第十五話
一気に飛びます。
キングクリムゾンってやつですね、わかります。
あれからざっと一年あまり……。
俺は武官としてだと、立派かどうかはさておいて、将にのしあがった。
文官としては、上から数えたほうが速いぐらいになっていた。
そうした中で、まさかの軍師にもなっていた。
将軍兼文官兼第二軍師。
……なんつー兼業だよ。
初めに将軍。
正直まあまあだな。
俺は人の命を預かるとか出来ると思っていない。
預かるとか、そんな軽いことが出来るモノじゃねぇだろ?
ってことで、自分の命は自分で責任を持て、と俺は言ってる。
部下の兵たちは、今までに言われたことのないあろうこと言われて、最初は戸惑っていたが、今は見違えるほどに成長した。
求心力も並より上。
つか、俺の隊からは心酔(?)されてる。
上出来じゃね?
次に文官。
かなり上の位置にいる。
……正直言えば、軍師職と被っていなくもないが。
とりあえず、薊さんに比べればまだまだだ。
母さんの次席に勝て、ってのもアレだけどさ。
最後に軍師。
兵法や用兵術が、出来る出来ないで言えば、出来る。
そら将やってんだから、一通りできるさ。
けど、あくまで将軍としてのそれらで、全体を動かすそれらではなかった。
だというのに、一番頭が回るし、軍師いないから、という理由で渋々やってる。
第二、とつけば第一がいるだろう、と思うだろう。
しかし、第一は10数年ほど前からずっと空いている。
埋まることも、埋めることもないらしい。
だから実質、俺が筆頭軍師ってな訳。
なったからには、と、なかなかにあくどいこともやっている。
所詮は付け焼き刃みたいなもんだがな。
それぐらいしとかないと、ねぇ?
まぁそれにより、五胡相手には――戦略的撤退は省くと――負けは一度だけ。
敗北という味を知っとかないと後々困るだろうから、負けたのは良い経験だ。
賊相手には全勝。
取るに足らないからな。
何故ほぼ全勝できるのか。
詳しくはまたいずれ、だ。
とにかく、そんなこんなで、将軍の俺より軍師の俺のほうが信頼されている。
……困りもんだがな。
死神だの、狼だの、成公英の再来だの、色々言われている。
別に二つ名を気にしちゃいないが、その、成公英とやらは引っ掛かる。
……また今度調べることにしようと思う。
まぁ、こんなところだ。
他の家族の皆はというと――。
母さんは適度にサボりつつ、見つかっては倍に増やされる、という感じ。
薊さんは相変わらず、酒を飲みながらも、義妹として母さんと肩を並べている。
山百合さんは、母さんの右腕をやっている。
瑪瑙(いい加減、さん付け止めろと言われた)は薊さんの右腕として成長しつつある。
翠姉は猪癖は若干あるが、無事将になり、その中でも、かなり上だ。
蒲公英は、俺、そろそろ負けるんじゃね(?)ってぐらいメキメキと実力を付けてきている。
そうそう、実は最近家族増えたんだ。
あのスリ少女と、その弟君。
俺は俺で他の討伐に行ってた時に、賊どもに村が襲われたらしい。
それは母さん直々に殲滅して、村で生存者確認をしたところ、生き残ってたのがその二人だったそうだ。
戦争孤児ということと、俺も気に入ったあの目に惹かれた、とのことで、母さんが家族に、と拾ってきた。
俺もほぼ拾われたに等しいから口に出して言わないけど。
いいのかそれで。
ま、母さんはホント物好きだな、と思うのは悪くないはず。
少女の方は馬休、真名は茜で、弟君は馬鉄、真名は藍だ。
偶然にも付いていた名が休と鉄だったらしいよ?
