第二十話
ああ、進まない。
進まないったら進まない。
大局はちょっとずつ進んでるはずなんだけどさー。
Side 陽
「暇だ」
この一言から始められる1日がなんと嬉しきかな。
本日、俺は全日休暇だ。
東の方ではこのような休暇はとれまい!
何故かといえば、こーきんとー、とかいう賊どもがのさばっているからだ。
ま、生憎とこっちにその影響はねぇから関係ねぇのさ。
こーきんとー、とかいう奴らは2つに分けることができる。
一つはあいどる、ってやつの追っかけ。
もう一つは、その勢いに乗じた民や賊共。
と、いう具合だ。
そのあいどる、ってやつである、張三姉妹の活動域は大陸北東付近。
さらに、こっちの賊は俺が駆逐したから、ほとんど居らず。
かといって、わざわざ俺の近くでその勢いに乗る勇気のある民衆やら、逃げてきた賊はいないだろう。
死神やら狼やらと言わしめる俺を前にして蜂起するのは、よっぽどの自信家か馬鹿、としか言えねぇ。
だからこそ、こうして暇が出来るのさ。
こーきんとーといえば、面白い話を一つ。
主に将を務めるのは、追っかけ側の人だそうだ。
能力がある奴や野心がある奴は、頭を殺し、自分がのしあがるらしい。
このように、こーきんとーの中でも弱肉強食の風習が蔓延っているという。
……笑えないか?
弱肉強食のこの世の業から逃れたいが為に乱に便乗してる癖に、ってね。
ま、どうでもいいけどさ。
★ ★ ★
宛もなくぶらぶらと歩いていると調練場についた。
……嘘です、見に来たんです。
目的といえば、あと半刻ほどで昼になるからです。
「こりゃ凄いね」
思わず息を洩らす。
指示一つで様々な陣形に素早く変化させることができる。
その様は、一糸乱れぬ動きと言うべきか。
全く、相変わらず双方とも素晴らしいね。
脱帽もんです。
ま、帽子被ってないけど。
もうちょっと見たかったのに、終わっちゃった。
と思ったら、兵たちがぐるりと円を作り、その中心へと向かう二人。
俺から見て、右側で指揮していた山百合さん。
左側で指揮していた瑪瑙。
その二人が試合(死合い?)するらしい。
「……陽君、審判をしてくれませんか?」
「げ、いたの……!?」
「……いるとお教えした方がよろしかっ――「べっ、別に、どっちでも良かったわっ! かっ、関係ないもの」――左様ですか」
俺を呼んだ癖に、なにやら二人で話しています。
俺のことはガン無視ですね、わかります。
まぁ、その間に仕込みをしていたので構わんです。
「鳳徳将軍に閻行将軍、準備はよろしいですか」
「……えぇ」
「ん」
さぁ、いまだ!
『……ょう…い、ひょう…い、ひょうてい、ひょうてい、ひょうてい!氷帝!氷帝!氷帝!勝つのは氷帝!負けるの閻艶!勝者は鳳徳!敗者は閻行!氷帝!氷帝!氷帝!氷帝!』
鳳徳部隊の兵たちに仕込んでいたのはこれ。
氷帝といえば、これだね♪
テニ〇リ的な意味で。
呆け顔の山百合さん。
ビキビキ、といわんばかりに青筋を立て、こめかみを押さえる瑪瑙。
「……陽君」
「うす」
わざと声を低くして返事をしてみる。
そしたら、おぉう。
山百合さんと瑪瑙の睨む目。
なかなか……くるね!
「……陽君」
「ハイ! スイマセンした!」
このネタはやらないといけない気がした、とは死んでも言えないさ。
兵たちに声かけをやめてもらうことにする。
てか、山百合さんに睨まれて、殆どやめてたけど。
案外、皆ノリノリでやってたのにな〜。
よし、仕切り直しだな。
「オホン! では改めまして……見あって見あって〜、はっけよぉい――」
シュン、と風切り音が一つ。
ストトッ、と何かが刺さる音が二つ。
その場で動けず硬直してると、髪が数本落ちたのが見えた。
ゆっくりと後ろを振り返れば一本、足下を見れば二本、の短刀刺さっていました。
あわわわわわわ……!!
