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悪女皇帝は返り咲く  作者: 智慧砂猫


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第32話『運が良ければ』

 屋根から屋根を飛び移り、皇宮までの最短ルートを風のように駆け抜けていく。できるだけブリジットの負担がないように、しっかり抱き締めた。馬の全速力よりも速く、最短での皇宮への到着は、およそ数分にも満たない。


 凍らせた傷口は幾らか時間稼ぎにはなったはずだ、とアルテアは急いで皇宮に駆け込み、大声で「誰かいないか!」と呼び続けた。ひとまずはルイーズの部屋に向おうとしたとき、ちょうどそこへ皇宮内で新たに騎士たちを雇う予定だったギデオンが、書類を見ながら歩いてくる。


「……? どうしたんだい、アルテア。何があったか聞いても」


「ブリジットが刺されたんだ! ボクのせいだ、油断をして……!」


「ふむ……。それで、その死体をどこへ連れていくつもりだ?」


 時間が止まった気がした。呼吸が、意識が、細胞のひとつひとつが静止して、ようやく詰まっていたものが取れたように出てきた声は、短かった。


「え?」


 守るように抱き締めていた少女の体からは力が抜けきっている。濁った瞳は何も映しておらず、胸は呼吸のための僅かな膨らみさえ作らない。


「なんで……。さっき皇宮に着いたときはまだ……そ、そうだ。ルイーズに会わないと。死んだ直後だったら助かる可能性が……!」


「アルテア、落ち着け。ルイーズなら陛下と執務室にいる」


 今いる場所からは遠くない。急げば間に合うかもしれないと、慌てふためいて正常な判断が出来なくなりつつあるアルテアを宥める。


「さあ行け。何があったかは大体想像がつく、現場には俺が向かう」


 肩をぽんぽん叩かれ、アルテアは深呼吸をして落ち着く。


「……ああ、ありがとう。少し落ち着いた。ルイーズのところへ行くよ」


「そうしなさい。では、また後で」


 挨拶を最後まで聞かずに、アルテアは走った。急いで執務室に向かい、扉を蹴破る。修繕など後でいくらでもやればいい。今はブリジットの命が優先だ。中にいたフレアとルイーズも、きょとんとしたが、すぐに状況を察して顔を見合わせる。


「オウ、そっちのテーブルにでも寝かせナ、アタシが診てヤル」


「すまないね、ルイーズ。君にしか頼めないんだ」


 フレアは黙って見守り、テーブルに寝かされるブリジットの怪我を見て、冷や汗が滲んだ。よもや自分の指示で、少しくらいは親子の話す時間も必要だろうと送り出したことが引き金になってしまったのか、と胸が詰まる思いだった。


「んデ、こりゃ死んでルじゃねェか。どれ、ちょっと傷の氷を溶かすゾ」


 ルイーズが傷を塞ぐ氷をとんと指で叩くと瞬く間に溶けていき、体内には入らず外側に逃げていく。同時に血が溢れるが、ルイーズの手が傷口に置かれると、血は帰るように戻り、傷は瞬く間に塞がった。まだブリジットの呼吸は戻らない。


「ルイーズ、彼女は助かりそうかい?」


「さあナァ……。心臓が止まっちまっテ、五分経ってるダロ。体は綺麗に元通りにしてやったケド、目を覚ますかはアタシにも保証できねェヨ」


 肉体から魂が離れてしまえば終わり。いくら魔力を使って傷を治しても、肉体から離れた魂を器に戻すといった芸当は死霊術でも降霊術でも不可能だ。あくまで一時的な命を吹き込むだけで、本人の魂を肉体に取り戻して生命活動を再開させる、というのは神業である。ルイーズも、大魔法使いとはいえ不可能な行いだった。


「微弱な電撃を等間隔で心臓に与えてるがヨ、かなりギリギリかもナ。お前が上手くやったおかげデ、可能性はゼロじゃねェゾ。つっても身体の機能が完全に停止しちまった後ダ、肉体の機能は回復しても脳が死んデルこともアル」


 希望を持たせたいのか、不安にさせたいのか。どっちなんだと詰め寄りたい気持ちをグッと堪えて、アルテアはブリジットの力のない手をぎゅっと握りしめた。


「私からも質問を構わんか、ルイーズ」


「なんでございまショ、陛下。答えられるにも範囲があるケド」


「脳が機能を失うと生命活動を再開させられないのか?」


「あ~、ソイツがまた難しいところなんダナ、治療魔法ってのはヨ」


 ブリジットの心臓に電撃を与え、身体に触れて魔力を流し込み、肉体を無理やり動かして呼吸を促す。意識のないブリジットの寝顔を見つめてルイーズは話す。


「魔法っつうのは怪我や精神的な影響から守ることはしてやれるケド、病気とかで自然に機能を落とした場合は例外なんダヨ、治すのは無理。しかも、今回の場合は心臓が傷ついたことによる死亡ダロ? 心臓の機能は回復できても、死んだことで停止した生命活動の中でも、肉体の制御を司る脳そのものが機能を落としちまっタラ、アタシにはそいつを動かす術がナイ。今呼吸をさせてるのも、動かねェカラダを魔力で無理やり動かしてるだけダ。運が良ければ目も覚めるかもって感じダナ」


 人体はあまりに複雑で、魔法による医学は怪我の治療や精神への干渉に特化しているが、それ以外は専門外だ。それこそ医者を呼んだ方が有効と言える。だが、機能を一度失った脳が回復することは基本的にあり得ない。


 出来ることは全てやっている。頼れるのは、もう奇跡だけだ。


「ひとまず、アタシの魔力を流して心臓を無理やり動かして呼吸もさせてル。肉体も正常だろウ。魔力が切れるか、ブリジットが目を覚ますマデは効果がアル。どっか空いてる部屋のベッドに運ぶカラ、二人共一緒に来てくれヨ」


 眉間にしわを寄せて、複雑な感情を顔に浮かべてルイーズは言った。


「────出来ることはやッタ。でもあんまり期待すんなヨ、アタシにも結果は分からねェ。目ェ覚ますとは思ウんだけどナ」

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