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第二話



日も少しだけ傾き始めたころ、中庭に五人の人物がいた。

うち二人はそれぞれ獲物を携えていた。


(いきなりだが、どうしてこうなった!!)


相対する二人のうち、片方は頭を抱えたくなっていた。


(冗談じゃねぇぞ!

だってよ、目の前で女が十文字槍を振ってるんだが、風を切る音が尋常じゃないんだぜ?)


勿論、槍の刃は潰してあるのだが、そこは最重要問題ではない。

というより、当人にはそんな些細なことはどうでも良いことであった。

一番に気にしているのは、何故闘わないといけないか、それも女と、ということだ。


(まぁ、何度考えても行き着く答えは一つだがな……)


そう考えながら、闘うはめになった原因の女性を睨みつける。

睨まれている張本人は、それを笑顔で受け流している。

どうやら実に楽しみにしているようだ。


10メートルほど間をあけ対峙し、戦わんと相対しているのは。

穴に落ちていた少年――真名を陽という――と、そこから這い上がる手伝いをし、ここまで案内してくれた馬岱の従姉妹である馬超であった。



「うっし、準備できたぞ! さあ、始めようぜ!」


準備運動したほうがいいのでは?

本当に闘いたくない陽はそう問いかけ、無駄と言える時間稼ぎをしていた。

結果、実力を目の当たりにしてしまいさらに頭を悩ませたのは余談である。


「ホントに止めにしませんか? 僕みたいな弱くて、剣を使ったこともない初心者と戦っても楽しくないでしょうに」


「いーや、駄目だ! 母上が強いって言ってたんだ。やるったら、やるぞ!」


(あの女の言うことを信じているのかよ。

まぁ、母親(だったらしい)の言だから当然とも言えるが、本当にやめてもらいたいんだが)


陽はよりいっそう落胆して肩を落とし、深いため息をついた。

すると――


「じゃあ、いくぜ! ハアァァァア!!!!」


「ちょっ、待っ、いやぁぁぁあ!!」


――馬超は真っ直ぐ陽の方へ駆け出した。

何の構えもしてなかった陽は、逃げるより他なかった。


「あっ、コラ、逃げるなっ!」


「いぃぃやぁぁだぁぁ!」


真剣勝負になるはずが、鬼の変わらない鬼ごっこになりかわってしまっていた。



   ☆ ☆ ☆



一刻前……


二人は森を抜けるべく歩いていた。

一人は軽快だったが、もう一人はおぼつかない足取りだった。

やはり、林檎一つなど気休めにすらならなかったようだ。


「ねぇ、ホントに肩を貸さなくても大丈夫?」


「うん、大丈夫。その気持ちだけ貰っておくよ」


フラフラと歩く様子に、馬岱はちょくちょく気にしてくれているようだった。

だが、森の外まで案内してくれてさえいるのに、これ以上借りを作るのは不味い、と陽は判断し、感謝の言葉を述べるのみに止めていた。


「そういえばさぁ、何であんなところにいたの?」


「いや、まぁ、その……」


(非常に答えにくい質問を……)


そう、陽は心の中で呟く

少し前に思い返していたことなので鮮明に覚えていたが、話すのを遠慮したいほどの失態だったため正確に答えるか否か迷っていた。

しかし、助けられた身分であったので簡潔に事の成りを話すことにした。



「あははっ、バカだねぇ〜♪」


満面の笑みでいいのける馬岱。

そこには侮りも呆れの感情もなく、心底愉快そうだった。

馬岱の一言が陽の心に突き刺さる一方で、その笑顔に釘付けになっていた。


「どうしたの? たんぽぽの顔に何かついてる?」


「いや、ただ笑顔が可愛いな、と」


「……っ! や、やだなぁ、もう!」


(頬が赤くなってる。

……熱でもあんのか?)


如何にも鈍感らしいことを思考する陽。

馬岱が顔を赤くしたのは、不意討ちの称賛の言葉に免疫がなかった為だ。

それは、彼女の血筋特有のものである。


「えぇ〜と、と、とにかくお腹まだ減ってるんでしょ?」


「いや、問題ない…『ぐぅ〜』…こともないです」


慣れないことをはぐらかすように、あからさまに話題を変える馬岱。

それを気に止めず、否定の意をこめたやせ我慢で返事をするつもりが、陽自らの腹の音に敢えなく失敗する。

不様である。


「じゃあさ、家にこない? 伯母上様も歓迎してくれるよ! 伯母上様の作る料理本当に美味しいんだから!」


(伯母……ねぇ)


