閑話1(36.5話)
進まない。
あぁ、進まないったら進まない。
夕餉の時のお話。
〜〜もしも陽があのタイミングで倒れていなかったら〜〜
「と、言うわけで、聞かせてもらうわよ?」
「……なんでだよっ。もう終わったことだ、ほじくり返す必要もないでしょ」
「いーじゃん、減るものじゃないんだからさー」
「だが断る」
「……たんぽぽも聞きたいなー」
「よしきた!」
「早っ! 切り替え早っ!」
食事を終え、片付けを終えた円卓に、皆は座っている。
……時計回りに紹介すると、牡丹、山百合、翠、陽、蒲公英、茜、藍、瑪瑙、薊、の順である。
「えー、まずはどちらに付いたかと言えば、勿論董卓軍だ。お留守番の薊さんと瑪瑙、茜に藍は知らないと思うけど、董卓には何の非もなかったんよ」
「知ったときというか、陽からそれに関する書をもらったとき、本当に驚いたわ」
「ほう……、やはり裏があったか」
陽の言葉に、牡丹、薊と続く。
「えと……、じゃあ、今回の戦いの本質は、董卓を悪い奴に仕立て上げて、寄ってたかって攻め込んだ、ってこと?」
「ご明察。流石は茜だ」
「……えへへ♪」
陽がニコッと笑って褒めてやれば、茜はすこしはにかみながら笑う。
「話を戻そう。付く、といっても、なるべく極秘に、だ。……風評とか、その辺を操作するのは面倒だからね」
「……成る程。悪、と評価されてしまった董卓軍側に付くとなると、こちらもそう評価されてしまう」
「そゆこと。山百合さんの言うとおり、一旦そういった一方的な評価をうけると、それを覆すには手間がかかる。それはごめん被ることさ」
一度、悪と判断されてしまうと、非があろうがなかろうが、自分たちにマイナスとなるレッテルを張られてしまう。
それが暗いことであればあるほど人は拒絶する為、その風評を覆すには時間が多くかかってしまうのだ。
さらには、その風評被害によって、民からは好い顔はされず、動きにくくなる。
陽と山百合が言っているのは、こういうことだ。
「でもさ、不参加ってのも、それはそれで評価が下がるんじゃない?」
「まぁな。でもその辺は、五胡の侵攻への対応により、参加は困難、とでも言っとけばなんとかなる」
「随分と適当ね……」
「いいんだって、それぐらいで。後から卍解! ……じゃなかった、挽回するから」
一度は呆れた目で見る瑪瑙だったが、あくどい笑みを作る陽に、ブルッと身体を震わせる。
……最近は、それが間違った癖になってきていたりする。
「で、そのあとはっ!」
「藍、なんでそんなwktkしてんだよ」
「明らかな劣勢をどうやって覆すのか、楽しみなんだもん!」
「……正直、楽しいモンじゃないぜ? ただ、知っていたことを提示して、脅すだけだから」
そう言って、にぱーと陽が笑えば、皆が若干引いた。
「この鬼畜♪」
「悪魔じゃ、悪魔」
「……悪辣です」
「最っ低ね」
「流石にそれは、なぁ……」
「お兄様はお兄様だねっ」
「ひっどいなぁ〜」
「でも、そんな先生に痺れる、憧れる!」
「うははー。もっと褒めてたもー(棒読み」
『………………』
「すいませんでした」
陽を罵ったのは、牡丹、薊、山百合、瑪瑙、翠、蒲公英、茜、藍の順。
……若干褒めてなくもない人がないこともないが。
完全にノリで袁術の真似をした陽だったが、ドン引きされたので素直に謝った。
「まぁ、いいや。続けるからね。えぇと、どこまで話したっけ?」
「結局、極秘に味方に付く、までしか進んでないんじゃないか?」
「そういえばそうなような。……じゃ、次はアレだ。劉協君に協力してもらって、連合を呼びつける、だった」
『……は?』
