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第十一話


ちょっと遅れた。



Side 陽


「ちょ、蒲公英、引っ張らないで! 痛い! マジ死ぬ!」


「お兄様が埋め合わせはする、って言ったんだよぉ〜」


「うんっ! 覚えてる! だから、頼む、手放してくれ!」


「えぇ〜! そんなこと言うの? たんぽぽ傷ついちゃったな〜」


「だったら、俺に合わせて歩いてくれよぉぉぉ!!」


案の定の筋肉痛です、はい。

その所為で、ただでさえ歩くのもままならないのに、蒲公英さんは手を繋いだ左手を容赦なく引っ張ります。

拷問ですね、わかります。


「ぐおぉぉぉ……痛ぇ……」


時折止まり、左手は蒲公英さんが放してくれないので、余っている右手で内腿をさする。

マジで黒兎に乗るのキツイ。

内腿で挟みつつ、踏ん張るとか尋常じゃない力がいる。

だから、内腿と腹筋あたりが凄く痛い。

本当に、足腰をもっと鍛えようとつくづく思ったりした。


「大丈夫〜?」


「まぁ、なんとか、な」


蒲公英が顔を覗き込んでくる。

他の部位は別に問題ないしな。


「なら良かった! じゃ、お兄様、早く早く!」


「そんなに焦ることなんてないだろ?」


「いいから、いいから♪」


何がいいのかさっぱりだ。

まぁいいか。

蒲公英がいいならそれで。

……これで兄貴分らしくなれてるか?



えー、ここで現状の説明だ。

只今俺と蒲公英は街へと繰り出す途中。

前に約束した通り、埋め合わせをする為だ。

本当は、昨日に酷使し続けた筋肉が悲鳴をあげてたから、寝台の上から動きたくなかったんだがな。

しかしながら、蒲公英さんによって手を引かれ強制連行され、今に至ってるのだ。



   ★ ★ ★



きゃー、視姦されてるみたい、萎えるぅ〜。

(信じたくないことに)有名で名声の高く、人気者である母さん、すなわち馬騰の姪であり、性格的なものも相まってか、蒲公英は人気がある。

そんな蒲公英の隣に男――しかも手を繋いでる――、つまり俺のことが気にならないはずがない。


俺は、そ、そんなに見られたら、感じちゃう、な性癖の持ち主じゃないんで、発情なんてしないが、むず痒くなってくる。

無論、居心地が悪いという意味で、だ。

大体、こういった奇異の目で見られるのが一番嫌いなんだよ。

だから、あんまり往来を歩くのは好きじゃなかったりする。

かといって、――自分で約束した訳だし――蒲公英を無下には出来ない。


べっ、別に蒲公英の為なんかじゃないんだからねっ!

勘違いしないで、自分の言葉に責任を持ってるだけなんだから!


…………うん。

瑪瑙さんと真名交換したときの言い回しの真似、なんだが。

……男が言ったら、ただキモいだけだな。

もし金輪際、男でこんなようなことを言うような奴がいたら、問答無用で殴ってやるぜ。


おっと、話がずれた。

まぁ、視線を受けながらも、人間臭いところを半ば強制的に歩かされている。

もう両の指では数えられないほど連れ出されていたから、慣れてるつもりなんだけどさ。



   ★ ★ ★



「お兄様、こっちこっち!」


「ぅん〜?」


俺は、それはもう凄まじく振り回されまくっていた。

服屋に入っては物色し、甘味処に入っては冷やかし、また違う服屋に入っては……と、蒲公英がはしごしまくった為だ。

知り合いの人、特にご老体には、時たま声をかけたりもしていたのもある。

蒲公英は、お洒落したいお年頃でありつつも、基本いい子なのだ。

蒲公英可愛いよ蒲公英。


そんなこんなで、俺は黙ってついていっていた。



「ねぇねぇお兄様、似合う?」


「…………」


黄緑色の髪留めで横髪をまとめている。(原作でつけてたやつ)

