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第二十五話


長い。


そして、御都合主義が満載。


さらに、口調が間違ってるかもしれない。


最後に、後半シリアスあり。


それでも良ければ、どうぞ。



Side 陽


「私が愛した人。今でも変わらず愛し続けている人。私の人生を変えてくれた人の内の一人。私の旦那様」


母さんはそう言った。


「儂が愛した人。今でも変わらず愛し続けている人。儂の人生を変えてくれた人の内の一人。儂のお兄様」


薊さんはそう言った。


「……私が敬愛する人の内の一人。父のようで、兄のような人」


山百合さんはそう言った。


「あたしの父上。まだ小さかったからよくは覚えてないけど、笑顔が似合ってた。撫でる手は大きくて、暖かかった」


翠姉はそう言った。


「ボクの義父で、命の恩人。最初で最後に見たその笑顔は、とても似合ってた。ボクを抱きしめて守ってくれたその腕は大きかった」


瑪瑙はそう言った。


「たんぽぽの伯父さん。ほとんど覚えてないけど、肩車されて見た隴西の街は、とっても高くて笑顔で一杯だった」


蒲公英はそう言った。


「知らない。けどお爺ちゃんが、今の陽兄ぐらい有名だったって言ってた」

「僕もそれ、聞いたことある。異民族の人や混血の人の地位向上に尽力したことで有名なんだったっけ」


茜と藍はそう言った。



   ★ ★ ★



十日ほど前、金城を出る前にあることを聞き、それぞれ返ってきた答え。

それを金城の街の人に聞けば、十代は知らないと、それ以上の年代の人は口を揃えて英雄だよ、と答えた。

通り道にある隴西で、同じ質問をしたところ、結果は同じだった。

質問の内容は、


『成公英ってどんな人』


というもの。

亡くなって十数年余り経つのだから、十代は知らなくて当然。

しかし、それ以上の年代では、訳が違うらしい。


あまりにも有名だったそうだ。

男女逆転の兆しが見え始めた、俺たちより一世代前。

実力ある三人の女の筆頭の一角に仕えた、実力ある三人の男の一角として。


それすなわち――


孫堅が左腕、程徳謀。


曹嵩が右腕、徐公明。


馬騰が両腕、成公英。


――曹と孫に仕えた者たちに並び立つ存在として。



その三人が名高くなるきっかけとなった地、潼関に今俺は来ている。

ま、残念ながら目的地はここじゃない。

ただの通り道だ。

俺は洛陽に用があるのさ。


霊帝が死んで、劉弁を傀儡に、漢を牛耳らんとした何進(ついでに何皇后)が何者かに殺され、とって変わるように劉協を擁立し、張譲により支配されんとしている洛陽に、な。

……ついでに言えば張譲は、董卓ちゃんを呼びよせて、武力に関しても、確固たるものを作りあげようとしていたが。



   ☆ ☆ ☆



半月前、すなわち俺が金城を出る四日前、霊帝崩御、との知らせが入った。

まぁ、長くないとは知ってたけどな。

そんなこんなで弔いにでも行こか、ということで出発した。

……勿論、第一の目的じゃないけど。


金城を出て三日、すなわち霊帝が死んで一週間、ゆるりと洛陽に向かっていた俺に、劉弁を擁立しようとした何進が殺されたとの報告があった。

展開としては想定の範囲内、かつ、都合の良い方へ向かっていた。


「ちょっと急がないとなぁ」


流石にゆっくりしすぎた。

自身の遅延で間に合わなかったとか、話にならんからね。


……え?

何に間に合わないって?

そりゃ、あれだよ。


董卓軍主催、――宦官駆逐作戦に、だよ。



   ★ ★ ★



「アンタ……何でおるん?」


「陽…………おひさ」


張遼は、いかにも民草だ、という格好をした俺に問う。

本来いないはずの俺が洛陽にある宮城の門前にいたのだ。

疑問は当然だろうさ。

……呂布ちゃんはさほど気にしてないらしいが。

とにかく、張遼、呂布ちゃんについて来ていた董卓軍の兵たちもざわついていた。


「逆に聞こう。……知らない、と思ったか? あ、呂布ちゃん、おいっす」


「……敵わんなぁ。流石は馬孝雄ちゅーとこか」


ニヤッ、と笑ってみせれば、苦笑する張遼。

そんな様子を気にせず、軽く手を挙げながら声を掛け合うのが俺と呂布ちゃんクオリティ。

……クオリティって何だ?


