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悪女皇帝は返り咲く  作者: 智慧砂猫


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第48話『総力戦』

 白い体。意志のない獣。人に近い形でありながら人ではなく、ただ学習して真似るだけ。まるでプログラムのようだ、とフレアは怪物を見つめて思う。


「……何度も、何度も。お前に阻まれていた。私の人生はいつだってここからやり直すことになった。最初はロベルタとバーソロミューが死んだ。次のときにはアルテアが犠牲になった。アールが目の前で殺されたときも。ギデオンやクライドが私を死地から逃がすために残ったときも。全て、お前がいたな」


 何をやっても、必ず死を迎える。その要因となった怪物。あまりに強すぎるがために、必ず北部は壊滅した。原因を突き止めた元のフレアは討伐を試みたが、その怪物の特性を理解しきれておらず全滅。繰り返す時間の中で気付いたのは、自分が話の流れを変えようとすると、必ず現れたこと。世界が遣わした、流れを止めないための抑止力。本来あるべき未来を迎えさせるために何度も殺して、何度もやり直させた。物語を完結させないために。


 だが、作られた世界は半端だった。フレアの物語を紡いだ誰かは既に死んだ。どうあっても轍から抜け出せないのであれば、外部の者を連れて来るしかなかった。賭けだった。自分が。家族が。全ての人間が正しく明日を迎えられるよう祈りを捧げ、フレアは自らを犠牲にした。もうこれ以上、自分には続けられない物語だ、と。


「(確かに悲しい物語は嫌いじゃない。バッドエンドだって、それはそれで綺麗に話が纏まっていれば心地良いとさえ感じる。だけど、これは違うだろう?)」


 今を生きる人々がいる。朝になれば目を覚まして、顔を洗って歯を磨いて、汗を流して働きながら、今日も一日頑張ったと自分を褒めて明日を迎える。どこにでもある営みが現実としてあるのに、それを勝手に止めていいわけがない。


 語り手がいないからどうした。紡ぐ者が死した今、轍の上を駆ける理由はない。必要もない。誰かが紡がなくなった物語なら、代わりに誰かが紡いでいけばいい。それは────今を生きる人々が選ぶべき未来だ。


「総員、戦闘態勢を立て直せ。目標はクリスタルの破壊。あれの魔力規模から考えて、簡単に破壊はできない。────私に賭ける準備は良いか!」


 フレアの持つ剣は、炎の魔剣と呼ばれる特別なものだ。元々はギデオンの所有物だったが、魔剣に選ばれた者でなければ扱いきれないとされており、『あなたが使うのであれば、きっとよく似合う』と遠い昔に献上された品。それが明るみになることはなかったが、元々考えられていたものなのだろう、とフレアは握りしめた。


 クリスタルの赤い輝きは強烈過ぎる魔力そのものだ。破壊しようにも並の人間では触れることさえ叶わない。破壊に適任なのはルイーズかフレアの二人だが、ルイーズの消耗ぶりはクリスタルの破壊には難しい。


「やるしかないよな。俺らの皇帝陛下のためにも!」


 怪物が突進するのに対してアールが三節棍で迎え撃つ。彼の最も得意とするのは、手数の多さと変幻自在のリーチだ。さらには、怪物は相手の戦闘方法を学習するまで動きが鈍く、再生力を得たと言っても、アールの行動に追いつくまで時間が掛かる。ようやく慣れてきた頃に、今度はロベルタが割って入った。


「さっきの仕返しじゃ、バッキャロウ! ここでくたばれ!」


 背後からの斬撃を怪物は振った腕で弾いたが、その大剣を打った反動は動きを緩慢にする。隙を見て伸びてきた樹木が拘束具のように突き刺さった。


『あ、あぁぁああぁ……!! 人間が、人間如きが……!』


 樹木は瞬く間にばらばらに千切れ、怪物が最も近いアールを狙って腕を伸ばす。そうはさせまいと、ギデオンとクライドが同時に斬りかかった。苛烈な連撃に耐え切れず、怪物は僅かに後退を見せた。


