹿にするから」
「……なるほど、あれの所為か」
さすがに『馬w鹿wめww』はやりすぎたかぁ。
こんなことになるなら自重すべきだった、マジで。
「それにしても、どうして洛陽まで足を運ばないといけないのよ〜」
「勅命だから仕方ないんじゃね?」
悪態を吐く母さんを宥めるのも大変だ。
……なんで洛陽に来てるのかと聞かれたら、皇帝の劉協君――というより、掌握してる曹操――に呼ばれたからです。
皇帝使うとか、面倒なことするよね。
ま、仕方ないけど。
「そうだけどさ〜。なんでいつもみたいにサボらせて……急用を入れてくれなかったのよ」
「いいのか? 薊さんのことだから、俺がやる分の半分はやらされるぞ?」
「それはそれでイヤだけどさー」
サボらせて、ってガッツリ言ってますやん。
……あ、政務のことね。
「まぁ、うだうだ言ってないで、ちゃっちゃと終わらせようや」
「それもそうねー」
もうちょいやる気出してくれないかな。
★ ★ ★
Side 陽
「お初にお目にかかります、劉協様。西涼太守、馬騰にございます」
「同じくその補佐、馬白にございます」
右手で左手の拳を包み、深々と礼をする。
ま、俺はお初じゃないですけどねー。
……ちなみに、玉座の両側には曹操軍の主要将軍たちと、文官たちが並んでます。
「面を上げよ」
「「はっ」」
「ほぅ。そちが三傑が一人、馬寿成か」
「は。曹巨高、孫文台の両名には劣りますれば」
「そんなことはなかろう。主の忠義、聞き汲んでおる」
「……光栄の至りにございます」
真面目っ!
こんな母さんみたことないよ!
「忠義と言えば。先の戦い、誠に大義であった」
「はっ。有り難き幸せ」
俺は正直なんもやってねぇけどなー。
……俺、場違いじゃね?
「本陣にいないにも関わらず策を発動させるのも、なかなか大したものよ」
心を読むなおチビちゃん、もとい、曹操ちゃん。
そして睨むな霞。
引っ掛かったおめーが悪ぃんだよ。
「その功績を称え、報奨を与える。……馬騰、そなたには涼州州牧――「じゃあ、パスだ」――え?」
『なっ!』
皇帝の言葉を遮ったことに驚く皆さん。
劉協君、素が出てるよ。
「今、ぱす、と言ったわね。それはどういう意味かしら?」
「そのまんまの意味だ」
「わからないから聞いているのだけれど……」
曹操と会話する俺。
……あれ、通じてない?
「その、ぱす、ってなに?」
「……なるほど。話が噛み合ってなかったか」
隣にいる母さんにも聞かれて気付いた。
皮肉ってるのかと思ったが、どうやらホントに意味を知らなかったらしい。
……最近、こういうことがよくある。
俺は知ってるのに、周りは知らない、みたいな。
「……陽? 考えるのも良いけど、こっちをほったらかしにしないで頂戴」
「あ、悪い。……んで、パス、の意味だが、ここでは断る、という意味だ」
『なっ!?』
今度はホントの意味で驚く皆さん。
……いや、断るの普通でしょ?
