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第十八話


原作突入。


といっても、導入のみだけど。



Side 陽


「うぇ〜、びちょびちょだよ〜」


「流石にキツいよな」


ちょっとした木の下で雨宿り。

内心、やっぱりなぁとは思うがな。

朝からずっと燕の鳥やらが低く飛んでたし。

全く、あの阿呆のせいで余計なことに巻き込まれたもんだぜ……。


金城に引っ越してから、もう半年程たった。

最近飛んだばっかだった気がするが、まぁ、突っ込まないでくれ。


金城は、隴西よりも西、河水沿いに位置している。

そのお蔭か、隴西よりも栄えている。

如何に水が大切かが分かるだろう?

だが同時に、隴西よりも五胡の脅威に晒されていることも否定出来ない。

だからこそ俺たちをそこに置いた、と表向きはそういうことなのだろう。


しかし、表があれば裏がある。

劉宏は、というより何進及び張譲は、少しでも遠くに追いやりたいらしい。

一国を相手にするほどの力は今のところ持っていない現状で、そこまでの警戒される理由が、俺にはわからない。

昔に何かあったとすれば、たぶん母さんや薊さんは知っているだろう。

知れるなら知りたいが、母さんの地位が上がった分の仕事が増えるわ、五胡との接触や各地の賊の蜂起も増えるわ、(ゆう)が台頭しだすわ、とやることが多すぎる。

とてもそんな余裕はない。


話が逸れた。

とりあえず俺と蒲公英は、金城よりはるか西(といっても馬で往復半日程度)の地までやって来ていた。

目的といえば、逢い引きや遠乗りなどという仰々しく空想的なものでなく、粛々として現実的なものである、敵情視察というやつだ。


さっきも言ったが、金城に来てからというもの、小競り合いが絶えない。

そうすると、嫌でも有能な人材が他から抜きん出てくるのである。

という訳で、半年という短い間に蒲公英は将軍になっていた。

その蒲公英と俺で相手の動きを探るのだから、いわゆる将校斥候というやつになる。

部下に任せれば事足りることなのに、わざわざ――自分で言うのもアレなんだが――中核を担う俺が出向く必要がわからなかった。

たとえ母さんの命令でも、だ。

てか、確実に普通の斥候に任せれば済む問題だ。


ま、そんな反論は無視で結局強引に連れ出されたからここにいるんですけどねー。

んで、帰り途中に雨に降られたって訳だ。

いやはや……めんどくさい。



雨の激しさは留まることを知らないらしい。

ふと、隣の蒲公英を見やれば、身を震わせていた。

どうして気付いてやれなかったのだろうか。

朝の時点で雨が降るとわかっていたのは俺だけらしく、(その俺も前述どおり強引に、であったので)雨対策など何一つしていない。

それゆえ雨に打たれていたのだ。

身体が冷えているにきまっている。

……まぁ、西涼という寒い地域に住んでいるのに、何故――翠姉、瑪瑙を含め――半袖で、下は膝上どんだけよ、と思うほどの短さを気にしたら負けな気がするから、触れないでおく。


とにかく、だ。

思考に耽るよりも先決させるべきことだった。

……最低な兄貴だな、俺は。


上着――ロングコートとでもいうのだろうか?いや、今はどうでも良いことだ――に手を掛け、素早く脱ぎ、それを蒲公英の前に掛ける。

そんで俺は蒲公英の後ろに回って、抱いてやる。

雨で湿ってはいるものの、外気に触れない分だけましだろう。

それに、脱いだら俺、半袖だからな。

抱き付くのは双方にとって合理的だ。

あくまで、俺視点だけど。


本当は、濡れた服を脱ぐべきだけど、その後に着る服はないしな。

肌で暖めあうとか、それは、……あかんて。


蒲公英は驚きと恥じらいの顔で、いいの、という視線を送ってくる。


「いいさ。雨には慣れてる。それに、……蒲公英が暖かいからな」


ニコリ、と笑いかける。

寒いには寒いが、それぐらい我慢するさ――


「ありがとね、お兄様♪ えへへ……あったか~い♪」


――この笑顔が見れるなら。

やっぱ、子供の笑顔ってやつはいいもんだ。

……自分も、昔はこんな笑顔をしていたんだろうか?


っと、危ねぇ。

思わず回想に入るとこだった。

別に、俺の過去なんてどうでも良いことだろう?



   ★ ★ ★



「だいぶやんできたな」


「……そーだねー」


がっかり感を出す蒲公英さん。

なんでさ?


「……くしゅっ」


おいおい、マジかよ。

この時代では、ただの風邪ですら不味いぞ。

……この時代?


「急ごうか、蒲公英。……この雨だ、風呂ぐらい沸かしてくれてるだろうからさ」


「……うん」


返事をしてから、ずぴ、と鼻をならす。

いやぁ、……可愛いなぁ。

おっと、こんなことを考えている場合ではない。


「こくとー、おーほー」


呼ぶと、すぐにやってくる二匹。

黒兎と黄鵬もまた、近くの木陰で雨を凌いでいたのです。

蒲公英を、黒兎に乗るよう促す。

んで、その後ろに俺も乗る。

そんな、なんで、みたいな顔して見上げないでよ。

熱っぽい目での上目遣いと、(たぶん)風邪熱でほんのり赤い顔で、だぜ?

……発情すんぞ?


