プロローグ
虚偽と欺瞞は人間にはつきものだ。
息を吐くように嘘をつくような人間がいる一方で、善良な人間もいる。
世の中の表に現れていることの多くはは善性から成り立っているというのは多くの人が認めることだが、実の所、裏返せば欲にまみれた救いのない成り立ちだったりもするから油断ならない。
この俺、犬飼人太はどうにもそういう裏表あるものに必要以上に反応してしまう。
有体に言えば人の嘘がわかる。
相手が嘘をついた時に解る。
どんな感じと聞かれれば説明は難しい。感覚を説明するのは苦手だ。ニュータイプとかああいう感じが近い。
この感じ……っ!といった塩梅だ。
まぁ、一々相手が嘘ついた所で反応なんか示さないけど。
この世には嘘が満ち溢れている。
時たま嘘を言っていない人間がいたとして、そういう人間は死期が近い。どうやらもう死んでしまう者に関しては俺の嘘発見機は反応しないらしい。
これが俺の生まれつき持ち合わせた力。
幼少時代は気味悪がられたし、自分もこの力に関しては扱いに困ったが、すぐに俺は順応した。これに関しては両親の教育に感謝している。
『道具は全てにおいて便利に作られている』
程度の違いはあれ、芯をついた言葉であり、幼稚園児だった俺はその言葉のお陰で自分の力を道具として定義づけることができた。これができなければ俺の貧弱で繊細な心は粉みじんになっていただろう。
それでもこの力が俺の人格形成に多大な影響を及ぼしたのは想像に難くないだろう。実際そうだったし。
気づけば俺は人の善性よりも、人の悪性を信じるようになっていた。
真と虚を量った時、この世界は後者が上回っていたのだ。
だからこその人としてかなり終わっている人格になってしまったのだと思う。
あまり気にしてないけど。
そんな俺は旆村学院に通うごく普通の男子で、クラスではろくに話さず、友達が一人しかいない、健やかな青春を過ごす高校一年生だ。
現在は五月で皆、入学当初は学園生活に胸を躍らせていたがそろそろ非モテが現実を思い知る頃合いである。クラス内の雰囲気は非常によく、一つのことに一致団結して頑張るという非常に微笑ましいクラスだ。
そうそう。大きなトラブルが一つあった。
僕がそんなクラス内の雰囲気をぶち壊しにしてしまったことくらいかな?
だって僕ちゃんいじめとか見せごせない質だし。
みんなで一緒に頑張って一人の女の子をいじめるなんて見過ごせないよね?
だから闇討ち開始です。
夜な夜な覆面をかぶって待ち伏せてみたり、ラブレターを装ってみたりと色々やったよ。
僕はいじめていた首謀者のクラスの女の子をボコボコにして教室内につるしあげちゃいました。
次の日に二番目にその子をいじめていた男の子をボコボコニにしてトイレに転がしておきました。
三日目に次を、四日目にその次を。
五日目にもなればどうやら皆が解り始めたらしく、皆が互いを疑い始め、クラスは互いが互いを干渉しないいいクラスへと変貌を遂げました。
ドジったのはどこかでアシがついてたってところかな?
どうやら僕が実行していたということがばれたみたいで、僕が逆にクラスの皆に責められる側に。
正直めんどくさかったので、放課後、ご丁寧に机を引いてまで待ち受けていた男子生徒達を色々と道具を使って懲らしめると、しっかりと後々の報復がないように脅し、解放しなければならないという面倒くさい手順を踏む羽目になったのは本当に失敗。次からは気をつけなきゃね。
……ととと、興奮すると僕とか言っちまうのは悪い癖だ。
気をつけよう。
ちょいとばかし自重が足りなくなっちまう。
まぁ、俺の自己紹介はこれでおしまいだ。
話は路地裏から始まる。
読んで字のごとく、裏から始まる。
王道的なボーイ・ミーツ・ガール。