第27話『人選びは大変』
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皇宮に帰った後、二人を待っていたのは気が遠くなる面接業務だった。何しろ百人もいて、それぞれが優秀な人材だ。全てギデオンが先んじて身辺調査を済ませ、問題がなく侍女としての品格も最低限揃えられた者ばかり。
質問に対する答えは皆が違う。趣味から性格まで彩り豊かで、誰を選んだものかとフレアは頭を悩ませた。戦闘に関わる事であれば容易に採用もできたものだが、侍女などは一切の経験がない。何を言われてもピンと来なかった。
「ううむ……。洗濯が得意とは……?」
魔法もある世界だというのに、洗濯だけは手洗いだ。洗濯機があれば楽なのにな、とふいに思い返してひとりで笑う。今では、そんなものが造られるのもいつになるやらと言うような世界だ。懐かしく思った。
「何を笑っておられるんですか、陛下」
「あぁ、シルヴィ。別になんでもないよ、そっちは終わったのか?」
「こちらは半刻ほど前に。最低採用人数に合わせて候補を絞っておきました。ヘンデリックス公爵閣下から、八十名は絶対に採用するよう言われております」
応募者の合計は百五十名だった。全員を採用しても良いくらいの気持ちだったが、首都における経済的な状況を考えると百名ほどが限度になる。そのため応募者のいくらかは切り捨てなければならない。
「ううむ……。払えない給料をちらつかせて働かせるのは言語道断ではあるが、出来る限り雇ってやれないものか?」
「それが出来れば苦労は致しません、陛下。此処は決断すべきところです」
バッサリと切り捨てられた気がして、フレアは苦笑いで濁す。
「そうは言うが、皆の受け答えはよく出来ていた。可能な限りの枠を空けておいてやりたいのだ。首都をこんなふうにした一因には、間違いなく私もいるから」
脳裏には面接にきた人々の表情や仕草が呼び起こされる。期待と希望に満ちた眼差しや、不安と緊張から丸まった背中に、震えた手。誰も彼もが、今の状況から抜け出したいという同じ気持ちで集まった首都の民なのだ。どうしてこれを当たり前のように切り捨てられようか、と。
「陛下。確かに、いらっしゃった方々は誰もが受け答えもしっかりできていました。ヘンデリックス公爵閣下が先に間引きをしてくれていただけはあります」
もちろん、シルヴィも悩んだ。全員を採用したいほど、皆が希望に溢れ、期待できる者ばかりだった。それでも、と彼女は咳払いをひとつして言った。
「────だからといって全員選んでいては、共倒れをするのです。皇宮と言う船を沈めず、帰りを待つ人々のために、必要な人員だけを乗せて出港するのは自然ではないでしょうか。でなければ、船はただ沈んでいくだけでしょう」
申し訳なさそうに眉がまがり、シルヴィが小さく笑う。
「こんなに優秀な人達でも、誰かは置いていかねばなりません。船が沈めば皆が共倒れしてしまいますから、少しでも希望を繋ぐと考えてみてはどうでしょう」
抱えていた自身の担当した応募者リストを机にどんっと置く。
パッと一枚を手に取って、シルヴィは続けた。
「私が目星をつけた侍女には赤い鉛筆で印をしてあります。特に料理、洗濯が得意なものや、体力に自信のある方々をピックアップしておきました。このあたりについては侍女長であったアマリーを参考にしています」
悪事に手を染めていたとはいえ、アマリーが雇い入れた侍女は皆がよく仕事のできた者たちだ。いちいち指示を出さずとも、やるべき仕事を完璧にこなしていた。シルヴィも、その点は学ぶべきだと考えていた。
「皇宮や閉鎖した他の宮に加えて、庭園などの掃除も含めれば仕事の早い人間が良いでしょう。侍女同士の関係にも必ず問題は出てきますので、その場合は、いずれかの人間を解雇するはずです。リストは残しておいて採用候補として置くのはいかがでしょうか。他で働いていなければ即時採用する方針でも良いかと」
思っていたよりもてきぱきと話を進めてくれるのでフレアは驚いた。ここまで有能なのであれば、嫌がらせのために皇宮に送ったアマリーは実に愚かだ、と。受け取ったリストの一枚を見て、思わず笑みが溢れた。
「上出来だ。それなら、お前が選別した者を参考に私のリストからも選んでみるよ。お前の言う通り、これが希望の船に乗せる人員だと考えよう」
「……っ、はい! ありがとうございます!」
湧き上がってくる嬉しさが隠しきれず、シルヴィは両手を前に重ねて深く頭を下げる。ブリジットと共に重ねてきた苦労が、ようやく報われた気がした。
「では、お前はブリジットの様子を見て来てやってくれるか。牢屋に入れられた母親の事を心配しているだろう?」
「わかりました。彼女に何かお伝えすべき事があれば伝えますが……」
ひどく落ち込んでいても、フレアからの伝言を受け取れば少しは元気が出るかもしれないとシルヴィが勧める。確かにそうかもしれない、とフレアは視線を上に向け、あごを擦りながら考えた。
「うむ……。いや、私の作業が済んだら訪ねるとするよ」
「わかりました。その旨だけお伝えしておきます」




