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第九話


今更ですが。

鳳徳の鳳は本来、广に龍です。


でも、ひなりんもこの鳳だし、いいか、みたいな考えです。




「えーと、私は武官として山百合さんの部隊に入る予定だったと思うんですけど?」


「そうよ」


困惑した様子で質問する者に、淡々と答える。

質問者を見る素振りもない。


「じゃあ、何故太守お側仕え兼侍女みたいなことをさせられているのでしょうか?」


「侍らせておきたいから?」


「何故に疑問形ですか……。で、最も聞きたいのは、この名札の置かれた机と、そびえたつ書簡の山はなんなのですか!?」


「貴方専用の机と、仕事だけど」


「見りゃわかるわ! じゃなくて、どうして文官みたいなことをさせられそうになっているのかを問うているんです!」


困惑から怒りに一瞬変えるが、それを無理矢理抑えて、あくまで丁寧語で書簡の山を指差して問い詰める。

それに答える者は、満面の笑みを浮かべ、親指をグッと上げてみせた。


「貴方が文官候補だからよ♪」


「その幻想をぶち壊す!」


書簡の山にパンチする。

勿論の如く、大きな音をたてて崩れさった。


「あ、自分で倒したたのは自分で責任持って片付けてね」


「ち、ちくしょおぉぉぉ!!」


今にも泣き出しそうな声色で、しぶしぶ山を積み直し始めた。

今までの一連の流れを演じたのは、言わずもがな陽と牡丹である。

いつも、暇な時間は侍女紛いなことをやらされていた陽であったが、今日初めて牡丹の政務室に来ると、昨日までなかった自分の名入りの机に気付いた。

かねてからの疑問であったこと――何故侍女紛いをやらされていたのか――を共に聞いてみれば。

なんということでしょう、自分の知らないところで役職が増えているではありませんか。

陽はそんな状況を打開する一手を打とうとしたのだが、あっさり返された為、惨めに片付けをしているのであった。



Side 陽


どうしてこうなった!!

何時の間に文官候補になったんだよ。

何時もの一連の流れは。

母さんのお茶を淹れて、母さんからの質問に適当に答えて、ただそれだけの……あっ。

……思い返してみれば、母さんは政治的な質問しかしていなかったっけ。

さらに、たまに書簡まで見せて聞いてきたこともあったような……。

…………。

…………うん、俺か。


そっ、それでも一言あるってもんでしょ、普通!


「どうせひと悶着あるのだから早いとこ終わらせたかったのよ」


だから心を――


「それに、解るでしょ? うちは文官が少ないのよ。……一人でも多く良い人材を集めるのが、太守の務めではなくて?」


――ぐぅの音もでません。

流石と言うべきなのか、何と言うべきか。

……真面目な母さんに感服したぜ。


「ほらっ、ぼーっと突っ立ってる暇なんてないわよ!」


「うぃ、了解」


丁寧語は、まぁいいか。



Side 三人称


(面倒くさがりだけど、根は素直なのよね)


黙って席に付いて、仕事を始めだす陽を見て、牡丹は思う。

だからこそ、有無を言わせないように言いくるめたのだが。

その行為が、陽を騙しているようで牡丹は心が痛かった。


しかし、自分は太守。

私情をはさんだ事を言ってはいられない。

文官の数が少ないことは、死活問題だからだ。


(陽はいろいろな面で頭が回るから、きっと解ってくれる……。解って、くれるっ)


だがやはり、内心ではとても歯噛みしたい気持ちだった。

無理矢理に自分に納得させようと言い聞かせても、やはり葛藤は避けられないのだ。

牡丹という女は、どうしようもなく母親だった。


(それにしても、さっきの陽の呆け様はなんだったのかしら?)


嫌なことをこれ以上考えることを止め、ふと思ったことを心で呟く。


(ふふっ、もしかして、母さんに惚れてたり……?