「……陽君?」
「モウシワケアリマセンデシタ」
凄まじい速度で土下座する。
マジこえぇ……!
ガクブルもんですよ!
★ ★ ★
結局殺り合わなかった。
萎えたらしい。
……ま、そういう風になるよう立ち回ったんだけど。
だって、昼は長い時間欲しいじゃない。
ホントだぜ?
決して、作者が戦闘描写書くのが面倒だからやめさせた訳ではないんだぜ?
活気溢れる大通りに面する、見慣れた派手な店構え。
扉を両手で仰々しく押して入る。
「いらっしゃいま……こっ、これは馬白様!」
「どう? 繁盛してる?」
正直、聞かずとも知っている。
まぁ、事務的なものと解釈して欲しい。
「えぇ、お陰様で……それはもう、がっぽがっぽと」
手もみをしながら、卑しい感じの笑み。
こいつ、こういうことわざとやるから面白い奴なんだよね。
「おや? これはこれは、鳳徳将軍に閻行将軍ではありませんか! いやー、お二方に来て頂けるとは、光栄の至りです」
「「…………」」
無視、というより、店内に興味をそそられて、耳に入っていないだけ……と願いたい。
「ところで馬白様……今日は両手に花ですね〜」
簡単にはめげないようだ。
流石は元俺の部下だ。
……ってかさぁ。
「両手に、花? なにそれ、どうゆこ――」
言葉を遮るように、突然にスパパン、と後頭部への攻撃。
地味にいてぇ……。
「ボク達のことに」
「……きまっているでしょう」
「直ぐに暴力を振るったアンタらに、見目麗しい花に比喩することは間違ってると思われるッ!」
断じて認めぬわッ!
と、続けたかったがやめた。
だって、二人の笑顔が怖いもの。
てか、両手に花って、そういう意味なのかー。
知らんかった。
そんなことはおいといて。
「……ささ、こっちこっち」
「「…………」」
俺の華麗なる流しには、閉口せざるを得ないようだ。
流石、俺。
今更だが、現状を説明しよう。
誰に、とは聞いちゃ駄目だ。
俺は山百合さんと瑪瑙と共に街に来ている。
勿論、一緒に食事するためだ。
午後から二人とも非番であることを――俺はお偉いさんだから――知ってたんで、さっき誘ってみたらすんなりとオーケ……了承を得られた。
ま、俺の奢りって言葉に食いつかれた感はあるけどね。
全く……現金なやつらだずぇ。
個室に入った俺達。
ここは、俺がわざわざ作らせた場所。
THE 畳部屋。
"和"のテイスト……様式が欲しかった俺にとって、ここは至福の場所なのだ。
「へぇ〜。アンタにしては、変わった趣味じゃないの」
ぐるり、と室内を見回す瑪瑙。
「……ほぼ全てに於いて、陽君は変わっていると思いますが」
「あ、それもそうだった」
それに若干微笑みながら返すのは、山百合さん。
なんかひどくね?
変わり者、という自覚はない訳ではないけどもさぁ。
ただ、……時代が違えば、これぐらい普通の部類に入ると思うんだけどな。
「ま、別に俺の趣味なんざどうだっていいだろうさ。ほら、座った座った」
二人を座るよう促す。
(どうでもよくないわよ……)
(……どうでもよくありません)
「では……カツ丼で」
「ん〜、じゃ、天丼一つ」
「俺はいつもので」
「畏まりました」
退出する店員。
「で、なんでアンタはボク達を誘ったわけ?」
そこに、瑪瑙が質問してきた。
「……それは私も知りたくありました」
山百合さんも聞きたい内容であるらしい。
別に理由なんていらなくね?
