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前編

治那さまの感想にテンションあがって書いてしまいました。治那さま素敵なネタをありがとうございます!!早く続きをお届けできるようにがんばります!!

迷い家、それは山奥深くに迷い込んだ者が希に見つける立派なお屋敷。屋敷の庭は綺麗に整えられ、牛や鶏などが飼育され、屋敷の中は清潔に保たれ、火鉢の火はついたまま、囲炉裏には沸いたばかりのお湯、台所にいけば出来立ての食事の数々。人がついさっきまでいたような痕跡があるのに、呼びかけても誰の姿も見つけられない。迷い込んだ者はしばしの休息をとった後、その家からたった一つだけものを持ち出すことができ、それは幸運を呼び込むという。


そんな迷い家でありながら人間恐怖症となり人を招くことのできなくなった迷い家がこのお話の主人公である。



「はぁはぁ………」


怖い。怖い。怖い怖い!

 

逃げても逃げてもすぐ側まで追いつかれているような強迫観念に彼は何度も何度も後ろを振り返り追っ手の姿がないことを確認せずにはいられなかった。


なんで、あんなのに目をつけられたんだろう?


考えれば考えるほどわけがわからない。

ただ、自分はひっそりと目立たないように暮らしていたのに。


「に、げ、なきゃ」


ただそれだけを思って走り続けた彼の前が突如開ける。


「はぁ、はぁ、えっ?」


いつのまに発生していた霧のなかでひっそりと現れた立派な日本家屋に彼は呆然とし、そして急速に意識を失った。




「人をま~ね~き~な~さ~い~~~~~~!!」


『い~や~だ~~~~~~~!!』


今日も今日とて懲りずに説教かます金髪美少女とそれに反発しまくる立派な日本家屋(の迷い家という名の人外)。


『いやったら嫌!!人間怖い!!絶対に招かない!!びばっ!お一人様生活!!』


「お馬鹿!!だからそれはただの家!!廃墟だっていっているでしょう!!」


『廃墟いうなぁぁぁぁぁぁ!!!わたし達にとってそれ、禁句!!あんたも迷い家ならどれだけ言われるのが嫌かわかるでしょう!!」


迷い家の言葉に同胞たる少女ははん!と馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「馬鹿ですわね。わかりきっているからこそあえて言っているに決まっていますでしょ?」


『確信犯かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!性質が悪いよあんた!!』


迷い家の怒りが頂点に達したその時。


「『………っ!!』」


少女と迷い家はその気配に同時に気づいた。人を招く、その迷い家としての本能が近づいてくるその気配を敏感に感じ取っていた。


「これは………」


『ひっ………』


「うん?」


『人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~!!!!!??????』


怖くて仕方のない人の気配に驚愕状態の叫びをあげた迷い家。少女は冷静に扇を開き口元を隠した。


「そうね。人がいるわ」


『なんで!!どうして!!人の気配はしなかったのに!!』


「そうね、突然現れたわね。わたくしにもよくわからないですわ。でも………」


ちらりと横目で見てくる少女は確実に「さぁ、招け。いざ、招け。なんでもいいから招け」とおどし……いや、促していた。

いやだ。突然現れた気配を人嫌いを抜きにしても怪しくて招きたくない。

家の中でどんな暴挙にでられるやら分かったもんじゃない。

だから当然迷い家は拒否するのだが………。


『い、いや………!』


「………なんですって?」


『い、いやったら……い……』


「な・ん・で・す・っ・て?」


『うっ……』


迷い家よりも永く生き、性格的にも迫力も圧倒的に上の同胞に何気に押され気味になってしまう。


『うっうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』


「というかせっかくわたくしが時間を稼いであげていますのになぜ入って来ませんの!!」


『!!ああ~~~しまった!!』


迷い家は基本的に家にたどり着いた人間が入ってくるのを阻止できない上に、自主的に出て行くまで追い出すこともできない。

本能に根付いたそれを利用した少女の作戦はたどり着いた人間がいつまでたっても入ってこないことで破綻してしまった。


「まったく!!入れば最高級のおもてなし(するのは人恐怖症な迷い家)するというのに何を戸惑う必要があるのです!!」


自分の家でもないのに言いたい放題である。この分では手は出さずとも口は盛大に出しそうな勢いである。


『あ~~~ちょ!やめてやめて!!せっかく入ってこないんだからこのまま帰ってもらおうよ!!』


「阿呆ですか!!あなたがいつもいつも迷った段階で助けてしまうから迷い家までたどり着ける人間は皆無だったのですよ!!か・い・む!!この奇跡のような契機を逃す手はありませんわ!!」