因みに。

孝雄ってのは、俺の字だ。

翠姉と一緒に貰った、って前言ったろ?


「……恋」


「はい?」


「陽……恋って呼ぶ」


「……わかったよ、恋ちゃん」


「……ん」


恋ちゃんによる瞳うるうる+上目遣いの動物的な仕草に、は根負けしましたが何か?


「ほんなら、ウチも霞って呼んでや。……恋ちんを真名で呼んだ癖に、ウチだけ仲間外れちゅーのはおかしいやろ?」


「……お前らグルだろ」


苦笑いから一転、満面の笑みを浮かべる張遼……霞。

俺は項垂れた。



   ★ ★ ★



「んで、ホンマ何でおるん? ……何が目的や?」


若干だが、未だ疑念を抱く霞。

因みに、この場には、陽と霞、恋しかいない。

それ以外の董卓軍の兵たちには、洛陽の民に危害が及ばぬよう警戒と警備にあたらせていた。

……はっきり言えば、霞と恋だけでも事足りる為、必要ないってことだ。


「んー、目的としては、お前らとおんなじ。……まぁ、お手伝いしにきた、とでも言えばいんじゃね?」


俺は右腕を挙げ、人差し指だけピッとたたせる。


「ウチに聞くなや。……ホンマにそれだけか?」


「……陽の言ったこと、多分ホント。……けど、まだある」


腕を組んで、唸ってみせる。

どうしよう、話すか否か。

結構迷ったが、まぁいいか、と思う。

目的は同じなんだから、邪魔はしねぇだろうし。


「……私怨だよ。どうしようもない私怨」


「「…………ッ!?」」


自嘲気味に笑いかける。


……ん?

そんなに顔を歪めちゃって、どうしたよ二人とも。



陽はわかっていないが、二人は初めて会った宮中の玉座での冷気とも言えるあの殺気を、今まさに感じていた。

……自身から殺気が洩れでていることに気が付かなかったようだ。



   ★ ★ ★



結局、俺と霞、恋ちゃんで決行することになった。

他にいても、正直邪魔だしな。


「まぁ、そろそろ行こうか」


「アンタが仕切るなや!」


「……ん」


「恋ちんも、返事してどうすんねん!」


俺と恋ちゃんにすかさずツッコミを入れる霞。

流石、関西弁だけのことはあるなぁ。

てか、(いつもの如く)自分で言っといてあれだけど、関西弁ってなんだっけ?

……とりあえず、霞がそれなのを気にしたら負けな気がする。


「こっからは隠密だ。静かに」


「ぐぬっ……」


突っ込ませたのアンタやろ!

と、顔にありありとでてるので、簡単に見てとれる。

……おかしいな。

霞が何故か翠姉と同じような立ち位置になってんだけど。


「……誰か来る」


恋ちゃんが言う。


「警備の兵かな。……うるさかったんだろ、多分」


視認は出来なかったが、そんなとこだろうと判断する。

つか、――実際にはまだなってはいないが、ほぼ確実視されてる――皇帝の劉協とその兄劉弁、警備兵と宦官以外がいてもいなくても困るけど。


「陽……覚えとき。絶対ヤキ入れたる」


「すまん。忘れた」


「忘れた、と反応した時点で、覚えとるっちゅーことなんやで」


不覚にも流せなかった。

……ちっ、やはり翠姉とは格が違ったか。


「むっ! そこに誰かいるのか!」


気付かれちゃったじゃん、どーすんのだよ、って顔したら霞に殴られた。

痛ぇじゃねぇか。


「出てこい! さもなくば、此方から行くぞ!」


いや、そんな宣言しなくても。


「いくぞ! 本気で行くぞ!」


霞さんがプルプルしてます。

必死で何かを我慢しているようだ。


「いま、行くぞ!」


はよ来いや!

と、ツッコミたいらしい。

ま、わからんでもない。

流石に溜めすぎだろ。


「さぁ、来たぞ! むっ! 誰だ貴s――「ファァルコォン、パァンチ!」――ぐぇっ!」


俺による腹部への強打。

食らった兵は倒れた。

……技名は気にしないでねっ!