「理由を聞かせてもらってもいいかしら?」
「聞くまでもねぇだろ。……仕事が増えるからさ」
『なにっ!?』
『…………』
怒ってますね、半分ぐらい。
もう半分は冷静だけど。
……半年ぐらい前の、何進と張讓の構図みたいだなー。
「地位向上に対して、文官の数は増えるが、その全ての質がいいとは限らねぇ。それに、そいつ等が信用に足り、任せられるか判断する時間も惜しい。後は――「私は有り難く頂戴するわよ?」――人の話、聞いてた?」
「勿論、聞いてたわよ? 隣で喋ってる声が聞こえない訳ないじゃない」
済ました顔で、こっちを馬鹿にしてる感じに、凄く腹が立ちます。
「わかってる? 仕事、増えるんだぜ?」
「だから聞こえてたってば」
「じゃあ、なんでこの話、受けようとしてんの? 馬鹿なの?」
「今、母親である私を馬鹿と言ったかしら?」
「あぁ、言ったね。薊さんの半分を余分にやっただけで発狂しそうなってんのに、仕事を自分で増やそうとしてる母さんを馬鹿と呼ばずしてなんと呼ぶっ!」
「いっ、言い返せないっ! その件については引き下がるわ。……けど、受けるか決めるのは私よ」
「母さん、おまっ! 昨日と話が違ぇじゃねぇかっ! 俺に任せる、って言ったの、母さんだぜ!?」
「それでも最終決定権は私にあるの!」
「ざっけんな! どんなワガママだよ!」
「母親であり主である私に逆らうの!」
「なんで母さんがキレてんだよっ! ワガママに付き合ってんの、こっちだぞ! ワガママ放題言いやがって!」
「それには異論があるわっ! 職権乱用をしてるだけよっ!」
「なおたちが悪いっ!」
「それに、アナタのワガママに付き合ってあげてる部分も多々あるわ!」
「だから、なんで母さんがキレてん――んんっ!」
「ちゅ……ぷぁ」
『…………っ!』
「はいっ!」
……なにこの状況。
たしか、突然母さんが話を受けるとか言い出して、それを俺はとめようとした。
そしたら、何故か口論が始まった。
怒りも最高潮というところでキスされた。
……完全に駝鳥倶楽部なんですが。
周りは女子が多いんで皆、若干頬を朱に染めてます。
「……あのさ、母さん」
「ん、なに?」
「はいっ! じゃねぇだろぉぉぉお!!」
『……はっ!』
トリップ中だった皆さんも帰ってきたようだ。
「何してんのぉぉぉお! キスは良いとして、いや、良くないけど譲歩して……、ここ、玉座ぁ! 目の前には皇帝もいるの! わかってる!? 理解してる!?」
「わかってるわよ? でも、そういう流れだったもの。仕方ないでしょ?」
「仕方なくねぇぇぇえ! 皇帝の前で、流れに従うなよ! 皇帝を、舐めてんのかぁぁぁあ!」
もう、頭痛いよ。
「舐めてないわよ。それに舐めるつもりもないわ、まだ子供じゃない。……ま、唾付けとくのはありかもだけど」
「…………(ガクブル」
『…………』
「やめろぉぉぉお!! もう口を開くなっ! 周りはどん引き、皇帝に至っては怯えてんじゃねぇかぁぁぁあ!!」
「あら、そんなに怒って。……またチューしてほしいの?」
「もうこの人嫌ぁーーーっ!!」
散々だよ、くそったれ。
★ ★ ★
Side 三人称
城内廊下にて……。
「ほら、謝るから、ね? 機嫌直してよ〜」
「…………」
苦笑いで、むっつりしてる陽に近付く牡丹。
「ねぇ、陽ってば〜。あ、イタ」
「……人を付け回すなんざ、いい性格してんな」
そう言って、陽は不意に立ち止まる。
気づかなかった牡丹は陽の背に鼻をぶつけてしまった。
すると、陽達の後ろに人影が現れる。
その人影とは、実質洛陽の宮殿の支配者である曹操だった。
「あら、行く方向が同じなだけなのだけれど?」
「ハッ、よく言うぜ」
陽は肩を少し上げ、やれやれといった感じで腕を広げる。
「あ、私を置いてけぼりにするなんてひっどーい」
「何言ってんだよ、気付いてたくせに」
「あちゃ〜、バレてたか」
牡丹はむくれてみるものの、陽にあっさりと返されたので頬を掻く。
陽としては、自分が気付いているのに、牡丹が気付けないはずがない、と思っていたりする。
