第二十三話
またいきなり飛んだ。
キングクリムゾンというやつですね、はい。
それでも相変わらず日常編。
Side 陽
パァン、と部屋に響く。
一瞬、なにをされたのか分からなかった。
瞳に涙を目一杯溜めた蒲公英を見るまでは、ただじんじんと頬が痛むだけだった。
「お兄様なんて、大ッ嫌い!」
「ちょっ、あ……」
延ばした右手が空を切る。
逃げられてしまった。
「なんで、……」
なんで怒っているのか、理由が全くわからん。
前話の未登場が祟ったのか?
左手で叩かれた左頬を触れば、腫れ上がり、熱を帯びていた。
真っ赤になってるだろうことは容易に想像できよう。
あーあ、親父にもぶたれたことなかったのになぁ。
……親父、ね。
まぁ、いいや。
さ、仕事仕事!
★ ★ ★
「そんなに、母さんに嫉妬心を掻き立てさせたいのかしら?」
「……なんでだよっ」
開口一番がそれって、どうかと思うね。
「どれだけ頬に紅葉を作ってもらえれば気がすむのよ」
いや、そんなこと言われても、ねぇ。
こっちが聞きてぇよ。
皆がひっ叩いてくるんだもの。
一番理不尽だったのは、翠姉がおもらししたって――別に聞きたかった訳じゃないのに――蒲公英に教えられ、俺が叩かれる、というものだった。
……翠姉が武器を持ち出して来なかっただけでもありがたいと言える、のか?
「とりあえず、経緯を話してもらおうかしら」
「なんで話さなきゃいけない流れになってんだよ」
いやまぁ、別にいいんだけど。
☆ ☆ ☆
最近(と言っても一月前だが)、黄巾の乱が終息を迎えた。
それによっていろいろと忙しくなり、机に突っ伏して寝ることも多かった。
が、昨日はたまたま量が少なかったので、久方ぶりの寝台にありつけた。
そして明くる朝、すなわち今日の朝、起きてみれば、蒲公英が隣に潜り込んでいた。
……言っとくが、こんなことはよくある話だからな?
蒲公英の寝顔を堪能しつつも、起こさないように寝台を出て、その傍で瞑想をする。
無心って大切だろ。
そんで、蒲公英が目を覚ました時、蒲公英が乞えば、横抱きで抱き上げて起こしてやる。
この一連の動作はいつも通り――色々と語弊があるが割愛する――で、なんら問題はなかったはず。
……まぁ、横抱き(いわゆるお姫様抱っこ?)したとき、少し重いと感じたんだけどね。
だから、
「太った?」
と聞いたのだけど、その直後に叩かれたんだよ。
☆ ☆ ☆
考え直してみたが。
……結局、なんで叩かれたのか、全くわからん。
「はぁ……。陽、アナタねぇ、女の子のことを少しは考えなさいよ」
右手で頭を押さえる母さん。
「なにを?」
ダメだコイツ、なんとかしないと、みたい目をしないで!
あぁっ、ビクンビクン!
……なんてね、冗談だ。
「…………」
「すいませんでした」
「ん、素直でよろしい」
俺でも分かる。
今のはだめだ。
「……ま、他の子にも聞いてみなさい、それ」
「わかった。……母さん、太っ――たぁ!」
書簡投げられた。
いってぇ……。
「誰が私に聞けと言った?」
あん?って感じで睨む母さん。
「すいませんでした」
……マジ恐ぇえ。
★ ★ ★
「薊さん、太――ってぇ!」
パカッ、と書簡で殴られる。
結構おもっ切りだから、めちゃ痛い。
「久方ぶりに登場したかと思えば、それか? どうなんじゃ、んん?」
「日記の筆者として登場しt――ったいての!」
また殴られた。
てか、メタ発言はいいのか、作者。
……メタ発言、って何だ?
「それは儂であって、儂でないわ!」
「まぁそこは、ねぇ?」
「何故に疑問形なんじゃ……」
ジト目の薊さん。
俺が預かり知ることじゃねぇしな。
それに、……言えない。
ババァに焦点(昇天?)当てるつもりはないなんて。
ネタが思い付かないなんて(これもメタ発言(?)じゃないか?)
言えないよ……。
「……フッ」
とても柔らかな笑みを浮かべる薊さん。
……墓穴ったな、こら。
「一回、逝ってこんかい!」
無駄のない動きをもってして、書簡による脳天への打撃。
無駄に無駄がないぜ!
スコォーーン!!
と、良い音が頭の中で響く。
……痛いなんてもんじゃない。
だって、角だもの。
「っ〜〜〜〜!」
「反省したなら、儂中心の話を一話書けと言っておくのじゃぞ!」
イエス、マム!
了解であります!
次元を越える頼みであろうと、叶えて見せましょう!
アカン、頭おかしくなってる!
……つか、あんたも読心術使えんのかい。
★ ★ ★
「あ、山百合さん、最近太――っぶねぇ……」
短剣の投擲は駄目だと思うよ。
生死に関わります。
「……何か言いました?」
いつも通りに(?)笑む、山百合さん。
……でも、なんか恐いな。
「だから、太――ぬおっ!」
右足退いてなかったら、床に縫い付けられてたよ?
「……何か、仰いました?」
にこやかに笑む、山百合さん。
……いやー、冷や汗が止まらないなー。
「なな、なんでもないデスヨ。ただ、いつも通り、可愛いなぁ、と」
「……そう、ですか」
山百合さんは、後ろを向いて、一目散に走り去ってしまった。
……耳が赤かったのは気のせいだろうか。
てか、いつも殆どが無表情なんだから、笑んでた時点でおかしかったのだ、と今気付いた。
★ ★ ★
「瑪瑙さん瑪瑙さん、最近太っ――なな、なんだよ?」
襟を掴まれる。
ちょっ、吊るされる勢いなんですがっ!