「何事……むっ、なんだ貴様ら! 者共、出合えい!」


どうやら、他の兵に見られたようだ。

だんだん兵が集まってくる。


「見つかってしまったか……隠密行動だったはずなんだけどな。全く、誰のせいだよ」


「……陽のせい」


「満場一致でアンタやボケェ!」


そう言って、霞は自身の武器―飛龍偃月刀―の石突きで俺を殴ってきた。

めちゃんこ痛ぇよ……。


つーか、満場一致も糞も、二人しかいねーじゃん。


「もうえぇわ。ウチは先いくで」


「……恋も、行く」


「了解。……張譲は殺すなよ。俺が殺る」


「ヤるて……アンタ、そんな趣味――「ねーよ!」――冗談や♪ ほな、なっ!」


……やられた。

まさか意趣返ししてくるとは。

けど、こう話してる間にも斬ってるからすげぇ。

恋ちゃんは斬るっつーより、吹っ飛ばしてる。

……あんなに人って飛ぶもんかね?

ま、俺もそろそろいくかー。


渾身のファルコンパンチで倒した兵の剣を奪い、そいつの喉をぶった斬る。

わざわざ自分の剣でクズを斬って、切れ味を落としたくはないからな。

音がしなくなったのでふと前を見れば、あらまびっくり、全部終わってる。

いや、速ぇよ。

まぁ、宮内に楽々入場出来たのは良いんだけど。

しかし、困ったな……俺のやることないかもなぁ。



   ★ ★ ★



「蹇碵君……みぃつけたぁ」


「ひぃいぃぃい! あ、あわ……。おっ、お助け――ガッ」


「うるせぇ、この魔羅なし♪」


左手で首を締め上げる。

デブかったんで、持ち上げることは出来なかったけど。


「お前は、金城太守に賄賂を送り続けていたな?」


「……い、いづ……ぐぇ」


締める力を強める。


「十四年前だ。……そして事が終わると、そいつを解任して、払った賄賂を取り戻した」


「……ひゅー、はぁ……な、にを」


酷く動揺している。

まぁ、当たり前の反応だが。

全て、裏で行われてきたことだからな。


「馬孝雄に知らぬことなど、何もない」


「――――ッ!!」


俺がいることに驚いているのか、知られていたことに驚いたのかは分からないが、驚愕の色をみせる。

ま、今から死ぬやつの気など、知ったことじゃないが。

首をから手を放すと同時に、兵から奪った剣で叩っ斬る。

……血糊が多少跳んできたが、気にしないでいこう。


「さて、次だ、次」



   ★ ★ ★



宮内の廊下をゆるりと歩く。

辺りで断末魔の声が聞こえる。

霞も恋ちゃんもひでぇことすんなぁ、おい。


「死ねぇ!」


真正面からバカが斬りかかる。

半身になって避ける。

本気でバカらしく、振り下ろす力をいれすぎていた。

切り返して、横に薙ぐことが出来るぐらいの力は残しとくべきだよねぇ。

ホント、官軍の練度(笑)。


右手に持った剣で下から斬り上げ、斬りかかってきた兵士1の首をはねる。

血が噴き上げているが、気にしない。



「「はぁっ!/でやっ!」」


今度は、左右から同時に斬りかかってくる。

どちらかが一拍子遅らせたほうが有効的なのにねぇ。

ま、右からは兵士2の横薙ぎ、左からは兵士3の振りおろし、ってのは及第点を与えよう。

けど、狙いが高いよ。


右から来たものを〜、左へ受け流すぅ〜。

……と、そんな軽いノリじゃなく、多少の軌道修正を加えて、兵士2の剣を兵士3の剣にあてる。

がら空きになった兵士2の土手っ腹に蹴りをいれ、そのまま兵士3に回し蹴りをする。

どちらも綺麗に入ったようで、気絶した。

とどめとして、首を斬る。


……今回に限り、全て殺す。

普段の戦とかはギリギリ生かすぐらいに斬る。

手当てへと人員を割かせることも出来るし、なにより痛さにのたうちまわる姿に恐怖を増幅させるこうかもあるからね。

でも、今回は殲滅戦。

完全な降伏、服従を約束するまでは、誰一人として逃がす訳にはいかんのさ。



はい、そこ。

こんな狭い通路で槍なんて――達人を除いて――愚の骨頂だ。

突進してきた兵士4を、右足を退いてひらりと身躱す。

その勢いで一回転して、遠心力のついた剣で首ちょんぱだ。



   ★ ★ ★



ひたすら宮内を練り歩く。

はぁー、今ので三十は斬ったかねぇ。

全く、ホント雑魚ばっか。

こんなんで近衛とか、どんだけだよ。


「お、ここだな」


通りで突然兵士が増えた訳だ。

流石にここまで騒がしかったらわかるよねぇ。


「趙忠さ~ん! でておいで~!」


そう言いながら、扉を押し開く。

部屋に一歩入ると、兵士31が斬りかかってきた。

