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第二十八話


やっとこさ、反董卓連合編。


長かった……。



夢を見ていた。

過去を見た、と言ってもいい。

五、六歳ぐらいのときに拾われたときのことを。


「「(俺/儂)についてこい」」


そう言われたときのことを。

誘われるがままについていったときのことを。


夢を見ていた。

遠い遠い過去を見た、と言ってもいい。

一人の少年と出会ったときのことを。

その少年が友になってくれたときのことを。


夢を見ていた。

遠い遠い過去を見た、と言ってもいい。

親代わりのじじいに勉強を教わり、剣術を習い、寝食を共にしたときのことを。

師範代となり、子供たちに剣術を教えていたときのことを。


夢を見ていた。

遠くはない過去を見た、と言ってもいい。

一人の少女と出会ったときのことを。

その少女に意味も解らずイラついたときのことを。


夢を見ていた。

遠くはない過去を見た、と言ってもいい。

親代わりのおやじに勉強を教わり、拳術を見稽古し、寝食を共にしたときのことを。

強くなりたくて、先の少女に教えている姿をひたすら盗み見ていたときのことを。


夢見ていた。

じじいにも、おやじにも、恩返し出来る日がやってくる時を。


だが、そんなありふれた小さな夢さえ、叶うことはなかった。



   ★ ★ ★



Side 陽


「知らな……知ってる天井だ」


このネタ二度目だよね。

まぁ、気にしないでいこう。

てか、久々に光を見た気がするなー。


そういや、倒れたんだっけ?

……あー、吐血したんだった。

そっから覚えてねーや。


そんなことより聞いてくれ。


「……なんで蒲公英が上にのってんだよ」


一応、俺って病人だよね。

ダルさとか倦怠感とか全く感じられないから、これといった問題は別にないんだけどさ。


「蒲公英、おーきーろー」


ぷにぷに、とほっぺをつついて、蒲公英を起こす。

柔らけぇなぁ、おい。


……別に下心からやってる訳じゃないんだぜ!

蒲公英を上からどかして寝台から出ようと思って、全身規模で身体を動かそうとしても、全く反応してくれない。

動こうとすると、こう、力が抜けてく感じなんだよね。

だから、唯一動く右腕を使って起こそうとして思い付いたのが、これなのだ!


「んっ、むー、もうちょっと」


「あ、鳶が鷹を産んでるー」


「それ、たんぽぽのネタだからとっちゃダメー」


そんなきまりあんの?

次元的に超越してるっぽいので、深くは介入しませんが。


「おはよう」


「あ、お兄様、おはよう! って、えぇぇーーー!!」


笑顔で蒲公英に挨拶したら叫ばれた。

なんで?


「ちょ、耳元うるさい」


「あ、ごめんなさい。……じゃなくて! いつの間に起きたの!?」


「さっき間に起きたの。つか、そんな驚くこと?」


「……うん。……ぐすっ、でも、よかっ、たぁ……」


半泣き、かつ満面の笑みで蒲公英に抱きつかれる。

蒲公英の泣き顔なんて、久しぶりに見た気がする。

確か半年前、俺の執務室の机に足の小指ぶつけた、ってやつだったか。

仕方ないと思う。

あれは痛い。

……足を押さえて、涙目で俺を見上げるその姿に、可愛い、と思ってしまったのは秘密だぞ!


まぁ、何が言いたいか、というとだ。

蒲公英は俺に、滅多に泣き顔を見せないってこと。

だから、よほどの事だったんだろうな。


「……何かあったの?」


右手で蒲公英の頭を撫でながら、出来る限りの優しい声色で問いかけてみる。

聞かなきゃ始まんねぇだろ?


「何かって、……お兄様が倒れて、何日も起きなかったんだよ!」


若干怒ってますね。

睨まれてますもん。

まぁ、別に怖くないけど。

……この上なく可愛いし。

つか、ちょっと待て。


「俺が倒れて何日目?」


「今日で一週間だよ!」


え゛、マジかよ。


「じゃあ、反董卓連合は?」


「勿論参加するよ。今日が出発の日だし。……って、話をすり替えないで!」


「ごめん、ごめん。そっちも結構重要なことだからね」


苦笑いを浮かべる俺。

俺が倒れてる間に決めやがったなコノヤロウ。

今更変えることもしないし、出来ねぇだろうなぁ。

ま、いっか。

若干の罪悪感はなきにしもあらずだけど、関係ねぇと言えば関係ねぇ。

どのみち俺がいなくても、董卓ちゃんたち独自で張譲含む十常侍とか殺すつもりだったんだしな。

まぁ、なんだ。

……董卓ちゃん、ドンマイ。


「あ、他のこと考えてる! しかも、女のこと!」


なにこの鋭さ、こわっ!