「何処が!?」
「……はぁ?」
「だから、具体的に何処がって、聞いてるのよ!」
今までの皆さんの反応と全く違うんですけど。
なんか必死なんですけど。
てゆーか、具体制を求められても、ねぇ。
元々思ってもいないことだし。
「あー、……胸周り、って言って欲しいの?」
瑪瑙のそこは絶壁です、はい。
その為、まな板取って、と言ったとき、殺されかけたのは記憶に新しい。
……別に、薄かろうがたわわだろうが関係ない、と俺は思うけどな。
「……こんの、バカー!」
グボハァッ!
ナ、ナイスストレート。
「フンッ! ……ばか」
憤然として瑪瑙は去ってしまった。
俺、放置っすか。
そういう趣向ですか。
などと考えていたので、瑪瑙が最後に呟いた言葉は聞き取れなかった。
★ ★ ★
「翠姉さ、最近、ふt――あべしっ!」
翠姉の槍―銀閃―の柄で小突かれる。
……いつも思うけど、どっから出すのよ、その槍。
つーかさぁ。
「まだ最後まで言ってないってのに、どういうことさ!」
布団が吹っ飛んだ、と言うかもしんないじゃない。
「そりゃあ、お前が会う人会う人に聞いてるもんだから、自然と耳に入ってくるって」
呆れ顔で言われた。
……そらそーだわな。
「ああ、そうだ。……蒲公英に謝っといた方がいいぞー。相当気にしてたみたいだからな」
「…………」
目を大きく見開いてみせる。
「なっ、なんだよ、その意外そうな顔は!」
「いやね、まさか翠姉に諭される日が来るなんて、ってね」
割と本気ですけどなにか?
「おい。いくらなんでも失礼過ぎやしないか?」
「まあまあ、そんなかっかすんなって」
ぽんぽん、と翠姉の頭を撫でる。
イラッ、ときたらしく、手を払われた。
「怒らせたのお前だろ!」
「冗談だって。いつものようにからかっただけだって」
「なお悪いわ!」
「さっきから叫んでばっかり。……喉、潰れるよ?」
「はぁ……もういい。とにかく、謝っとけよな」
「了解ですき、翠ねぇやん♪」
「はいはい」
軽く流された。
面倒になったんですね、わかります。
……いやあ、やっぱ翠姉をからかうの面白いなぁ。
そのあと、茜と藍のとこに行って同じ質問をしたら、別にそんなことない、って普通に言われた。
むしろ、痩せた?って聞かれる始末。
……なるほどねぇ、と思った。
俺が衰えたって訳だ。
別に蒲公英が太った訳じゃなく、純粋に俺の持ち上げる力が衰えたせいで、重く感じたと。
それを、俺が勘違いしたから怒ったと。
そういうことね。
★ ★ ★
結局。
土下座したけど、簡単には許してはくれなかった。
蒲公英は1日中俺に口を利いてくれることはなかった。
……ただ。
俺にとって、こんなにもつまらない日は、
金城に来てから。
茜と藍が家族に加わってから。
初めての戦を経験してから。
更なる家族二人に会ってから。
馬家に迎え入れられてから。
そして蒲公英に出会ってから。
一度としてなかった。
そう、一度として。
★ ★ ★
Side 三人称
一方、天の御遣いというと……。
趙雲を新たなる臣下、いや仲間に加え、封ぜられた平原に於いて、劉備と共に政務に忙殺されていた。
だが、今は束の間の休憩時間。
机に身を預け、たれぱんだのごとく、ぐー垂れていた。
「「失礼しましゅ! (はう/あう)」」
いつもの如くかむ諸葛亮と鳳統に苦笑しつつも、その二人の持っているものに注視する天の御遣いこと一刀。
「あれ、疲れからかな? ……おかしなものが見えるな」
この時代に有り得る可能性が、限りなく低いものがそこにあった。
「ご主人様、桃香様、休憩時間にこれをどうぞ」
「西方で有名な、けぇき、なるものでしゅ! ふわふわしてて、とても――「はわわっ! 雛里ちゃん!」――あわわ! ……申し訳ありません」
「あまりにも美味しそうだったので、雛里ちゃんと先に食べてしまいましゅた」
二人とも必死に頭を下げる。
「構わないよ」
「仕方ないよ〜。すっごく美味しそうだもんねぇ〜」
そんな二人を笑って許す、一刀と劉備。
流石である。
(いや、おかしくね?
流石に三國志の時代にケーキとかないだろ。
まぁ、元々、結構おかしいからなぁ。
……喫茶店とかあるし。
その流れで認めてもいいもんかねぇ)
その中で、一刀は色々と考えを廻らしていた。
「うん、うまい」
なら、いっかなー。
と、かなり楽観的に判断する一刀。
……本来ならば、もっと警戒するべきだった。
何故なら、西方だから。
だが、一刀と両軍師とでは、西方、の解釈がまるで違っていた。
一刀は大秦と。
両軍師は西涼と。
陽は語る。
「なんであんなにもつまらなかったのか……今なら手に取る様にわかる。もう、あの頃の時点で蒲公英が好きだったんだ」
と
西涼というか涼州に、殆ど黄巾関係なかった(気がする)から、書きようがなかったり。
他の人視点で書いてもいいんですが、もっと進みが遅くなりそうなので。