不意討ちだろうが、今までと同じく雑魚。

造作もない。

剣を上に翳し受け止めて、前蹴りで兵士31を押し退ける。

そのまま思いきり蹴り倒して、心を貫く。


結局部屋には、死んだ兵士31以外誰もいなかった。

……囮に使われるとは、災難だったねぇ。


「――グギャッ――!!」


そんな気持ち悪い声が部屋の外から聞こえてきた。


行ってみれば、恋ちゃんと、恋ちゃんの武器―方天画戟―を突きつけられている半死の趙忠がいた。


「あ、恋ちゃん。おっす」


「……おす」


このやりとりは、俺が教えましたが、何か?


「ところで恋ちゃん。兵士じゃない奴、何人殺した?」


「……三人。こいつで四人目」


「――ヒィッ!!」


はぇえな、おい。


「恋ちゃん……そいつ、くれ」


「……ん。わかった」


方天画戟を趙忠からどける。


「あんがとよ。……さて、一応お久しぶりでございますなぁ、趙忠殿」


一応、あん時の玉座にいたからね。

そんな描写なかった、って?

作者に言いなさい。


「実行させたのはあなたでしたよね。……蹇碵殿の根回しによって磐石になったときに。十三年と半年ごろ前のことでしたな」


「なっ、なにを――ガアッ!」


左足で、斬られていた肩を踏みつける。

まだ、殺してあげないよ。


「殺した者を含む賊共は、一人残らず殺した、とある日記にありました。……実際には、関与した者はまだまだいたんですよね? ――それを、あなたが消した」


「だから、なん――ぐぁっ!」


剣で右足を刺す。

やべー、問い詰めんのなんかめんどくさくなってきた。


「あとは、張譲殿で憂さを晴らします。……さよなら、霊帝、劉宏の母とまでいわしめた魔羅なしさん」


剣で頭を貫く。

ああ、……まだ足りない。


「よし、恋ちゃん。玉座いこか」


「……(コク)」


頷く恋ちゃん。

多分そこにいる、と勘でわかっているだろう。



   ★ ★ ★



「そっちの首尾は?」


「上々や。……四人斬ったで」


「ふむ。……俺は二人、恋ちゃんは三人だから、あとは張譲のみだな」


「ま、とっくに場所も特定出来とるけどな」


玉座の扉の前での霞との会話。

律儀にも待っていてくれていたようだ。


やっぱ、流石の玉座前は重苦しいな。

……よし。


「Are You Ready Guys ?」


「…………は?」


「……イェイ」


ちょっとしたノリなんだぜ!

霞はついてこれなかったらしいが、恋ちゃんは右腕を挙げてのってくれた。


「It's Show Time !」


「なんや、訳分からん」


「……あんまり深く考えないのが、コツ」


「…………さよか」


恋ちゃんの言葉に、遠い目をする霞であった。


「何故に語り部口調なんや!」


……できれば心は読まないで欲しいんだけどな。


重苦しかった雰囲気も、――完全に場違いではあるが――少し和やかになったところで、こちらを威圧するかの如くそびえる扉を押し開く。

待っていたのは、やはりと言うべきか。

皇帝の椅子に劉協、その横に張譲、そのまた横に二人の兵士に刃を突きつけられた劉弁、そして俺たちの行く道を阻まんとする雑魚兵士が百人ほどいた。


「動くな、逆賊共! 動けば、こやつの命は無いぞ!」


張譲が声を張って言う。

馬鹿丸出しだな(笑)


「…………」


俺は黙って歩を進める。


「ちょ、ちょっと待ちぃや、陽! 少帝を死なすつもりかい!」


肩をグイッ、と引き寄せられ、霞にひそひそと怒鳴られる。

……どんな妙技だよ。


「死なない、いや殺せないさ……少なくとも、ここにいる俺以外の人間には、な」


漢という国全体が、皇帝を敬うという風習が根強くある。

尊ぶべき劉姓を手に掛けるなど言語道断。

その気が皆無な俺以外には、無理な話な訳だ。

馬鹿馬鹿しい。


「大体さ、今の状況だと完全にあっちが逆賊じゃん?」


皇帝の血筋である劉姓の人間に刃を向けさせてる時点でね。


「まぁ、せやなぁ」


「じゃ、俺は行くねー」


納得していただけたようで。

また、前に進み始める。


「なっ! 貴様、見殺しにする気か」


「ははっ! ……殺そうとしてるアンタが言えることじゃないと思うけど?」


馬鹿丸出しに、張譲は声を張り上げる。

やべ、笑いが止まんねぇ。


「くっ! 囲んで殺してしまえ!」


俺と霞、恋ちゃんを囲う兵達。

……ホンマ、アホやろ。

やべ、霞が感染った。


「……とんだとばっちりや」


項垂れる霞。

フ……計画通り!


