生存であい 後篇
彼女のお陰で私は生き延びることになった。
病院の人たちは不思議がっていたということは科学の敗北を容認し、オカルトの勝利と肯定を意味した。生き残ることができれば万々歳だ。理屈なんてどうでもいい。これからは私の前には明るい未来が待っている!
「……と、おもうじゃろう?」
ナナちゃんの性格はひん曲がっていた。
「支払いがまだ終わっておらん」
私は自分の財布の中身をのぞいたが、分厚い月刊誌が3冊程しか買えないような金額しかもっていなかった。
「違う。金など要らぬ。私がほしいのは体だ。……なんだ?その貞操をも守りますって反応は?私は同性愛者ではないぞ。何、簡単だ。今から私とゲームをしてもらう」
どうせ拒否権などないし、私は命の恩人であるナナちゃんの提案ならば何でも受け入れる準備があった。 さあ!思いのたけを私に打ち明けるといい!
「ああ、そういうことなら話は早いのだがな。……ぬし、あれじゃな。アホの子じゃな」
なにおー。
「年寄りらしく偉そうなことを言ってやろう。こういった契約はな。まず初めに契約条件やら何やらをしっかり把握してからやる方が良いぞ。ぬし、こちらのからの条件を聞くこともなく『はやくたすけて~』とばかり言うのだものな」
だってどの道、拒否って選択肢なんかなかったし、ナナちゃんみたいな実体のない子が相手だったらどちらにせよ私の生殺与奪権は握られているようなものでしょ?
「……ふむ、一概に馬鹿という訳ではないが…………思い切りが良すぎるな。まぁ、いい」
スッと眼を閉じると、ナナちゃんは次にいやらしく笑い、眼を開けた。
う、ドSの予感……。
「ぬしの体が元気なのはあと二年ほどだ。二年後には元に戻る」
はぁ!?
「話は最後まで聞け。今から始まるのは私とお前の勝負だ。その勝負が終わるまでに勝手に死なれると困る。そういった意味での一時的な延命だ。一時的で二年も長生きできるんだ。これだけでも首を土にこすりつけて感謝するレベルだ」
この葵、どのような勝負に設けて立つ所存にございます。
「うむ、いい心がけだな。では、ルール説明を始めるぞ」
するとナナちゃんは指を三本立てた。
「一つ、お前は二年の間に他人の願いを12回叶えること。願いの質は発した人間の人生を変えるほどのものでなければならない」
ええ~、なんか漠然とし過ぎているんですけど……。
「判断は私がする。これについては信じてもらうしかないな」
私が頷くと、ナナちゃんは指をおった。
「二つ。私がそれに対して全力で邪魔をする。勝負だからな」
邪魔するのぉ!?
「当たり前だ。勝負といっているだろうが」
あ……。
「なんの『あ……』だ?」
いや、ナナちゃんの一人称って『私』なんだって……。
「ええい。茶々を入れるな」
照れたようにナナちゃんは眼をそらし、指を折る。
「三つ。…………」
どうしたの?
「いや、なんでもない。三つ。勝負の後は後腐れの無きように」
ノーウェイだね!
「ノーサイドだろうが……」
かくして私達の血で血を洗う抗争が始まったわけだが、半年過ぎて私はせいかゼロ。優勢なのはナナちゃんだ。どうにも彼女が何かしているらしいということはわかるのだが、私が人を助けようとすると事態は悪い方へ悪い方へ進む。
ただ彼女自身、根は悪いわけではなく、単なる人助けまで邪魔はしてこない。しかも、私が小さな人助けをしていると『こんなことしている暇ないだろ?』とツンデレのようなセリフまで寄こしてくれる。
命を救ってくれた人(?)が悪い人の訳ないよね!
まぁ、先日もそんな小さな人助けをしていると妙なトラブルに巻き込まれ(そのことに関してはナナちゃんは複雑な表情を浮かべていたから本意ではなかったのだろう)いい人と会うことができた。
ちょっとばかし過激なのは気になるけど。
そう言えば彼、何か妙だったな。
老成しているというか……同い年にしては擦り切れている感じがするというか……。
後、探している時に妙に人に揺さぶりをかけようとしていたのも気になる。
そういうの、見える人なのかな?
「くくく……」
わっ。びっくりした。人のモノローグを読まないでよ。
「いや、鋭いと思ってな。アホは鋭いというのは良く聞く話だが、実例を目の前にすると実際に感心してしまうものだ」
私がジロリと睨むとナナちゃんはそれがさも楽しいと言わんばかりに低く笑った。
「アホは無駄なものが雑音にしか聞こえないから確信がわかるのか?」
アホアホ言わないでよ……。
「そう、しょげるな。褒めている」
溜息。
「で、ぬしが鋭いという話だがな。あの男はターゲットだぞ」
ターゲット?
「……やはりぬし、アホだな」
むきー!
「そう喚くな。あの男、胸の内に願いを抱え込んでいる」
…………。
「なんだ?その胡散臭いものを見るような眼は?」
いや、何でここに来て私に助言を?今までそんなこと一度もなかったじゃない。
「興味……だな。おっと、嫉妬するなよ?」
私は普通に異性が好きだ。
「とにかくしばらくあの男の周りをハイエナのようにちょろちょろしてみろ。面白くなるかもしれん」
私は彼女の言葉に従うことにした。
私も興味がわいたのだ。
ナナちゃんが興味がわいたという犬飼人太に。
あの善人に。
あの他人の不幸をまるで許容できない人間に。
私は、あの人の傍に居たいと思ったのだ。