「で、なにか? ……あの場の惨劇のことだったら、素直に謝らせていただくよ」
「そんなことどうでも良いわ。それより、貴方、私のモノになりなさい」
「ダメよっ! 陽は私のなんだからっ!」
「……母さんのになった覚えはねぇんだがな」
曹操が陽を誘えば、牡丹が後ろから陽に抱き付いて反論する。
そんな様子に陽は、呆れてまた肩を落とした。
……答える二人は依然として曹操に背を向けているが、それを咎めるものはいない。
「それだったら、馬騰、貴女も一緒にどう?」
「キャッ♪ 私も誘われちゃった♪ どうしよ……(ポッ」
「……母さん、少しは真面目にしたら? 曹操ちゃんもアレで本気だぜ?」
曹操の誘いに、朱に染めた頬に両手を当てる牡丹。
……これで作った表情なのだから、恐ろしい限りである。
そんな牡丹を陽は諫める。
一応、曹操としては本気なのだ、と。
「アレ、というのは気になるけれど、まぁ良いわ。……答えをもらっても?」
「どうする、母さん。俺は母さんに従うぜ?」
「ふぅん。じゃ、ぱす、ね。……使われるのって、あんまり好きじゃないのよね〜」
「……だとよ。俺も生憎、使われるのが嫌いでね。だから、パス」
「そう、残念ね」
誘いを断る二人。
だが、曹操は言うほど残念には思っていなかったりする。
最初から従う気はないだろうと踏んでいたからである。
「あぁ、そうだ」
そう言って、牡丹は後ろを振り返り、曹操と向き合う。
その鋭い目には、隠しきれなかった怒りの炎が微かに灯っていた。
「私の息子を、家族をモノ扱いしないで頂戴」
「――っ! ……えぇ、ごめんなさい」
「良い子ね♪ 流石は曹嵩の娘、かな」
本当に一瞬だけ身を震わせた曹操を一瞥した牡丹はそう呟き、廊下の奥へと歩いていった。
「なかなかどうして。……いつもああだったら、それはそれで面白いんだけどな」
「今でも面白い、と言っているように聞こえるけど?」
「そう言ってんだよ」
曹操が問えば、陽は口元に笑みを浮かべて答える。
「……で、まだあるの? あと霞、バレバレだから出てこいよ」
「巧いこと気配消せてる思うてたんやけどなぁ……。ま、バレたらしゃあないわ」
陽が指摘すれば、物陰からひょこっと出てくる霞。
……ちなみに、未だに陽は曹操達に背を向けたままである。
「んで、なに?」
「玉座での一件でのことだけれど――「や、すまんかった」――それについてはどうでもいいと言ったでしょう?」
「沽券に関わるだろ、玉座で口付けとか」
「あら、なかなかの見世物だったわよ?」
「せやなぁ。まぁ、ウチとしては、もう少し雰囲気があってもえぇかもな」
「いや……、見世物じゃないし、不意打ちだから雰囲気もくそもねぇよ」
本気でうなだれる陽。
……心では、駝鳥さん、曹操に誉められて良かったね、と思っていたりする。
「話を戻すわ。あの時の、後は、の続きが聞きたいのよ」
「……わざわざ聞きにくることじゃねぇから教えない。なぁ霞、今から暇か?」
「お、おう、暇やで」
「なら飯行くか? 奢るぜ? 場合によっちゃあ、酒もあり――「いかせてもらいます!」――現金な奴だぜ」
最初は戸惑う霞だったが、酒と聞いた途端、すぐさま決める。
勢いで言ったせいか、口調すら変わっていた。
……どんだけ酒好きなんだろうか。
「へぇ、この曹孟徳を無視して話を進めるとはね。良い度胸じゃない」
「無視はしてないだろ。教えないって答えたじゃん。あー、まぁいいや、答えてやんよ」
若干怒っていた曹操。
かなり早い段階で流されていたのだ、無理はないが。
気が変わったか、陽は曹操に背を向けたままで頭の後ろをガシガシ、と掻いてから、振り向き様に、ニヤリと不敵に笑ってみせ、こう答えた。
「……早く馬鹿を片付けて、獲りにこいよ。そんときは歓迎してやるから」
「――っ! なるほど、そういうことね。……首を洗って待ってなさい。必ず私の前に跪かせてあげる」
「やなこった。さて、話も済んだことだし。……霞、行こうぜ」
「おう! 酒〜♪ 酒〜♪」