おろした髪のままでも良かったんだが……うん。

なかなかどうして。


「これ買った♪」


似合ってるとは思ったけど、……そんな即決されるほどあっけからんに表情変えた覚えはないんだがなぁ。

つか、意外と高い。


「蒲公英さんや。……ちょっとここでまっててくださいな」


「えぇ〜!なんでぇ〜!」


「さっきのゴマ団子のおかげで足りません」


まあまあの味だったよ、うん。


「もう、しょうがないなぁ〜」


「そんな露骨な反応すんなよな。……多分、すぐに帰ってくるはず?」


「たんぽぽに聞かないでよ〜」


母さんに前借りを要求してくる予定だ。

でも、あの阿呆な母親の気分次第で交渉時間が激しく変わってくるからなぁ。


あの阿呆、マジで性格、つか性質が悪い。

聞けば、面白さ第一主義だということらしい。

俺を文官候補にしたの、7割が面白そうだから、だったそうだし。

あの真面目は3割だけだったと聞いた時は、俺の拳は無意識に振り上げられてた。

それに気付いた薊さんに羽交い締めされ、

「無駄じゃ、……諦めぃ」

と諭されたけど。


ハァ、……母さんに借り作るとか、気が遠くなるなぁ。

土下座のみで事足りればいいけどなぁ……。



   ★ ★ ★



Side 三人称


「遅い遅い遅ーーい!!」


蒲公英はほんの少し、ちょーーっとだけ怒っていた。

かれこれ半刻は経っているのにも関わらず、陽が一向に帰ってくる気配がないからだ。

自分の伯母、すなわち牡丹が面白いこと好きなことを蒲公英は知っているが、それを考慮し差し引いていたとしても遅いと感じていた。


そこに……、


「よう、爺さんよ……ただでさえクソ不味いラーメンに髪が入ってるたぁ、どういうつもりだ!」


「アニキの言う通りだ!」


「そ、そうなんだな。美味しかったけど、お金は払えないんだな」


「そ、そんな!」


……それはもう典型的なごろつきが表れた。

蒲公英がいる呉服店の向かい側の、老夫婦が営むラーメン屋でからその声は聞こえた。

蒲公英は、そこの老夫婦と気の知れた仲であるので、ごろつきの自作自演であろうことを確信していた。

だからこそ、この街の長の姪としても、一個人としても、見逃す訳にはいかなかった。


「おじさんたち、言い掛かりは良くないと思うな」


「おじさっ!? ……何が言い掛かりだって? これを見ろ!」


そこには、しっかりスープまで飲み干された空のどんぶりの底に、黒髪があった。


「(……うわ、わかりやすっ) でも、これにすぐに気付かないほうがおかしいんじゃない?」


「これでも退かないとは……言葉ではわからないみてぇだな。体に教えこんでやろうか?」


「すぐに暴力で解決しようとする。……これだから脳筋は」


蒲公英は、やれやれと言わんばかりに肩を竦め、リーダー格の(アニキ)を煽る


「お嬢ちゃん、いい度胸じゃねぇか。……表に出やがれッ!」



四人は大通りと呼べる、呉服屋とラーメン屋に挟まれた路地に出た。


(三人組を誘いだすことは出来た。後は、倒すだけ)


蒲公英はそれだけ考えていた。



   ★ ★ ★



その頃陽は猛然と駆けていた。

普段は眼帯で封じてある、黒目を開いて、だ。

実はその目、アフリカ人ばりの視力(5.0)を持っている。

右目だけでは見るに心許ない距離にあるものでも、左目では鮮明に見ることができる。

左目が封じてあるのは、そんな両目の圧倒的な視力の違いに、焦点を合わせるのに目の疲れが激しい等、いろいろ不便だという理由も含んでいた。


その曰く付きの左目によって、かなり遠くから、今の蒲公英の置かれている状況を把握していた。


蒲公英なら多分、そんじょそこらの奴には負けないだろうと、陽は思っている。

だが、陽にとって、家族の誰かに手をあげること事態が許せないのだ。

戦ならそうも言ってられない、と割り切ってはいるが。



「っ! チェストォォォ!!」


チビが蒲公英に特攻をかけていたのが見えた陽は、スピードを落とさず、蒲公英との距離にして約五歩の地点で踏み切る。

ジャンプ一番で蒲公英を飛び越し、そのままチビの顔面にドロップキックをお見舞いした。


「チビーーー!!!」


陽は無事に着地し、チビは吹っ飛んでいってしまった。


「蒲公英!」


陽はそれを一瞥し、すかさず振り返り左手を出す。

蒲公英は疑問に抱きながらもその手をとった。


「いくぞ!」


「わっ、わわっ」


「てめっ、逃がすか!」


蒲公英の手を引き、駆け出す陽。

いきなりのことに少し慌てるが、なんとか足を運ぶ蒲公英。

それを阻止せんとするアニキ。


「誰も逃げるとは、言ってねぇが――「ひぎゃっ!――あ゛」


突如陽は足を止め、背後から駆けてくるアニキに、右脚の後ろ回し蹴りを放つ。

それはアニキの虚を付けた……そこまでは良かった。

しかし、いかんせん突然だったので蒲公英は止まれず。

繋いでいた左手が前に引かれたことによって、腰のひねりと左脚を軸とした遠心力が十二分ついた踵がアニキの右側頭部に入ってしまった。

陽はちょっとだけ罪悪感を覚えた。



Side 陽


「大丈夫ですかー?」


正直マジで痛そうだな……。

ハッキリ言って、相当な威力だったから、死んでもおかしくはない。

いや、生きてますけどね。

しぶとい。


あ、なんかむさいのきた。


「あ、アニキの仇、なんだな」


「正当防衛だ。……つか勝手に殺してやるなよ」


「え?死んでない?」


「あぁ。だから金置いて、そいつらもってさっさとどっかいけ」


「わ、わかったんだな」


「次はねぇぞ」


金を置いてそそくさ(といっても、デブ体型かつ、のびてる二人引き摺ってるからかなり鈍重だが)逃げていった。


『うおぉぉぉお!!』

『やるな、兄ちゃん!!』


途端、賞賛の声があがる。

正直うるさい。

こういうの嫌いだし。


「ありがとね、お兄様♪」


「「ありがとうごぜぇます」」


「うーん、蒲公英でも出来ることに横槍いれただけなので、感謝される筋合いないんですけどね」


むしろ、邪魔したかもしれんしな。

終わりよけりゃ全て良しだが。


陽の、賊二人をいとも簡単にのした実力と謙虚ともとれる態度に、民衆からの評価もうなぎ登りに上がっていくのであった。



   ★ ★ ★



その後。


「お兄様」


って、うおっ。

腕を引かれたことによって、中腰みたいになる。

忘れていた筋肉痛がッ!

おぉう、パネェっ!!


そこに、頬に柔らかい感触とともに、聞き慣れない快音が耳に届く。

蒲公英の頬が若干紅く染まった顔が異様に近いんだがな。

何だったの?


「ホントにありがとね♪」





陽は語る。


「なんだかんだ、町に出るのが楽しみになっていった瞬間だったよ」


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