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第二十一話


戦闘描写、難しい。


そして御都合主義ありです。




「そろそろ、か」


いつもの様に眉をひそめ、目を瞑り、馬上にも関わらず、手綱に手を掛けずに腕を組みながら、陽は呟く。

いつもの様に、と言っても、何時でも何処でも、というわけではない。

そのしかめっ面は、戦の前のときだけだ。

では、何故か。

それは陽の戦嫌いに起因する。

陽は基本的に、戦うことを好まないタイプである。

だが、乱世は幕開けることなど容易に想像できた――実際になった――為、そうも言っていられない。


それならば、と。

それならば、極力少ない戦いで終わらせればいい。

そう考えた陽は、それを実行するための手段の一つとして、

"相手が相対することを拒みたくなる存在になる"

ということを、目標として置いた。


それを成すには、まず相手に、自分という存在に対しての畏怖、畏敬などといった、なんらかの感情を刷り込ませる必要がある。

敵対する者には多大なる恐怖を、味方する者にも敵対することを拒ませるほどの恐怖を、それぞれに印象付けさせる必要がある。

楯突いた者はどうなり、どうされ、どうなったのか、ということを、偏見や誇張の混じった噂を耳にしてイメージさせる必要がある。

過程は違えど、結局は相手に、"馬白"という者の人物像を作らせる、ということにある。

その人物像が大きければ大きいほど、恐ろしければ恐ろしいほど、真価を発揮する。

進んで敵対しようとは思わなくなる。

これこそが、陽の目指すモノである。


今現在、牡丹、薊及び一万の兵を除く、全軍で出撃している。

五胡からの侵攻を防ぐ為だ。

しかし、陽の場合はそれだけに留まらない。

戦とは、相手に恐怖を覚えさせる絶好の機会なのだから。



   ★ ★ ★



「ぜりゃっ!!」


「っ!? あっぶな〜い」


力任せに振るわれた斧を、馬を退かせることにより避ける。


「ふははは! どうしたどうした! 仕掛けてきておいて、そんなものか!」


「こっちがどうしたの、って聞きたいよ。こんな小娘一人簡単に殺せるわ、って声高らかにいってたくせに(笑)」


手を口元に持っていき、笑うのを抑えるようなふりをする。

明らかな挑発だ。

……一騎打ちの最中だが、なかなかの余裕ぶりである。


「……本当に貴様は死にたいらしいな」


相対するものは、顔を真っ赤にして、怒りを露にする。


「そんなに睨んでも、お兄様に比べたら怖くないもんね〜だ!」


べ〜、と舌をすこしだして、さらに馬鹿にする。

……この者、挑発の才があるかもしれない。


「馬岱隊、反転! 後退するよ!」


『おう!』


「何っ! 逃げる気かっ!」


馬岱、すなわち蒲公英の号令の下、撤退する兵たち。

元から正面きってやるつもりはなかったようだ。


「これでもくらえっ! ハハハッ!」


器用に尻を上げ、自分の手で叩いた――いわゆるお尻ペンペンした――あと、すぐさま馬を駆る。

……キャラが変わった気がしないでもないが、気にしてはいけない。


「――――っ!!! 全軍、全速前進! あの小娘をぶち殺す!!」


散々に罵倒された挙げ句、討ち逃がしては堪ったものではない。

激情に委せた突撃命令をする羌の将。

それが、冷静を欠いたその行動が、どれ程愚かなことであるのか。

経験の少ない大将である彼と彼の部隊、すなわち、馬白という存在をほとんど耳にしていない者たちは知らなかった。

……ただ、副大将とその直属の兵たちは冷静に、それでいて測っているかのように見ていた。



   ★ ★ ★



「ちぃ! 探せ! 探し出せ!」


簡単に言えば、五胡の兵たちは、立ち込める霧により、蒲公英らを見失っていた。

それもそのはず。

数歩先しか進んでいないにも関わらず、そこにいる、ということに確証が持てないほどの濃霧のかかる林の中だ。

流石にどうしようもなかった。

簡単には見つからず、逃げるのだけはうまいらしい、と悪態をついてしまうほど、大将はイライラしていた。


「む、あれは……。 ふん、馬鹿な小娘よ」


大将の視線の先には、小さな篝火によって出来たであろう、ぼんやりとした光があった。

その光を見て、大将は蒲公英の低脳さを哀れむと同時に、先ほど受けた辱しめによる怒りが沸々と再び舞い上がっていた。


「速度を上げろ! 全軍、突撃ぃぃぃい!」


『おーー!!!!』


大声を上げ、自ら先頭切って走る大将。

向かうは、その小さな篝火。

徐々に近付いていったと思った途端、霧が晴れる。

単に林を抜けただけだが、大将はそれを一瞬で把握することは出来なかった。

その隙が仇となり、気付けば矢の雨が降り注いでいた。


断末魔の声が辺りに吸い込まれていく。


「ちぃ!」


盛大に舌打ちをする大将。

自身は駆け抜けることでなんとか切り抜けることが出来たが、後ろはそうはいかなかった。

後ろを確認すれば、三割近く死んでいた。


(一体、誰がやりやがった!)