もう一度身体を震わせたあと、曹操もまたニヤリと笑う。
それに満足したか、陽は霞を誘う。
……霞の頭には酒しかないようだ。
「霞、友誼を深めるのも良いけれど、あまり飲み過ぎないようにね」
「わかっとるって」
「……信用に足らんなー」
事前に霞を諫める曹操だったが、あまり効果は見受けられない。
それを感じとった陽は、肩を落としてそう呟いた。
その後……。
「この私を二度も震えさせるなんてね」
曹操は廊下を一人歩きながら、そう呟く。
だが、口にした言葉とは裏腹に、口元には三日月のような笑みを浮かべている。
それは、思わぬ収穫を獲られたが故にであった。
「でも、……それでこそ我が覇道を飾るに足るというものよ」
曹操の言う、覇道。
それを成すには、大陸のすべてを征服しなければならない。
だが、どうせ倒さなくてはならないならば、強大で、張り合いのある相手と華々しい決戦をしたい。
……先の強気な発言に見え隠れする、曹操の望みである。
そう、これが曹操が笑んだ――勿論、喜びの意で――理由なのだ。
……牡丹と陽が敵に足りうると認められた証でもあった。
★ ★ ★
洛陽のある店にて……。
Side 陽
「ホンマ、ありがとうな。それとスマン」
「いいさ、別に。正直、俺が手を出さなくても助かってたし。……それに、大した傷にもならねぇらしいし」
これはマジ。
劉備と天の御遣い君の甘さを読み違えてたよ。
……下方修正しとかないと。
それに、医者が言うには、ただの切り傷らしく、問題ないそうだ。
……いや、ガチで刺さってたんだけどなぁ。
「それでもや」
「そか。……どこにいるか、教えて欲しい?」
「うー……ん、えぇわ、遠慮しとく。会いとうなるし、余計な情も生まれる。それに、そんなんで勘ぐられたくもないやろ?」
なかなか考えるね。
曹操ちゃんとかだったら、表情で見抜いてきそうだし。
「まぁな。じゃ、近況報告のみな。侍女やってるよ、二人は。ちなみに董卓ちゃんはノリノリでね」
「さよか。……ま、お似合いちゃあ、お似合いかもなぁ」
思いを馳せる霞。
似合わねーな、おい。
「しんみりすんな、柄でもねぇ。生きてんだから、いつか会えるさ。……さ、パァッといこうぜ」
「……せやな! おっしゃ、飲みまくるでぇ!」
「いや、自重はしろよ」
「だが断る」
なんだこいつ腹立つな。
……ま、さっきよりはマシだけど。
★ ★ ★
洛陽内路上にて……。
「だから、俺は酒が苦手だって……」
「苦手な奴が悪いんや♪」
どういう理屈だよ。
あー、頭痛ぇ……。
そういえば、なんで苦手なんだっけ?
……たしか、未成年だったが、調子に乗って爺婆共に混ざって酒を飲んだとき、じじいにブチ切れられたんだったか。
それが恐すぎたのか、飲むたび頭痛がするんだ。
……って、これ、いつの話だ?
「――っ! 痛っ!」
封じてある左目が痛む。
毎度のことながら、クソ痛い。
……なんなんだよ、全く。
「……大丈夫かいな?」
「どうってことねぇよ」
はっきり言います、やせ我慢です。
めちゃんこ痛いです。
「にしても、栄えてんなー、ここ」
「あからさまに話題変えたな……。まぁ、えぇわ。そらそうやろ、ウチの主が治めとるんやで?」
「それもそうだな」
改良の余地はないこともないけど、教えてやるほど甘くはねぇさ。
「……てか、ウチを連れまわして何がしたいんや?」
「ちょっと、な。……お、あったあった」
「何がや?」
馬印のついた呉服屋にて、みつけました。
売れ筋はまあまあだと聞いていた奴です。
……霞には悪いが、広告塔になっていただこう。
「こいつだ。……なかなか可愛いだろ?」
「ほー、愛らしい顔しとんなー。……で、なんやこれ」
「知らんのかっ!? 西涼では大人気、知る人ぞ知る目玉商品、ピカチ〇ウをっ!?」
「そっ、そうなんか?」
実際、西涼で人気はあるよ。
だって、俺のお膝元だぜ?
押し売……ゲフンゲフン、丁寧な訪問販売をしたに決まっておろう!
……嘘です、子供たちが気に入った上での販売です。
ホントにホントだよ!