まぁ、冗談か冗談じゃないかは別にして、もっと母さんのかっこいいとこ見せちゃおうかな♪)


牡丹はそれ以上の思考を切り上げ、政務モードの頭に切り替える。

そんな母親の空気の変化を横目で見た陽は、一層真剣に取り組むことにした。


二人が没頭すると、そこには、さらさら、と筆を走らせる音と、時折書簡を積む音だけがするという、異常な空間が形成されていた。

後々聞けば、二人のとんでもない集中力に、侍女たちだけでなく、他の文官たちも入るのをためらったという。



   ★ ★ ★



Side 陽


二刻後、そんなはりつめた空気が霧散する。


「「おっ、終わったぁ!!」」


いや〜、やっと終わった。

俺は一山、母さんは三山……とんでもねぇです。

いや、初めてだよ!?

かなりの健闘はしたと自分でも思うんだけど!

すげぇ集中力だったと自分で褒めてあげたい勢いなんですが。

にしても、大分時間経った気がする。

その証拠にほら、日が傾いてきて……あ゛っ。


「あ、あぁぁぁ!!」


そういえば、本日、山百合さんの部隊の召集がかかってたっけか……!

せっかく、最近改めて真名の交換をしたというのに、速攻で信用がた落ち。

……オワタ(´・ω・`)


駄目だ鬱だ死の――

……いや、こんな弱気でどうする!

正当な理由があったのだ!

これを使わない手はない!

俺は、断固として戦うぜ!


さて、と。

……死地に赴くか。


横目で見えた母さんが、どこか笑っているように見えたのは気のせいだろう。



   ★ ★ ★



修練場に来ると、たくさんの兵隊さんがいました。

こんなかにはいるのか。

……やだなぁ、出来なくはないけど、集団行動とか苦手なんだよなぁ、俺。


そんなことを思いながら歩いていると、真打ちが登場した(汗)

いやまぁ、ずっと正面にいたんだけどさ。


「……これはこれは一刻ほど前の召集に応じずそのくせそのまた一刻後に急ぐ素振りもなく平然とやって来られる胆力の持ち主の馬白様ではありませんか」


「すいませんしたーー!!」


普段の寡黙さに背反して、息継ぎなしで皮肉る山百合さんに恐れをなした俺は、その場で土下座をし、頭を垂れる。

普段はお淑やかな人がキレると怖いってよくあるよね。


(因みに。

陽が起立状態から土下座までの時間は、約0.5秒。

土下座に入るスピードにタイムレコードをつけるとしたならば、今のところ、1〜10位まで全て陽の名で埋まることとなる。

そう今のところは、だ。

この後に、自分より素早い土下座をこなす君主が現れることなど、陽は思ってもみなかった。

……思っていたら逆に凄いが)


閑話休題



言い訳もなく、誇りもなく、さりとて臆面もなく。

それが俺が土下座する時の三大信条さっ!

いや、表に出さないだけで、バリバリにびびってます、はい。

そんな俺に何を思ったか、一つ爆弾を落とした。


「……いいのですよ、牡丹様から通達はでていましたから」


…………。

…………えっ?

……ふぅ。

オーケー、もちつけ、俺。

よし、深呼吸だ。

吸って、吸って、吸って……。


「な、ななな、なんですとぉー!! 土下座の意味ねーじゃん! なんで怒ってます雰囲気醸し出してたかな!? チクショオォォォ!! だから母さん笑ってやいがったのかぁぁぁ!!」


はい、一気に吐き出す!

この、やり場のない感情に、頭を抱えて、かぶり振ってしまった。

周りから見ればとても痛い人に見えるだろうが、気にしねぇ。

……完ッ全に騙された……!


怒りよりも脱力感が半端ねぇ。

騙された自分に溜め息が自然にでるぜ。

これを考えたのは山百合さんじゃなくて、あんのどアホ母親だろう。

野郎じゃねぇが、ざけんな、コノヤロウ!


「……ぷっ……くっく……」


っていうか、山百合さんの肩が忙しく動いている。

……笑ってる?

あの山百合さんが、か?

表情筋が本当に機能してるかわからない人が?