二人もまた馬家に誘われた身。
今は護身術程度を習っているが、年を経れば本格化するだろうね。
年端もいかない子供を巻き込ませない、という自己満足の為にもがんばらないと、なんてまた思いかえした。
★ ★ ★
Side 三人称
一方、その頃の他の恋姫たちはというと……。
義三姉妹は共に旅をしていた。
称して、人助けの旅。
大徳は、盧植の元で勉学を修め、母、劉弘の元を発ち早二年。
筵を売り、時には手を差しのべ、人に笑顔を咲かせる。
賞金首をとっちめることでしか人を救えなかった後の軍神、燕人姉妹はそこに惹かれ、意気投合。
以来、三人で旅をしているのである。
「街なのだ!」
「あっ、待ってよ鈴々ちゃん!」
「……はぁ」
一目散に駆ける末妹。
それを追う長女。
二人に呆れる次女。
美髪公の心労は計り知れない。
「お父上お母上、この趙子龍、乱世に苦しまんとする民の為、いって参ります!」
常山では、新たな決意を胸に、龍が昇らんとしていた。
「はわわ! しゅ、主席!?」
「あわわ……凄いよ朱里ちゃん!」
「ふふふっ、頑張ったわね」
「はわわっ! すっ、水鏡先生! ありがとうございましゅ」
伏龍、鳳雛は師の元で、徐々に才能を開花させていた。
「桔梗さまぁ〜……」
「な〜んじゃ、もうへばったか焔耶よ!」
「まあまあ、落ち着いて……。根を詰めすぎるのは良くないわ」
「むぅ……ちっとばかし熱くなりすぎたかの」
「そーだよー。焔耶お姉ちゃん、真っ白だもん」
「はっはっは、璃々にまで言われては敵わんわ」
蜀の老た……ゲフンゲフン、お姉さま方と反骨は、案外にのほほんと過ごしていた。
後の魏王は他の誰よりも抜きん出ていた。
……母親である曹嵩さえ差し置いて。
それにより、母が健在していたにも関わらず、家督を継いでいた。
そんな、すでに曹家の看板を背負っている彼女は徐州に来ていた。
「華琳……あなたの覇道、天から見守っているわ」
「はい、お母様」
「春蘭、秋蘭……今更だけれど、華琳を宜しくね」
「はっ! 命を賭けて!」
「お守りすることを誓います」
時代は徐々に、能臣より奸雄を必要としていた。
そして、"曹孟徳"を存分に発揮出来る環境を作るかのように、病が曹嵩を犯した。
そして、今まさに迎えがやってきたのである。
覇王は泣けるはずがなかった。
これが天命、と清々しい笑みを浮かべ、逝った。
そんな母に、むしろ笑いかけたぐらいだった。
「……ごめんね……薊……」
しかし、死す直前にぽつりと洩らした言葉は聞き逃すことはなかった。
「あ〜〜〜〜っ! もう嫌!」
「待って!」
王佐の才は、逃げ出した。
しかし、まわりこまれた。
頼み込まれたので仕方なく戻ったが、今日の分を終わらせたら夜逃げでもしてやろうと決意した。
それほどまでに袁家での待遇が悪かった。
「ルールルっ、ルルルルールル♪」
「季衣?呼んだ?」
「ううん、呼んでないよ!」
「じゃあ、今の何?」
「そこのキノコ見てたら口ずさんでた」
「……?」
親衛隊長らは、未だ平和を謳歌していた。
……黒いマッシュルームな形のキノコが引き金とは、悪来は知らない。
「……ぐぅ」
「お嬢ちゃん、寝ないでくれ」
「おぉっ! 寝てませんよー」
「……どの口が言うのやら」
「おうおうねぇちゃん、それは言わぬが吉ってもんだぜ」
「まぁ、いつものことだから慣れたがな。ほれ、飴十本お待ち」
「ありがとうなのですよー」
渦巻の飴。
いわゆる、ペロキャンを買い込む金髪ウェーブの少女と、珍しく鼻血を噴かさず、呆れ顔の眼鏡っ子。
二人は旅に出ようとしていた。
昇り龍と出会う日が来るのはそう遠くないかもしれない。
飴工房があったのは、偶然か、必然か。
それは陽にしかわからない。
「師匠……行って参ります。……約束は必ずや果たしてみせます!」
墓の前で拳と手のひらを合わせ一礼する、銀髪の後ろを三つ編みにする者。
「はぁ〜、かっこええなぁ〜」
独特の反りを持つ一振の剣と、先が回る構造をした槍を眺め、息を洩らす者。
「むむむ……二人とも、遅いのー!!」
自分の用を早めに済ませたものの、待ちぼうけを食らうはめになり、若干キレ気味の者。
三羽烏もまた、巣立たんとしていた。
江東の虎が死んで早三年。