翠が答えたことで話を一度戻したのだが、陽の口に出したある単語を聞いて、皆が一様にフリーズする。
いち早く解けた蒲公英が口を開く。
「お、お兄様……、りゅ、劉協……様って、現皇帝の献帝様、だよね……?」
「そうだよ? わざわざ確認することか?」
「じゃ、じゃあ、君、って?」
「あぁ、それ。……前に野暮用で洛陽に行ったろ? そんとき襲われてた所を助けたら懐かれてね。皇太子の真名を預かるのは流石にマズいと思ってね、そう呼んでんだよ」
『え、えぇぇぇーーーっ!!』
驚愕。
皆は声を揃えて叫ぶ。
「うるさいな、そんなに驚くことか? あ、ちなみに劉弁君もだけど」
『えぇぇぇーーーっ!!』
さらに驚愕。
もう一度、声を揃えて叫ぶ。
「また弟が二人できたみたいだったよ。……そういえば、二人とも元気かな? 後で確認するか」
「陽ってば、規格外すぎるわ……」
「……そんな規格外さに慣れてきた自分が(……いえ、これも陽君の恐ろしさなのでしょうか)」
驍将の張遼に、猛将の呂布。
その二人と仲が良いというだけでも規格外であるのに、現皇帝を弟のように可愛がる陽に、牡丹は呆れてしまう。
慣れる自分が恐ろしい、と山百合は言いかけたが、心の中で否定する。
……この恐ろしさを作り出したのは、紛れもなく陽だからである。
「(……ですが、それが私を魅了するのです)」
「ん? 山百合さん、どうかした?」
「……いっいえなんでもありません」
「そうか? ならいいけど」
突然声を掛けられ、動揺した山百合だったが、陽は気付かなかったようだ。
……牡丹はニヤニヤしてたりするが。
「いかん、また逸れた。……んで、呼びつける間に、董卓軍には関を捨てさせ、長安まで撤退させる。……これで、董卓軍と反董卓連合の間に戦は起こらねぇ」
「……あ、天水で言ってた」
「ああ。こういうことさ」
瑪瑙は、以前に聞いていたことと繋がることだったので、反応した。
「後は俺様ちゃんの独壇場、見せ場さ。……断罪とも贔屓とも言えるけどな」
「俺様ちゃん発言には触れてあげないとして、断罪はわかるけど、贔屓って?」
「いや、今掠ったじゃん。母さん、もうちょい触れてあげてよ。 だってさ、どの陣営を残してどの軍を潰すっていう選択権は俺にある。……それぐらいの虚名と虚績と情報は持ち合わせてるのさ」
「お兄様の名も功績も、虚名でも虚績でもないよっ! 紛れもない真実じゃん!」
陽が牡丹の質問に答え、皮肉気に笑えば、その隣に座る蒲公英は、声を大にして怒る。
いつもそばにいた蒲公英にはわかっていた。
大陸に轟く名声は事実であり、むしろ知られていない実績もあるということを。
それ故に、自分を卑下するように笑う陽が嫌だった。
……蒲公英が陽の唯一嫌いなところと言えば、この部分である。
一度キョトンとした陽だったが、すぐに柔らかい笑みを浮かべ、蒲公英の頭を撫でる。
「ありがと」
「うぅん。ん〜〜♪」
……蒲公英は蒲公英で、存分に撫でられていたが。
「……後は一つの陣営ずつ脅してくんだ。曹操ちゃんは、数え役満姉妹もとい、張三姉妹についてで。……それをもってして、北のバカも倒してもらう」
「数え役満姉妹……最近巷で名を上げてきたあいどる、だったかな?」
「それが張三姉妹? というか、張三姉妹って誰?」
……茜が知り得るぐらいには、数え役満姉妹は有名なようだ。
藍は張三姉妹について尋ねる。
すると、恐ろしく淡々と陽は答えた。
「ん、黄巾党の首魁」
「……は? って、えぇっ!」
「スッゴい重要なことをスッゴいサラッと言ったわね……」
……藍が驚き、牡丹が呆れる程に、である。
