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ファミレスかいわ

「正直信じられない神経しているね!」

「奢っているのにひどい事を言う」

 俺が助けた少女、神楽葵は同い年だった。彼女の小柄な外見からして歳しただろうと思っていたが、アテが外れた。

「大体、俺のことを非難している割によくも食う」

 俺達がいるのはファミレスの一角。そこでとりあえず彼女のことを落ち着かせようとした。優しく奢るともと言った。ただ彼女が動揺していたり、落ち込んでいたりしていたというのは全くの誤解で、実のところ俺の介入方法に驚いていただけだった。

「あんな目に会った女の子をいきなり食事に誘うなんて大胆すぎるよ」

「ほっぺたにコメ粒つけてながら言うなよ。説得力皆無だぞ」

「え?どこ?とってとって」

 葵の要望に応えてついていたコメ粒を取ってやる。

「ところで神楽さんは……」

「葵でいいよ。仲のいい人は皆そう呼ぶよ」

 随分と人懐っこい娘だ。

「葵ちゃんは何であそこに?」

「犬を探していて」

「犬?」

「うん。おばあちゃんが飼っていた犬。居なくなっちゃったんだって」

「へぇ。随分と可愛い犬だったんだろうね。君のおばあさんの飼っている犬は」

「ううん。私のおばあちゃんじゃないよ。今日、知り合ったおばあちゃん」

「…………そう」

 説明が足りなさすぎる!

「可愛いおばあちゃんがね。大事に飼っていた犬なんだ。これは見つけてあげなきゃって思うじゃない?」

「頼まれたの?」

「うん」

「……無償で?」

「うん」

 驚いた。

 絶滅危惧種だ。この娘。

 本気で言っている。俺たちの世代になると自分のことしか考えていないやつが大多数なのに。

「はかどってる?」

「いやー、難しいね。わんちゃん一匹って人間の半分もサイズないから。大型犬なら探しやすいのに。その子は小型犬だからね」

 色々と突っ込みたいが、スルーした。

「手掛かりはあるの?」

 葵は懐から一枚の写真を取り出し、俺に提示した。

「この子だよ」

「…………………………………………………………………………カワイイネ」

 色々な感情を全て粉砕してなんとか言葉を絞り出した。

 写真に写っている犬は可愛いとは言い難い、クリーチャーのような外見をしていた。

 まず目が左右で別々に明後日の方を向いているし、鼻はねじ曲がっている。口元は醜くつぶれ、その半開きの口からはよだれがだらだらと垂れている。犬種は……パグか?別にパグをクリーチャーと思っているわけではないが、一番近いのは何か?と問われれば辛うじてパグと言えなくもない。

「かわいいコーギーでしょう?」

「コーギー!?顔面スプラッタのこいつが!?」

 思わず叫んでしまい、口に手を当てる。

「そんな言い方ないんじゃないかなぁ」

「あ、ああ。そうだね。ごめん」

 写真を見つめながら、なんとか言葉を繋げる。

 この容姿なら簡単に見つかりそうなものだ。この犬は得をしている。そう考えよう。

「この犬がいなくなったのはいつ?」

「今日だよ。保健所にはもう問い合わせ済みだし、写真も置いて来たから、見つかったら連絡してくれるって」

 あの見てくれなら見間違いなんて起こらないだろう。保健所に処分されることは避けられそうである。道行く人に討伐されそうな心配はあるが。

「そっか。他にアテはあるの?」

 俺の問いに葵ちゃんは困った顔をする。

「それが全くなくて……」

「じゃあ、俺も協力するよ」

 俺がそういうと葵ちゃんの顔はパッと明るくなり、俺の手を取ってぶんぶんと振りまわして喜びを表現した。

「ありがとう!うれしいなぁ!一人で限界感じていたんだよね!……でも、なんで協力してくれるの?」

「困った人は助けましょうっていうのは幼少時代からみんな教えてもらっているだろ」

「そっか!うん!そうだよね!」

 これは本心だ。人がたとえ悪意で立脚しているといっても、善意が表立っている人だっている。偽善とかなんとか言って手を貸さないのは単なるものぐさか、他人との関係を持ちたくない人、あるいは『偽善者を叩く俺カッコイイ』がしたい人だけだろう。

「や~、優しいね。君」

「…………そーかい」

 つい返事に皮肉の成分を混ぜてしまう。

「?」

 葵が怪訝な顔をする。そして目線が俺の横、まるで誰かが座っていますといった風に動いた。

「どうしたの?幽霊でもいるのか?」

「ん~。君、優しいって言われることに慣れてないの?」

「まぁね」

 会話をはぐらかされるように言葉を紡がれる。こうされると俺の力は無力だ。

「どうして?」

「色々あるんだよ」

「……そっか」

 何も釈然としてはいないようだが、葵は引いてくれた。

 その後、お互いにメルアドを交換し、明日の休日に会うことにする。

 丁度、友人と遊ぶ約束をしていたが、きっと手伝ってくれるはずだ。




 犬飼君が去って、一人夜の道を帰っている時、彼女は語りかけてきた。

『どうして送ってもらうことを辞退した?今日、あんな目に会ったのに』

「犬飼君に悪いよ。それにあの人をけしかけたのはなっちゃんでしょ?」

『さすがにわかるか』

「わかるよ。友達でしょう?」

 私の言葉に彼女は大爆笑する。

『お人良しも行き過ぎると気持ちが悪いぞ?人間』

「なっちゃんは私の命の恩人だよ。私はなっちゃんには優しいよ」

『それを差し引いてもお前は十分にお人好しだと思うがな。気持ちが悪いほどに』

 そういうと彼女はかき消えた。

 きっと気まぐれにまた戻ってくるだろう。

 私に災厄を届けに。

次回でキャスティング完了……のつもり

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