ずんずんと玄関に向かう同胞に迷い家はおろおろと引き止めるが口以外に止める手立てがないため無視されて終わりであった。



『ど、どう?いる?いるの?まだいるの?ねぇ、答えてよ!』


怖くて意識を人間が居るであろう方向に向けられない迷い家に少女は一切省みなかった。

びくびくおどおどと玄関を開け外を確認している少女の背中を窺う迷い家。

迷い家が知覚しているのは少女の背中のみ。普段なら己の敷地内のことなら全て知覚できるのだが恐怖のあまり外の知覚を一切遮断していた。


「ふぅ………そんなに気になるなら自分の目で確かめなさいな」


『え、いやっ!怖い!』


「…………」


にっこり笑うなり少女は玄関の壁に手を突っ込む。壁に当たるはずの少女の手はまるで泥に沈むように壁の中に消えた。何をしようとしているのか瞬時に察した迷い家は身構えるが相手の方が早い。


『…………っ!きゃん!』


ぶるるっと家全体が何かに抵抗するように大きく揺れる。少女の腕が何かを引っつかんで思いっきり壁から引っ張りだした。


「いたぁい………!」


どすんっ!床に転がり出たのは黒髪おかっぱに赤い椿の柄の着物を着た十歳前後の女の子。転がり出たときに頭でも打ったのか涙目で後頭部を撫でていた。


「あら?なんで縮んだ姿ですの?」


「あんたが無理やり引っ張りだしたからよ!!」


可愛らしい怒声が響く。

無理やり引っ張りだした迷い家の分身が想像した姿より幼い姿だったため少女が不思議そうに首を傾げるのを幼子………己の意思ではなく他者に無理やり具現化させられたため幼い姿………である迷い家の分身が座り込んだまま指差して突っ込んだ。


「う~~ん。その姿では迷い家というよりかは座敷童のようですわね。早くいつもの姿になってくださいな」


「自分が原因だって自覚ある!」


プリプリと怒りながら迷い家は姿を変える。その姿が一瞬だけブレ、そして………。


「あれ?」


変わらず十歳児の迷い家。何度姿を変えようとしても一瞬だけブレるだけで姿は子供まま。

たらりと迷い家の頬を汗が流れた。


「も、戻れない………なんで?」


ならばと本体に戻ろうとするがこちらも失敗。

流れる汗はいまや滝のように大量で氷のように冷たかった。


ぎ、ぎぎっと硬い表情を見せる迷い家に同胞兼原因である少女は


「…………てへ★」


可愛らしく舌を出して自分の頭を軽く叩いて見せた。


「てへ★で済むかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」


「そんなことよりもこの人間早く家に入れてあげないといけませんわね」


「わたしの一大事をそんなことの一言ですますなぁぁぁぁぁぁ!!」


「はいはい。あ、そっち持って」


「え、あ、おもっ!」


怒声を軽くいなされ気づかないうちに気絶した少年を運び込む手伝いをさせられた迷い家がうっかり自分から人間を招きいれた形になったことに気づくのは少年を寝かしつけ、彼のためにあれやこれやと世話を焼き、妖怪仲間で医学の心得がある者を呼んで診察をしてもらい少年に命の別状はないときいて一息ついた時であった。


「はっ!人間を自ら招きいれた!!」


「今頃気づいたのですの?」


………その一言に迷い家は深く落ち込んだ。ついでにいえば本体に戻れなくなったことや十歳児の姿から変われないことなどは彼女の頭に残っていない。


迷い家は難しいことは同時に考えられない単純………いやいや器用な性格ではなかったのであった。


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