ちなみに、皆も声に出さないだけで驚いていたりする。
「今となっては重要じゃないけどね。……王朝の権威が殆どない状態では、ね」
「確かにのぅ」
「……なんでだ?」
「翠姉……、本格的に茜と藍と一緒に勉強することをオススメするよ」
本気で呆れる陽。
……昼に続いて、であるので余計そう思ったようだ。
「翠姉、一緒にやろっか」
「翠お姉ちゃんなら大歓迎だよ!」
「茜も藍もこう言ってるし、……どうよ?」
「いや、遠慮するよ。大体、あたしは身体を動かす方が好きなんだよ。……勉強なんてまっぴらごめんだぜ!」
如何にも武一辺倒です発言をする翠。
……その傍らでは、どうしてこうなった、と、牡丹が嘆き、薊が肩に手を置いて慰めていた。
「そんなこと言ってたら、脳筋猪突猛進馬鹿になるぞ? 俺はそれを望まない。……弟として、誇れる姉であって欲しいんよ」
「うっ」
「……だから、やろうぜ? 空いた時間に、少しでいいから、な?」
「……そんな言い方、反則だろ。……あ〜〜! わかった! やればいいんだろやれば!」
一度は否定した翠だったが、陽の言ったことを本音だと感じ、改心してみせた。
そんな――蒲公英とは逆隣に座る――翠を、笑みを浮かべて陽は撫でる。
……このとき、牡丹と薊と山百合は、懐かしさを覚えていた。
「これで軍師の仕事が、少しは楽になるってもんだぜ!」
「……お前、謀ったな!」
「謀ってねぇって。どっちも本音なだけだって」
「う〜〜〜」
裏の意味を知った翠は、恨みがましく陽を睨んだ。
……陽にとっては、吹く風のようだが。
とりあえず、翠が聞きたかったことを解説しよう。
張三姉妹が黄巾党の首魁であることは事実。
その三人を討ち取ったという情報を流し、曹操が保有していたのも事実。
もはや形式上としか言えないが、曹操が王朝の臣下であることもまた事実。
本来、罪人を匿うのは罪だ。
罪と判断し、裁けるのは、形式上の上位にある王朝のみ。
だが、その王朝の権威は曹操の前では無に等しい。
……現皇帝、劉協を掌握しているのが曹操だからである。
だから、いまさら張三姉妹がどうのこうの、と言っても取り合う筈もなく。
さらには、言いがかりだ、と自分たちが処罰を受ける可能性もある。
だから、数え役満姉妹=張三姉妹=黄巾党の首魁、という情報は、今では重要でもなければ、必要もないものに成り下がっているのだ。
「えー、次はなんとなく孫策ちゃんだな」
「なにするの? 不利になることだったらぶち殺すわよ?」
「母さんもかなりサラッといってくれてるよ。 ……ここには恩を返す為にも断罪はしねぇ。むしろ、得になることばかりかもな」
「……わくわく」
「感情は声に出すもんじゃねぇよ、山百合さん」
陽は、脅しにも聞こえることを言う牡丹にも、心躍っている様子の山百合にも呆れた。
「南のバカの形式上の部下だったが、それ故に命に従うしかなかった。……が、とめるべきだった」
「……そうね」
陽の言葉に相槌を打つ牡丹。
「今の話に全く関係ないけど、もともと孫堅に与えられていた継承されるべき領地を、そのバカは不正に金でぶんどった、っていう情報もある」
「……それからどうするのです?」
答えを求める山百合。
「曹操ちゃん然りだけど、バカを倒してくれたら不問とする。みたいな?」
「随分と適当じゃのぅ……。それに、お主にしてはちと甘いのではないか?」
呆れ顔で質問する薊。
「まぁね。でも、これでいいんだよ。言ったろ、断罪しないって。大体さ、俺にとって……不利益を生む根源さえなくなれば、それでいいんだ」
四世三公だったっけか?