親はいないのだろうか、この子は伯母の何を知っているのだろうか、何をもって歓迎してくれるといいきれるのか、実際に歓迎してくれるだろうか。

と、黒い思いを一瞬頭に廻らすが、すぐに凪ぎ払われる。

陽の頭の中を占めるはご飯のことばかり。


「お言葉に甘えて行かせて頂きます!」


何故か張り切る陽。

幾分かは足取りが軽くなったようだ。


こんな腹ペコキャラにするつもりはなかったのだが。



   ★ ★ ★



意外と近かったらしい馬岱の家のある邑。

何度もいろいろな人に声をかけられながら――実際は馬岱のみに、だが――、奥へとぐんぐん進んでゆく。


「ここがたんぽぽの家だよ」


なんだ、ただの県城か。

少しだけ現実逃避をしたくなった。


(城住みで、かつ見知らぬ奴を勝手に入れられる自由さ。……伯母はかなりの権力者か。

……馬岱もあっち側の人間らしいな)


陽は燻ぶる思いを胸に、馬岱に連れられ、庭を迂回して厨房の裏口にまわる。

其処には一人の女性が立っていた。


「只今戻りました伯母上様!」


「お帰りなさい。罠の方は……失敗したようね」


女性は馬岱の手に何もないことを見て、そう言った。

猪が本当に取れていようがいまいがどちらでも良かったので、そんなに気にすることはなかったようだ。


「猪捕まえるのには失敗したけど、代わりに人間捕まえちゃったよ」


「……捕まえたのってそっちの子?」


「うん♪」


(あん? こっち見んなよ)


女性と陽は、視線を交わす。

睨むように見る陽に、女性は笑みを浮かべた。


「……蒲公英が初めて捕まえたのは食べないとね」


「えぇっ!」「……は?」


女性のとんでも発言に、心底驚く馬岱と、何言ってるのコイツ、みたいな視線を送る陽。


「冗談よ、冗談♪ 大方お腹を空かせてるからって連れてきたのでしょう?」


「……う、うん」


「だったらご馳走してあげないと♪」


そういって女性は厨房に入っていった。

女性を観察する為、口を開かないことにした陽だったが、きつい冗談には嫌でも反応させられことに、少しだけ感心した。


(成る程、厄介だ)


そう、深く思いながら。


「……じゃ、じゃあ中に入ろっか」


あの冗談は馬岱にも効いたらしく、少しだけ気まずそうだった。

陽は気にすることなく黙ってついていった。



   ★ ★ ★



「さあ、た~んとお食べ♪」


陽の前の机に、結構な量の料理が並べられる。


(どんな時間配分したらこんなに早く出来るんだよ)


自分自身で作ったとしても、これほどは早くはできないので、心からそう思う。

……涎をだしながら。

だからこんな腹ペコキャラにするつもりは(ry


「本当にいいんですか?」


「ええ、早く食べないとさめちゃうわ」


「……では、頂きます」


一度合掌する陽。

陽自身、自分がなぜ食べる前に合掌するのかわからないでいるのだが。

幾度となく思考してきたことを頭にしまい、料理を口に運んでいく。


(美味い)


そう思いながら、ものすごい速さで消費してゆく。

その速さは隣で食べている女の子に匹敵した。



「かなりあったのに綺麗に平らげたわねぇ〜」


「ご馳走様でした」


もう一度合掌する。

量に加え、質も良かったので、陽は心底満足していた。

そこに突然……


「坊主よ、剣をとったことはあるか?」


……違う女性が声をかけてきた。


「ないですけど」


「そうか」


「何か問題でも?」


「いや、問題はないんじゃが、少し思うところがあっての」


う〜む、といいながら思考する女性。

陽自身も、何がなんだかわからなかった。

脈略もなければ、剣に触れたこともないのに、先のように声を掛けられたのだから、当然だろう。


「わからないなら闘って貰えばいいんじゃない?」


片付けを終え、戻ってきたさっきの女性が言う。


「ふむ、それもそうじゃのう」


「翠、この後暇だったでしょう?」


「ん? そういやそうだな」


陽の隣で食していた女の子が反応する。


「だったらこの子と闘ってみなさい」


「はぁ?」「えっ!」


女の子と若干空気になっていた馬岱が驚きの声をあげる。


「この子多分強いわよ♪」


「よっしゃ!ならやるぞ!」


迷わず返事をする女の子。

そうして勝手に話は進み、そして冒頭へと戻る。

実はこの会話、陽は殆ど聞いていなかった。

ずっと、剣についてを考えていたのである。


しかし、強引に連れて行かれ、成り行きを話され、対峙させられたのだった。




逃げる陽、追う馬超。

この後日が暮れるまで続いた。




この時の事を陽は語る。


「あのときの翠姉の目はマジだった」


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