そう心で叫びながら、顔を上げて辺りを見回す。

すると、みるみるうちに大将の顔が、驚愕の色に変わった。


「なっ、なにぃ!」


そこには、大将を含めた羌兵がいる場を中心にして放射状に延びる道が、西に向かう一本を除き、西涼兵で埋めつくされた様があった。

……羌兵が通ってきた北に向かう道さえも、だった。


羌兵から見て、正面後方に漆黒白字の馬旗。

そのすこし手前に緑色に黄金で錦の文字の旗。

右斜め前に白色赤字の鳳旗。

左に褐色白字で艶の文字の旗。

そして後ろに橙色黒字の馬旗。真右にはなにも無く、道が拓けているという構図。

ほぼ完全に囲まれており、まさに八方塞がりである。


「ちぃ! 罠かっ!」


嵌められたことに、さらに怒る大将。

そこに、錦旗を掲げたの部隊が近づく。


「そこのお前! あたしと勝負しろ!」


馬超こと翠が突出する。

一騎討ちをしようというのである。


「いいだろう! しかし、貴様に相手が勤まるかなぁ!?」


それを受けることにする大将。


馬を走らせ、すれ違いざまに斧を思いの丈の力で薙ぐ。

翠も同様に、己の槍―銀閃―で頭を狙い薙いだ。

翠は、服の脇下部分を少し裂かれてしまう。

が、銀閃の切っ先には血が付着していた。


「ちぃ!」


本日何十度目にもなる舌打ちをする大将。

少しだけ裂かれた頬から血が滴っていた。

それを力任せに拭い、馬を反転させ、再度突撃する。

翠も、ほぼ同じタイミングで第二撃を仕掛けた。


今度は、威力を落とし、確実性のある薙ぎ。

それを見切った翠は、槍の中央付近でその斬撃受け止める。

そのまま斧を跳ね上げ、それにより生じた隙――大きくあいた脇――を目掛け、切り上げる。


「……っ!!」


大将は咄嗟に手綱を引き、馬を退かせることでなんとか回避し、薄皮一枚にとどめた。


「こんなもんか。……期待外れだぜ」


翠によるあからさまな挑発。

だが――


「黙れぇ―――――!!!!」


――幾度となく愚弄されてきた大将にとっては、我慢の限界だった。


「ガアァァァ――――!!」


大将は自らの斧を無茶苦茶に振り回す。

それを受けることはせず、巧みな槍術でもって流し、巧みな馬術でもって避ける翠。



流石は錦馬超と言うべきか。

すでに三十合ほど撃ち合っているが、息一つ乱れない。

対する大将は肩で息をし、疲弊しきった様子だ。

それを見て、そろそろ終わりか、と翠は判断する。

半ばつまらないな、と思いながら。


「錦馬超、参る!」


最後になるであろう撃ち合いの前に、名乗りを上げて自らを鼓舞する。


「アァァァア゛ァァァ―――!!」


そんな翠を嘲笑うかのように、最大の力を込めて、大将は斧を振るう。

人の身体など、簡単に分断できるほどの威力だ。


「……くっ、ぅ」


しかし、翠は顔をしかめながらも、難なく受け止めた。


その行為は、相手に動揺と驚愕と隙を与えるに十分すぎた。


「おらぁ――――!!!」


横薙一閃。

翠は相手の首を跳ねた。


「敵将、錦馬超が討ち取った!」


西涼軍より歓声が上がる。



一方で、五胡では動揺が広がっていた。


「……ふ、やはりな。 ここは、俺の部隊が殿を勤める! 貴様らは逃げるが良い」


『はっ!』


副大将の指示に従い、撤退する大将直轄の兵たち。

一つしかない――誰も陣取った形跡のない西――逃げ道へと。

自らの上司を討たれ、動揺していた彼らは知らなかった、気付かなかった。

その道が誘いであることを。

……副大将にとって、その兵たちは邪魔でしかなかったのだ。


   ★ ★ ★



西から時折聞こえる悲鳴と呻き声が鳴り止まない中、その会談は行われた。


「会談とは、随分な言い草だ。立場をわかっているのか?」


「えぇ、弁えているつもりですが」


「貴様っ!」