「バケモノめ、ここまできて肉体の強度が上がったか……!?」


「ギデオン、焦る必要はない。俺たちは十分に時間を稼げばいい」


「それはそうだが……。お前も相変わらずだね、クライド」


「なに、冷静さだけが取り柄なものでな」


 クリスタルの前に立ち、剣を胸の前に構えるフレアを見てクライドはフッと笑う。かつてのフレアが戻ってきたかのような雰囲気が、そこにはあった。


「おいおい、よそ見すんなヨ、馬鹿野郎!」


 怪物の拳があわやクライドに届くと言ったところでルイーズの起こした風がクライドを突き飛ばす。拳は地面を殴り、怪物がぐるりと敵意を向けた。


「ん、またアタシんとこに来るのかヨ……!」


「儂が手伝ってやるよ。チビすけにばっかり手柄はやれねぇな」


「ちっ、アタシと絡むときは喧嘩売らなきゃ気が済まねえのか、ババァ!」


「んだとぉ! ババァはてめえもじゃろがい! それに儂はまだ三十代だ!」


 五十歩百歩では、とギデオンが苦笑いを浮かべた。ともあれ怪物の足止めには成功している。あと少しでクリスタルは破壊される。怪物への魔力の供給源が経たれれば、いくら学習しているとはいえ不死身ではいられない。


 勝利は目前。その間際に、怪物は戦うのをやめて空に咆哮をあげた。耳を塞ぎたくなる金切声にも似たそれが止むと、地鳴りが始まった。


 アールがずてっ、と転んで打った頭を擦りながら文句を言う。


「んがっ……おい、今度はなんだってんだぁ!?」


 怪物がにやりとするのを見て、ギデオンは誰よりも早く理解する。ここまでの戦いは前哨戦。本番はここからになるという見立てをして、現実はその通りに動く。大量の魔物が、クリスタルの場所へ押し寄せた。怪物が呼んだのだ。


「なんだっつーのサ、この状況は!」


「儂らが雑魚を抑える! アール、ルイーズ! てめえらは陛下を守りな!」


「オッス、姉御! 陛下には絶対に近付かせねえよ!」


 魔剣に魔力を溜めていく時間が、まだ必要だ。仲間たちの声と魔物たちの咆哮。続く地鳴りにも動揺せずに振り返らない。仲間を、家族を信じて。


「────我が炎は海を灼く刃。万象を屠る魔の剣よ、応える時だ!」


 高く掲げ、剣を構える。魔剣は天高くまで立ち昇る火炎を纏い、周囲に強い風を巻き起こす。その魔力の強大さは怪物でさえ思考を停止してしまう。


「ぶっ壊れろおおおおおおお────────ッ!」


 振り下ろされた魔剣の破壊力はクリスタルの鉄壁とも言える魔力をも破り、爆音と共に空へと炎の柱を昇らせた。衝撃波は凄まじく、皆がまともに動けない。その場にとどまることが精いっぱいだった。


 風は雪を溶かし、木々をなぎ倒す。一帯が雪原から荒野へ姿を変え、その爆心地では剣を支えにフレアが膝を突いている。肩で息をして、今にも気を失いそうなほど意識が飛びそうだった。顔面蒼白で動けない。


『……許せない。許せない、人間。大切なクリスタルを……!』


 一歩。また一歩と怪物が近付いて行く。魔物たちがひしめく荒野で、皆が自分達を取り囲む敵との戦いに手間を取らされた。


「……ふふ、これで私以外は救われるのかな?」


 怪物がフウフウと息を荒くして、フレアの前に立つ。拳を握りしめ、叩き潰そうと振り下ろした瞬間────。誰かが割って入った。


「ヒーローだから遅ればせながら馳せ参じましたよ、っと!」


「ボクらも流石に、黙って待つのは我慢ができないのでね」


 バーソロミューとアルテアが駆け付けた。ついにオルキヌス騎士団が揃う。怪物が負傷して、バーソロミューが追撃を加える。アルテアも続き、他の面々も魔物たちを瞬く間に片付けていく。


「(……見てる、フレア? あなたが託したものは、きちんとやり遂げたよ)」


 意識が遠のく。ただの会社員だった自分が、よくもまあ、派手なファンタジーの主人公の代役を果たしたものだと褒めたくなった。ただでさえ働き過ぎで倒れたのに、あの頃よりもずっと忙しかったな、と微笑みながら、気を失った。

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