第35話『足並みを揃えて』
会議は三十分も経った頃、全員が集まったのを確認してから行われた。とはいえ会議というよりは、あるひとつの決定事項を伝えるための集会に過ぎない。
これまでの過ちを正すうえで、絶対に成さねばならないと確信したことに、協力を得るためにオルキヌス騎士団を招集。全員が席に着いて静かに言葉を待ったのを見てフレアは淡々と告げた。
「────各暗殺ギルドの本部を襲撃する」
誰も反対意見は口にしない。そもそも、その気すらない。
「ちぃト、聞きたいんだがヨ。つまり、もう調べて手を打つのはやめタって話だヨナ。あいつらも使い道はある方だケド、陛下は捨てちまって良いノ?」
暗殺ギルドは古来から存在する。情報収集能力も高く、彼らは決して仕事について口を割らない。たとえ死ぬことになっても契約の履行を優先する徹底ぶりに、信頼を置いても問題ない集団ではあった。
だが、それでもフレアは断固として彼らを有効活用する気はない。
「金さえ積めば誰であろうと剣を向けるのであれば、私たちが創り上げていく世の中には不要だ。ブリジットに手を出した以上、看過はできないと思っている」
ルイーズも、覚悟が決まっているなら言うことはないと口を閉ざす。
「反対か、もしくは意見がある者は今のうちに言ってくれ」
そこでふと、アールが手を挙げた。
「俺は全然大賛成なんだけど、暗殺ギルドってのは知る人ぞ知る集団でもあるだろ。実際、アルテアとか、俺だって名前さえ知らない。どう見つけるんだ?」
ギルドがどこに拠点を持つかすら分からないのに、探して襲撃するとなれば勘付かれて逃げられるのがオチだ。退路を断つ手段があるのかと疑問を呈すると、ギデオンが持っていた資料を机に投げて滑らせた。
「俺とクライドは歴史を持った公爵家だ。連中との繋がりは今も持っている。いざというときに使い道があるだろうと思って、陛下のためにね」
資料は複数ある暗殺ギルド全ての名前と、拠点となる場所および各町にある支部まで正確に記載されたものだ。利点もあるが厄介者を抱えるのも確かで、ギデオンもクライドも、いずれは片付けるつもりで繋がりを強く持っていた。
黙って腕を組んでいたクライドも、今が好機だと言葉を繋ぐ。
「連中は他人の命で金儲けをする社会の癌だ。使い道があるとしても、こうも我々の邪魔をすることさえ厭わないのであれば、早々に始末していい。今回の件は俺たちオルキヌス騎士団の復権を示す、またとない好機でもある」
静まり返り、フレアは机に両肘をついて手を組み、厳かに尋ねた。
「異議を唱えたい者は?」
その場の空気は足並みを揃え、皆が同時に口を開いた。
『異議なし』
聞きたかった言葉が聞けたとフレアも満足だ。椅子から立ち、机に置いた片手にぐっと力が籠った。瞳はギラつき、使命感に滾っている。
「我々の権威を見せつけるのに総動員は必要ない。暗殺ギルドの拠点は既に知れた。よって人員の選抜を今ここで伝える」
皆が、自分の名が呼ばれるのではと期待する。明らかに怒っていたフレア自身が先頭に立って動くとして、その責務を共に背負う栄誉に与れるのは、オルキヌス騎士団の面々にとって重要なことだ。ギデオンとクライドはそんな感情をまるで出さないが、アールとアルテアは期待に笑みが浮かんでいた。ルイーズは選ばれて当然と思っているのか、気にも留めずに机に足を乗せ、椅子を傾けて遊んだ。
「ルイーズ」
「おうヨ、分かってタゼ」
名前が呼ばれると、机から足を下ろして姿勢を正す。待っていた言葉を堂々と受け止めて、自分ならば確実だと誇らしげだった。
「残り二名は────アルテア、クライド。お前たちに頼む」
やっと、そこで初めて異議が出た。アールが勢いよく立ち上がって手を挙げた。
「はいはいはい! ちょっと待った! なんで俺じゃないの、陛下!?」
「声がでかいな……。何がそんなに不満なんだ、暴れたいのか」
諫めるように語気を強める。ぎくりとしたアールを見て溜息が出そうだった。
「あのな。私と共に在ろうとしてくれるのは嬉しいが、何も必ず共に戦わねばならんわけではないだろう。シルヴィたちは私たちとは違う。守ってやれる誰かが必要だ。そのために与えられる任務は、お前にとっては栄誉足り得ぬと?」
返す言葉もない。アールはどかっと椅子に座り直す。やれやれと息を吐いて肩を竦めた。我がままで無邪気な少年のようで、隣に座るアルテアが肘で小突く。
「や~い、怒られてやんの」
「お前な……。後で覚えとけよ」
少しばかり会議室の空気が緩んだところで、フレアは手をぱんと強く叩く。
「話は終わりだ、実行に移すのは諸々の調査が済んでからになる。それまでは各々がやりたいようにやってくれ。休暇が欲しければ後ほど執務室に来るように。ドーナツを買いに行く程度の時間ならくれてやろう」
軽い冗談に、場の肩の凝るような空気は、いっそう穏やかになる。話が終わって解散ムードになったら、フレアは皆が出て行きやすいように率先して会議室を去る。隣にはルイーズが付いて歩いた。
「なァ、ドーナツ買ってきてもいいカナ? 良いんだよナ?」
ぺたぺた、早足で隣を歩くルイーズの頭をぽんぽん撫でた。
「もちろん。私の分も買ってきてくれ、後で払おう」
「へっへ~ん。要らないもんネ、お金なんテ。陛下のためにパシられてやるヨ!」