「そうなんよ。まぁ、そんなことはどうでもよくて、だ。……弁君と協君、喜んでくれると思う?」
「…………変態や」
「まだ言うかっ!」
弟みたいな子らを愛でて、何が悪いんだよ。
……そんなナメた口を叩く霞には、辱めをうけてもらうから。
「まぁ、いい。とりあえず、俺からの贈り物ということで、二人に渡しといてちょうだい」
「自分で行ったらええやん。その方が二人も喜ぶで?」
「悪いとは思うけど、俺には言うほど暇じゃないんだよ」
「わざわざ洛陽まで来とるヤツが、何言うてんねん!」
最もな意見だな。
でも、それはそれ、これはこれ、だよ。
……ま、そういう問題ですらないんだけど。
「大体さ、曹操軍の管理下にある二人に俺が非公式に会いに行くとか、かなり厄介な展開になる。……それは面倒だろ?」
「それは……まぁ、せやなぁ」
納得していただけたようで。
「……そろそろ時間だな。じゃ、はいこれ。もう金は払っておいてあるから。そんじゃ、また」
「おう! 戦場で会うても手加減はせえへんからな!」
「上等だ。……本当に出会ったら、全力で逃げるから安心しろ」
「って、逃げるんかい!」
キレのあるツッコミだな〜。
流石は関西弁と言うべきか?
「当たり前だろ。勝てる気がまるでしない相手と、俺が闘う訳がねぇだろ」
「なんでそこで諦めるんや! 頑張りぃ! アンタなら出来る! もっと熱くならんかい!」
関西弁チックな修造さん。
なんなのこのノリ。
……これだから酔っ払いは。
大体、闘いに於いて俺が熱くなることは皆無です。
「はいはい、わかったわかった。……ホンジャマカー」
「ほんじゃまかってなんやねん! あ、こら、待たんかい! まだ話は終わってへんでーっ!」
全力で逃げる俺。
後ろから聞こえる声は無視だ。
あれ以上付き合うのは面倒だからねー。
ホンジャマカとほんじゃまた。
……似てるよね。
Side 三人称
「逃げられてしもうたか……」
そう呟く霞だが、内心はそれほど不快ではなかった。
タダ飯タダ酒を、食って飲んでが出来たから、というのもあるが、逃げられるだろうと予測していたからである。
……予測が出来るぐらいまでは、陽のことを知り得ていた。
それでもなお、陽が霞から逃げ切れたのは、霞の両脇に抱えられたモノ、特大サイズのピカチ〇ウぬいぐるみのおかげであった。
ちなみに、特大サイズの大体の寸法は、高さは1メートル弱、横幅というか腹周りは霞の腕が周りきらないほど。
子供向けの抱き枕に近いもの。
……走るのときには、とんでもなく邪魔である。
最も、そんなことは今はどうでも良いことになりつつある。
「……なんやこれ……メッチャ恥ずいやん」
……帰り道の視線の多さの方が重要であるからだ。
ピカチ〇ウ。
可愛らしい容姿だが、そのほっぺから放つ電撃は容赦ない、想像上の生物。
その全身には、黒、赤、茶、の色も使われているが、身体の大部分を占める色は黄色である。
黄色。
……とても映える色である。
更に、今日は少し風が強かった。
通常ならば、霞の身につけている羽織のおかげでピカ〇ュウの――頭はどうしても出てしまうが――身体は隠れていた。
……が、吹く風がそれをよしとしなかった。
風は羽織の裾を跳ね上げ、バサバサとたなびかせた。
そうすると、後ろと横からでもピカチュ〇の隠れるはずの身体が見えるようになってしまう。
そうして人に見えるようになるのだ。
チラリとしか見えなかった人は凝視する。
驚いた人は二度見する。
疑う人は目をこすり、もう一度見る。
曰く、張遼将軍が不思議なモノを持っている、と。
驍将と呼ばれる"張遼"。
故に、視線に慣れていない訳ではない。
だが、霞は恥ずかしさを感じていた。
将軍として感じる視線と、今とでは全く異なるからであった。
賞賛、尊敬、畏怖。
主に将軍として受ける視線の概容である。
奇異、困惑、驚愕。