社交的な笑みを携える二人。

片や指揮官、片や捕虜の二人。

捕虜の男は、どう見ても弁えていない。

それに反応した将を、指揮官は手で制す。


「ま、いいや。 ……で、何をしにきた? 自ら首を捧げに、と言うのなら、爆笑しながらその首跳ねてやるぞ?」


「貴殿に仕えたい、と。まぁ、首を捧げるようなものです」


フン、と指揮官は鼻で笑う。

半分冗談、半分本気だったのだが、相手の真剣さを見て、爆笑しなかった。


「何故だ?」


「私は、いえ私達は、強き者の下で働きたいと常々思っていた所存。我ら羌族や北の匈奴など、蛮族に劣らぬ強さ。我らが仕えるにたると判断しました」


「俺を皮肉ってんのか、自分を卑下してんのかはっきりしろ」


フフン、と冷笑する指揮官。

"蛮族に劣らぬ"ということも、自らを自分で"蛮族"と呼んでいることも、別段気にする程のことではなかったからだ。

しかし、周りにいた将たちは笑えるはずがなかった。

むしろ、殺気立っていた。


「これぐらいのことで、一々殺気を出すな。 ……だったら、これから俺が負け続けたり、最悪死んだら、どうする?」


振り返って仲間を宥めてから、再度振り返り、問う。


「裏切ります」


「「んだとっ!」」


捕虜の両側の首筋に刃があてられる。

左からは十文字の槍。

右からは両鎌付の槍。

少し動かされるだけで死ぬというのに、物怖じせずに見つめる捕虜、すなわち先の副大将。


「プッ、ハハハッ!!」


突然に笑いだす指揮官、すなわち陽。

副大将の悠然として潔く、外連もない態度に笑ったのである。


「いいよ。実に良い。 じゃあ……負けないで生き続けている限り、俺に忠誠を誓えるな?」


「えぇ、誓いましょう」


口角を上げ、三日月のような笑みをし合う二人。


「……はぁ。また、ですか」


「仕方ないよ、山百合お姉さま。だってお兄様だもん」


その光景を見て、頭を抱えるふりをする山百合。

それを――わざとだとわかっているが――慰めるは、苦笑気味の蒲公英。

陽と一緒に戦に出ることの多い二人は、もう慣れっこだった。

……そういった慣れや共に駆けた戦場、稽古の数だけ、山百合と蒲公英は仲良くなっていたりする。


「馬超、閻行、武器を下ろせ。あと、これからのことに口を挟むなよ?」


「「……はっ」」


不服そうに、陽に従う二人。

仕事での立場上、二人の上司である為、従うより他なかった。


「さて、何に誓わせようか。 あと、その口調止めろ。お前は形式上俺の部下になるが、実際は対等だ。……良いな?」


「わかり……わかった」


翠や瑪瑙は勿論、副大将も驚きを隠せなかった。

ならば、と口を開く副大将。


「……その左目、見せてくれないか?」


「お前……遠慮というもんを知らんのか」


「対等なんだろ? ならば遠慮はいらんだろう。ついで、とは言わないが、その左目に誓って忠誠を約束する」


「……ハァ。わかった」


ため息を吐き、顔を近付ける。

陽の左目も見せ物という訳ではない。

誰彼構わず、万人に見せるものでもなくば、陽自身、見せたくもないもの。

周りにいる兵たちも例外ではない。

だからこそ、――頻度は無論少ないが――見せるときには一対一、又は周りが視認出来ないほどに近付くのである。


「っ!? そっ、それは……」


「どうかしたか?」


今までで一番、というより初めて動揺を露にしたことを疑問に思う陽。


「いや、何でもない」


「ふ〜ん、ならいい。 さて、お前らの処遇だけど、……どうする? 半々で分けるか、そのままで羌に帰るか、の二択があるぞ」


「はぁ?」


声を上げたのは誰か、はたまた皆かは分からなかった。


(どういうk――むぐっ)

(翠お姉さま、黙ってて!)

(……とりあえず、陽君に任せておいてください)

(ボク達は黙っていろ、と?)