アンタらはタダ飯食えるんだしな。
言うけどさ。
「ホントは母さんやら、皆も誘おうかとは思ったんだけど、仕事でさ……。だから、二人だけ誘った、つー訳」
母さんと薊さんは書類仕事。
茜と藍は二人でお出かけ。
翠姉と蒲公英に至っては、この街にすらいない。
だから、山百合さんと瑪瑙だけになってしまっただけだ。
「ふぅ〜ん……ボク達は余り者って訳ね」
あからさまに不機嫌顔をする瑪瑙サン。
表立って表情に出してはいないものの、山百合さんも不機嫌さが滲みでている。
さっぱり意味がわからん。
「どういう解釈したらそうなるんだよ……。俺は元々、家族皆で食べに来たかったけだ」
俺とて朝晩の食事は、――母さん規則により――家族皆で摂ってはいる。
しかし、そこに事実だけがあり、意味が伴っていなかった。
意味とは、会話をするコト。
俺は、それが出来ていなかった。
最近の仕事の膨大さには、そういった家族との交流を削るより他なかったのだ。
ほとんど家族の皆と話すことすらしなかった、出来なかった。
だから、こうして俺が非番である今日に、こういった時間を作った訳、なんだけど――
「皆都合が悪かったみたいだから、結局二人だけという集合率の悪さになったんだけどね」
――ま、仕方ねぇさ。
「……そう、でしたか」
山百合さんは静かに答え、瑪瑙はしんみり、といった様子で答えなかった。
「おまちどうさまです!」
気まずい感じの空気の中、料理をもった店員がやってくる。
いつもいつも、こういったタイミ……時期は、図っているかように良いよ、マジで。
それぞれの前に置かれる、カツ丼、天丼、親子丼。
立つ湯気に、香りに、食欲が湧いてきた。
「まぁ、食べようぜ」
「……仕方ないわね」
やれやれ、といわんばかりに肩を竦める瑪瑙。
それでも、口元はどこか笑っていた。
いやー、良かった良かった。
「……ふふ」
「なっ、なに?」
山百合さんの含み笑いに、何故かひどく動揺する瑪瑙。
こういうときの瑪瑙は可愛い、って思ったり。
「「「いただきます」」」
食事前の合掌は、すでに馬家の日課だ。
他愛もない会話をしながら、食をすすめる。
やっぱ、こういうのって良いよなぁ……、って自然に思う。
あっ、と……。
「エビ天、頂くぜー」
「ああっ! ボクのっ! 返せっ!」
「フフン、取り返してみるがいい」
そう言いつつも、半分程の大きさになっていたエビ天を口に入れる。
流石に一匹丸々は不味いと思って、配慮はしたんだぜ?
あぁ……、サクッとした衣に、プリッとしたエビ。
どうやってこんな内陸部まで鮮度を保ったかは突っ込まないけど。
……堪らんなぁ。
「あぁ……、ボクの食べさしのエビ天……食べ、さし?」
3、2、1、ハイ!
「バカ――――ッ!!!!」
これでもかッ、ってぐらいお顔が真っ赤です。
今回に至っては耳まで。
「そんなに怒るなよ! なっ! 俺のやるからさっ!」
ここまでの"怒り"は初めてだ。
そんだけの怒りをぶつけられたら流石の俺も怖い。
けど、なんか可愛い。
……どうやら俺は、若干いじめっ子体質らしい。
「瑪瑙様! これでお納めくだせぇっ!」
箸に玉子に包まれた肉をつまんで、瑪瑙の――突きつけると言っても過言ではない速度で――口元に持っていく。
「〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」
一瞬戸惑った仕草をみせるものの、箸の上の物を食べる瑪瑙。
その後、声にもならない音(と言ったほうが分かりやすい)を上げ、動かなくなった。
……効果あり、なのか?
顔を見れば、むしろ赤みを増している。
が、攻撃はしてこない。
フハハ、勝ったわ!
あ、これって所謂、あ〜ん、というやつじゃね?
「……全く。天性の女殺しですね、陽君は」
山百合さんの呟きは、俺届くことはなかった。
★ ★ ★
Side 瑪瑙
あのバカは、いつもボクの心を乱してくる。
蹂躙してくる、と言っても言い過ぎじゃないほどに。
目の前にいてもいなくても、寝ても覚めても、心にはバカがいる。
ボクが大っ嫌いな男の癖に、平気で居座ろうとする。
追い出しても追い出しても、何度でもやって来る。
何故?
男が嫌いなはずなのに。
何故?
嫌われてもおかしくないはずなのに。
何故?
心に入られていることを許している。
何故?
アンタの心に残りたいと願っている。
何故?
アンタの為に熱くなれる。
何故?
アンタの為に冷たくなれる。
何故?
もっと近づきたい。
何故?