今まさに受けている視線の概容である。
更に、心の中で感じた、将軍である自分と、可愛らしいぬいぐるみをもつ自分とのギャップ。
それが恥ずかしさを生んでいた。
「アカンっ! も〜耐えられへんっ!」
脱兎のごとく、城内へと駆け出す霞。
……女としての"張遼"はまだまだ弱かったようだ。
こうさせることが陽の言っていた、辱めの内容でもあった。
「これが孔明の罠ならぬ、孝雄の罠っちゅーことかいな……! 次に会うたら、本気でのしたるっ!」
そのおかげで、またまた恨みを買ってしまっている陽。
頭は良いのだが、バカである。
……何故諸葛亮を引き合いに出してきたかは、触れてはいけない。
★ ★ ★
その頃の陽といえば――
「なんだこの既視感……っ!」
――頭痛とめまいに苛まれていた。
陽の言う既視感とは、反董卓連合結成前の時のこと。
あの時とほぼ同じような症状だった。
……前回よりは軽度ではあるが。
「なんなんだよ、全く」
「……馬白様、どうかなされましたか?」
「なんでもねぇ。そんなことより、報告しろ」
ある店で、相席している平民の格好をした自分の部下に話を促す陽。
……症状は現在進行中であるのだが、無視するようだ。
「はっ。重要な報告は二つです。一つは、劉備が徐州牧に任じられ、現在は平原から移動中とのこと」
「……曹操ちゃんもおもしろいことをするもんだな」
笑う陽。
その笑みに含まれているものは、その部下にはわからなかった。
「二つ目ですが、揚州、荊州共に豊作のようです。劉表、孫策は知っているようですが、袁術は把握していません」
「二人は知っているのに、何故、袁術だけは把握してないとわかった?」
「劉表は収穫量に比例して、孫策は悲願達成の為に、食糧を集めていますが、袁術はいつも通りの量しか集めていません」
「……そうか。張勲はもう少し出来るヤツだと思ってたんだがな」
阿呆の部下は、やはり阿呆か。
と、そう続けて呟く陽。
その声色からは、興味の欠片も感じられない。
……それは、陽にとって、どうでもいいことに成り下がった、という意味と同義である。
「劉備は俺でやる。お前等は袁術の把握していない分を、早めに買い占めろ。多少損しても、構わねぇ」
「はっ! では、失礼します」
陽は急ぎ店を出て行く部下を一瞥してから、冷や水を煽り、おかわりを求める。
とりあえず要求に応じる店主だが、その顔からは困っている様子が窺える。
「飲み過ぎでは?」
「問題ねぇ、水だし」
「尿が沢山出ますよ、……主に血尿が」
「……それは厄介だな」
真剣に悩む陽。
……それだけ仕事でのストレス等があるとも言えるのだが。
「じゃ、俺はもう行く」
「はっ」
「あぁそういえば、先月の売上、ここが一番だったぞ。……さらに精進するといい」
「勿体無きお言葉」
席を立って言う陽に、頭を下げる店主。
……彼もまた、陽の部下であった人だった。
陽は語る。
「あの時のおかげで、都でピカチ〇ウが大人気になったよ。比較的安価で買え、皇帝にも献上されたモノ、ということでね」
と
曹操軍の他はまだ出しませぬ。
めんどくさ……ゲフンゲフン、話が進まないんで。
登場しなかった曹操軍の面子の、牡丹と陽の評価
春蘭
「一度殺り合ってみたいな」
「……狼みたいな奴だな」
秋蘭
「油断ならん方だ」
「……掴めなかった」
桂花
「油断ならない敵よ」
「無能じゃないかもしれないけど、最低な男よ」
季衣
「面白い人だねー」
「優しそうな人だったね」
流琉
「どうでしょう、掴めない方、でしょうか」
「厳しくも優しい、といった感じですね」
凪
「強い。師匠並でした」
「…………まだ、わかりません」
真桜
「愉快な姉御、ちゅー感じ?」
「流石に姐さんの認めた、面白い奴や」
沙和
「綺麗な方だったのー」
「ちょっと怖かったの……」
※稟、風はまだいません。




