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第二十九話


主人公が本編にまるまる出てこないなんて……。





「やってきました、シ水関!」


「……ハァ」


テンションが上がりすぎて狂った牡丹を見て、ため息を吐く山百合。

頭を抱えたくなるほどだ。


戦い自体には、二十七話の通り乗り気ではない。

にも関わらず、何故、前回同様こんなにもテンションが高いのか。

それは、黒兎に理由があった。

正確には、黒兎の脚、である。


表現しにくいが、ぶっちゃけ、黒兎は脚が速い。

地に影さえ落とさぬ、というほどだ。

……主が違っていれば、絶影、と呼ばれていたかもしれない。


まぁ、それはさておいて。

お分かりだろうか。

牡丹は、生粋のスピード狂だったのである。

とりあえず行軍中は常に、黒兎を走らせ、ヒャッハー言っていた。

……勿論、牡丹はモヒカンでも、拳王配下でもないのだが。



   ★ ★ ★



「……西涼太守馬騰が、一万の兵と共に参上しました、と、お伝え下さい」


「はっ。中央の大天幕に於いて、軍議が行われております。準備が整い次第、参上せよ、とのことです」


「……わかりました。すぐに行きます」


金ぴかの鎧に身を包んだ兵を袁紹軍の兵だと判断し、着いたこと報告する山百合。

これでいいのか、と思われるかも知れない。

この報告事態、本当は牡丹本人がやるべきことなのだ。

だが、山百合にとって、牡丹の尻拭いをする事は慣れっこであり、むしろそれが自分の仕事だと思っているので、なんの気苦労も感じたりしない。

まさに主従の鏡である。


「……翠様と蒲公英ちゃんは、兵たちに天幕を張るよう指示を」


「了解!」「はいっ!」


山百合の指示で、翠と蒲公英も動き出す。


「……さて、牡丹様。軍議にいきますよ」


「えー、やだ」


「……ハァ」


またこの人は……、といった様子で山百合は頭を抱える。


「山百合はそうやってため息を吐くけど、どーせ皆が腹の探り合いするの、目に見えてるんだから。そんなとこ行きたくないわ」


「…………オホン。さて、軍議にいきますよ」


「あれ、何で流したかな?」


「……全て引用はいけないと思いますよ」


「何で知ってるのよ〜」


「……それは牡丹様にも言えることかと」


先の台詞、目聡い人ならすぐにわかっただろう。

呉ルートシ水関攻略前、軍議に行くことに駄々を捏ねた孫策の台詞、まんまである。

……何故二人は知っていたのだろうか。


「わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば!」


多少の不満からか、少々言葉に棘があるが、決して怒ってはいない。

むしろ、今は笑っていた。

……いいことを思い付いた、と言わんばかりの満面の笑みで。



   ★ ★ ★



「……来たわね」


「そのようです」


「…………」


天幕内では、曹操と夏侯淵、及び周瑜は、外からやって来る牡丹と山百合の二人の存在を感じとっていた。

……流石は名の残る名将といったところである。

曹操とその側近の夏侯淵とのやりとりと共に、ぱさり、と入り口が開かれる。


「「「――――っ!?」」」


ここで、曹操と夏侯淵、それに、周瑜は驚きを隠せなかった。

何故なら入ってきたのが山百合一人だけだったからであり、感じていたもう一人の存在が消えたからである。

たったの一動作。

天幕内に入ってくる、という一動作をする間に、一人いなくなっていたのだ。

驚かない訳がなかった。


「山百合〜、なにしてんの? 早く来なさい♪」


『――――っ!?』


今度は、牡丹を除く、天幕内の全ての人が驚きを露にする。

先の三人はどうやって、と。

残りはいつの間に、と。



強者を見分け、強さを感ずるに少なからず自信があった三人。

だが、天幕内に入るときにいなくなったはずの存在が、いつの間にか対面に座っている。

これがどういうことか、わかるだろうか


牡丹は、三人の認識を掻い潜り、さらには、天幕内の全員にも視認させなかった、ということになるのだ。


「……ぼーたーんーさーまー」


恨みがましく睨む山百合。

当然のことであろう。


「いいじゃない♪ 少しぐらい面白いことしたって、ねぇ」


そんな視線をものともせず、少しばかり本音を吐く牡丹。