もっと遠退きたい。
自分に何度問いかけようと、答えは分からないの一点張り。
母様に問うても、答えはボクの心の中にある、の一点張り。
ねぇ。
アンタならわかる?
――陽。
★ ★ ★
Side 三人称
一方、天の御遣いはというと……。
諸葛亮と鳳統が仲間になった時。
「ロリ比率が上がった。 テレ〜テッテテッテッテ〜♪」
と、口にしていた。
別に、天の御遣いこと北郷一刀の能力が上がった訳ではない。
むしろマイナスにはたらくこともあった。
曰く……
「天の御遣い様は幼子がお好きなのか」
……という具合に。
真面目に答えた本人は、
「そういったこだわりはない。ただ、好みか……そうだな、好きになった子が好みかな」
と、いかにも種馬らしい発言をしたので、また、一目置かれていた。
そしてその数日後、曹操との会合を果たした一刀と愉快な仲間たちの5人。
遠のく背を一瞥し、後ろを振り返って発言する。
「ふむ。…………ちっせーんだな、曹操って」
「「「「ごっ、ご主人様っ!」」」」
「にゃー、……お兄ちゃん、本人を後ろにすごいのだ」
(ロリ……なのか?
そう仮定したとして、Sでロリとはなかなか……。
さらに、そうゆー奴がたまに見せるMっ気って萌えるよな)
四人が青ざめ、一人が感心している中、思考に耽る一刀。
「…………」
偶然にも、伝え忘れていたことを言いに、劉備軍の陣に帰ってきていた曹操。
そこに迎えた言葉が、一刀のちっせーな発言だった。
……どうやら十分に距離をとろうと、溜めたのが仇となったようだ。
(本人に背を向けて、気にしていることをさらりと言いのけるとはね。
この私を前にして、物怖じしない胆力。
私の覇道を阻む者になり得るモノを持っているじゃない。
流石は天の御遣い、というところかしら?)
と、一刀の目の前に立つ曹操は、怒りを通り越し、称賛すら与えていた。
自分では、何も出来ない、や何もしていない、と発言する一刀だが、実際、駆け引きの場面などは、劉備より巧い。
後は、人並みの能力と、桁外れの魅力。
ただそれだけが、一刀のスペックである。
曹操は勘違いをしていた。
本人を背にして言いのける……。
そこに本人がいたことを知らないだけだ。
物怖じしない……。
思考に耽っていたので、気配に気付いていないだけだ。
「って、あれ、曹操サン? どしてここに?」
思考の波から帰ってこれば。
目の前には、ガタガタと震える仲間たち。
視線の先を追って、後ろを振り返ると。
神妙な顔した曹操がいた。←今ここ
とりあえず、ひどく焦る一刀。
「まさか……気付いていなかったの?」
「あ、ああ、まあね」
こめかみを押さえる曹操。
自分の評価したほとんどが勘違いと理解したようだ。
「……覚悟は良いかしら?」
どこからともなく曹操の武器である鎌―絶―を取り出す。
「不味いんじゃ、ないかな? せっかくの同盟が破綻s――「それとこれとは話がちがうわっ!」――ちょ、桃香、助けて」
仲間に懇願する一刀。
「殺さないでくださいねっ」
頭を下げる劉備。
あるぇ?と首をかしげる一刀。
「その辺りに抜かりはないわ」
と、サディスティックな笑みを浮かべて曹操は言う。
「あっ、愛紗!」
委員長が頼みの綱だぜ!と一刀は愛紗に視線を送る。
だが、そんなに現実は甘くはなかった。
「残念ですが、お助け出来ません。今回は、全面的にご主人様が悪いですから」
またもやあるぇ?と首をかしげる一刀。
「はわわっ、がっ、頑張ってくだしゃい!」
「あわわ、応援してましゅ」
「お兄ちゃん、頑張るのだ」
と、次々に見捨てられる一刀。
「もう、良いかしら?」
「……はぃ」
観念した一刀。
「アッ―――――――!!!」
その叫び(?)は、陣全体に轟いたらしい。
陽は語る。
「そうか……、瑪瑙はツンデレだったのか。ボクっ子、ツンデレ……詠ちゃんと被ってね? 勿論、YAZAWAじゃない詠ちゃんね」
と