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よくできた異世界で俺は

掲載日:2026/03/20

目を覚ますと、俺は荒野に立っていた。

空はやけに青く、見たこともない形の山々が、歪んだ影を落としている。

 

「あ、これ……」

 

腰に目をやると、剣があった。

軽い。

身体も、やけに軽い。

息を吸うだけで、力が湧いてくるのがわかる。

 

「異世界転生、ってやつか」

 

そう納得した瞬間、周囲の空気がざわついた。

人影が、にじむように現れる。

兵士の鎧。役人の服。書類の束。

 

「スキル保持者、確保しました」

「転生受理、確認を」

「スキル内訳、剣術と魔法。両立型です」

 

俺は質問する暇もなく、流れ作業のように王都へ連れて行かれた。

試験と称して剣を振らされ、魔法を使わされた。

一振りで岩が割れ、詠唱一つで風が渦を巻く。

どよめき。囁き声。

「国家級だ」

「Sランク認定」

拍手が起きた。

立派な部屋を与えられ、

勇者だの、守護者だの、聞こえのいい称号をいくつももらった。

 

「そりゃそうだ、よくできてる!異世界転生はこうでなくちゃ。もちろん、ハーレム展開だって期待しちゃうぜ!」

 

――でも、それからが大変だった。

 

世界は、忙しかった。

魔王。

反乱。

資源不足。

魔物討伐。

災害の鎮圧。

紛争地域への派遣。

――そしてまた、魔王。

 

呼ばれたら行く。

行けば終わる。

そして、繰り返される。

 

「さすがです」

「あなたがいて助かりました」

 

感謝の言葉と、拍手と、勲章だけが増えていった。

 

女性の羨望の眼差しは、確かにあった。

だが、平和維持活動に追われ、夜は書類と報告書に埋もれる。

 

何度も。

何度も、何度も。

 

ある日、俺は気づいた。

世界の各地に、同じ境遇の者がいる。

剣の者。

魔法の者。

未来を読む者。

 

全員、忙しそうだった。

 

国からのクエストで偶然一緒になった他の転生者は、乾いた笑いを浮かべて言った。

 

「気づいた?俺たち、代替可能なんだよ」

 

別の日、疑問を口にした俺に、役人が穏やかに告げた。

 

「治安維持のためです」

「うん、まぁ、わかるけど。でも、忙しすぎるだろ」

俺の不満も聞いてくれ。

 

「おっしゃる通り。確かに、最近討伐した“魔王”の数、多すぎると思いませんか?

“魔王”とは、国家管理外の転生者の総称です」

 

「魔王化した際の末路は、身をもって知っているはずですよね。――その駆除にあたるのは、他の従順な転生者です」

 

「へ……?」

そのとき、腑に落ちた。


「余計な仕事はしたくないですよね、お互いに。かしこさステータスの高いあなたなら、ご理解いただけるでしょう」

と、彼は言った。


国家が転生者を利用するのは、当たり前。

転生者には、義務がある。

 

もし反抗すれば――

“魔王”という役割が与えられる。

 

だから俺たちは、働く。

疑問を持たず、感情を殺し、世界のために使われ続ける。

 

ふと街で、一般市民の女性と目が合った。

その視線は、かつての俺が社会で向けられていたものと同じだった。

底辺で働く者を、冷ややかにさげすむ視線。

決して、羨望などではなかった。

 

役に立つ間は称賛され、

立たなくなった瞬間、切り捨てられる。

 

俺は、剣を握る。

 

もし、ここで「嫌だ」と言えば。

もし、自由を求めれば。

 

次の討伐対象は――俺だ。

 

モテることもなく、

英雄として讃えられながら、

こき使われ続ける。

 

異世界は、よくできた社会だった。

 

逃げ道が最初から用意されていない俺たち転生者を、

国が、効率よく消費する。

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