(……そういうことです)

「だーかーら、お前とお前の部下の半分は必ず羌に戻ってもらう、って言ってんの。あと半分はお前が決めろ」


「……ふむ。なるほど、そうか。 ならば連れて行こう。多いに越したことはないからな」


「ならば行け。こっちからの用があれば、追って連絡する」


「了解したぜ、旦那」


「旦那は止めれ」



   ★ ★ ★



Side 陽


ケン――さっきの大胆不敵男――直属の五胡兵らが北へと帰ったのを見送って、自分の天幕へと入る。


「ふぅ、やーっと終わった」


「おっにいっさまぁ~!」


飛び付いてきた蒲公英。

地味に痛い。


「あのなぁ、毎度毎度ホントに……。天幕内だからいいけど、兵の前でやったら怒るからな」


「わかってるよ♪」


その辺は自重してるから許してるんだけど。


「で、だ。陽、なんで全員帰らせたんだ? 言い方は悪いけど、人質として半分残すのが普通じゃないか?」


……絶句した

翠姉からそんな言葉が。


「偉いぞ、翠姉! そこまで自分で考えるなんて!」


ぽんぽんと頭を撫でる。

……最近、撫でるのが癖になってきた気がする。


「……いつもあたしが、何も考えていないかのような口振りだな」


睨まれた。

別に恐くないけど。


「じゃあ、アンタはいっつも何か考えているのか?」


「……そ、そう言われるとだな」


「ふ。やっぱりじゃない」


瑪瑙はまた余計な茶々をいれやがって。

しかも、嘲笑付きで。

どーせ喧嘩オチになるだろ。


「んだと! やんのかコラ!」


「上等よ! やってやろうじゃない!」


ま、そろそろとめようか。


「まぁまぁ、もちつけ。すぐに喧嘩腰になるのは良くないぞ」


「「うっさい!」」


何故か黙らされた。

何故なんでしょうねぇ。


「落ち着k――

「関係ないのは」

「引っ込んでろ!」

――ああ゛ん」


フフフ、そうですか。


「そんなにも……死にたいのですね。結構なことです」


殺気を上げる。

翠姉も瑪瑙もガクブルしてるが、許さぬ。


「お兄様……寒いよ」


む、そう言われてはかなわん。

殺気(つか、冷気?)を出すのをやめる。


「……二人共、命拾いしましたね」


「……ああ」「……そうね」


反省しているのか、しおらしくなった二人。

良かった良かった。



さっきの話の続きだが、翠姉の言うように、人質として置いておくのも一理ある。

なにより、戦力としての――羌に限らず――五胡の皆さんは素晴らしい。

ほとんどの者が馬に乗れ、かつ騎射っていうんだっけ(俺の記憶での名は流鏑馬だったか?)が出来る。

申し分ない練度を誇っている。

……だからこそ組み入れにくい、という点もなくはないが。

しかし、だからといって受け入れを完全に拒否して、という訳でもない。

以前にも、何度か降ってきた者はいた。

その中で、俺の隊に入った奴は何人もいる。

そいつらは、俺に絶対的な忠誠を誓った。


だが、今回は違う。

名目上は俺が上だが、対等で、持ちつ持たれつの関係にある。

同盟を組んで直ぐに裏切ることに、利が全くない。

さらに、俺が奴に力を示す限り、裏切ることはない。

だからこそ、逆に信用できる。

俺が負けさえしなければ良いんだからな。

それに、向こうに多く帰ってもらった方がより良い不満を持つことが少ないだろうし、何より、やってもらいたいことなんて幾らでもある。

だから、正直どっちでも良かったんだな、これが。


「あ、そだ。 蒲公英、翠姉、良くやった」


蒲公英は先鋒、かつ誘い役。

翠姉は敵将の撃破。

未だに抱き付いている蒲公英と、(何故か(笑))涙目で座り込んでいる翠姉を撫でる。


「えへへっ♪」


「……うー」


終始ご機嫌な蒲公英。

煮え切らない感じの翠姉。

……従姉妹なのに似てなさすぎだろ。


「失礼します。馬白様! 後始末、完了しました」


天幕の外から、部下のその声が聞こえた。

後始末とは、死人の埋葬。

西のなだらかな山に挟まれた――敢えて旗印を上げなかった――道で死んだ者たちを、だ。

そこでは、虐殺ともいえる程の一方的な戦が行われた。

……まぁ、俺が伏兵として弓兵をおいたんだけどさ。

誰も彼も、死んだらただの肉片だ。

死体を放置しといて道が使えなくなるのも困るし、疫病が流行る可能性がないわけでもない。

だから埋めとくんだ。


「わかった。 ……では帰還する!」



   ★ ★ ★



Side 三人称


その頃の天の御遣いはというと……。


「えっと、『その地より北方五十里に黄巾軍あり。規模は大きめの二万ほどで、黄巾軍の食料補給の要所。軍資金の三割を同封する。遠慮なく使うも結構。使い渋るも結構。使うも使わぬもあなた方のお心次第。ただし、返還は不要。ただ民を救う為にお使い頂ければと。  漢皇室劉宏封西涼太守馬騰直轄預奉所軍所総監督馬白(かんこうしつりゅうこうがほうぜらるはせいりょうたいしゅばとうちょっかつあずかりたてまつるところいくさどころそうかんとくばはく)』最後長ッ!」


思わず書簡にツッコミを入れる天の御遣いこと一刀。

読み上げた後だった為に、ノリツッコミみたくなったのは仕様である。

流石に、天の御遣いに集う愉快な仲間たちも苦笑する。


「なんだよ、このネタな役職は……。しかし、馬白、ね」


(そんなやついたっけ?)


