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第十話


基本的に地の文とかの呼称は、オリ主が真名を預けられたかどうかで変わります。



「で、なんでボクがアンタなんかに指南しないといけないのよっ!」


「知りません。母さんや薊さんに言いましょう」


「アンタ、母様達を侮辱する気!」


「誰もしてませんよ……」


(凄く面倒くさいです、ありがとうございました)


陽は閻行と共に、先日来た馬小屋近くの広場に向かっていた。

何故なら、閻行の言う通り、陽は馬術の指南を受ける為である。

さらに、閻行が不機嫌なのには理由があった。

それは、

「ボク、アンタのこと嫌いだから」

この一辺倒なのである。


陽と山百合、閻行が会って、そろそろ1週間が経とうとしているが、話をするまでには関係は進んではいるものの、まだまだ閻行との確執はなくなってはいなかった。

話といっても先の程度。

如何に距離が縮まっていないのかが容易にわかることだろう。

その為、なんとか二人の関係の修復を試みようとする牡丹、薊の計画が、今回の馬術訓練に繋がるのであった。


「黒兎〜!」


陽は、先日愛馬になったばかりの馬である黒兎を呼ぶ。

呼び掛けに応じ、すぐさま猛然と駆けてくる黒兎。

牡丹が言うに、繋いでおくだけ無駄、とのことで黒兎はほぼ自由なのである。

しかし、陽の命令によって馬小屋で大人しくしているのであった。



Side 陽


相変わらず速いな。

そんなことより、顔面すれすれで止まるのは止めようぜ。

マジで怖いから。

そんなことを訴えながら、首を二回ポンポン、と叩いてやる。

するとブルッ、と黒兎が鳴く。

(では、遠慮なくぶつかれと?)

と聞いてきた。

……何故にそう解釈だよ。

まあ、多分冗談だろう。

そう、思いたい。


「へぇ〜、仲がよろしいのね。……本当にアンタには見合わない良馬ですこと」


「ですよね〜」


閻行さんは男を下にみる節があるっぽい。

自分より弱い癖に威張ってる奴らがいるというのが癪に障るのだろう。

まぁ、その点に関しては俺には関係ないけどな。

弱くはねぇし、威張ってねぇ。

むしろ、下手下手に立ち回ってやってる。

でも、その姿勢が嫌いっぽいから、本当にどうしようもないんだがな。

……ま、黒兎が俺に見合ってないってのも事実なんだが。


「何笑ってるの、気持ち悪い」


おもっくそひいていやがる閻行さん。

知らず知らずのうちに笑みがこぼれていたらしい。

……自分でも気持ち悪いと思ったんだから世話ねぇぜ。


「とりあえず、乗りなさい」


なんて無茶ぶりだよ、おい。

ど初っぱなからなんのコツとかもなしですか!?

指南者として、それはどうさ。


「百聞は一見に如かず、よ。さっさと乗りなさい!」


なーんて高圧的なんだろうか。

残念ながら、俺は被虐趣味なんてないぞ。

むしろ、こう、なんというか。

閻行さんみたいな高圧的な奴とかだと特に――


「さっさと乗れって言ってるでしょうが!!」


――屈させてやりたい。

どうやら、俺は嗜虐志向、Sらしい。

なんて、アホな思考をしている暇なんざなかった。

ったく、乗ればいいんだろ、乗れば。

馬銜と呼ばれる馬具を黒兎の口につけて乗ってみせる。


「(ふん……格好だけは一丁前ね) しっかり内腿を使って、しめあげる気持ちで力をいれなさい! 腰掛けるようではダメよ!」


「こう、ですか?」


何故だろう、凄ぇしっくりくるんだが。

懐かしい、訳じゃないんだか、そんな感じ。

どうやったら上手く乗れるのか、そういうのが身体から湧き出る感じだった。



Side 三人称


「黒兎、ちょっとおもいっきり暴れてくれる?」


「ちょっと、何言って! ……うそ……」


閻行は、暴れる黒兎の上に平然と乗り続けている陽に絶句した。

通常数ヵ月、下手をすると一年以上かかることを、たった1日で平気でやってのけたのだ。

驚いても無理はないだろう。


(……そっ、そうよ、黒兎って子が手加減してるだけよ!)


だが、閻行はそのような事態を認めるのを潔しとしなかった。

いくら家族の面々が認めた奴といえど、閻行の前にいるのは、ずっと蔑んできた男。

簡単には認めるわけにはいかったのだ。


「いやっ、ちょっ、まっ、こくっ、止まってぇぇぇえ!!」


(限度ってもんがあるだろ!)


そう心で思えば、黒兎はゆっくりと身体を動かすのを止める。

意志疎通って、素晴らしい。


(つかやっべぇな、明日内腿絶対筋肉痛だな、こりゃ)


数分動いてもらっただけだが、既に脚は悲鳴を上げている。

かなりの力を使ったのだろうと思い、明日の自分の体調を心配した。

その中で、ふと思った。


(そういえば、ちょっとした助言以外、何も教えもらってないんだが)


しかしながら、これについては陽が悪い。

馬術に限らず、何に対しても教わる上で過程と段階がある訳だが。

陽は知らずうちにそれら全てを通り越して、最終段階までクリアしてしまったのだから。

それを知らぬ陽は、さらに閻行の神経を逆撫でする。


「閻行さ〜ん、教育放棄しないでくださ〜い」


「〜〜〜〜! ……ないわ」


「はい?」


「アンタに教えることなんて何もないわ!」


(え、帰っちまうの!?)