「霞……頑張る」


霞に向けて、左手を軽く握ってみせる恋ちゃん。

いわゆる、ガッツポーズ(だっけ?)ってやつ。


「うん、頑張る。……やっぱ、恋ちんはえぇ娘やなぁ〜」


霞はしみじみとした声色で答えた。

確かに同意しよう。

だが、蒲公英には勝てぬわ!


「二人にとっては、頑張るほどの兵数じゃないだろうに」


「うっさいわ、ボケ! 誰のせいで精神的にきとると思っとるんや!」


「……さぁ」


何故俺にキレるのか。

┐('〜`;)┌ ←因みに俺。


「……待っとれよ……必ずウチが殺したる」


そこは、緑川ヴォイs――はっ!殺気!


……もうやめとこ。


「え〜っと、50、50、0で頼むな」


因みに恋ちゃん、霞、俺の順だよ。


「……もうえぇわ。そんくらい請け負ったる。はよ行き」


「……陽も、頑張る」


「悪いね。あと、ちょっとした注文なんだが――」



   ★ ★ ★



包囲を突破した俺は、張譲へと向かう。

憎き仇へと。


劉弁に刃を向けていた二人の雑魚兵士(32、33)が、張譲に命令されたか、斬りかかってくる。

連携がまるでなってなく、ほぼ縦に並んでこっちにくる。

全く、翠姉と瑪瑙の連携を見習わせたいものだ。

……依然として――喧嘩ではないだけは成長したが――じゃれあいが多々起こるのはいただけないけど。


とりあえず、右足の上段蹴りで、左顎を打ち抜く。

上手く入ったようで、その場に崩れ落ちる兵士32。

それを避けようと、兵士33は32の右に出る。

俺は、未だ上がっていた右足を崩れる兵士32の半歩手前におろし、それを軸足に、出てきた兵士33の顔面を左足で蹴り飛ばす――実際には飛ばないが。

これも上手く入ったようで、気絶した。


「くっ!」


予想外なことに取り乱したか、張譲はより近くにいた劉協に短剣を突きつける。


「こっ、こいつがどうなってもいいのか!」


その手は俄に震えている。

覚悟のない馬鹿が、刃物なんか持つな。


「別に。俺になんら関係ないしね」


「「「――っ!」」」


三人とも、顔を驚愕の色に染める。

ま、当然だろうねぇ。


その隙に、一気に距離をつめ、張譲の腕を掴む。


「大体、アンタにはどちらも――特に劉協は――殺せないだろう?」


張譲の、大切な大切なお人形さんだもんねぇ。

張譲の、短剣を持つ右腕を握り締める。


「……あ、ぐっ……」


耐えきれなかったか、張譲は短剣を落とす。

それぐらいの握力は、俺にありますよー。

そして、そのままソバットで張譲の腹を蹴る。

張譲はその場に崩れた。


「……悪いね。ああ言わないと、隙を作れなかったから、さ」


本心ではあるんだけどさ。


劉協の頭を撫でる。

最初は恐がっていたが、徐々に年相応の笑顔を見せてくれた。

こんな小さな子まで巻き込むとは、……ホント腐ってんな。

次は、劉弁だな。


「……恐かったろ。泣いていいんだぞ。生憎と、ここには弟を合わせて、四人しかいないからな」


床に座り込んだ劉弁を立たせ、埃を払いながら問いかける。

四人とは、俺と霞、恋ちゃんそして劉協。

後は張譲を含め、玉座の間にいた全員寝ている。

……ま、注文とは、子供の前だから殺さないで、というものだったって訳さ。


「…………ぇぐっ、ぐすっ……ふぇぇえん――!!」


どうやら、限界だったみたいだな。

優しく抱いてやる。

本当に家族になったあの日、母さんが抱いてくれたように。


「……うわぁぁぁん! おにぃぢゃん! 恐がっだよぉ――!!」


劉協も本当は限界だったようで、つられて泣き始め、兄の劉弁へ駆け寄ってきた。


「……俺のここ、空いてるぞ」


劉弁にも弟を受け入れる余裕は、今はない。

だったら、俺がやってやる。

左半身ぐらい、貸してやるさ。

……ま、右半身は、今は劉弁に貸してるからって話だけど。


「「――ふぇぇぇえん!」」


「よしよし」


二人の頭を撫でる。

皇帝だろうがなんだろうが、やっぱ子供は可愛いねぇ。


「…………変態や」


「……待てぇぇぇい!! それは聞き捨てならんぞ!!」


小声でシャウト。

あれ、俺も妙技、できちった。

つか、シャウトってなんさ?