「黒兎を御せるのは俺だけだ。……それに、こっちの方が早く帰れる」


黄鵬とは翠姉の馬。

今回の任務は、機動力というか、速さがいる。

という訳で、蒲公英は翠姉に借りたらしい。


だけども、目利きである翠姉が選んだ、数多くからの三匹――紫燕、麒麟、黄鵬――中の一匹だとしても、黒兎には及ぶことはない。

ちょうど今の――黒兎には二人、黄鵬には騎手なし――状態で、やっとつりあうぐらいだ。

……黒兎さん、マジパネっす。


「しっかり俺に抱かれてろよ!」


急ぎ黒兎と黄鵬を走らせる。

……なんか、不味い気がしないでもないから、説明しよう。

蒲公英は、俺の前に座っている。

掴まるとこなんて手綱ぐらい。

だから、俺に身を預けてくれている方がずっと安定する、という訳だ。

決してやましいことなどない。

しかし、やっぱ熱まで出たのか、蒲公英の顔が赤い。

本当にヤバそうだ。


なのに、一刻も早く家に帰らなきゃならんのに、……凄く帰りたくなってきた。

あのとき――洛陽から帰ったあと――から、危機察知能力は格段に上がったのだ。

それが警鐘を鳴らしてる。

……悪寒がトマラナイデス。

上着を蒲公英に与えているので、俺は今、半袖である。

それが故に寒いだけだ、と切に願いたい。



   ★ ★ ★



家に帰れば、案の定と言うべきか、修羅がいました。

蒲公英はお風呂へ直行しました。

逃げたな、コンチクショウ!


「茜さんや、お兄ちゃん、なにかしたかな? 悪いとこがあったら、ちゃんと直すから、教えて? お兄ちゃん、なんかした?」


震えが止まんないんだぜ!

後ろからの圧迫感が尋常じゃないんだぜ!


「……どして? 陽兄に悪いとこなんて、なんにもないよ?」


清々しい笑み。

うむ、なかなか可愛らしい良い笑顔じゃないか。

この笑顔に、間接的に俺をいじめている訳ではない、と確信できる。


だけど、ねぇ……。

背につたう冷や汗が半端じゃないんだぜ!


「じゃあ、さ。 ……なんで母さんはあのときみたく怒っ――、あ〜〜れ〜〜」


首根っこ、とられますた。

蒲公英には、山百合さんについていってもらったので、憂いはない。

……さて、逝って参りますか。

前回は名目上のお稽古。

みっちりしごかれたよ。


今回はなんだろねぇ?



   ★ ★ ★



案の定、寝起きは最悪でした。

母さんはくどくどくどくど、と。

俺がわふ〜、と。

母さんが酔いつぶれるまで、ってか寝るまで愚痴を聞き続けた結果だ。

薊さんが政務手伝ってくれないとか、山百合さんが最近可愛いとか、瑪瑙に若干避けられてるのではないかとか、翠に父親は必要かとか、蒲公英に圧倒的に負けているのではないかとか、茜に嫌われてるのではないかとか、藍が強くなりたいと言ってきたとか。

……愚痴じゃない割と真面目な話もあったけど。

とりあえず全然酔ってくれねーからさ、結局深夜遅くに寝落ちしたんです。

これはこれで死ねるね。



どうせ母さんも必要になるから、と、外の井戸に水をとりにきた俺。

眼帯を外し、まずは眠気覚ましにと顔を洗う。

ひんやりとした水がなかなかに気持ちいい。


ふと、顔を上げる。

その行為に至って意味はなく。

ただ、なんとなく、だ

そして、何故だかわからないが、それでいて、まるで決定事項であるかのように、東に目を向ける。

そこに、一筋のなにかが確かに、左目に映った気がした。



   ★ ★ ★



Side 三人称


「俺は、天の御遣いとかいう、胡散臭いながらも、世を憂う三人の手を助ける為の御輿的存在じゃなかったのかよ、バカヤロー」


その俺が皿洗いですか、と洗い場でぼやく者が一人。

天の御遣いこと、北郷一刀である。

出会いやら、劉備からの懇願やらは、原作通りであり、他のSSでも見飽きているだろうから割愛する。

手抜きな訳じゃ、ないんだぜ!


「まぁ、劉備も筵を作ってたんだし、下からのスタートはこんなもんなのかな?」


ぶつぶつと呟く姿に、周りはひいていた。

一刀は気付いていなかったが。


「ただ、……なんで女? しかも美がつく。……新手のエロゲかよ」


まぁいいけど、と続ける。

ツッコミかどうかは判断しにくいが、その内容は的確に当たっていた。


「……アイツは劉備の理想を、甘い、と言って、笑うだろうなぁ」


(それでも困っている人を、女の子を見過ごす訳にはいかない。

だから、手伝いたい、と思ったんだ)


と、一刀は心の中で続ける。


「お前と違って、俺は平凡な奴だけど、出来る限りをしたい」


(だから、さ。

見ていてくれないか?

滑稽だ、と笑ってくれても、馬鹿にしてくれてもいい。

ただそこで見ていてほしいんだ)


そう、今は無き自らの親友に乞う。


「はい、追加だよ!」


どうやって運んできたんだろ、と思わず呟く一刀。

50枚積みの皿の山々が、そこにあった。


「言った矢先からどうかと思うけどさ、……ちょっとだけ目を反らしといてくれないか?」


現状に泣きたくなった、一刀であった。



結局、全て終えたのは日が落ちる少し前。

働かせすぎたとの女将の好意により、宿と宿代をゲットした一刀、劉三姉妹の御一行。

明朝に、紹介された桃園に向かい、契りを結ぶことになるのが、原作との相違である。


さらに、もう一点だけ、原作との違いがある。




「天からの使者、現れり。……こう馬白様に報告しといておくれ」


「了解です。……しかし、貴女は女将という職に、よく短期間で慣れたものですね」


「あたしゃ、戦いが嫌いでねぇ……元々、こういうことがやりたかったのさ。半年もあれば、ちょちょいのちょいってもんだよ」


「それは僥倖。……それでは失礼します」





陽は語る。


「こっからは激動の時代だね」


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