だからどうした、って話だ。
親類がそうだからって、てめぇ自身には何ら関係ねぇことに気付いちゃいねぇ。
親の、血族の七光りでのし上がっただけの馬鹿だ。
他人のついた役職を勝手に誇り、勝手に驕ってる阿呆だ。
慈悲の欠片も与える価値もねぇ間抜けだ。
部下も部下で、つけあがるドカスをとめねぇだけじゃなく、さらに助長する。
だからこそ、どうでもいい。
生きようが死のうが、どうでもいい。
俺は手を出さねぇ、というより出したくねぇ。
関わりたくねぇし、興味すら湧かねぇ。
……表舞台から降りてくれたらそれでいいんだよ。
そう、語り終えた陽は、清々しい笑みを浮かべる。
存分に毒を吐き終えたかのように。
その笑みに、皆一様に顔を赤くさせた。
「「「(……似てる)」」」
「「「(……カッコいい)」」」
「(……藍がいなかったら惚れてるかも)」
「(……僕は男なのに)」
……心に思ったことは、ちょいちょい違うが。
「……さて、盟主というか総大将、通称北のバカだけど、先の通り、曹操ちゃんとかに潰されてもらう。その妹、通称南のバカも、孫策ちゃんに潰されてもらう」
「ねぇ、お兄様。北も南もどっちもバカみたいに兵力があるじゃん? いくら曹操や孫策が強くても、無理があると思うんだけど……」
蒲公英の言うとおり、いくら兵の練度が高かろうと、数の暴力に勝つのは骨が折れる。
曹操然り、孫策然り。
練度も士気も高いが、兵の数は劣る。
悲しいかな、戦とは、質より数で決まってしまうことも多々あるのである。
「その辺はおこぼれを狙ってた屑共とか、普通に優秀な公孫賛とか、一応劉協君の同族の劉備ちゃんとかに、援軍やってもらうさ」
「ふぅん、他を動かして自分は動かない。陽ってば、せっこいのねぇ〜」
「せこいゆーな。これぞ軍師ってヤツだろ」
軍師じゃなくてもこれぐらいするけどな。
と、陽は苦笑いしながらそう続けた。
「……んで、董卓ちゃんを三公の一つに据えるか、大将軍にして、母さんも地位的に高いとこにつけて、天の御遣い君も皇帝の補佐的位置につける。後は適当。他の人に任せる。……これでお終い」
「ちょ、これでお終いって……。簡単すぎじゃないの?」
最後の適当さに瑪瑙が突っ込むと、すぐさま薊が答えた。
「……簡潔に終わらせただけじゃよ。最後の言った三つまでを成就させた後はどうでも良い。……陽よ、そういうことじゃろう?」
「うん、そゆこと。後は時代の流れ方次第、ってことさ。王朝が復興するか、乱世に転じるか」
陽は頭を掻いてから、もう一度口を開く。
「……けど、そんなことはどうでもいい。今と同じく、やることをやるだけだし」
「どうでもいい? 勝手に私を高位につけるくせに、無責任じゃなくって?」
怒ったような口調で、牡丹はそう言った。
対する陽は笑って答える。
「そうでもないさ。ほとんど名ばかりのモンだし。大体さ、……ここさえ、西涼さえ押さえていればどうでもいいって、考えてるのは自分のくせに、よく言うぜ」
「そっ、そそそそんなことなんて、かかか考えてなんかいないわよ?」
「動揺を隠すの下手くそかっ!」
図星であったかのような、明らかな動揺をみせる牡丹にツッコミを入れる陽。
……勿論、先の怒ったような口調と同様に演技であるが。
「まぁいいや。…………って、こんな長々と喋ってる暇なんかなかった! 仕事終わってねぇんだった! やべーよ、絶対今日中に終わらねーよ。徹夜でも終わるかどうかだよ」
「あっはっはっ、がwんwばwれwwww」
「母親がかける言葉かよ、コノヤロー……」
頭を抱えて悶える陽を、自分はもう終えているからか、胸を張って慰める気がさらさらない言い方で慰める牡丹。
……とても上から物を言っているのだが、薊に手伝ってもらったので終えることができた身分である。
「ふむ。ならば陽よ、明日は儂が少々手を貸してやろう」
「……な、何? 今なんて言ったかしら?」
非常に不味いことを聞いた気がした牡丹は、あからさまに狼狽した。
「明日は陽に手を貸すと言ったのじゃ。……陽、今日中に終わらせるべき書類だけ終わらせてくるといい」
「ぉk! 薊さんマジグッジョブ! はーっはっはっは、母さん、形勢逆転だなおい! じゃ、明日はがwんwばwれwwwwwww」
「それが息子が母親にかける言葉かーっ! こらーっ! 戻ってきなさぁーいっ!!」