「悪い、悪い。絶対届かんけど、董卓ちゃんを慰めてた」


「……え、董卓って、女なの? てっきり豚みたいな容姿で、酒池肉林だ〜、とか言ってる奴だと思ってた」


あれ、知らんかったの?

つか、凄い偏見っぷり。

流石にひでぇよ。

董卓ちゃん、かわいそ。


「そんなやつだったら、恋ちゃんも霞も、主にはしねぇよ」


「……恋と霞、って誰のことっ!? もしかして浮気っ!?」


胸ぐらを捕まれて、ぐわんぐわんと強制的に頭を振らされる。

蒲公英は馬乗りでやってきますから、俺は当然逃げらない。

まぁ、もともと動かないんだけどね。


つか、浮気、って言ったけど、まず本命がいねぇよ。

大体、なにこの夫婦漫才っぽい感じ。

……悪い気はしないが。


「恋ちゃんは呂布、霞は張遼のこと! どっちも友達だって! 前に話したろ!」


「あ、そっか」


突然に手を離される。

動かない訳だから、受け身が取れない訳で。

背中を寝台に打つ訳で。

いってぇ……。


「たっ、たんぽぽは悪くないよ! 二人の真名なんて聞いてないしっ!」


「……へぇ」


「うぅっ、……ごめんなさい」


「うむ、宜しい」


にこやかに笑いかける。

子供は素直が一番だ!


えーと、何処にやったかな?


「俺の執務室にある戸棚の、上から二番目の引き出しは二重底でな。多分、そこに董卓ちゃんの似顔絵があると思う」


埋伏に描かせたやつだ。

なかなか上手だと思う。

同じく描かせた恋ちゃんたちも、結構似てたし。


「……それ、慰みものにしてないよね?」


「おいおい、そりゃねぇぜ! 流石に怒るぞ?」


それ、ただの外道じゃねーか。


「やだなぁ〜、冗談だよ〜」


「ならまぁ、いいさ。それでその似顔絵だけど、母さんたちには、人相書きにはしない、って約束させてから見せてね」


ここは徹底しておく。

ちょっとした罪悪感からの偽善、自己満足。

笑えるだろう?


「たんぽぽは約束してないのに、いいの?」


「こうやって話してる時点で、約束みたいなもんだろ。……それに、蒲公英を信じてるからね」


母さんは同じだから例外として、一番信頼してるのは蒲公英。

無論、家族の皆にも最大限の信頼は寄せてはいる。


けど、情報を与えるに比例して、選択肢を増やして、どれが自身にとっての利益が大きいかによって選びとる。

そう、どうしても打算的になってしまうのが、大人ってやつな訳だ。

その点、いくら大人顔負けの武や知があっても、大人びた節が垣間見えても、まだまだ子供の蒲公英。

家族の皆には悪いが、蒲公英に寄せる信頼は一歩前なのさ。


「……うん! えっと、その代わりって訳じゃないけど、ぎゅーってして?」


満面の笑みを溢しながら抱きついておいて、今更何を言ってんのやら。

まぁ、いいけどさ。


両腕で抱き締めてやる。

……あ、左腕動いた。

これで起き上がれ――


「むー」


――また、後にしよう。

むくれ顔して、上目遣いで睨む蒲公英さんに根負けしましたが何か?




どれぐらい経っただろうか。


「……もういい?」


「……うん。も〜ちょっとして欲しいけど、そろそろ時間だからね〜」


マジで残念がる蒲公英。

俺自身、実はもうちょっとしたかったりする。

ぬくぬくとした暖かさがある、という理由の他に、もう一つぐらいある気がするが、はっきりはわかんね。

……自分の心の内がわからんとかどうなのさ、と思うのは俺だけ?