心底憤慨した様子で帰っていく閻行に、何か怒らすようなことしたか、などと陽は考える。


(今更存在自体に、って言われても困るけどな)


そう思いつつ、陽は黒兎をゆっくりと走るよう指示する。

人の感情の起伏にはたまに疎い陽なのであった。



   ★ ★ ★



場所は移ってある回廊。



Side 閻行


「なんなのよ、アイツ!」


なんだか無性にイライラする。

下手に出てきて、へりくだった胸くそ悪い女々しい奴かと思ったら、たまに男の癖に意外な一面を見せてくる。

今回もそうだ。

馬をたった1日にも満たない、あの短時間で乗りこなす?

……あり得ない。

そんなことあってたまるか!


「どうかしたのか?」


「あっ、母様……」


うわ、ヤバ……!

よりにもよって母様と会うなんて……。

匙投げたってバレたら怒られる!


「またあやつと何かあったか?」


「……え?」


母様は、優しい言葉で問いかけきた。

……怒って、ない?


「悩みがあるのじゃろ? それも陽絡みの。……全部顔に書いてあるわ」


「うっ……」


母様は凄い。

分かり易いのもあったかもしれないけど、表情でどんなことを考えているのか、大抵わかってしまう。


「一体、儂が何年お主の親しておると思っておるのやら」


「はいっ! 今年で十年目となりますっ!」


ハッキリとボクは答える。

この十年は、ボクの誇りだから。


「もうそんなになるか……時が流れるのは早いのぅ」


「十年なんて、あっという間でした」


「ほとんど代わり映えのない日々だったからの……と、そうではない!」


話を拗らせるでない!

と言われた。

今の、ボクのせい?


「まぁ兎に角、話してみよ」


ボクはとりあえず、相談にのってもらうことにした。

気概なく話せる唯一に近い母様に、出来事も、思ったことも全て話した。



「ふむ。……羨ましかったのじゃな」


「なっ! 違っ「わないぞ」……」


「その才に嫉妬してしまった。……だから認めたくない。そうじゃろ?」


「…………」


図星だった。

そして迂闊だった。

母様は聡明だから、ボクが心のどこかで考えていたことなどわかってしまう。

母様に話したのは間違いだったかもしれない。

ある意味間違ってなかったかもしれないけど。


「まぁ、非凡の身である癖に、あやつは堂々ともしないからの。さらに、自分が非凡であるのをわかってないことがなお性質が悪い」


母様もそう評価するの……。

なんだかムカつく!


「これこれ、嫉妬心剥き出しにするでないわ。……お主はお主、奴は奴じゃ」


少しむくれていると、頭を撫でてくれた。


「お主は儂の大切な娘。そうじゃろ?」


「はっ、はい!」


(因みに。

薊は、そんな愛らしい一面を自分だけに見せる娘のことが、堪らなく可愛いと思ったりしている。

結構な親バカぶりである)


「うむ、よい返事じゃ! そうしたら瑪瑙、お主は陽のところへ戻れ」


「えー」


「えー、ではない 儂と牡丹の頼み、聞けぬか?」


「うぅ~、わかりましたよぉ~」


母様と……牡丹様、の頼みだから、不承不承ながらやることにする。

せっかく親子水入らずだったのに、水をさされた気分だわ。



陽は、自分の知らぬところで閻行の――些か理不尽である――怒りをかっていた。



   ★ ★ ★



変わって広場。



Side 陽


相も変わらず、黒兎を走らせてる。

まだまだゆっくりとした速度だが、大分慣れてきたな。


「暇だなぁ〜」


何やりゃあいいのかわからんから、ぶっちゃけ暇。


「誰か暇潰し相手になってくれる奴はいない……」


あ、ヤバ


「ここにいるぞーっ!」


お約束通り蒲公英が表れた。

こういった問いかけをすると、どこから聞きつけたかわからんが、ほぼ確実にやってくるんだよ。

……凄くね?


「…………」


うん、現実逃避は止めよう。

……ヤバいって言ったのは違うんだ!

ほら、あれだ、一応訓練中だから遊んではいけないと思っただけであって。

そっ、そうだ、言葉のあやって奴で……!

決して悪意があった訳じゃ――


「どうかしたのお兄様?」


「ごめんなさい」


――すかさずの謝罪だ。

蒲公英は何が何だかわかっていない様子。

俺の罪悪感からの行動だから、わかったら凄いんだけどさ。

ふう、危なかったぜ……。


「……って、えぇぇ! お兄様、もう馬に乗れる様になったの!?」


今頃気付く?

っていうか。


「そんなに驚くことなのか?」


「う、うん」


マジか。

馬術、ってのは案外難しいもんなんだな。

でも、半日でここまでできちまったぞ?

俺が凄いのか?

うん、やるな、俺。



「さて、続きをやるわよ!」


自分褒めてたら、さっきより不機嫌二割増の閻行さんが帰ってきた。

一度放棄したのに、平然と戻ってるって、どうよ。

ま、反論は認めない空気だから、黙って従うことにするけど。


「ごめんな蒲公英、呼んでおいて。埋め合わせは今度するからな」


「うん!」


さてと、やりますかねー。





陽は語る。


「このとき、自分で言ったのを後悔するとは思わなかった」


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