牡丹にとって、この戦いは実にどうでもよく、つまらないものなのである。

だからこそ、こういった面白い事に関する小さな積み重ねをしないと、牡丹は充たされないのだ。


「……良くありません」


「ちぇっ、ケチー」


「……ケチ臭くした覚えはありませんが」


「はいはい、わかりましたよーだ。私が悪うございました」


一応謝る牡丹。

反省の色は全く見えないが。


「とっ、とりあえず、貴女は誰ですの?」


袁紹が問う。

すると、天幕内の諸侯の目が一斉に一人に集まる。


……無論、袁紹に、である。


奇しくも馬騰、という存在は、――陽のせい、というのもあるが――知らない方がおかしい、と言える人物なのだ。


「……あ、そういえば、袁紹ちゃんとは初顔合わせだったわね〜」


(なんだかんだ、会ったこと無かったんだっけ)


牡丹はそう心で続けて呟く。


「まぁ、挨拶もかねて、と。オホン……西涼太守の馬騰でーっす☆」


キラッ、と言わんばかりに星を出しながら右目を瞑り、そこに右手で作ったピースを翳しながら挨拶をする牡丹。

最早挨拶ですらなく、さらには、アラフォーババァがそれをやっているのである。

はっきり言って痛かった。


『…………』


天幕内の諸侯らは、一様に押し黙る。

満場一致のドン引きだった。


(あ、これは、不味った)


その時の牡丹の率直な心境である。


(……山百合もやりなさい)

(…………はい?)

(いいから、私と同じことをやりなさい)

(……嫌です。恥ずかし過ぎて死ねます)

(ほら、一種の荒療治だと思って、ね? こんなこと出来ないようじゃ――)

(……うぅ。わかりました)


近くに来ていた山百合とひそひそと話し、同じことをやるよう強要する牡丹。

半分は、自分のように自爆させようと考えていたりする。

……上司として最低である。


「……西涼太守、馬騰が剣、ほほほ……鳳、徳です。……っ……!」


命令通り、牡丹と同じ動きをする山百合。

星は出せなかったものの、恥ずかしさで顔を赤らめる、というオプションつきである。


『…………』


天幕内の諸侯らは、また一様に押し黙る。

満場一致の鼻血だった。



顕著な例を見ていくと……。



曹操は、己の手をわきわきさせていた。

勿論、鼻血は垂れている。


「(何あの可愛い生物……。あぁ!欲しい!そして、この手で愛でたいわっ!)」


そう、心の中で叫ぶ曹操。

百合が故に、食指が疼いていたのである。



周瑜は呆然としていた。

勿論、鼻血は垂れている。


「(なんだあれは……かっ、可愛い過ぎる!あれは本当に山百合姉様なのか!?)」


こちらもまた、心の中で叫ぶ。

知り合いが故に、信じられなかった。



「……皆、死ねばいいのに」


少し危ない発言をする牡丹。

自爆しろ、という半分の気持ちから出た言葉だ。

……もう半分は、可愛い山百合が見たい、という純粋な願望であったのであるが。


「……穴があったら入りたい」


絶賛うなだれ中の山百合。


限定的な場面に於いては、極度に恥ずかしがる山百合だが、別に人前で話したりすることが恥ずかしい訳ではない。

今回の場面は、やる動作が恥ずかし過ぎたのである。

……極端に恥ずかしがる場面は、ほとんど陽や牡丹が絡んでいたりする。



   ★ ★ ★



このような牡丹と山百合の自己紹介(?)が無事(?)に終わって半刻は経ったが、軍議は全く進んでいない。

総大将が一向に決まらないのである。

……明らかにやりたそうな人はいるのにも関わらず、だ。


(つまんねぇ。……寝ていい?)

(……素が出てますよ)

(まぁ、こんだけつまんねぇとな……イライラもするさ)

(……否定は出来ません)

(実際俺にとって、軍議なんてどーでもいいことだし。だから寝るわ)

(……分かりました。重要なことがあれば起こします)

(あんがと。じゃ、おやすみ)


声をひそめ、話す二人。

話している間、一人は椅子に腰掛け、腕と脚を組み据わった目をしており、もう一人はその側に佇んでいる。

元から軍議に必要性を見出していなかった腰掛けている一人が、眠りにつく。

顔は俯き気味あるため、目にかかる髪がその者の表情を隠しており、これで寝ているとは気付きにくいだろう。


(……これは、そうとう黒兎君に頑張ってもらわないといけませんね)


