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悪女皇帝は返り咲く  作者: 智慧砂猫


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第39話『最悪の気分だ』

◇◇◇





 数日が経ち、幾度かの会議を経て情報は整理された。首に蛇の入れ墨がある暗殺ギルドは特定できず、そもそも同じ国の人間かどうかは怪しいこと。おおよそは他国からのスパイだったのではないか、というのがギデオンの読みだった。


 傾いた国家を内部から壊すのに貴族たちは情報操作の要として利用されながらも私腹を肥やし、その恩恵に与っていた者たちが発覚を恐れて、敵国のスパイと共謀を行った可能性が高い、と。


 だがそれでも計画に変更はない。いずれにせよ潰さねばならない敵には違いないのだ。これまでとは違う国家の在り方を目指すために、暗殺ギルドなど必要ない。不要なものは根から枯らさねばならない。庭を満たす雑草のように。


「此処が、そうか。随分とまあ、みすぼらしい」


 ローブに身を包み、ボロい酒場の前にフレアは立った。見せかけの建物に過ぎず、表向きは正しく酒場を運営しているが、客も従業員も全てが偽装。部外者が入ってきたとき、もし普通の客であれば難癖をつけたり、客同士が揉め始めて追い出すのが日常茶飯事だ。ゆえに、初見の相手は非常に警戒された。


「なんですか、お客様。うちではフードを被るのはご法度です。未成年に酒でも飲ませたら大変ですからね。文句がおありなら出て行ってくれると助かります」


「……文句はないさ。暗殺ギルドのやり口は知ってる」


 店の中がぴりついた空気に満ちた。一瞬で、フレアの放つ殺気に警戒心が強まった。只者ではない雰囲気に、従業員の男がグラスを差し出す。


「何か飲まれますか?」


 仕事の依頼かどうかを確かめようとして、目の前の何者かがフードを脱いだ瞬間にぎょっとする。ちょうど少し前に民衆の前で演説をしてみせた、あの皇帝フレアが経っている。殺意に満ちた顔つきに、笑みを浮かべて。


「ああ、ちょうど喉が渇いていたところだ」


 ローブの中に隠していた鉈のような剣を抜き、グラスを真横に斬った。滑らかな切り口に、バランスを崩して転がった。


「血を飲むほどに飢えてはいない。お前たちを殺してから、水でも貰おうか」


 背後で待ち構えていた男たちがナイフを手にする。程よく鍛えられた柔軟な体つきから見える平凡な雰囲気は、市民に紛れていてもそう簡単には気付けない。気配を消したり、紛れさせたりするのが得意な彼ら特有の気配があった。


「皇帝陛下だからと手を下さないとでも? 死ねば豚のエサにでもしてさしあげましょう。我々を甘く見過ぎていたと後悔なさらぬよう」


「どうだか。私と剣を交えたこともないのに、よくもまあペラペラと」


 殺しても死体が見つからなければいい。痕跡が残らなければいい。暗殺ギルドはそうやって多くの人間を殺すことを生業としてきた。────それは間違った行いだ。罪のない者にさえ刃を向け、命を奪って金を稼ぐ。決して許してはならない蛮行。たとえ手を血に染めようとも許すべきではない者たち。


 だからフレアは、ただのひとりでさえも生かさなかった。生かす必要がなかった。捕まえたとて情報など吐くものか。吐いたとしても、生かすものか。彼らは要らない。彼らが理由を知る必要もない。────彼らは存在すべきではない。


 酒場には惨状が満ちた。たった数分で、二十数名の命が奪われた。抵抗虚しく、フレアに掠り傷ひとつ付けることもできずに。


「ま、ま、待ってくれ! 悪かった、俺たちがわるかっ……」


「贖いは地獄でしろ。先を行け、いずれ私も往く道だ」


 ここまで無感情に殺せるものかと自分に驚く。人を殺すなど想像をしたこともなかった。だが、そうだろう。数多の物語を見つめてきて、楽しんできたものの中に、どれだけの命の奪い合いがあったことか。


 英雄が悪魔を殺すのは正しいのか。悪魔が無辜の民を殺すことは間違っているのか。ではそれらを眺めて愉快な気分に浸っていた自分は?


 言葉も出てこない。自分の方がもっと残酷だったのだから。


「ご機嫌麗しゅウ、皇帝陛下。手伝う必要もなかったようだナ」


「……ルイーズ。そちらも随分と早かったな」


「ナッハッハ! 建物ごと潰しちまったからナァ、形も残ってねぇはずサ!」


 少女の見た目で口にする言葉とは思えない。当たり前のように話していい気楽なものでもない。だが、フレアは、全てを受け入れつつあった。過去の自分と、今の自分。平和な世界にいた自分と殺伐とした世界にいる自分。混ざり合った影響なのか、それとも最初から潜在的にそうだったのか。


 いずれにしても、平和を欲するためには犠牲が必要だ。流される血が、零れる涙が、鼻を衝くほどの醜悪に満ちた世界が。少しでも失われることのない、新しい世界。元居た場所に似た、より良い場所を創るためには。


「アルテアとクライドに報告をしておけ、私は先に皇宮へ戻ろう」


「任せときナ。……顔色悪いゼ、陛下」


「殺すのは好きじゃない。お前もそうだと嬉しいんだが」


 悲しそうに言うフレアに、ルイーズが仕方のない奴だと肩を竦めた。


「んなモンが好きな奴が陛下の周りにいるわけねぇダロ。アタシたちの道はひとつしかナイ。あんたの背中を追って、どこまでも歩くゼ。何をしようトモ」


 余計な気を遣わせてしまったとフレアは指で頬を掻きながら。


「すまない。お前たちにはいつも迷惑を掛けるよ」


「わかりゃ良いってなもんサ。後始末はアタシらがやっておくヨ」

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