治めていた地は全て華南に拠点を置いていた袁家に掠め取られ、服していた豪族たちはここぞとばかりに離れた。
家族とも呼べる仲間たちは、分散させられており、未だ虎の子たちは、雌伏の時を過ごしていた。
「あー、いつでもお酒は美味しいわ♪」
「全くもってその通りじゃ! それを冥琳のやつといえば……」
「ほぉ……続きをお聞かせ願えますかね?」
「「げぇ、冥琳!」」
「穏もいますよー。逃げ場はありませんからぁ〜」
後の小覇王と宿将が、勤務時間中に酒を飲んでは呉軍筆頭軍師に見つかり、その弟子に(師からの命令によって)退路を絶たれてはお叱りを受ける。
いつも通りの構図である。
「(もう少しよ、もう少し……母様の宿願、必ず)果たしてみせる」
「聞いているのか、雪蓮!」
「はっ、はい!」
怒る美周郎に正坐する小覇王。
全く以て、何時も通りだ。
「……はぁ」
「蓮華様……休憩にいたしましょうか?」
「っ! い、いや、必要ない」
「……そう、ですか」
守りの戦では、私を凌ぐ、と現王に言わしめる程の次女は、数知れぬ思いからか、ため息を吐く。
親衛隊長であり友である者は、そんな様子に心配するものの、深くは介入しないでいた。
出来ないでいた、の方が正しいが。
「お〜ね〜こ〜さ〜ま〜!!」
もう一人の親衛隊長といえば、全力で猫を追っていた。
「ほら、パパ! お友達、連れてきたよ!」
「おお、この前言ってい、た……」
満面の笑みで、白虎と熊猫を連れてくる弓腰姫。
唖然としすぎて、せっかくのダンディーな顔立ちを崩す孫三姉妹のパパ。
パパとは誰か。
……元々投稿してたサイト様からの登場です。
「……ぅぐ〜。月渓様ぁ〜、多すぎです……」
もとは武官だったが、次期王に才を見出だされ、ふんどし飛ばされ、早半年。
末娘のもとにいるもう一人の宿将の教えにより、すでに阿蒙ではなくなっていた。
アニメ設定はスルーの方向で。
「おーっほっほっほっ! 国士無双ですわ!」
「やっぱ、世の中博打っしょ! う〜、丁!」
「……麗羽さま〜、文ちゃ〜ん。そろそろ帰りましょうよ〜」
負け続けはするものの、運よく一発逆転の手で、負け分を帳消しにする、金髪特盛縦ロール。
四対六ぐらいで負けてこしているが、それでも博打が大好き女の子。
気苦労絶えないおかっぱ娘。
王佐の才の猫に見限られても不思議ではない。
……この博打処、実は陽が作っていたりする。
「蜂蜜水を持ってくるのじゃ!」
「はいは〜い、了解で〜す」
南方を治める袁家の長は、いつも通りだった。
本日一回目のおねだり(?)であるので、毒は吐かなかった側近。
……両袁家を、これ以上紹介することが正直ない。
「詠ちゃん……」
「大丈夫よ。月なら出来るわ」
「うん。……頑張る」
「うおぉー! 董卓様ぁ! この華雄、一生ついていきましょう!」
董家を継ぎ、長として兵たちに号令する。
その様子に親友は、必ず天下人にしてみせる、と改めて決意する。
ネタキャラの地位を不動のものとする、愛すべき猪将軍は少し熱かった。
「……ちんきゅ、行く」
「あっ、呂布殿ぉ〜。お待ちくだされ〜!」
「ホンマ、仲ええなぁ」
家族の様子を見に行こうとする天下無双。
それを追うは、自らを専属軍師と名乗るちびっこ。
そんな二人を、クツクツと笑いながら酒を飲む神速。
三人は――厳密には二人――漢の将であり、長安にいた。
儚げな少女を主とする日は、すぐ近くまで迫っていた。
「……うぅ。いつになったら終わるんだ……」
幽州では、普通に出世コースを歩いている者がいた
普通に出来る人かつ、お人好しスキルを持っている為、仕事が集中していた。
「よーし! 今日も頑張るぞー! おー!」
「ちぃの魅力でメロメロにしてやるんだから!」
「はぁ……。二人揃ってお気楽なんだから」
若干天然気味の、みんな大好き天公将軍。
ない胸を張ってる、みんなの妹地公将軍。
二人に呆れる、とっても可愛い人公将軍。
このとき、自分たちの歌で乱をおきるとは知り得ないことだった。
「お前たち、行くにょー!」
「おうにゃー!」
「了解にゃー!」
「……頑張るにゃん」
南方ではにゃーにゃーうるさかった。
陽は遠い目をして語る。
「あの頃は、仕事量が増加の一途をたどっていたよ……」
と