側に仕えるもう一人は、そう心でごちた。



そしてさらに半刻の時が経つ。

息抜きや休息を兼ねて色々な人が出たり入ったりしたが、ここで、赤髪ポニー、またの名を、ミス普通が天幕を出た。


原作を知っていたら分かるだろう。

そう、軍議が進む合図である。



   ★ ★ ★



何刻もかかった軍議は、公孫賛に連れられてやってきた、天の御遣いこと一刀と劉備の乱入によって、終幕を迎えた。

本当は、総大将さえ決まってしまえばすぐに軍議は終わっていたのである。

しかしどの陣営も、お前が総大将に推薦したんだから、お前一番槍になれ、みたいな被害は被りたくないのだ。

だからこそ、誰もが発言することなく無意に時間を浪費していたところにやってきた二人には、表には出さないものの、諸手を挙げて喜んだ。


「……牡丹様、軍議、終わりましたよ?」


山百合は半刻前に寝た牡丹の肩を叩く。


「ん、わかってるわ。にしても、中々面白い子ね、天の御遣い君って」


柔らかい笑みを浮かべて答える牡丹。


「……起きていらしたのですか?」


「まぁねー。……特別な氣みたいなのを感じたから、面白そーだなーって思ってね」


「……その、面白さ至上主義をどうにかしてください」


牡丹の発言に、呆れ口調で答える山百合。

……内心は、牡丹がキレてなくてほっとしていたりする。



「御遣い君、結構やる子なんじゃない?」


「……確かに、最善を尽くしたと言えましょう」


天幕を出ながら、二人は話す。

先の理由より、小規模軍勢にも関わらず先陣を任された二人。

一刀は、その際どい状況下で、兵と武具の借用を求めた。

山百合の言う通り、不幸中の幸いは得たのである。


「んー、まぁ、それもそうだけどね。私が言いたいのはね……魅力よ。人を惹き付ける魅力」


劉備ちゃんも持ってたけどね。

牡丹はそう続ける。


「……私には、陽君ほどの魅力は感じられませんでしたが?」


「あら? あらあらあら?」


ニヤニヤニヨニヨ。

牡丹は口に手をあて、からかうように笑う。


「……~~~~~っ!!! 忘れて下さいっ!」


「無理よ♪ うふふふふっ♪」


顔を真っ赤に染めて懇願する山百合を見て、牡丹思う。

いいネタをゲットしたと。

同時に、強敵が現れたと。




「ん? あれは……」


ひとしきり山百合をからかった後、天幕から少し歩いたところに佇む者に、牡丹は気付く。


「お久しぶりでございます」


「本当ね。どれぐらいぶりかしら」


「……5年程かと」


静かに頭を垂れる者に、明るく牡丹は声をかける。

山百合は少し顔を綻ばせながら、牡丹に補足をいれる。


「これは公的な場か、私的な場……どちらかしら?」


「……どちらかと言えば、私用です」


「そ。 じゃあ、……久しぶりね、冥琳ちゃん♪ ずいぶん大きくなったわねぇ」


背も、胸も、と付け足す牡丹。

……完全にオッサンである。

その横では、冥琳、すなわち周瑜の胸を見ては下を向いて自分のを見る、という動作を何度もしている。


「(これで満足させてあげられるでしょうか?)」


金城にお留守番している一人が聞いたら、思わず殺意が芽生えそうなことを考えていた。

……自身が大きい方だということを自覚していない山百合だった。


「心配しなくても、山百合のでも十分いけるわよ。……イけるかしらね♪」


「……心を読まないで下さい」