と、疑問に思う一刀。

現代で、三國志には常人より興味があった。

他の人より知っている、という自信すらもつほどには。


「ホント、誰だ?」


「はわわっ! 知らないのでしゅか!」


「あわわ〜。朱里ちゃん、落ち着いて」


興奮する諸葛亮を宥める鳳統。

しかし、その鳳統の鼻息も少し荒かった。

そんな二つの様子に、陽のことを知らない三姉妹と一刀は、若干引き気味である。


「狼さんで、英雄の一人で、死神で、商人で、悪の善政者なんでしゅ!」


「……ゴメン、朱里。話が全く見えない」


諸葛亮は、能力的に(武力以外)陽を上回っているにも関わらず、かなりリスペクトしている。

圧倒的なまでの情報を持ち、軍略、政治、商売にまで精通し、指揮をとっては軍師として、非情な策をも執る。

やり過ぎと思われる節がなくもないが、陽は軍師の鏡に近い存在なのである。


「朱里がそこまで興奮するとは……とりあえず、すごいのか」


う〜む、と腕を組んで、唸る一刀。


「そんなチートな奴が、ホントにいるのか? はたまた俺と同じくイレギュラーなのか?」


その呟きは誰にも届くことはなかった。



   ★ ★ ★



ときを同じくして……。


「雪蓮!」


「んー、なぁーにぃ?」


珍しく書類仕事に明け暮れ、項垂れ気味の孫策は、周瑜の呼ぶ声に気のない返事をする。


「これを見ろ」


「んーと、何々『南陽より南東四十里に…略…お使い頂ければと。  漢皇室(ry』 これがどうかしたの?」


慌てて私に見せる必要があるものでもないじゃない、と続ける孫策。

読み上げた内容は、劉備らに送った先ほどの物とほぼ同様で、陽が送る書状としては何の変哲もないものである。

そのことを孫策自身が知っていて、周瑜が知らない訳がないのだ。


「いや、内容としては問題ない。が、同封されていた金がな、……五割近いんだ」


「うーん、間違えたんじゃない? ほら、向こうとこっちじゃ戦に掛かるお金が違ったり、とか」


とりあえずの仮説を立てる孫策。


「それはない。辺りの諸侯には、規模や距離、行軍の速さまで計算された上での三割の金を出資している。間違えはしないだろう」


それを否定する周瑜。

陽は変にキッチリしているのである。


「だったら、たぶん孫家に味方してくれてるんじゃない?」


次は、率直な勘を言う孫策。


「そうとしか考えられないだろうな。しかしだな――「あら。私の勘は当たるのよ?」――そう、なんでもかんでも勘で当てられては、私の立つ瀬がないじゃないか」


それを否定はしない周瑜。

分かっているのだ。

孫策のいう通り、孫策自身の勘はよく当たるということを。

軍師泣かせの勘が外れないということを。


「送り主が、馬騰さんの子だから、ってのは理由にならない?」


「私はあとのせサクサクが嫌いだ」


「……は?」


周瑜の言葉に思わず呆気にとられる孫策。

冗談っぽい言い方であった為そうなってしまったが、言い分としては至極真っ当なこと。

勘から推測して、理由を後付けするのは、軍師としては好ましいことではないのだ。


「冗談だ。……確かに一理としてあるかもしれんな」


だが、過去を思い返せば、筋が通っていない訳ではないな、と思った周喩は認めざるを得なかった。


「ところで雪蓮、それはなんだ?」


「ん?」


2センチ四方程まで折り畳まれた紙が机にあった。

書簡を開いたときに落ちたのだろうと判断し、孫策は開いてみることにする。

すると、みるみるうちに目が鋭くなった。


「……どこまで知っているのかしらね」


辺りを照らしている火でその紙を燃やす。

……この時代、紙はまだ高価なものだから、そうしなければならなかった、ということだ。


「なんと?」


「『(きた)るべき日にお使い下さい 陽』だって」


「危険だな」


「えぇ」





陽は語る。


「あの戦の後に字を戦功と成人を理由に貰ったんだ。翠姉と一緒にね」


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