「陽……変態?」


「だから待てと言うに!」


ったく、いい話で終わらせてくれたっていいじゃないか!



   ★ ★ ★



Side 三人称


「おはようございますなぁ、張譲殿。……良い夢は見られましたかな?」


これでもかというぐらい作った笑顔で、陽は壁に磔に――無論、陽によって――されている張譲に問う。


「…………貴様は何がしたい」


「なんだと思います?」


張譲は陽を睨む。

対する陽は、あくまでにこやかに問う。


「……さぁな。わからぬから聞いている」


陽を挑発するかのように、張譲は毅然とした態度をとり続ける。


「では……一つ、十三〜四年前。二つ、西涼。三つ、汚職。四つ、英雄。五つ、暗殺。……もうお分かりです?」


「……わからぬな」


親指から、一本ずつ指を立てて、ヒントを出す陽。

対する張譲は、流石十常侍筆頭と言うべきか。

ものともしていないようだ。


「ま、答えようが答えまいが構いはしませんよ。……どう転んでも、アンタは死ぬ」


そう言って用意したのは、ただの八本の剣だった。


「一本目。これは彼の友の分」


そう言って、右腕に刺す。

張譲の呻く声を無視する。


彼は西涼にて、陽と同じく――というより、陽が真似をしたのだが――多くの情報を集めんとした。


「二本目。彼を慕った民の分」


そう言って、左腕に刺す。

張譲の呻く声を無視する。


その際、汚職を見つけては表立って摘発していた。


「三本目。蒲公英の分」


そう言って、左足に刺す。

張譲の呻く声を無視する。


潼関の戦い以降、宦官たちは英雄となった彼の、その行為を疎ましく思った。


「四本目。瑪瑙の分」


そう言って、右足に刺す。

張譲の呻く声を無視する。


張譲を筆頭に、宦官たちは策を考じた……彼の暗殺計画を。


「五本目。翠姉の分」


そう言って、右脇に刺す。

張譲は辛うじての息づかいになるが、陽は気にとめない。


張譲から趙忠、趙忠から蹇碵へと指示がくだる……金城太守に賄賂を送れ、と。


「六本目。山百合さんの分」


そう言って、左脇に刺す。

張譲は辛うじての息づかいになるが、陽は気にとめない。


受け取ったその頃の金城太守は、汚職、すなわち人身売買の契約をした……買われたのは六歳をまだ数えたばかりの瑪瑙だった。


「七本目。薊さんの分」


そう言って、身体の中心を貫く。

張譲は息絶えたが、陽は気にとめない。


それを知った彼は、軍を動かして取引前に賊を襲い、瑪瑙を救いだすという作戦に出た……罠とは知らずに。


「八本目。母さんの分」


そう言って、思いの丈をぶつけるように頭を貫く。

張譲は息絶えていたが、陽は気にとめない。


彼の調べた情報より賊の練度は高く、数が多かった為、別動隊として彼自身で瑪瑙の救出という二面作戦を行う。

救出には成功したものの、待ち伏せに遭い、彼の伝令にいった部下以外は全て殺され。

残ったのは、死して尚、守るように彼に抱かれていた瑪瑙だけだった。

それは、今から遡ること十四〜三年前の出来事。



   ★ ★ ★



「終わったよ。後始末は全部俺らが請け負うわ」


眠ってしまった弁、協兄弟と、玉座の間で殺さなかった百と二人と共に宮城から出ていた霞と恋に、にこやかに笑いかける。

血濡れているにも関わらず、実に清々しい笑みだ。


私怨とは聞いていたが、ここまでだとは流石に思ってはいなかった霞。

……少しだけ、恐怖を覚えても悪くはないだろう。


「夜明けまでは入らないでね」


ばいびー、と手をひらひらさせて陽は西へと帰る。

その様子を見送る二人には、血に濡れたように赤い夕陽が見えていた。





陽は語る。


「あん時は、武力制圧になるとわかってたから、ちんきゅは連れて来なかったらしいよ。作者が忘れた訳じゃないよ(ガチ」



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