牡丹の言葉に答える山百合の声は無機質だが、顔はほんのり赤らんでおり、微妙に隠せていなかった。


「無理☆ そんなことより、山百合も挨拶しないと♪ 5年ぶりなんでしょ?」


「……そうでした」


牡丹は話をすり替えるプロフェッショナルだった。

無論、この無駄なスキルによって被害を被るのは陽であるが。


「……お久しぶりです、冥琳ちゃん。元気にしてましたか?」


「文台様がお亡くなりになられてからは多忙を極めておりましたが、ほどほどには。……雪蓮の元気さには困り果てていますが」


山百合は、滅多に見せることのない柔らかな笑みを浮かべる。

答える周瑜は苦笑いである。


「……振り回される冥琳ちゃんの姿が目に浮かびますね」


山百合も流石に苦笑いを浮かべる。

孫策の人柄を知っていれば、想像することなど容易なことなのである。


「あれを御せるのは、今や山百合姉様だけでしょう」


「……まぁ、手慣れてますからね」


呆れと若干の諦めを含んだ周瑜の言葉に答えつつ、山百合はちらりと牡丹を見る。


「ん? なに?」


「……いえ、なんでもありません」


主であるこの人も、相当な自由人なのである。


「……ですが、私に頼ってもらっても困ります。雪蓮ちゃんは、貴女の友で、恋人で、主なのですから」


山百合の心の内では、二人には御す御されるの関係になって欲しくないと思っていたりする。

山百合自身が述べたように、主従でありつつも、断金と謳われる程に深い友情と愛情がそこにはあるのだから。


「……勿論です!」


周瑜の頼もしげな首肯に、山百合はもう一度笑んで見せるのだった。



   ★ ★ ★



翠の天幕にて、二つの影がある。


「すぅ〜いぃ〜……まだ怒ってるのぉ〜?」


「……ふんっ」


翠の隣に腰掛け、若干甘ったるい声を出しながら首に腕を回し、抱きつく牡丹。

それに対し、翠はツンとした態度をとる。

翠は、ツンデレという属性を持ちあわせていない。

つまり、本当に怒っていた。


「そんなに洛陽の民をないがしろにするような発言が気に食わなかった?」


怒らせた張本人である牡丹は、困ったように笑む。

しかし、どこか嬉しそうな笑みでもあった。


「当たり前だろっ!? 罪のない民が苦しめられてるってのに、それをっ――」


思わず握る手に力を込める翠。

流石は未来の、いや、正史でも名を馳せた五虎将の一人、と言うべきだろうか。

義に篤かった。


「……翠は良い子ねぇ」


翠を更に引き寄せ、頬擦りをする牡丹。

その顔には、慈しむような笑みを浮かべている。


「わっぷ、やめろよ母上!」


離れようとする翠だが、生憎と牡丹は甘くなかった。

逃がさないように、がっちりホールドしていたのである。

……無理矢理であれば、引き剥がすことも出来なくはない強さではあるが。


「だぁ〜め! もう、はなさないわ……うふ、うふふふ」


「ちょっ、母上……?」


いきなりのキャラチェンジ――黒い笑みをする牡丹――にたじろぐ翠。

牡丹の今の気分は、ヤンデレだった。


「と、まぁ、冗談はここまでとして」


「ほっ、本当に?」


「そんなとこで嘘ついて、意味あると思う?」


いつも通りに、ニッ、と笑む牡丹の表情を見て、安堵のため息を吐く翠。


「確かに、関係ない、は言い過ぎたと思うわ。でもね、本心でもあるの。……私には、西涼の皆と、家族と、友達以外は別にどうだっていい。……そう思えるぐらい、皆が大切なのよ」


