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翌日けっか 葵

「学校はどうするの?」

 もう昼時だ。今更、学校に顔を出しても面倒なだけだ。

「行かないよ。結構、時間もたつし……ほら、せっかく会ったんだからもう探し始めよう」

「そうだね」

 意外なことに彼女はあっさりと俺の提案を受け入れた。彼女のようなタイプは非難してくるかと思ったのだけど。

「ところで人太君。一緒に探してくれるのは嬉しいんだけど何かあてはあるのかな?」

「地道に張り紙だな」

 俺は鞄から夜なべして作ったポスターの束を取り出す。昨日、印刷しておいた迷子犬の情報募集ポスター。犬として認識されるかは不安だが、犬探しなんてこうして地道にやるしかないだろう。

「おお、綺麗にできてるね。いいよー。かわいいよー」

 この幻想世界にしかいなさそうなクリーチャーの顔面を彼女は本気で可愛いと思っているらしい。

「とりあえずこいつをそこら辺に張っていこう。元々いた所からそれほど離れていないと思うから、そのおばあさんの家を中心にぐるりとね」

「そうだね。これもあるからきっと見つかるよ」

 彼女はそういうと、両手に握った針金を見せびらかすが、俺はそれを取り上げた。

「ああ~、返して、返して」

 彼女はぴょん、ぴょんと俺が頭上に掲げた針金を取ろうとするが届かない。

「こんなもので見つかる訳ないでしょうがっ!」

「私、霊感強いんだよ!」

「今までの結果は?」

「それは……」

 彼女は飛び跳ねるのをやめて、うなだれる。

「こういうのは地道にやっていくしかないんだよ」

「張り込みと聞きこみか!あんパンと牛乳を用意しないと……」

 結構形から入る娘なんだな。

「馬鹿言ってないで行くぞ」



 

 お互いに私服と言うこともあり、誰も俺達のことを気にも留めなかった。

 つくづく制服で家を出なくてよかったと思う。妹と両親の目を逃れて家を出るのは少し骨が折れた。

「人太君、老け顔だもんねぇ」

「ほっとけ」

 ポスターを電信柱に張り付けながら、道行く人にちょこちょこ話を聞いて回る。皆、あの写真を見た時の反応は似たり寄ったりだ。皆、まず犬であることを疑っていた。下手をすれば悪戯で通報されるレベルである。電柱への張り紙だって無許可だし。

「ほら、次行くぞ」

「まってよ!」

 彼女はとても快活な少女だ。

 行動や言動がバイタリティに満ち溢れている。

 少なくとも俺は彼女に対してそんな第一印象を抱いていたし、これからもそれが動くことはないだろう。こういったパートナーは横に居ると心強い。俺にはない明るさを持っているからだ。

 俺にこの明るさとバイタリティがあれば、もっと他のやり方や見方もできるだろうか?

 ここまで考えて首を横に振る。

 気にしても仕方がない。

 結果は既に提示されている。

 俺の人生観は既に決定づけられていて、俺はそれにのっとってあらゆる行動を決定した。

 今更、変えられるものか。




夕刻となっても、大方の予想通り、犬は見つからなかった。

 あんなみょうちきりんな犬が人の目に着けば何かしらの騒動になっていてもおかしくない。

「みつかんないねぇ」

「そうだな」

 彼女と俺は河原に寝そべって休憩していた。

「……おばあちゃんにはすぐ見つかるって言ったのに」

 ぼそり、と。注意して耳を傾かなければ聞き逃すレベル。

 彼女の呟きは落胆よりも悔しさがにじみ出るものだった。

「なんでそんなに気にするんだ?」

 妙に気になって問いを投げると、彼女はびっくりしてこっちに顔を向けた。

「聞こえてた?」

「まぁ」

「なんと破廉恥な!」

「何言ってんだ!わけわかんねぇ!」

「人太君は盗聴の才能があるね」

「ば、ばかいうなよ……」

 実際、盗聴器を仕掛けたことがあるので動揺してしまった。

 彼女はそんな俺を見てケタケタと笑うと、天を仰いで息をついた。

「だって、おばあちゃんには残された日は少ないんだよ。愛犬とは一日でも長く一緒に居てほしいじゃない」

「……病気なのか?」

「元気だよ。すごく健康体。今日も柿を取りに行っているんじゃないかな?」

 俺はガックリと肩を落とす。デリケートな話なのかと思い、気を使おうとしたが、無駄だった。

「そういう態度は感心しないなぁ」

「……そう言われてもな」

 俺がそういうと、彼女は立ちあがり、寝そべっていた俺の上に覆いかぶさるような体制を取った。突然のことで俺は反応しきれない。俺の頭の両サイドに彼女の手が置かれ、顔が至近に迫る。

「人はいつか死ぬよ」

 彼女の目が俺を離さない。

「いつ死ねば人は納得するの?」

「……さぁ?」

 考えたこともなかった。俺だって十代の若造だ。死を考えるには早すぎる。学校の道徳でそういった授業はあったが、早くから理想論だと切って捨てていた。

「毎日納得して生きていれば、きっと安らかだと思う」

「人それぞれだろ?」

「それでも私はそう思う。おばあちゃんは、私達より、早く死ぬ」

「…………わかった」

 俺がそう答えると彼女は満面の笑みを作って俺の上から体をのけた。

 いい匂いだったな。

「明日は学校行きなよ?」

「ああ」

 彼女の手を取り、体を起こす。

「それじゃあ、また明日の夕方にここで」

 俺は地面に向けて指を指す。

「おっけぃ」

 彼女はサムズアップして応答した。

 俺はそれを見ると手をあげてその場を去ろうとした。

 彼女は命を大事にするたちのようだ。

 それに関してはとてもいいことなんだろう。

 それにしても……。

「過剰反応だな」

 女の声に、葵の声に思わず振り向く。

 夕闇の下、彼女は別人のようだった。

「また明日」

 俺の本音を言いあてた彼女は薄く笑い、俺に背を向けた。

多分、これからこっちは不定期に書くことになると思います。

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