ウィンクとサムズアップを薊にし、慰める気が皆無な言い方で牡丹を慰め、陽は急いで部屋を出ていった。
牡丹の怒りなど、歯牙にも掛けていないようだ。
……横文字をバリバリに使っているのだが、雰囲気から伝わったようだ。
「クスクス、おばさんったら、意趣返しされてやんのー」
「あれは伯母上さまが悪いよね――「ん、なぁに?」――って、翠お姉さまが言ってたよっ」
「ちょ、蒲公英っ! あたしはそんなこと言ってない!」
「よし、翠は後で虐める。異論は認めない」
「い、虐めるって! だから、あたしは言ってないってば!」
この後、キッチリお仕置きされることとなる。
……蒲公英と茜と何故か翠が、である。
怒る対象が二人いて、その内の一人が逃げたなら、当然怒りの矛先はもう一人へと向く。
「……で、明日は陽を手伝うとは、どういうことかしらっ!?」
「そのままの意味じゃ」
「そういうことじゃなくてっ! なんで私を手伝わず、陽を手伝うか、という理由よっ!」
……陽に怒れなかった分だけ、牡丹の怒りのボルテージは上がっているようだ。
「ふむ。……元々、今回の話はお主のワガママから始まったであろう?」
「正確には蒲公英じゃないのさー」
「確かにそうじゃ。じゃが、お主が求めなければ話をすることはなかったのも事実じゃろう?」
「そうだけど……。でも、遅かれ速かれ、話してもらうことになってたはずよっ」
「それも間違ってはおらぬ。かくいう儂も知りたかったことじゃからのう」
「じゃあ、私のワガママだから、ってのは理由にならないじゃない!」
「そうじゃ。元よりそれを理由するつもりはない。……儂自身のせいも相まって政務に支障をきたしてしまった、ということが理由だからの」
頬を子供のように膨らませ、怒る牡丹。
それを、大人の余裕をもって対応する薊。
……二人は義姉妹なのだが、どちらが姉なのか、分からなくなる構図である。
「うぅ……でっ、でも、私の仕事を手伝わない理由にはならないじゃない!」
「その、儂が手伝うことが前提なのがおかしいんじゃ! 儂は長期休暇の最中なのだぞ!」
なんとも理不尽な言い分の牡丹に、流石の薊も怒る。
……当然のように手伝っているが、一応は休暇中なのである。
「う〜ん、でも〜、薊が手伝ってくれると、本っ当に助かるの。……だから、お・ね・が・い♪」
「ぬっ……ぅ……っ」
「ねっ? いいでしょ?」
「わ、わかった。わかったからその顔は止めてくれっ!」
眼を潤ませ、下から見上げるように――所謂、上目遣いで――見つめてくる牡丹に、薊は耳まで赤くする。
薊自身、これは演技である、ということは理解しているのだが、それでも効果をもたらす程の威力を持ち合わせているのである。
……というか、このおねだりは薊にしか効かないのだが。
「たんぽぽ達、すっかり空気だよね〜」
「……そうですね〜」
「まぁ、仕方ないんじゃない?」
「……何がだ?」
「翠姉ったら、にっぶ〜い」
「僕でもわかるのに〜」
本来は当人等以外、ノリノリでニヤニヤであるはずの場面だが、まだまだそういったことがわからないほど初な翠だった。
陽は語る。
「想像の域を超えない話だけどさ、俺が倒れたのは必然だったかもしれない。……だってさ、この策通りいってたら、三国志、じゃなくなってるかもしんないもん」
と
牡丹のお仕置きタイム。
「うぅ~、痛いよ伯母上さま~」
「……その上目遣いで陽を落としているのね! 五発追加してやるんだから!」
「そ、そんなーっ! あぅ!」
蒲公英
お尻ペンペン。
普通に痛いよ。
「ちょっ、もうっ! 離して! おばさんに抱きつかれる趣味はないの! いやー!」
「離さないわぁ。後四半刻(30分)はね!」
「いやーーっ!! あっ、しかも撫でっ! もうやめてーーー!!!!」
茜
抱擁+なでなで。
思春期少女には恥ずかしい。
「あはははっ! ……ちょ、母上、もうやめっ! あはははっ!」
「良い身体ねぇ。流石に我が娘、若いだけあるわね……!」
「あはっ、もう、ひぃっ! ……やめっ! はぁっ! あはははっ!」
翠
弄り、というか、こしょぐり。
娘のハリのある身体に嫉妬しただけ。
「これはひどい」
「……これはひどい」
「これはひどい」
「お姉ちゃんの恥ずかしがる姿、……可愛い」
「「「……藍(君)?」」」
「じょ、冗談だよ! これはひどい」