蒲公英はのそのそと起き上がって、寝台を降りる。

……いつもとは逆だけど、同じく感じるのは名残惜しさ。

黄緑色のリボン――何時だったか、俺が買ってあげたやつ――をいつものように結び、とんとんと靴先を地面に叩いて履き心地を確かめ、傍に立てかけてあった武器―影閃―を手に取る。

……なして俺の部屋なのに用意してあるん?


「出発前に、俺の執務室にいけよ」


「うん」


似顔絵の件ね。


「あ、そだ。母さんに黒兎貸したる、って、言っといて」


「うん」


貸して貸してうるさかったんで、ちょうどいい機会だ。


「あと、もう一つ。『使うもよし、使わぬもよし。自由にして欲しい』って、母さんから孫策ちゃんに伝えるように言っといて」


「うん」


お金の件ね。


「あ、今回の戦いだけど、うちからは手出し無用だからね」


「うん」


まぁ、出せないと思うけど。

騎兵なんて、攻城戦ではあんま使えねぇしな。


「よし、じゃあ、いってらっしゃい」


「…………」


うん?

返事がない?


そう思った後からは、時が流れるのが遅く感じた。


ゆっくりと蒲公英の――影閃を立てかけ直したことによって空いた――両手が俺の頬を優しく包む。

不可抗力、と言うべきか。

何の力も蒲公英の手からは働いていないのに、自然と引き寄せられる。

そして、自然に、ごく自然に、唇が合わさる。










柔らかなファーストキスだった。










そしてまた自然に唇が離れた。


「いってくるね!」


そう言って、蒲公英は脱兎の如く部屋を出ていった。


待てよ、うん、待て。

俺、今、盛大に焦ってます。

ちょ、えっ、マジ?

された?

今の俺の頭の中は――

接吻、口付け、チュー、きす、鱚?、キス、kiss、KISS!!

――こんな感じ。


「おぉう、ジーザス」


もうゴールしてもいいよね。


俺は意識を手放すことにした。



Side 三人称


おぉ、陽よ。

意識をなくしてしまうとは嘆かわしい。

と、まとめてみるが、仕方のないことだ。

はっきり言えば、陽にとって全て初めてのことばかりなのだ。

内面で取り乱しても――その為、自ら発する横文字にツッコミを入れていないのである――、表面に出る前に意識をぶっ飛ばしたのは、実に最良の選択と言えよう。


さて、陽を取り乱させた方を見ていこう。



蒲公英は陽の執務室にやってきた。

勿論、言付け通りにする為に。


「……しちゃった」


ゆっくりと、しかし確実に、陽の唇の感触を思い出させるように、指を唇に這わせる。

そうするだけで、自分の鼓動が速まるのを、蒲公英はしかと感じていた。

蒲公英の胸を占めるのは、ドキドキ感と幸福感。

堪らなく胸が一杯で、自然と笑みが溢れてしまうほどである。

遅れたことによって怒られ、胸に占めるこのキモチをなくすまい、と蒲公英は似顔絵を引き出しから抜き取って、急ぎ部屋を出る。


集合場所まで向かう間も、ずっとにへら、という感じで笑っていたので、すれ違った兵は、役得だと思う奴もいれば、悔しがる奴、引いていた奴もいたとかいなかったとか。



   ★ ★ ★



「え、嘘、マジ? おっしゃ! 黒兎の乗馬許可キタ! これで勝つる!」


力強いガッツポーズをし、いかにもktkr、といった感じで、おかしいぐらいにテンションが上がっている牡丹。

蒲公英から陽の伝言の内容によって、興奮したようだ。

これが西涼太守の姿だとは、誰も認めてはくれないだろう。

……しかし、一体、何に勝つのだろうか


そして、彼女は電波ではない。彼女は電波ではない。

(大事なことなので二度(ry)


