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路地裏であい

 政令指定都市になるには人口があと二倍必要な栄えた町。

 それなりに都会で表では喧騒が似合うこの町の事を俺は嫌っている。

 遊ぶ所もたくさんあり、交通の便もいい、学生には天国のような町ではあるものの、人口が多いということはそれだけ人が嘘を言う数も増す。今でこそ人は悪意に立脚しているということを納得こそすれ、一度嫌いになったものを修正するのは中々に厳しい。嫌いなものは嫌いなものでほったらかしだ。

 無理に好きになることもない。

 本日は黄金週間最終日。

 我が敬愛すべき父上殿と母上殿がデートの当日にカメラを忘れ、息子の俺にカメラを取ってこいと言ってきたため、小遣いにつられて快く了承した。

 どうやら本日は遊園地でイルミネーションショーがあるらしく、俺は受付で適当に「落し物を拾った」といってカメラを預けると携帯で両親にその旨を電話して帰ることにした。電話口で感謝の言葉と受付のお姉さんに吐いた嘘に関しての少々のお叱りを受ける。至極ごもっともなので特に反論はなく、さっさと家に帰り、のんびりゲームでもして過ごすかな、なんて暢気のことを考えつつ、路を歩いている時に大きな不快感が俺を襲った。

 こめかみを軽く押さえて不快感に抵抗する。

 プロローグでも述べたが俺の力は相手の嘘を看過する。

 基本的に俺が意識を向けた相手には有効だが、、例外が二つある。今回はその一つに引っかかったのだろう。

 本気の拒絶。全身全霊の虚偽。人生のターニング・ポイントの嘘。感情が昂った状態での嘘。これらを近くで吐いている人がいる場合、俺の力はそれを感知してしまう。

 不快感を与えてきた方向を見ると細い路地があった。

 俺はその路地へと速足で入る。

 トラブルの予感に興奮する。

 こういった例外には不当な被害者という者が大概存在する。

 状況を見て助けられるのならば助ける。

 無理ならば国家権力様にでも連絡する。

 もしも自業自得で困った状況にしていたのならば助けない。

 身の丈に合った判断というのはいつだって大事だ。

 二度ほど狭い路地を曲がるとその現場に出くわした。

 曲がり角から顔だけだし、様子を見る。距離にして十メートル前後。

 少し開けたささやかな空間には男と女の子が一人。

 女の子が声をあげないのは男が持っているナイフのせいだろう。男の風体といえば肩にタトゥー。髪は金髪。いかにも、といった感じだ。女の子の顔には怯えが浮かんでいる。

 注意深く観察するまでもなく強姦されかかっている。

 男が発している気は獣欲以外のなにものでもない。

「は、話し合いましょう。こんなことしてもいいことないですよ……」

 女の子の呑気な言に呆れと同時に感心。

 脅えきっていないのは強さの証明だ。

 女の子を観察するが、帽子を深めにかぶっていて顔が判別できない。

(警察は間に合わないな……)

 男の方は女の子の言葉を一切無視している。

 今にも飛びかからん勢いだ。

 迅速に行動しなければならない。

 俺は落ちていた空き缶を拾うと音をたてないように投擲場所に移動する。

 オーバーハンドで空き缶を投擲。

 空き缶は男の真後ろで跳ねる。

 甲高い音が路地裏に響き、二人の注意がそれた瞬間に、僕は走り出した。

 男がこちらを向いたと同時に体を宙へ躍らせる。

 全体重を乗せたフライング・ニードロップが男を弾き飛ばした。

 急いで立ち上がり、まだ転んでいる相手のナイフを持っていた右手を全身全霊を込めて踏みつける。

 ナイフを手放した。

 僕はそんな男の顔面をサッカーボールキック。

 爪先に男の鼻が折れる感触があり、僕は大きなダメージを確信。

 男の腹に体重をかけて三度の踏みつけ(ストンプ)をする。

 男が吐しゃ物を吐きだした。

 相手の戦闘力を完全に奪ったと判断。ここでナイフを地面から取り、遠くへ投げる。

 男は気を失っていた。窒息死しないように男の口から吐しゃ物を指でかきだしておく。さすがに殺人は犯したくない。

 冷静に全ての行程を完了し、僕は女の子を助けだした。

 さすがに息が上がったので数度大きく深呼吸し、息を整える。ポケットからウェットティッシュを取り出し、指をきれいにしておく。

 ここまで来てようやく僕……じゃなかった。俺は女の子に相対した。

「大丈夫?」 

「……な、なななな…………」

 女の子は体を震わせて俺とぐったりした男を見比べる。

 俺は敵意のないことを示すために掌を女の子に向ける。

「大丈夫、安心して。俺は味方だよ」

「それはわかってますけど、やりすぎです!!」

 可愛らしい声だ。聞いていて安心する。

「うん。とりあえずここから移動しようか」

「人の話聞いてくださいよ!」

「うん。耳には入った」

 俺は携帯を取り出すと警察へ連絡をする。「強姦魔が倒れています。急いできてください」だ。

「やっぱり、聞いてない!」

「警察への連絡は終わった。さっさと行くよ」

「あ、ちょっと……!」

 俺は彼女の手を掴むと路地裏を先導する。別の方向へ抜けるように移動する。同じ方向から出ようとすると万が一、気絶した男が起きて追ってこないとも限らない。しばらくして彼女は抗議の声をあげた。

「ねぇ!警察への説明は!?」

「やったってめんどくさいだけだ。特に俺はあれだけ痛めつけちまったからな。話がややこしくなる。これでも学校では優等生で通しているんだ」

「でも……!」

「もしかしてあれだけじゃ足りなかった?強姦魔にはもっと手酷くすべきという意見もあると思うけど、今の日本の法律じゃあれ以上はなかなか難しい。下手すれば殺しかねない。とりあえずあれで勘弁してよ」

「そういう話をしているんじゃありません!」

 路地裏を抜けたところで彼女が俺の手を振りほどく。

「ああ、もう……一体、あなたはなんですか!」

 彼女は悪態と同時に深めにかぶった帽子を取った。

 帽子の中に隠れた長い髪がほどかれ、腰まで降りる。

 小さな可愛らしい唇がきっと引き結ばれ、意思の強さを訴えてくる。

 優しげな大きめの瞳は今は少々棘を含んでいるものの、笑えばとても愛くるしいだろう。

 整った鼻立ちも大きなポイントだ。

 とにもかくにも彼女は抜群の意美少女だった。

「………犬飼人太」

 阿呆みたいに漠然と自分の名前を口にする。

「そうですか。私は神楽葵。先程は助けてくれてありがとうございました。けど物事には限度があると思います!あんなことしたらあの男の人、きっとトラウマ負っちゃいますよ!」

 自分がトラウマを負わされる所だったのに、彼女、神楽葵は本気でそんなことを言った。

 本気であの男のことを心配していた。

 俺の力がこの女は本気だと告げていた。

 これが俺、犬飼人太と神楽葵の出会いだった。

 

主人公は容赦がない。

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