まぁ、心の狭い人間、とも言えるけどね。

と、牡丹は真面目な顔でそう紡ぐ。

そんな母の顔を横目で見て、翠は絶句する。

曰く、こんな真面目な母上を見たことない、と。


「こんな狭量の私の下で、義に篤い娘に成長してくれて、私は嬉しいわ♪」


「母上……」


娘の成長を素直に喜ぶ牡丹。

愛を注いできた結果といえるものなのだから、当然であろう。

翠が母の愛を知ることで、金城からここに来るまでのギクシャクした雰囲気はどこかにいっていた。


今回の翠のように、感情的に昂ぶった状態では、話の真意を汲み取るのは難しい。

ならば、感情的になった事とは全く違う事柄に持っていき、一度零に戻す。

そう、これこそが牡丹の話術であり、陽の話術である。



「ところで翠、天の御遣い君見た?」


「いんや、見てないけど」


牡丹の問いに、翠は素直に首を振る。

ちなみに、未だ牡丹は抱きついたままである。


「そ。なら、一度見ておくことをオススメするわ」


「……なんでだよ?」


出来れば会っておきたいな、ぐらいには思っていただけに、牡丹の言葉を少しだけ訝しむ翠。


「面白くなりs――って、ちょっと翠、怒らないでよぉ〜。まだ続きがあるんだから」


ふざけた理由に翠は怒って立ち上がろうとするが、涙目――勿論、嘘泣きだが――の牡丹に、仕方なく抑える。

……牡丹にとって、この程度表情を変化させることはお手の物なのである。


「確かにそれが一番だけど、人柄とか見ておくのも悪くないかなって。それに、性格や陣営の雰囲気、信条とか、諸々が翠に合ってると思うのよね」


ま、半分は勘だけど。

そう牡丹は評価する。


「(それに、まだ間に合う。……陽に翠をくれてやる気なぞ、毛頭ないわ!)」


心の中で、そう親バカなことを思っているのは秘密である。


「うー……ん、よくわかんねぇけど、とりあえず見とけ、ってことだな」


翠は片目を瞑り、珍しく思案顔をし、答えを出す。


「うん♪ これにて、私からのお話はおしまい。さてさて、暇だし、昼寝と洒落込まない?」


「……昼寝? てっきり酒を飲もう、って言うと思ったんだけど」


「翠が普段、どんな目で私を見ているか、よーくわかったわ……」


牡丹は、落胆と怒りと非難を交えた目で翠を睨む。


「いや、その、悪かった?」


「何故に疑問形なのよっ!」


牡丹は天幕内の簡易的な寝床に、翠を押し倒す。

そして、ウガッー、と言わんばかりに襲いかかっ――


「……何をしてるんですか」


――らなかった。

正確には、かかれなかった。

何故なら偶然にも、遮った声の主、すなわち山百合が天幕に入って来たからである。


「なぁ〜んにもしてないわよ、ナニも」


牡丹は、マウントポジションからおりながら答える。


「……子に手を出す程の外道ではないと、信じておりましたが……」


「ちょっとぉ! いくら私だって、そこまで落ちぶれちゃあいないわよ! ……多分」


「(今、多分って言ったよな)」


疑わしげな目線を送る山百合に、苦笑い気味に怒る牡丹。

最後は言葉――翠には聞こえていたようだ――は勿論小声であり、なんとも締まらない一言。

可能性を示唆しているような一言でもあった。

……山百合は山百合で、"娘"や"実子"ではなく"子"と使うところ、何気に強かである。


「……まぁいいです。それより、今しがた袁家の方から伝令がありまして」


「何々? つまらなかったら、翠を愛でるわよ?」


「なんでだよ!」


「……どうぞご勝手に――「うぉい! 止めろよ!」――さて、内容ですが」


牡丹の後ろにいる翠からツッコミが入るが、完全無視である。

……何気に酷い。


「……各軍の配置が決まったようです。先鋒は軍議の通り劉備軍、その後方に袁紹軍、そのまた後ろに公孫軍とその他です。右翼前方に孫策軍、後方に袁術軍、左翼前方は曹操軍で、後方は私たち西涼軍、だそうです」


「えぇっ! 遠っ! せっかく夜襲を仕掛けようと思ったのに……」


「はぁ?」「……はい?」


翠と山百合共々、疑問符を浮かべる。

先の牡丹の言葉にそう反応をするのは、別段普通のことだ。


今回は主に攻城戦であり、西涼軍は主に騎馬隊で構成されている。

はっきり言って、夜襲など不可能なのである。

それぐらい、翠にでも分かる。


「あぁ、夜襲って別に戦の話じゃないわ。ちょっと個人的に、ね♪」


大体、シ水関なんて天の御遣い君に任せとけば終わるでしょ。

と、冗談に聞こえないトーンで牡丹はそう続ける。


「……では、どこに仕掛けるのです?」


「ひっみっつー☆」


「母上……。流石にキツイよ」


哀愁の漂う目で、翠は牡丹を見つめる。

……軍議の時に、何故懲りなかったのだろうか。


「……まぁ、とりあえず山百合も一緒に、ってことだけ覚えておいて頂戴」


「……分かりました」


「うん。……それじゃあ、移動しよっかー」


「……はっ!」「了解!」


牡丹の言葉に、二人は元気よく返事をするのだった。



   ★ ★ ★



「……ちょっと、えぇっ! 今日、たんぽぽの出番無し!?」


メインヒロインなのにハブられる、という事態が起こったが、西涼勢は今日も平和である。






「えぇっ! 俺の出番無し!?」


「ボクも無いようね」


「……儂はもう慣れたぞ」


「「…………」」


主人公なのに丸々一話出てこない、という不測な事態が起こったが、お留守番勢も結構平和である。

……若干一名不憫な方がいらっしゃるが、スルーで。





陽は語る。


「この、病み上がりだからと貰った休暇は実に充実したよ。だって、母さんがいなかったものっ!」




信長協奏曲、面白い!



転生モノやらタイムスリップモノが好きなんだなー、とつくづく思う作者です。



どうでもいいんですけどねー。


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