「こーくーとーっ! おいでーっ! ちゃんと陽から許可、取ったわよ!」


異常なぐらい大声を張る牡丹。

正直に言うと、現在、牡丹は狂っております。

でも、断じて電波では(ry


そこに、黒兎がやってくる。

周りの将たちだけでなく、兵でさえ黒兎がため息を吐いたように見えたとか。

……黒兎がいかに呆れているかが見てとれよう。


「……私は嫌?」


牡丹が黒兎に問う。

些か異常な光景に見えるが、西涼勢は慣れっこだった。

別に嫌じゃないけど、みたいな感じで、黒兎は牡丹の頬を舐める。


「……最大限の我慢はするわ。だからお願い! ねっ♪」


手を合わせて頼み込み、ねっ、のところで笑顔で首を傾げる。

黒兎は、しゃあねぇな、といった感じで、ブルッと啼いた。

……馬も飼い主に似るものなのだろうか。


ここで、男の名誉として説明しておこうと思う。

世には、ギャップ萌え、というものがある。

簡単に説明すると――私程度が説明する必要はないと思うが――、いつもとは違った仕種を見せることで、相手に萌え、という感情を生じさせるものだ。

さらに、落差が大きければ大きいほど効果を発揮するものでもある。


自分の仕える君主が、可愛らしい仕種をしたら、どう思うだろうか。

いつもは威厳に満ち溢れ、西涼の民の万人から慕われる主の、柔らかな笑顔を見たら、どう思うだろうか。

アラフォーババァだが、まだまだ美人にカテゴライズされる人の、年頃の女のような仕種をしたら、どう思うだろうか。


男なら萌えるはずだっ!


ということで、その時の牡丹を見てしまった兵たちは、一様に腰を屈め、前のめりになった。

端的に言えば、一部がスタンディングオベーションになったのであった。


出立が遅れたのは言うまでもないことである。



   ★ ★ ★



数日後の洛陽にて……。



「……不味いわね」


城内の一室で、爪を噛み、呟く者が一人。

董卓軍にその人あり、と言われる賈駆である。


「なにが不味いんや?」


「連合のことなら安心しろ! そんなもの、私が粉砕してやろう!」


そこに、霞と華雄がやってくる。

どちらもほぼ戦の準備が完了したので、指示を仰ぎに来ていたところ、先の言葉を聞いたのである。


「……華雄一人で、二十万を相手にする気?」


「当たり前だ!」


「……流石に無理やと思うで」


自信たっぷりな華雄に、頭に手をやって、呆れる二人。


「んで、何が不味いんや?」


華雄そっちのけで話を進めるようとする霞。

……何気にひどい。


「……連合の面子よ」


「兵数がアホみたいにおるの両袁家の他に、どこがおるん?」


「……まず、袁家の片割れは、厄介なのを飼ってるわ。それに、陳留の曹操ね」


「孫策に曹操か。……キッツイなぁ」


霞は腕を組み唸る。

完全に華雄は空気である。

敢えて表記するならば、孫策って、孫堅の娘だったっけ、みたいなことを考えてたりする。


「後は天の御遣いとかいうところね」


「関羽と張飛は有名所やったな。……殺り合ってみたいわ」


獰猛な笑みをする霞。

その中で、ふと思う。


「陽……やなかった、西涼の馬騰は?」


「頼みの綱ではあったけど、残念ながら敵よ。けど、別に厄介な相手ではないわ」


「前にゆーとった事と違わへんか?」


霞の言う、前に言っていたこと。


『味方につけば、この上ない援軍となるし、敵になれば、この上なく厄介な相手になるわ』


これに明らかに矛盾していた。


「違わないわよ。……確かに西涼勢の武力、兵力は厄介だけど、攻城戦ではあんまり意味を為さないわ。それに、一番厄介なのは天狼の存在なのよ」


賈駆が一番警戒していたのは陽なのである。


「……ん? ほんなら、陽、馬白は連合におらへんの?」


「そういうことよ。十日ほど前に倒れたらしいわ」


「つまらん、ちゅーべきか、僥倖、ちゅーべきか、なぁ」


陽が倒れた、と聞いたとき、賈駆は嬉しがることも、悔しがることもなかった。

正確には、淡い期待と多大の焦燥を持っていたので、どちらも出来なかったのである。

ただ、勝算が安定してほっとした、というのが一番だった。

……良くも悪くも、勝利への鍵を握るのは陽なのだ。


結局は、劣勢に変わりはない。

ならばこそ勝率を上げるには、と賈駆は思考する。

それが軍師の仕事であり、董卓を天下人にする、という夢に近づく為の一歩なのだから。


「……さて、軍議をするわ。霞は恋とねねを、華雄は月を呼んで来て頂戴」


「了解や」


「む、わかった」





陽は語る。


「実にふっくらであった!」




改善点など、何かしらあれば、どしどしください。



一応処女作ですから、勝手がわからない部分もありますので。


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