いや、俺の前だけ無表情なのかもしれないけどさ。


見上げつつ覗き込むと、必死に堪えようとしていながらも、笑みがこぼしている山百合さん。

……うん。


「可愛いな」


あ、声に出てしまった。

だけど、それくらい可愛いかったんだよ。

まぁ、日頃の面持ちとの差、所謂ギャップ(だったか?)というものがあったりはするが。


「……ふざけたことを言わないでください」


そう言って、いつもの顔に戻ってしまう。

別にふざけてる訳じゃなく、至極真面目なんだけどなぁ。

元々の顔立ちは、可愛いというより綺麗って感じ。

だけど、今のちょっと幼さも残った笑顔には可愛さがあった、いや、ホントに。


「……本日あなたのやることはありませんですがしっかり見ておくように」


まるで逃げるように、兵たちに号令をかけにいってしまった。

あらら、残念。

まぁしかし、貴重なものが見れたな。

今日は慣れないことしてとても疲れたんだ……役得として貰うぐらいいいだろ?

ま、答えは聞いてないけどね。



   ★ ★ ★



Side 山百合


牡丹様や薊様には何度も言われたことはあった。

私の考える男、の中では、あるたった一人の男性だけ、言って頂いた人がいた。

自覚がありますが、元から愛想が無かったらしく、可愛いと言ってくれたのはその三人と、変態さん達だけでした。


……綺麗だけど、可愛げないよな。

……そうだな、厳しいっつーか、怖いっつーか。

……冷たいんだろ。

……でも、その冷たさがまた。


他の男からは同じようなことを何度もいわれました。

流石に最後の人みたいな人たちは殴っておきましたが。

毎度恍惚とした表情で倒れていくので、根深く記憶に残っています。

その総評により、氷帝、白馬の女王様という別名がついてしまいました(乗っている馬は白なのでわかりますが、女王というのはよくわかりません)。

ついた当初は別段気にも止めませんでしたが、牡丹様が「かっこいいじゃない」と言うので、今は好きだったりします。


とにかく、私の中でのたった一人の男性が亡くなって十余年、私を可愛いと言った者がいました。

新しく家族になった子です。

最初に会ったときは、少々戸惑いました。

あの方に容姿が似すぎていましたから――髪は白く、目付きは悪かったですが。

だから、本能で男を嫌う瑪瑙ちゃんと違って、敢えて距離をおきました。

そうして、人となりを見ようと思ったからです。


結果は、合格です。

真名のように、輝いていて、イキイキとしていました。

しかし、無邪気さの中に冷徹さも垣間見えたのも確かです。

あの子の武は特殊で、冷徹さの集積といっていいほどに、目が、剣筋が、冷たかった。

そこに惹かれ、認め、そして真名の交換さえしました。


そんな子が、牡丹様の手のひらの上で面白いように踊るものだから笑ってしまいました。

そんな最中に不意に言われました――可愛い、と。


あの頃はまだ十代で、慣れない扱いに戸惑いと恥ずかしさがあったのだと思っていました。

ですが、違いました。

慣れなどありませんでした。

柄にもなく焦りました。

とても恥ずかしかった。

でも、どこか嬉しかった。

だから、取り繕いました。

赤面していないか、それだけが心配でした。

そして、逃げました。


あれは、様々な感情からの逃避でした。


兵の指揮を名目に逃げる最中、忙しく辺りを確認しました。

逃げる私を自身で滑稽だと思いますから、見られたくありませんでしたから。

しかし、それ故に他に見ていた方の存在に気付いてしまいました。


「……う……ぁぅ……////」


恥ずかしい。

顔が凄まじいほどの熱をもっているのがわかります。

結果を見るべく、策を考えた人が近くにいることなど、考えればわかることでした。


…………。


くっ! 陽君、許すまじ!



Side 三人称


なかなかの逆恨みもいいところなことを考えていたが、その後すぐに山百合は修練場全体に聞こえるように指示を飛ばした。

どうやら将モード切り替えることで、無事に熱を冷ませたようだ。


陽を陥れ、かつ二人の様子を伺いにきていた者、すなわち牡丹は呟いた。


「あとは、瑪瑙ね」


これがまた大変なのよねぇ……、と嘆息した。





陽は語る。


「このときから、長い間ずっと悪寒が止まらなかった」


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